魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

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第三十七訓 話戦&魔戦

長谷川泰三vs坂波銀雪&徳川達茂のラストバトルが始まろうとしてるその頃。

 

坂本辰馬達は突如やって来た異世界の住人、葉山から長谷川泰三の身体を奪い、更にはこの騒動の首謀者である四葉真夜の恐るべき実態を聞かされていた。

 

「なるほど、まさか事の発端がそちらさんの世界のモンだったとはの。まっこと驚きじゃ、よもやあの蓮蓬にほんにテメーの星をば売り飛ばすモンがおったとは」

「そういう事です、あなた方の世界にも多大な迷惑を掛けてしまい、なんとお詫びしてよいのやら」

「いやいやお互い様じゃきん、そもそもSAGIはわし等の世界で生まれたモンじゃしの。悪いのはどちらの世界でもなか、真に謝るモンはSAGIとその真夜とかいう女ぜよ」

 

 

深々と当た目を下げて詫びる葉山に坂本は手を横に振って謝罪はいらないと答えると、何やらゴリラの頭を撫でてしつけを行っている陸奥の方へ振り返る。

 

「陸奥、コイツはほんに厄介な事になっとるの。四葉真夜、わしも長い事向こうの世界におったがそげな名前全く知らんかった、毎日充実した学生ライフをエンジョイしておったからの」

「アタシの体で好き勝手やってたみたいね」

「構わん、ハナっから貴様の事なんぞ当てにしておらんかったからの。どうせおなごの身体になれた事を幸いに女風呂でも覗いて夢中になっておったんじゃろ?」

「アハハハハハ! バレた?」

「本当にアタシの体で好き勝手やってたのね、いつか絶対殺すわ」

 

陸奥の鋭い読みに坂本はヘラヘラと笑いながら素直に白状すると、傍で聞いていた千葉エリカは自分の体を利用してすっかりいい思いしていた事を知って額に青筋を浮かべながら頬を引きつらせる。

 

「とりあえず黒幕がわかったんならそいつ倒しに行けば解決なんじゃないの? アタシは絶対に行かないけど、さっさと宇宙船に乗って元の世界に帰る、アタシの目指すエンディングはそれのみよ」

「別に首謀者の正体が分かったからといってわし等が戦いに赴かんでええじゃろ、こっちには金時にヅラ、それに入れ替わり騒動で一番ブチ切れちょる高杉がいるんじゃき。アイツ等に任せちょればええんじゃ」

「面倒事はごめんって訳? 珍しくアンタと気が合ったわね」

「ま、だからといってビビッて宇宙船で待機っちゅうのも性に合わん、ここは当初の目的を済ませるのを優先するべきという事じゃ」

「はぁ? 当初の目的? それってもしかしてアレの事? 無理でしょ流石に」

 

もはや相手がなんであろうがさっさとウチに帰りたい一心であるエリカではあるが、坂本の方はまだここでやる事が残っているらしい。

 

なんだかんだで彼と共に行動する事が多かったエリカはすぐにその彼の目的を察していると、彼女達にいる地球人側の陣営にて、ノシノシと重たい足音を立てて何者かが歩み寄って来た。

 

「こちらも片付いてるみたいだな、せっかく元の体に戻れたはいいが。これでは少々肩すかしといった感じか」

「ああ、おまん等か、おまん等が体借りとったゴリラの方は無事じゃぞ」

「そうか良かった、出来れば長く付き合ったよしみとして十文字家で手厚く飼ってやろうと思っていたのでな」

 

十文字家? 陸奥と何やら話し込んでいる男の方へエリカは気になって振り向くと

 

そこに立っていたのは屈強なで巨体な体つきでありながら、自分達の学校の制服をなんとか着こなしている男がそこにいた。

 

だが

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし久しぶりに元に戻れたせいか何故であろうな、顔付きが以前と違う様な違和感を覚える。まるで肉体は元に戻っても顔付きはゴリラのままみたいな……」

「…………すみません十文字先輩その通りです、顔、ゴリラのまんまです」

 

恐らくこの男の名は十文字克人、無論エリカは本来の姿である彼とは会った事は無いのでどういった顔付きなのかは知らない。

 

