魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

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第四訓 衝突&魔法

よもやこんな所でこんなタイミングで、こんな身体になってしまっている所で彼と出会ってしまうとは……

 

高杉晋助

坂田銀時と桂小太郎にとっては因縁深い相手であり

自ら隊長として率いた鬼兵隊を導いて攘夷戦争の末期を潜り抜けた歴戦の猛者の一人。

そして今もなお攘夷志士として幕府の裏から暗躍し国家どころか世界さえも滅ぼそうと企む超危険人物。

 

その高杉が今目の前で……

 

「なに目ん玉見開いて固まってやがる、斬ってくれって事か?」

(ほんわかロリ系のJKになってるぅぅぅぅぅ!? 見た目と声のギャップの差が凄まじいんだけどぉぉぉぉぉ!?)

 

自分も清楚系おしとやかJKになっている事を自覚していない銀時こと司波深雪は、安っぽい椅子に座って優雅にキセルを吸う高杉こと中条あずさに驚きを隠せないでいた。

 

「いやいやこれは絶対無いって……だってあのロクにボケもしないお前がこんな文字通り身体を張った大ボケかますなんて信じられないよ、嘘だと言ってよホント」

「……あん?」

 

高杉君と言われて片目を吊り上げてこちらを睨むあずさに深雪はハハハと乾いた笑い声を上げて。

 

「お前そんなキャラじゃなかった筈だろ。いずれは銀さんと決着つけるライバルキャラだろ、こんな所でなにそんなロリ系のガキになってこっちの世界もぶっ壊そうとしてんの?」

「……お前」

「絶対そんな柄じゃないからねお前、いつもの厨二病全開モードはいいけどその見た目じゃ怖さもクソもねぇから、背伸びしたガキが必死になって覚えたばかりのヤンキーキャラ演じてるようにしか見えないから」

「……」

 

彼女の話を聞きながらあずさは椅子からユラリと立ち上がると深雪の方へ鋭い眼光を向けながら近づいていく。

 

「そのいちいち人の感情を逆撫でするムカつく喋り方……まさかテメェ、“アイツ”か」

 

深雪のほうへ近づく途中で倒したばかりの男達が手に持っていた刀を拝借し、あずさはそれを肩に掛けながら彼女を睨みつける。

 

「よりにもよってこんな時に互いに一番会いたくねぇ奴にでくわすとはな、テメェもそう思うだろ……」

 

そこで言葉を区切ると突如、あずさは床を蹴って一気に深雪との距離を詰めて右手に持った刀を彼女めがけて振り上げた。

 

「銀時ィィィィィィ!!!」

「高杉ィィィィィィ!!!」

 

互いの本当の名を叫びながら飛び掛ったあずさは刀を振り下ろし深雪は用意していた木刀を頭上に掲げて正面から受け切り激しい衝突音が鳴り響く。

 

「しばらく見ねぇ内に随分と小綺麗なツラになったじゃねぇか銀時、前のバカ面の面影は残ってるみてぇだがな!」

「そっちこそしばらく見ねぇ内に随分と背が縮んでんじゃねぇか! ただでさえ低かった背が更に低くなった上に童顔になるとかオメェどんだけ俺を笑わせたいんだよ!!」

 

互いに得物で相手の得物を弾き合いながらあずさと深雪は皮肉を言い合う。

そして木刀と刀を交差させ激しい鍔迫り合いをしながら深雪はあずさの方へ顔を上げ

 

「まさかテメェまでこっちの世界に来てやがってたとはな高杉……その見た目から察するにお前もここに来たのは不本意だって事か」

「だからどうした」

「黒幕がテメェじゃない事がわかっただけでも安心したぜ!」

 

鍔迫り合いの中、叫びながらあずさの足を自らの足で水平に払う深雪。

体勢をが崩れたあずさはその場で転びそうになりながらもなお目の前にいる敵を見据えて

 

「チッ!」

 

瞬時に右手から左手に刀を移し換え、そのまま右手で床に着くと、その右手を軸にして左手に持った刀に力をこめて横薙ぎに払う。

 

「くッ!」

 

