"世界に勝るものありて、成して、あったとして、手に入れたそれは如何なものになるのだろうか"。問われれば誰もが分からないと答えるだろう。質問の意図から、その意味まで。ましてやその答えですら理解出来ない。当然だ。我が父は──そんな、優しく手解きをしてくれるような人物ではなかった。昔ながらの、と言えば父は怒るのだろうが、我が父はそうとしか形容出来ない程に固い、前時代の思考回路を持っていた。ジリリと目覚ましが意識を覚醒すべく、脳内を叩いてくる。止めることも億劫だった。しかし止めない訳にもいかず、体を半分起こして目覚ましを止める。
冷たい冷気が肌を刺す。布団を半分ばかりでも開けてしまった事が問題だった。その小さな隙間から冷気が入り込み、体温を奪うべく冷気を刺してくる。意識が半覚醒状態から、本来の覚醒状態へと移行を始める。
「……もう少し、寝ていたかったのに」
呟かずにはいられなかった。仕方なく体を起こしてふらつきながら、ベッドから降りる。今日は、何月何日だったっけ。別段、確認出来るものもないのだがそう思ってテレビをつけた。丁度ニュースが流れている。時間は八時を少し回った辺り。当然と言えば当然だ。目覚ましは八時に鳴るようにセットしてある。もっとも、この時間に起きた所で、何をするかは決まっているようなものだのだが。
「カッ、起きたか。偉く今日は目覚めがいいなクズハ」
何の断りもなく、私の部屋に侵入してくる老人一人。マトウ・ゾウケン。私の今の保護者だ。この保護者、調べてみると、御年三桁を優に越えている。正真正銘の化け物だった。私は悪態をつきゾウケンを目の前で見下すようにした。老いているからなのか、その身長は低い。
「起こされるもなにも、その起こし方が嫌だから普通に起きてるんだ。何か問題でもあるのか」
「また冗談を。そんな風に言っているからワシはからかいたくなるのだがな。まぁいい、ワシの手間が省ける事には違いない」
ゾウケンはそういうと、踵を返して部屋から出て行った。私は寝間着のままの姿をどうにかしようと、ベッドの下から衣服を取り出す。と言っても、選ぶような服を持ち合わせていないのが現状なのだが。綺麗に整頓されて並んでいるのは、全てがジーンズと白のシャツだけ。これだけしか、私はゾウケンに与えられていない。服を買いに行くお金を渡される事もなければ──勿論、外になんて出られない。マトウに預けられた事は不幸だったと嘆くしかなかった。我が父は、一体何を思って私を間桐家になんて出したのだろうか。単純にお金の為ならば、我が父のあのおかしな言葉が気になる。ずっと、ずっと。あの言葉の意味を探す為だけに思考を回転させてきた私にとって、それは小さな光だった。私が精神を保って正気でいられる、唯一無二の思想内容。ゾウケンでさえも、私のこの想像に関しては知らない。知らせていない事もあるが、それでも、これが奪われてしまうようになれば、それこそ私は発狂して、ゾウケンの思うがままに操られる袋と化すだろう。
「それだけは、許さないから。私は個人なんだ。私は私なんだから」
意味の分からない言葉だが、私はこの言葉が何よりも好きだった。『私は私なんだから』、この言葉に、何度救われたのか見当もつかない。私は悩む事もなく寝間着を脱いで、白いシャツに着替える。次いでジーンズに履き替えると少し腰より低い位置に下ろしてジーンズと体の接着面を出来るだけ確実なものにし、ふぅ、と息を吐いた。
「さて、と。……行きますか」
これから行く先は、生き地獄。普通の感性を持った人間であれば、数秒見ただけで気絶してしまいそうな気味の悪い蟲たちの沢山入った蔵に向かう。こうしてみると、私は普通の感性を持っていない事を実感させられる。怒りが込み上げてきた。自分の現状と、現状の原因となった我が父と、この現状を続けるゾウケンに私は腹をたてる。自分は普通だ。自分は自分だ。『私は私なんだから』。言い聞かせると、心臓の鼓動が静まっていく。また今日もこうして、感情を押し殺すと体中の回路が死に絶えていく事が分かった。血管ではない、しかし何かが通る感覚はある、謎の回路。用途の分からないものだからと言って、体の一部が死んでいく事はいい気分ではなかった。