しかしあの紛れも無く100%ゴリラのままになってるフェイスを見れば、彼がまだ完全に元に戻ってない事ぐらい一目瞭然である。

 

「なんだ十文字お前もか、実は俺もちょっと違和感を覚えるんだよ」

「その声は近藤、お前も無事に元に戻れたのか」

 

顔がゴリラのままの十文字に話しかけるのは彼と同じくこちらにやってきた近藤勲。

十文字と同じくゴリラと入れ替わっていた者の一人だ。

 

「元に戻れたのは良いんだが、実は俺も顔付きが多少変わっているような気がするんだ」

 

そう言って近藤は自分の手で、元の体の時となんら変わらない少々ゴリラっぽいだけで至って普通の人間の顔を触る。

 

 

 

 

 

 

ゴワゴワした体毛を生やした握力半端なさそうな手と丸太の様に太い腕をエリカに見せながら

 

「いやアンタは体の方がゴリラのままなんですけど!?」

「なんかこう、もっと二枚目だったような気がするんだよね俺? やっぱ入れ替わりの影響で顔付きが多少ゴリラに近づいちゃったのかな?」

「アンタがおもっくそ影響けてるのは体の方! 顔は人間だから! ていうか何その見た目! 気持ちワル!」

 

身体は人間、顔はゴリラの十文字とは反対で、顔は人間、身体はゴリラのままという極めて珍妙な姿に変化してしまった近藤を指差してすぐ様ツッコミを入れるエリカ。

 

十文字の方はまだ見れるが、顔だけ人間となっている近藤の方はえらく不気味である……。

 

「ていうかなんで誰もツッコまないのよ! 坂本! 陸奥! アンタもあの二人おかしいって気付いてるでしょ!」

「え? 元からのあの二人はあんなじゃっただろ? わしは十文字とは向こうの世界で何度も会っちょるが元々ゴリラみたいなモンじゃったし」

「そげな細かい事なんざどうでもええじゃろ、千葉、おまんはもうちょっと視界ば広くすることを覚えるぜよ」

「いやいやいや! なにアンタ等! もしかしてもうこれ以上面倒事はごめんだと見ない事にしてるの!? 多少イレギュラーが発生してるけど別にいっかという気持ちで流すつもりなの? それでもあのゴリラコンビの仲間かコノヤロー!」

 

明らかにおかしい近藤と十文字を見ても、対してリアクションもせずに流してしまう坂本と陸奥。

 

腕を組みながら目を曇らせて真実を見ようとしない大人にエリカが喝を飛ばしていると

 

『い、いたぞ地球人だ……』

『我々の手で今度こそ……』

『ぐ……しかし消耗しきったこの体では……』

『諦めるな、今こそ我等が本領を銀河皇帝・M様に見せつけるのだ……』

「な! アイツ等まだアタシ達を!」

 

ふと敵陣営からゾロゾロと数十人の蓮蓬達がプラカードを掲げたまま、すっかり傷付いた体のままおぼつかない足取りでやって来たのだ。きっとまだ多少は戦える根気が残っている連中なのであろう。

 

しかし地球人達による大打撃を受けて彼等はもうまともに戦える状態ではない。

 

それでもなお一矢報おうとする彼等を見てエリカは驚くも

ここは一思いにやってしまって彼等に手向けの花を贈るべきなのではと、静かに手に持った刀を抜こうとする。

 

「こうなったら完全にとっちめるしかコイツ等を止める手はないみたいね」

「ほう、蓮蓬の生き残りか、逃げずに戦いに興じようとするのであれば俺は容赦せんぞ。俺も共に戦うぞ千葉」

「素直に降伏すれば命は助けるというのに……仕方ねぇ、これも戦だ、汚い仕事は俺に任せろ」

「ウホホ!」

「ウゴ! ウゴゴ!」

「なんかアタシと一緒にゴリラ4頭が戦おうとしてるんだけど! すっごい嫌なんだけどこのパーティ! 酒場行って総入れ替えしたい!」

 

刀を手に持ったエリカと並ぶようにおかしな体である十文字、近藤、そしてモノホンのゴリラ2頭が共に戦おうと構える。

 