転びかけながらも刀を振りかざしてきたあずさに深雪は一瞬面食らってしまい木刀で防ぐがタイミングが遅く後ろに弾かれてしまう。

 

「身体の使い方がなっちゃいねぇな、テメェこの世界に来てロクに戦ってもねぇだろ」

「悪いが誰かさんと違って人から借りたモンを手荒に扱う様な真似したくねぇんでね……」

「へ、どの口がほざいてやがる」

 

小さくなってより身軽になった身体を利用してあずさはすぐに両足で地面に着いて立ち上がった。

 

「本来の身体じゃここまで差は開かなかった、恨むんならロクに動けねぇその身体の持ち主を恨むんだな」

「テメェこそ何ほざいてやがる、終わってねぇのになに勝ったと勘違いしてんだコノヤロー。言っておくが今の俺はテメェより……」

 

こちらに刀を構えるあずさに深雪はカッと目を見開いて飛びかかり

 

「おっぱいデケェんだぞコラァァァァァ!!!」

 

木刀を両手に持って豪快に振り下ろす、しかしそれをあずさは読んでたかのように

 

「関係ねぇだろ」

「!」

 

小さな身体を少しだけズラして深雪の一撃を数センチの隙間しかない程の僅かな差で難なく避けてしまう。そして左手に持った刀を回転させて柄の方を前にすると

 

「うぐッ!」

 

その柄で思い切り深雪の腹を突き刺すかのように突きを入れた。

刃の方でなくてもその威力と衝撃は深雪に苦悶の表情を浮かばせながら後ろに吹っ飛ばすには十分だった。

 

「ちょ! ちょっとタンマ!」

 

地面に倒れた深雪は突かれた箇所を抑えながら半身を起こすも

 

「テメェの負けだ銀時、互いに本当の身体じゃねぇから特別に勝敗記録には加えねぇが」

 

スッと今度は柄でなく刃の方を目と鼻の先に突きつけるあずさ。

汗ばんだ表情で深雪が顔を上げるとこちらに刀を突きつけたままニヤリと笑う彼女の姿が

 

「テメェをたたっ斬る事に変わりはねぇ」

 

そう言ってあずさは右手に戻した刀をこちらに向けて垂直に振り上げる。

 

「その身体で死んじまったら、あの世で先生に笑われるかもな」

「いやホントマジで笑われそうだから止めてくんない……」

 

勝利を悟って笑みを浮かべながらこちらに刀を振り下ろそうとしているあずさに深雪が奥歯を噛み締め、木刀を掴んでいる力の入らない手にありったけの力を注ぎ込もうとした

 

しかしその時

 

「!」

 

突如全く予想だにしなかった現象が起きた。

深雪が力をこめようとした右手を中心に冷たい感覚が走る

思わず彼女は自分の右手の方へ振り向くと、ピキピキと音を立てて床を薄い氷が張られ始めていたのだ。

 

(コイツは……!)

 

周りに立ちこみ始める冷気、自分でも驚いている深雪を前にあずさは刀を構えるのを止めてすぐに後ろに跳んで下がる。

 

「思わぬ奥の手を使ってくるじゃねぇか……」

 

本能的に深雪が放っている冷気に何か危険な匂いを感じたのであろう。

 

「どこで覚えたそんなモン、それともハナッからそのガキの身体に内蔵されていたものか」

「いや俺も知らねぇんだけど……だがコイツはまさか」

 

辺りを自分の意思関係なく徐々に凍らせ始めていくこの冷気に深雪自身が混乱していると

背後からスッと人影が現れ部屋の中に入ってきた。

 

「それが“魔法”というこの世界に存在する非化学現象の一つだ」

「ヅラ!」

「!」

 

突如やってきたのはヅラこと桂小太郎、の魂を宿している七草真由美だった。

ずっと姿を見せないで潜んでいたのかこのタイミングで遂に現れ深雪も、そしてあずさでさえ目を見開く。

 

「銀時、深雪殿は元々の才能に加え非常に高い魔法干渉力がある、使おうともせずとも咄嗟の事でに回りに冷気を放つ程にな」

「お前なんでそんなに詳しく……」

「俺もしょっちゅう被害に遭ってた」

「あ、やっぱ。そうだと思ってたわ」

「今お前が起こしている冷却魔法はお前が命の危機に晒され、本能的に身体が自動的に暴走を引き起こしたのであろう。今はそれだけ頭に入れていろ」

 