このままでは埒が開かない、と思考を停止させると自室を出て廊下へ。目の前にはゾウケンが立っていた。待っていたのだろうか。
「遅いではないか。何をやっていた?」
「別に、何も」
素っ気なく答えて質問を軽く流し、私はゾウケンを無視して蔵へと向かった。家自体は豪奢だと言えるだろう。シャンデリアもあれば、赤いカーペットも所狭しと敷いてあるし、何といっても食事レベルがおかしい。私が我が父の元で育っていた頃を思い返すと、想像も出来ないような豪華さだ。しかし、それに見合う──否、見合わない対価を払っているのだから、当然の事なのだろう。
腹に何かを入れておかないといけないとゾウケンが言うから、私は軽く食事を取る事にした。一体誰が焼いたかも分からないパンを齧りミルクで押し流すと、私は食事を止めてシャツを整える。ゾウケンが私を見て嗤っている。止めてよ、気持ち悪い。これから起こる事を想像してだろうか。はたまた、私がこのおかしな事に慣れ始めた事からだろうか。どちらにしても吐き気がする。どれだけ豪奢な建物で、どれだけ食事が保証されていようとも、これから起こる事を我慢してまで享受する事が出来る人間は少ないだろう。仮にそれが快楽だという人物は異常だと言ってもいい。全身を嬲られ、体内に侵入され、穴という穴を広げられるあの所業が人間業な訳があるか。そもそもゾウケンが人間だったのは遠い昔の話だろう。
ゾウケンが立ち止まって、杖を私の足に突き刺す。靴のおかげで貫かずに、骨も折らずに安心したが、痛覚が鈍っている事に気がついた。脳が勝手にセーブを掛け始めているのだろうか。
「クズハ。貴様が何故、マトウに呼ばれたか知っておるか?」
突然話しかけられた。主語が明確に私であるから、答えるしかない。本当は無視したい所だが、私はゾウケンのその質問にNo.と答える。知っているわけがないだろう。我が父は何も教えてくれなかったし、マトウがどんな家なのかも聞いていない。別段、私の家は貧乏だったわけではない筈なのだから、憶測もできない。
「呵々、そうかそうか。難儀や奴よのぉ。貴様も本来ならば普通の生活が出来たというのに、あの父親は鬼でも喰らったのじゃろうな」
「我が父を愚弄しないで下さい。我が父は意味のない事は絶対にしないし、言わない」
「──まぁそう怒るな。ワシの目的を阻害する人物がいての。彼奴を葬る事が貴様の今の存在理由よ」
驚いた。この化け物が復讐の為に私を使おうだなんて。なんとなく、蟲蔵に放り込まれてからは想像出来た範囲内だが、それなら自分でいけばよくないか。私を使うまでもない。
「存在理由?そんなもの、私が決める事です」
「そう心配するな。貴様が彼奴等を葬った後は好きにするがいい。既に養子なのだからうちの資金を使ってもいい。留学だろうと、移住だろうと、豪遊だろうと、貴様の好きに金を使え。まぁ、生き残れば、の話だが」
この老人は私を酷使させるつもりだ。復讐とか言って、きっとナイフ一本渡してお仕舞い。きっと後釜は候補に上がっているのだろう。所詮捨て駒か、私は私の筈なのに。私はきっと、私にしか出来ない事があった筈なのに。辛い、苦しい。もうあの蔵に入るのは嫌だ。そんな思考がぐるぐると巡る。私は何がしたかったのだろう。お花屋さん、パン屋さん、ケーキ屋さん。あぁ、写真屋さんもやってみたかった。良く乙女思考だと罵られたものだが、今では私も汚れた一人間でしかない。
「ワシが渡した本、読んで理解したか?期日は明日の筈だが」
そんなもの、とっくの昔に読んでいる。一体どれだけ前の話をしているんだ。もう三カ月も前から言ってる事を私がしない筈がないじゃないか。本の内容は、何やら蟲についての記述とさらには聖杯戦争という戦争の事が記された本だった。蟲の事はともかく、聖杯戦争。これはまた面白い。蟲の記述は見る度に吐き気がしたが、この聖杯戦争の記述を見ていると胸が踊った。数少ない娯楽の一つとして私は捉え、脳内では幾多もの誇りが争われ、数多もの英雄が雌雄を決していた。聖杯戦争についてなんて今では語れるほどに、私はあの本を読み込んでいる。