こんなゴリラと協力して戦いたくないという思いで必死に叫ぶエリカ、すると彼女達の前にスッと坂本が横切って蓮蓬達の方へ歩き出す。

 

「引けおまん等、これ以上連中と血を流すのはもうごめんじゃきん。ここはわしに任せちょれ」

「はぁ何言ってんの!? まさかアンタがやろうとしてた当初の目的! 蓮蓬の連中を説得して和解する事をまだ考えてるんじゃないでしょうね!」

「ずっと考えておったよ、その為にわしはここに来たんじゃからの」

「酔狂な奴だとは思ってたけどまさかここまでとはね……」

 

そう言ってこちらにフッと笑いかけながら、坂本はこちらに背を向けて蓮蓬の方へ行ってしまう。

 

もはや彼等に説得なんて通じる筈がない、最後の一兵が尽き果てるまで玉砕覚悟の精神状態でここまでやって来たのだ、そんな彼等がまともに坂本の話を聞いてくれる訳……

 

そう思ったエリカは一瞬躊躇するも、手に持った刀を床にほおり捨て彼の下へと駆け出す。

 

「仕方ないわね、アンタ一人で通じる連中じゃないわ。アタシがサポートしてあげる」

「おまんがか? アハハ、随分と心もとないサポート役じゃの」

「言っとくけど異星の者との外交の仕方は陸奥の奴にみっちり仕込まれてるのよ。とんちんかんな事言って相手を怒らせかねないアンタ一人向かわせちゃ、みすみすアンタを見殺しにするみたいで目覚めが悪いのよ」

「そうかそうか、じゃあ最後に見せてやるか連中にわし等流の戦いを」

 

 

 

 

 

 

「快援隊・艦長コンビによる交渉術で、蓮蓬達の閉ざした心を開いてやるんじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

坂本辰馬と千葉エリカが彼等なりの戦いをおっ始めようとしている頃。

 

遂に銀雪と銀河皇帝・M、またの名を四葉真夜、そしてその器の名は長谷川泰三の戦いもまたおっ始められていた。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「フッフッフ、こうしてあなたと矛を交えるのは初めてね、深雪さん」

「初めてじゃねぇさ! 長谷川さんとは何度も殴り合ってんだよ坂田銀時は!」

 

己の力を振り絞るかのように雄叫びを上げると、銀雪は不敵に笑みを浮かべて玉座に座り直す長谷川に一気に駆け寄って距離を詰める。

 

コレが最後の戦い、相手がグラサン掛けたみずぼらしいオッサンなのでイマイチ緊張感が無いが

 

銀雪は古くから坂田銀時が愛用している木刀と

 

そして自分達の為に影に徹し続けた彼と彼女に託された特殊なデバイスが組み込まれた特注の木刀の二本を持って

 

この戦いを終わらせる為に飛び掛かった。

 

しかしその時、長谷川泰三の長年秘められていた力が紐解かれる。

 

「ぐ! なんだ! この体にまとわりつく嫌な感触は……!」

「感じるわ深雪さん……あなたの持つ強大なる力の片鱗を……」

 

床を蹴ってジャンプして、彼目掛けて木刀を振り下ろそうとしたその時、銀雪は不可思議な気配を覚えた。

 

まるで何かが吸い込まれてる様な奇妙な感覚、しかしその程度で銀雪はためらわずにそのまま木刀を長谷川目掛けて振り下ろす。

 

「どんな小細工使ってるのかは知らねぇが! ここで退く訳にはいかねぇんだよ!!」

「そうよね、あの失敗作の融合体に託されちゃったものね、だけど」

「なに!」

 

ぶち当たれば岩をも簡単にぶっ壊せる銀雪の一撃を前にして、長谷川は玉座から座ったままスッと右手を突き出して。

 

パシッと空しい音が響くと同時に彼女の木刀を手に掴んでいた。

 

「想いとか希望など、所詮私の持つ『絶望の力』には足元にも及ばない」

「!」

 

簡単に木刀を防がれた事で銀雪は動転して一瞬長谷川に対して隙を作ってしまう。

 

その隙を見逃さず、長谷川はもう片方の手の指先を銀雪に突き付けると、人差し指の先が赤く光り。

 