冷静に分析しながら真由美は深雪の方へは振り向かずにただまっすぐに目の前にいるあずさを見据える。

 

「久しぶりだなあーちゃん殿、いや高杉」

「クックック、おいおいまさかテメェまでこっち来てやがったのかよヅラ……」

「ヅラじゃない桂だ」

 

現れた真由美がかつての男の面影と完全に一致し嘲笑うかのようにあずさは口元を歪ませた。

 

「かつて同じ学び舎で育った俺達三人が揃いも揃ってこんな姿になっているとはな」

「きっと先生が聞けば腹を抱えて笑うであろうな、だがこれしきの事など些細な事だ」

 

そう言って真由美はスッと腕を掲げて数メートル先に立っているあずさに突き付ける。

 

「高杉、それは俺がこの世界で出来た仲間の身体だ。その身体を粗末にするのであれば俺は絶対に貴様を許さん」

「許さなくて結構、丸腰の状態で俺をどうするつもりだ」

「知れたこと、この世界で出来た仲間を」

 

突きつけた腕を少しも動かさずに静かに答え

 

「この世界の“力”で救う」

 

真由美がそう言い放つと同時に、彼女の腕にはめられたブレスレットが僅かに光る。

そして

 

「!」

 

突如足元に何かをぶつけられた痛みを覚えてあずさフラッとよろめく、そしてその隙を突いて

 

バシュ!っと音を立ててよろめき倒れようとしている彼女の後頭部に氷の小さな塊が命中した。

まるで組み立てられたスイッチ式の装置が真由美が持つブレスレットが起動となって動いたかのように。

 

声も出さずにただ無表情であずさは

 

(……霜の弾丸……?)

 

自分の足首と後頭部に着弾した物が床に落ちてシューと音と共に冷気を放っているのを確認した後バタリとうつ伏せで倒れた。

 

動かなくなった彼女を確認すると、真由美は腕を静かに下ろす。

 

「魔弾の射手……あーちゃん殿の身体ゆえになるべく手荒な真似はしたくなかったが、あの高杉が相手となるとこうするしかなかった」

 

倒れたあずさを気遣いながら真由美は彼女の手を取って背中に背負って立ち上がると、呆然としながらこっちを眺めて座っている深雪の方へ振り返る。

 

「帰るぞ銀時」

「ハハ……」

 

目の前で初めてみた魔法、ましてや自分と同じ世界の住人である筈の者が当たり前の様にそれを行ったのを目撃して。

 

深雪はただ頬を引きつらして苦笑するしかなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

あずさを背負った真由美と共に、深雪は空き家を後にした。家に残っているあずさにやられた男達の事は生きている事を確認しただけでそのまま放置する事に

 

「それで、お前は俺に聞きたい事があるのではないのか」

「……まず一つ教えろ」

 

街中を歩きながら真由美はずっとこちらに死んだ目を向けている深雪に話しかけると、彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「魔法って存在がこの世界にあるのはテメェの身体になってる生徒会長様からは聞いていた、けど一体何なんだその魔法って、レベルアップして呪文覚えてMP消費すれば使えるモンじゃねぇのか」

「魔法そのものを説明するとなると相当長くなるぞ、とてもリンちゃん殿達と合流するまでの間で話しきれることではない、だから省略して必要な事だけを教えておく」

 

彼女の問いに真由美はあずさを背負ったまま静かに答え始めた。

 

「まずこの世界の魔法とは現実世界の事象を改変する技術の事だ、そして現実世界の『事象に付随する情報体』これは“エイドス”と呼ばれている。魔法を扱う魔法師はお前が考えてるような手から炎を出して燃やすなどという事ではなく、構成した「魔法式」で「エイドス」に干渉し、一時的に現実世界の情報を書き換えるのだ」

「……」

 

無言で聞いている深雪に真由美は説明を続ける。

つまり現実に手から炎を創り出すのではなく、魔法式を使って現実世界そのもの情報を一時的な改竄を行い、そこから初めて炎が指定した座標に精製されるという事だ。

 

「この世界で魔法を使うのはCADという魔法を発動するための機動式を記憶させた魔法の発動を簡略し高速化させるデバイスを持つことが主流だ」

 

そう言って真由美は深雪に背を向けてあずさを背負ったまま右腕にはめられたブレスレットを見せる。恐らくそれがCADなのであろう。

 

「CADに体内のサイオンを送り込み起動式を展開させると起動式は使用者の体内に取り込まれ、魔法師の内部世界で魔法式を組み立て現実世界へ投射させる、これがこの世界で魔法を扱う為の一連の流れだ、わかったか銀時」

 

簡単な説明を終えて真由美が深雪の方へ振り返ると

 

「ZZZZ……」

「おい貴様ぁ! なに器用に歩きながら寝ておるのだぁ!」

 

目をつぶって鼻からちょうちん膨らまし、開いた口からよだれをたらしながらもも歩くのは止めないという奇妙な寝方をしている深雪に真由美が一喝する。

 

すると深雪はパチッと目を覚まし

 

「ああ悪ぃ悪ぃ、つい寝ちまった、でなんだっけ? 遊び人が賢者になるにはまずレベル20になってダーマの神殿行って転職すればいいって所まで覚えてんだけど」

「俺がいつドラクエⅢの話をしていたぁ!? さては人に説明させて起きながらずっと寝ていたのだな!」

 

瞼をこすった後、口元にたれているよだれを袖で拭きながら深雪はけだるそうに

 

「だってお前の話つまんねぇだもん、何クソ真面目に説明してるんだよ」

「この世界では常識の知識だぞ! こんな事で退屈になって寝ていてはこの先この世界で生き残れんぞ貴様!」

「いや生き残るつもりねぇから、俺さっさと帰りてぇし」

 

怒っている真由美に深雪は首をコキコキ鳴らしながらめんどくさそうに返事する。

 

「つうかお前よくそんなこの世界の事覚えたな、それで魔法も使えるようになったのか」

「1ヶ月いれば学ぶ時間や知識も増える、自分なりになんとか物にしようとずっとだ修練を行っていたのだ、魔法専門科の学校でロクに魔法も使えない生徒会長などでは真由美殿が築き上げた地位に傷を付けてしまうのでな」

「お前バカの癖にそういう所だけはホント優等生キャラだよな」

 

自分の意思関係無くいきなり飛ばされた世界で、その世界の知識を覚え技術を学ぶ。

そういうなんでもかんでも吸収しようとするスポンジの様な部分がこの者にはあったのだと思い出し、深雪は呆れたようにため息を突く。

 

「俺はごめんだね、そんなめんどくせぇ事。こんなガキの地位が没落しようが全然構わねぇし、なんなら底辺にまで突き落としてやろうかと思ってるよ、俺の身体奪いやがって」

「お前は本当に大人気ないな……深雪殿の身体で魔法を会得すれば先程お前が無意識に暴走させた冷気魔法を操る事だって出来るのだぞ」

「かめはめ波撃てるんなら全力で練習すっけどヒャダルコ撃つ為に修行するとかアホらしいわ」

 

真由美の提案を一蹴すると深雪は「そういえば」と思い出したかのように彼女の方へ顔を上げる。

 

「お前が高杉にやった魔法もお前が覚えたモンなの?」

「いやあの魔法は元々真由美殿が会得していた魔法を再現しようとしてるに過ぎない紛い物だ、彼女の実家の七草家は有名な一門らしいからな、彼女自身相当優秀な魔法師だったおかげで俺自身相当助けられている、それでもやはり本来の彼女の実力には遠く及ばんだろうがな」

「要するにセレブの娘の身体をまさぐりながら色々発射してるって訳か」

「その言い方は止めろ」

 

誤解されそうな要約の仕方に真由美が深雪に短く呟きながら歩いていると……

 

「まさかお前が先に見つけるとはな真由美……」

 

二人の前方の曲がり角から腕を組みながら現れたのは風紀委員長の渡辺摩利。

 