「魔堕砲!」

「うお!」

 

突如長谷川の人差し指から赤い光線の様なモノが飛び出して銀雪の額目掛けて飛んで来たではないか。

 

こんなの食らったら一瞬で脳を貫かれてお陀仏ではないか、銀雪は上体を思いっきりのけ反らしてそれを間一髪で避ける。

 

そして長谷川に掴まれたままの木刀を自ら手離して彼との距離を取ると、もう片方の木刀で再び斬りかかる。

 

「こなくそ! 負けてたまるか!」

「フフ、必死ね、でも無駄よ、絶望には抗えない」

「そいつはどうかな!」

 

ヤケクソ気味な攻撃に見えたが銀雪も無策で再度突っ込んだわけではない。

 

司馬深雪の持つ魔力を操り、神威戦の時の様に辺りに冷気を発生させ、相手がどんな動きをしても対応出来る構えを取って仕掛けてきたのだ。

 

銀雪の持つ木刀が長谷川に当たる直前で、彼の周囲に突如細い氷の管が伸びて、身動きできぬ様拘束する。

 

「これでもう受け止められる心配はねぇ!」

「なるほど、少しは悪知恵を働かせたみたいね、でも……」

「!」

 

何本もの氷の管で拘束されてもなお長谷川は至って余裕の笑みをこちらに浮かべていた。

 

その意図はすぐにわかった、再び自分の体に妙な肌触りを感じたかと思えば

 

(まただ……! まるで何かを吸い取られちまってるように力が……!)

 

突如力を失ったかのように銀雪はその足を止めて遂に長谷川の前で膝を突いてしまう。

 

そして木刀を握る力も無くなり、彼女の手からカランッと得物が滑り落ちていった。

 

「どういう事だ、テメェ一体俺に何を……!」

「わからないのかしら? コレが長谷川泰三が眠されていた最強の魔法よ」

「最強の魔法だと……!?」

「フフ、私の前で跪くその姿、とても可愛らしいわ。けどごめんなさい、刹那で飽きちゃった」

「く!」

 

座ったままこちらを見下ろしながら邪悪に笑う長谷川、そして今度は手の平から黒い球体を形成し、銀雪目掛けて掲げると、すぐ様こちらに振り下ろす。

 

「爆力魔堕!」

「チッ! ぐわぁ!!」

 

強烈なエネルギー波を至近距離からまともに食らい、銀雪は思いっきり後方にぶっ飛ばされる。

 

そのまま宙を舞ってあわや床に墜落、となる前に

 

すかさず後方で謎の融合体の治療を行っていた徳川達茂がジャンプして彼女を抱きとめる。

 

「大丈夫か」

「いつつ……これが大丈夫に見えやがるんですかお兄様?」

「そんな軽口叩けるならまだ余裕そうだな」

 

長谷川の攻撃を直撃したにも関わらず銀雪はまだ軽症みたいだ、どうやら寸での所で魔力を高めて氷の壁を形成し、なんとか体へのダメージを抑えたらしい。

 

銀雪を抱き抱えたまま達茂は立ち上がると、改めて長谷川の方をジッと見つめる。

 

「やはりアンタを倒すのは一筋縄ではいかないみたいだな伯母上」

「あらあら、もしかして本気で私を倒そうと思っていたの達也さん? それは無理な話よ、だって私は銀河一の魔法師なんだもの」

 

肘掛けに頬杖を突きながら長谷川がそう言った途端、今度は達茂自身も銀雪が感じたあの妙な感覚に捉われる。

 

そして達茂は見えた、長谷川の周りの部分だけ、グニャグニャと空間が歪んでいるという奇妙な光景を

 

「これは……もしや俺の魔力を吸い取っているのか……?」

「吸い取るだと!? てことは俺がアイツ目掛けて突っ込んだ時に突然力が抜けたのも!」

「伯母上、まさかアンタが言う最強の魔法の正体とは……」

 

達茂が問いかけようとすると長谷川はニヤリと笑い、グラサンの奥にある狂気に満ちた血走った目をこちらに向けてきた。

 