「鈴音がお前から見つけたと連絡があったと聞いた時はてっきりその辺のホームレスを適当に見繕って連れてくるのかと予想していたのだが」

「ほう、その手もあったか」

「なに感心したように頷いているんだ。もしそんな真似したら絶交だからな」

 

なるほどと言った感じで縦に頷く真由美にすかさず摩利がツッコミを入れた後、ふと腹を抑えている深雪に気づく。

 

「どうした司波、腹でも痛いのか」

「そこのチビ助に腹を刀の柄で突かれたんだよ」

「……すまない言ってる意味がわからないのだが」

「摩利殿、落ち着いて聞いてほしい」

 

真由美が背負っているあずさを指差していきなりとんでもない事を言う深雪に摩利が思考を一瞬停止させると代わりに真由美が答えた。

 

「実は今のあーちゃん殿は目の前にある物はなんでも壊し尽くそうとする哀しいモンスターとなってしまったのだ」

「言ってる意味がますますわからなくなったんだが!?」

「だが俺が責任を持って彼女をかつての姿を取り戻してみせる、それまで俺に彼女を預からせてくれ」

「まあ元々生徒会の人間だから生徒会長の真由美に渡すのが適任だからいいんじゃないか……」

 

深々と頭を下げる彼女に摩利は頬を掻きながら彼女の頼みを承諾する。

 

「それはそうとしてまだ鈴音の奴は来ていないのか?」

「どういう事だそれは、二人であーちゃん殿の捜索をしていたのであろう?」

「いやそれが私が見てない隙にいつの間にかどっか行ってしまってな……」

「まさか摩利殿から逃げ出したのか? さては嫌がる彼女を無理矢理路地裏に連れてチョメチョメしようと……」

「だから違うわ!」

 

どうやら鈴音は摩利を置いてどこかへ行ってしまっていたようだ。

しかし摩利が真由美に変な誤解を受けている所でフラッと

 

「ご無事でしたか会長」

「おお、噂をすればリンちゃん殿、大丈夫か摩利殿にチョメチョメされていないか?」

「してないって言ってるだろ! どうして私をそんなふしだらな女にさせたいんだお前は!!」

「ご心配なく、襲われそうになった所を上手く逃げ切ってやりました。私の貞操は無事です」

「お前も嘘を吐くな! 誰がお前なんか襲うか!! 別の意味で襲ってやろうか!!」

 

親指を立てて真由美に生還の意を伝える鈴音に摩利が中指を立てていると

 

「おい生徒会長さんよ」

 

けだるそうに深雪が真由美を呼ぶ。

 

「学校戻る前にそのチビ助なんとかしねぇとマズイんじゃねぇか? また暴れられたら面倒だぞ」

「わかっている、すまぬが二人共」

 

彼女に頷くと真由美は今にも取っ組み合いを始めそうな鈴音と摩利に話しかける。

 

「俺と深雪殿はあーちゃん殿を説得するためにしばしここにいる事にする。二人には悪いのでこのまままっすぐ帰ってくれ」

「別に説得するなら学校に戻ってからでいいんじゃないか?」

「何いってんだオメー、こいつこのまま学校にでも連れ帰ってみろ。世界ぶっ壊したい病が発症して学校爆発するぞ」

「本当に何があったんだ中条!?」

 

深雪が余計な事を言うのでますますあずさの事が心配になる摩利、だがそんな彼女の肩を後ろから鈴音が掴み

 

「では会長もああ言っておられるので私達は帰りましょう」

「いやこのままこの二人に任せるのもな……」

「あなたの事ですから気絶している中条さんをチョメろうとしかねないので」

「チョメろうって何だ!? 変に略すな!」

 

変な理由で自分を連れ帰ろうとする鈴音にツッコミながらも「うーん……」とまだ腑に落ちてない様子だが摩利は大人しく従う事に。

そして去り際に鈴音は真由美と深雪の方へ振り返り

 

「では生徒会長に深雪さん、彼女をよろしくお願いします」

 

相も変わらず無表情でそういうと摩利と共に最寄の駅場へと行ってしまった。

 

深雪とあずさを背負った真由美はしばらく無言で彼女達を見つめた後。

 

「もう俺の背中から下りてもいいぞ、高杉」

「……そいつは良かった」

 