「『吸収』、それこそがこの世における最強の力の存在よ」

「なるほど、それがアンタが欲したモノだったのか」

「そうよ、この力はね、他者の魔力や力、ありとあらゆる力の源を私の力の糧とする為に吸い取り続けるモノなの、まさしくこれぞ長谷川泰三が持っていた魔法の正体という事ね」

「あのまるでダメなオッサンがこんな力を……?」

 

まるで光をも吸い込む事の出来るブラックホールの様に全ての者を吸収する能力。

 

それこそが長谷川泰三の器に秘められていた力らしいのだが、それを聞いて銀雪は怪訝な表情を浮かべる。

 

「ハッタリかますんじゃねぇ、長谷川さんが俺が知る限り無職・貧乏人・クズ・ホームレス・グラサン・マダオととことんイイ所無しのダメ人間だぞ、そんな力があったら今頃星の一つや二つを支配する事だって出来るじゃねぇか、そんな虫にも劣る生命体に最強の力なんてある訳ねぇだろうが」

「さ、流石に言い過ぎじゃない……? この人も色々と苦労してるんだから少しは優しく……じゃなくて、残念な事に長谷川泰三はこの力の存在に気づけなかった、それによりこの魔法の扱い方も間違って使用し続けていたのよ」

 

酷い言い草だが事実なので仕方ない、確かに長谷川という男はとことんダメで不運を重ねて転落した脱落者だ。

 

しかし彼がそうなった原因も、どうやらその『吸収』の力が関係しているらしい。

 

「彼が常日頃から感覚無しに使っていたこの力によって、彼は周りにいる人物からあるモノだけを吸収してしまっていた、それは人であれば誰もが持つ『不運』という存在」

 

ギュッと力強く手を握り締める長谷川、どうやら彼の器は強大なる力を持ってはいたものの、上手くコントロール出来ていなかったらしい。

 

「彼はそれを周りからたくさん自分の体内に入れてしまい、結果銀河一の魔法師の才能を持っていながら、銀河一の不幸せなおっさんに成り果てていたのよ」

 

そう言うと長谷川は自嘲気味にフッと笑うと、改めて二人の方へ顔を上げる。

 

「この力は確かに協力で扱うのは私でも苦労したわ、けどようやく自由自在に使いこなせるようになった。ゆくゆくはこの力を利用して人、意識、感情、自然、星、そして宇宙をも吸収し我が力の贄として働いてもらい、この世で最も強大な存在として生まれ変わるのよ」

「ナンセンスな夢だな、それだと最終的にこの世に残るのはアンタ一人だけという事じゃないか」

「それでいいのよ達也さん、私はこの世がどうなろうがどうでもいいの。私はね、ただこの世界を滅ぼしたい、その為だけにSAGIを利用したのよ、この復讐に捕らわれた哀れな星は、もはや私にとってはただの傀儡」

 

達茂の冷静な指摘にさえ長谷川はせせら笑みを浮かべながら返すと、手の平を掲げて高々と本音を暴露する。

 

「いえこの世にあるモノ全ては私の傀儡と呼んでも過言ではない、四葉の一族もあなた達兄妹も、ありとあらゆるモノが私をここまで高み上げる為の贄に過ぎないのよ、それがあなた達の運命なのだから」

「イカれてやがる……コイツは殴って正気に戻すってのは無理そうだぜお兄様」

「元より正気とは思えない人物だったが、目先の欲に捕らわれて体はおろか魂まで売ったのか、哀れな人だ」

「なんとでも言いなさい、どう喚こうがもはや私を妨げる者などこの世に存在しないのよ」

 

かつて謀略を尽くし多くの人々を欺き陥れた屈指のカリスマ魔術師の成れの果て、と呼ぶべきか

 

狂気に魅入られその歩みを止めようとしない長谷川を前に銀雪と達茂は、この状況をどう打破するのか考えていると

 

 

 

 

 

 

「いるさここに、それもテメェが二度と見たくないツラをしたとびっきりの天敵がな」

 

突如銀雪達の背後からトーンの低い女性の声が部屋に響き渡る。

 

銀雪は急いで達茂に下ろしてもらってそちらに振り返ると、階段をコツコツ上がりながら黒いドレスを着た謎の女が現れる。

 

グラサンを掛けたその女性は、懐からタバコを取り出し火を点けると、フゥーと煙を吹きながら部屋の中を見渡す。

 

「随分とらしくねぇ真似してるみたいじゃねぇか、いや、空っぽの城で王様気取ってる滑稽な姿はらしいといっちゃらしいな」

「お前は……四葉真夜!」

 

急に現れたのはまさかの四葉真夜の姿をした人物、銀雪が驚いていると達茂が隣でボソリと

 

「四葉真夜と入れ替わった人物だ」

「えぇぇぇ!? て、てことはアンタまさか!」

「そうさ、久しぶりだな銀さん」

 

トントンと煙草の灰を床に落としながら真夜はグラサン越しにフッと笑う。

 

「正真正銘この世で唯一無二のまるでダメなオッサン代表、長谷川泰三だよ」

「うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? いやまあ入れ替わっていたとはわかっていたけども! なんでアンタがここにいんの!? しかもなんかカッコ良さげに登場してるし!」

 

目の前にいる真夜こそが本物の長谷川泰三その人、それを知ってはいたがまさかここで会うとは思ってもいなかった銀雪が半ば混乱しているのも露知れず

 

真夜はツカツカと歩き出して銀雪達の横を通り過ぎて

 

玉座に座る王、本物の四葉真夜こと長谷川泰三の前でピタリと止まった。

 

「よう、初めましてだな女王様」

「フフフ、貴方が来る事は予感していたわ。むしろ待っていたと言うべきかしら」

「そいつは良かった、念願に会えた女王様に嫌な顔されて門前払いされちまったら男として情けねぇ」

「残念だけど、今のあなたはもはや男ですらないわ、そしてもう私も女王ではない」

 

まるで世間話するかのように静かに語り合う二人ではあるがまるで隙が無い。

 

嵐の前の静けさ、どちらかが先に動けば瞬く間に星一つ消し飛びかねない激しい戦いが始まる。そう予感出来る程二人の間に沸き起こるプレッシャーは凄まじかった。

 

「私は長谷川泰三として、そしてあなたは四葉真夜として生まれ変わった。楽しかったでしょ”元”長谷川さん、四葉家の当主として君臨し、その権力と財産によって溺れ死ぬ程の快楽を一生分堪能したのでしょうから」

「そりゃ最初に入れ替わった時はアンタの言う通り大いに楽しんださ、大豪邸で羽を伸ばし、値段もわからねぇ高い酒を浴びる程飲み続け、自分に指図する者も、命令する者もいないという生活。長谷川泰三の頃にずっと憧れていた人生を味わえて最高の気分だった」

 

長谷川の問いに真夜は淡々と答えながらタバコをポトリと床に捨てるとゆっくりと顔を上げる。

 

「だがな気付いたんだよ、そして同時にアンタを哀れんだ。四葉真夜という女はこんなにも金と権力を持っていながら、人生において一番大事なモンを持っていないって事がな」

「この私が?」

「……かつて俺が長谷川泰三というまるでダメなオッサンだった時、いつも厄介なトラブルを撒き散らすこれまた更にまるでダメなオッサンがいた」

 

『おい長谷川さん、万事屋の仕事でこんなの来たんだけどアンタ代わりにやらねぇ? 船に内緒で乗って白い粉的な奴を外国で売りさばくって仕事なんだけど?』

『おおーやるやる! 白い粉ってよくわかんねぇけど俺なんでもやっちゃうもんね! あれ? でもなんで内緒で船に乗らなきゃいけないの?』

『気にすんな、あ、もし面倒な事になっても俺の名前出すなよ』

 

「テロリストだの反乱分子だのと言われて追われる日々を送ってにも関わらず、バカな事ばかりして革命だのなんだのほざいてるクセにてんでダメダメなおっさんがいた」

 

『長谷川殿、まだ寝床が見つからんのか。ならば俺が仕事を紹介してやろう』

『えーなんだよヅラッち! 仕事を紹介するツテなんかあったの!? で、仕事って何?』

『誰でも出来る簡単なお仕事だ、ちょっとこの刀持ってあそこにいる真撰組の所へ突っ込んでくれ、その隙に俺は逃げるから後は任せた』

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』

 