振り返らずに真由美がそう呟くと背負っていたあずさが顔を上げる。

 

「これ以上テメェ等のままごと見せられてたら頭おかしくなっちまう所だった」

「ままごとではない、あの者達とは世界は違えど俺達の仲間だ」

 

嘘偽りなく正直に答える真由美を鼻で笑いながら彼女の背中から降りるあずさ。

 

「かつては攘夷志士として名を馳せたあの桂小太郎が小娘共を仲間とのたまうとは滑稽なもんだ」

「何が言いたい」

「ヅラ、オメェ銀時と同じでしばらく見ねぇ内に随分と腑抜けちまったみてぇだな」

 

制服のポケットに両手を突っ込みながらあずさは真由美に笑みを浮かべる。

 

「刀一本で国を護ろうとしていた侍が、今では異世界の力にすがってでも生きているなんざ笑い話もいいとこだ」

「テメェだって自分のツラを鏡で見てみろよ、もっと笑えるから」

「あ?」

 

真由美の前に遮る様に立ち、小指で耳をほじりながら深雪があずさの真正面に現れた。

 

「チビが更にチビになって今どんな気分だ? どうせ姿を消したのも学校でチビチビ言われると思ったから逃げ出したんだろ。イジめられるの怖かったんだろ低杉くんは」

「テメェまた俺にやられてぇのか?」

「やってみろよ、お前なんか銀さんのマヒャドで返り討ちにしてやんよ」

「上等だ、今のテメェなんざ得物が無くても勝てんだからな」

「止めろお前等、言っておくが傍から見ると女子二人がメンチ切りあってるだけで全く迫力無いぞ」

 

中身は凶悪な侍だが見た目は小動物と清楚美人なのでどうも緊張感の無い口論にしか見えなかった。真由美はそんな二人の前に立って話を始める。

 

「高杉、今の貴様に俺がどう見られていようが俺は気にせん。いくらでも俺で笑ってればいい」

「ブフゥ! よく見たらヅラ! お前も俺より小っちぇな! 俺より2個上なのにどうしてそんな低いんですか先輩!」

「お前が笑うな銀時!!」

 

よく見たら真由美も小柄だったので思わず口元を押さえながら含み笑いする深雪にキレた後、コホンッと真由美は咳払いした。

 

「俺が言いたいのは高杉、いくら俺を笑い者にしようがこの現状は何も変わらないという事だ。こんな姿になってしまっては貴様も満足に動けまい、ここは一時休戦として我等と同盟を結ぼうではないか」

「やれやれ、腑抜けた上に頭までおかしくなっちまったのか? 誰と誰が手を結ぶって?」

「共にあちらの世界に戻る為の同盟だ、向こうに帰ればいくらでも相手にしてやる。だが今の状態でやり合うのはお前も不本意であろう」

 

不本意だろと聞かれてあずさは罰の悪そうに無言で目をそらした。確かに彼女も今の状態では満足に戦えない事を知っていた。

 

「……その為にテメェ等と手ぇ結べってか、冗談じゃねぇ」

「そうだよねー、チビ杉くんは一人でフラフラとチンピラ狩りしてる方が性にあってるもんねー、俺達が元の世界に帰ってもお前だけそうして一生この世界でチビのまま生きる事になってもいいんだよねー。あ、向こうの世界でもチビだったんだっけ」

「テメェは黙ってろ」

 

後ろから小馬鹿にしながら笑っている深雪にイラつきながらあずさはフンと鼻を鳴らす。

 

「テメェ等と同盟なんざ結ぶつもりはねぇ」

「高杉」

「……だがこんな身体からさっさと開放されてぇのも確かだ」

 

こちらに背を向けながらあずさは懐からキセルを取り出しながら静かに呟く。

 

「同盟はしねぇしテメェ等に力貸すつもりもねぇ、だから俺に何かしらの要求を求めるんだったらそれなりの対価を用意しろ。それぐらいの関係ならやっても構わねぇ」

「まあ仕方あるまいな……俺もそれで呑むとしよう」

 

元々対等な同盟など彼と結べる筈がないと予期していた真由美も承知したと頷いた。

 

「では最初の要求だ、明日から学校に来い」

「ふざけてんのか?」

「ふざけてなどいない、俺達と共にいれば情報収集も手っ取り早いであろう、それに」

 

真由美はそこで言葉を区切りあずさの背中を見据える。

 

「あーちゃん殿をこれ以上不登校にさせるのは生徒会長である俺が許さん」

「……思った以上にくだらねぇ理由だな」

 

フゥーっと煙を吐きながら嘲笑を浮かべるあずさ、すると彼女の背中に向かって真由美は彼女の肩に手を置き

 

「それとその身体で煙を吸うのを止めろ、あーちゃん殿の身体に悪影響を与えたらどうする」

「知るかそんな事」

「未成年が煙を吸う事にどれだけの悪影響を及ぼすのか知らんのか! おい銀時! お前からも言ってやれ!」

 

止める気のないあずさに真由美はイラつきながら深雪の方へ振り返って叫ぶと。

深雪は「ったく」と呟き二人の傍に歩み寄る。

 

「もういいから帰ろうぜコイツも見つかった事だしよ、俺はもう腹も減ってイライラしてんだよ」

「……お前はお前で相変わらずマイペースな奴だな……」

 

このタイミングで「腹減った帰らせろ」と言う深雪に真由美は呆れながらため息を突く。

 

「仕方ない、そろそろ日も落ちてくる。帰るとするか」

 

そう言って真由美は歩き出しながらふと夕焼けの空を眺めながらふと「ん?」とある事に気づく。

 

「高杉、貴様に俺の大事な仲間の一人を紹介しよう」

「そんなもん必要ねぇよ、俺はテメェの仲間なんざ興味ねぇ」

「そう言えるのも今の内だ、あそこのビルの屋上で夕焼けを眺めている者がいるであろう」

 

興味なさそうなあずさに真由美は3階建てのビルの屋上を指差す。

 

 

 

 

 

 

「あれがハンゾーくんだ」

「って服部君まだいたんかいィィィィィィ!!!」

 

彼女が指差す方向を見て深雪は疲れもぶっ飛び思い切り叫んだ。

生徒会副会長の服部は数時間前から微動だにせずただ遠い目で空を眺めるのであった。

 

「夕焼けが綺麗だ……ん?」

 

しかしただの夕焼けの空にキラリと輝く物体が遠くに見えた。最初は飛行機かなんかだと思ったが大きさがデカすぎる。まるで巨大な建造物が浮いているかの様な……

そしてその飛行物体はすぐに雲の中へと消えていく……

 

 

 

「……?」

 

思わず目を見開く彼だがその巨大な空中建造物はもうその場に二度と現れる事は無かったのであった。

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

教えて深雪先生

 

制服の上に白衣を着た司波深雪。

口にキャンディー棒を咥えたままけだるそうに彼女は教壇に立っていた。

 

「はいどうも深雪先生でーす、今回はメールで何かと同じ質問が連続で来たのでこの場を借りてお答えしようと思いまーす」

 

「えー複数の読者からの質問、『桂になってる会長と銀さんになった深雪って授業とかちゃんと受けてるんですか、昼休みは何してるんですか?』」

 

「えっとですね、会長の方は真面目に授業受けてますけどほとんどわかんないので大抵は目を開けて寝てます。だから昼休みとか利用して図書館とかで地道に勉強してたり鈴音からレクチャー受けてたりしてます、なんで異世界人のお前がそんな事勉強する必要があるんだよって感じですよねホント」

 

「ちなみに深雪さんはそんな無駄な事に時間も労力も費やしません、3話目で初めてこの世界の授業ってモンを受けましたが、授業中は寝て鋭気を養ってました、それとたまにサボって屋上で寝てました。昼休みはなんか周りにいかにもモテなさそうなガキ共が集まってきたので全員はっ倒して会長と飯食いに行きました」

 

「いやー無駄な事に時間を費やしてるどこぞのクソ真面目会長と違って授業中でさえ睡眠時間にしてしっかり借りた体をケアするなんてホント銀さんって優しいですね」

 

 

 

 

 

「え? 授業態度の評価がだだ下がり? 何それ? そんなの知らねぇけど?」

 

 


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