「そして何より、こんなロクデナシで無職のダメ亭主を、何時までも待ってくれているとことんバカが付く程のお人好しの女がいたんだ」

 

『もしもしアンタ? ちゃんと飯食べてるの? 良い仕事見つかった?』

『え!? あ、ああちゃんと就職したに決まってんだろ! 久しぶりに電話かけたのに関口一番で変な事聞くなよな!」

『フフ、ごめんなさいね。それじゃあ就職祝いに一緒に食事でも……あら? あそこでみずぼらしい格好で電話ボックスの中にいるアゴ髭のおっさんってもしかして……』

『うわぁぁぁぁぁぁぁ!!! 違う違う人違いだから! そんな汚いオッサン俺じゃないから! アレだよアレ! ネルフをクビになった碇ゲンドウだよきっと!』

 

「わかるか?」

「いや、あなたが物凄く不憫な人生送ってるんだなぁという事しか伝わらなかったんだけど?」

 

長々と己の身の上話を語った真夜に長谷川が哀れみの視線を向けていると、真夜は掛けてるグラサンをチャキッと指で押し上げる。

 

「人生ってのはどんだけ金持って様が生まれに恵まれてても、そんなモンじゃ手に入らないもんがある、それが『マダオ』だ」」

「マ、マダオ? え? どゆこと?」

「まるでダメなオッサン、まるでダメなお人好し、まるでダメなお友達、まるでダメな夫を待つお嫁さん。要するにただのバカ野郎さ」

 

理解していない様子で首を傾げる長谷川に真夜はフッと笑う。

 

「世の中楽しく生きるコツは真面目にやる時は真面目にやり、バカをやる時はバカやってバカ騒ぎする事さ、安い酒飲んで同じ底辺の奴等と飲み語り合い、金が無い同士で小銭の為に殴り合い、相手がヤベェ事しでかしたら汚い手ぇだして助け合い」

 

懐からひしゃげたタバコの箱を取り出し、サッと一本取り出して口に咥えると、100円ライターで火を灯す真夜。

 

「俺はそういう人生が情けねぇとは思ってたが、悪くはなかったよ。テメーを肯定するだけの連中ばかりを周りにはべらしたアンタにはわかりもしねぇ事だと思うけどな」

「……要するに何が言いたい訳?」

「長谷川泰三を、一人のマダオをアンタから返してもらいに来た」

 

タバコを咥えたまま真夜は彼に指を突き付ける、グラサンの奥から鋭い眼を光らせて

 

「本音を言えばそんな体なんざ何処へだって捨ててやりてぇさ、俺の身体で世界を滅ぼすんなら好きにすりゃいい」

 

煙を吐きかけながら真夜は目を細める。

 

「だがその体で好き勝手やってもらうと、どうやら俺の大事なモンも無くなっちまうらしいんだわ。それを知っちまったらこうしてテメーの足と拳で止めに来るしかねぇだろ」

「……不器用な男」

「だから俺はここに来たんだよ、豪邸も金も権力を持つ女王の座をアンタに返し、公園住まいの金無し無職のおっさんに戻るというとち狂った馬鹿な行いの為にな」

「ええ、本当に、まるで救いようのないダメな男ですよあなたは……」

 

指を突き付け宣言した真夜に対し、長谷川は嘲笑を浮かべつつ

 

ゆっくりと玉座から立ちあがった。

 

「そろそろ始めましょうか、貴方と私、四葉真夜と長谷川泰三、真の最強の魔法師は誰なのか」

「ああ、そろそろ俺も体がウズウズしてた所だ。お互いに悔いのない戦いをしようぜ」

 

 

二人の強者はゆっくりと相対しながら歩み寄って行く。

 

 

どちらが真の長谷川泰三、真のマダオとなるのか

 

雌雄を決した戦いが今始まる。

 

 

 

 

 

 

「お兄様、俺達すっかり蚊帳の外なんですが? やっぱ帰っていい?」

「そうだな」

 

銀雪と達茂をほったらかしにして

 

果たして主役の彼等に出番は回ってくるのだろうか




この作品もやっと終わりが近づいて来たなぁと思う今日この頃

そろそろ次回作も練らなきゃいけないかなぁとも思うこの頃です

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