「理解はした」
私は嘘つきだ。嘘が大好きだし、嘘を言うことは勿論の事、その心情を感じる事が好きだ。その点において、聖杯戦争はもっともと言っていい程に私を楽しませてくれた。得に面白いのは、四次と五次の聖杯戦争。第四次聖杯戦争でのフリーランスのマスターなんかは、私の好みだった。第五次聖杯戦争で聖杯戦争は終結したとされている。何でも、聖杯は泥に犯されていると聖堂協会が知って中止したとか。何ともおかしな話だ。
「そうか、ならいいのじゃがな。さて、クズハよ。貴様はあの書物に関してどう思う?」
グリグリと杖で私の足抉ってくる。痛みがあまり感じられないせいで今靴がどうなっているのか分からない。これで出血なんてしていたら大変だ。傷口から蟲が入ってくる。もしそうだったら許さんぞゾウケン。
「──沢山の人を殺してまですることではなかったな、と」
私は嘘つきだ。嘘つきの心は分からない。だって、嘘をつくのに理由なんていらないから。嘘はどこまでいっても嘘でしかないし、嘘が真になるのは諺だけで十分だ。
「ほぅ……まぁ良い。貴様には参戦してもらおうかと思ってな。言ってしまえば貴様は努力するじゃろ。それではいかん。貴様には諦めてもらわねば」
あの話は事実だったとでも言うのだろうか、この老人は。老化で頭がトチ狂ったのかと思った。しかし、目の前に立っているこの老人がそんな事を言う筈がなかった。それは勿論経歴上、さらにはその性質からであるが、私には判断しかねる。諦める、という言葉が喉に引っかかった。何故諦める事が必要なのだろうか。
「それで、私を参戦させてどうする?」
あくまで冷静に、私は返答する。聖杯戦争なんて知ってましたよ、と。参戦させた所で私をどうするつもりなの、と問う為には嘘が必要不可欠だ。こうした話術的な事における私の嘘つきスキルは、きっと英霊くらいは騙れるのだろう。
すっと足を引いてゾウケンの杖の束縛から逃れる。痛みはまるでなかったが、少し重い。血が溜まっているのだろうか。靴を脱いで確認すると、素足が見てとれる。靴下は支給されなかったから裸足なだけで、私は別に変じゃない。ただないからそれを享受しているだけで。
靴の束縛から逃れた私の足がもぞもぞと動いた。中で蟲が暴れているのだろうか。何時の間に入り込んだんだ。後で殺しておこう。
「此度の聖杯戦争は、穢れを祓うものであるらしい。神々を召喚し、その絶大な力を有したサーヴァントを用いればきっと穢れは取れるらしい。──果たして、本当にそうかワシには判断しかねるが」
「人間には出来なかった事でも、神様ならその術があるって、そういうことだろ。ばかばかしい」
そう、穢れを取ろうだなんてバカバカしい。例外はあったとしても、最低七人のサーヴァントの魂が入った器だったのだ。そのうち何人が穢れていようとも、純粋は穢れを打ち消す事が出来ない。どれだけ綺麗であろうともその穢れは確実に純粋な聖杯を汚していったのだろう。悪の体現とまで行った冬木の聖杯戦争は確かに異常だったが。
「だから、此度の聖杯戦争の地に選ばれたのがここなのじゃろうが。神々の信仰などと……バカバカしいにも程がある。聖堂協会には一矢報いねばな」
「そうだな。利害は一致してる。ただ、私は我が父を貶すあなたに使役されたくない」
ゾウケンは口角を上げてニタニタと嗤い、私に視線を向ける。何が言いたいマトウ・ゾウケン。
「良い目をしている。もう今宵に召喚してしまおう。時は早い方が良い。下手にサーヴァントの枠を埋められては、こちらの作戦にも支障を来すじゃろう」
するりと、物語の知識が脳内に流れる。蟲蔵は確か、魔術回路を拡張させるだとかなんだとか。私には魔術回路があるのだろうか。
「何を召喚させるつもりだ。元より私にそんな心得はないし、あの聖杯戦争だって物語として理解しただけだ。言わば神話のような。だからあの本にあったような魔術の心得もないし、魔術回路なんてものもない。確かにあなたと同じ名字が数回出てきてもしやとは思ったが、まさかこんなことになるとは想像だにしなかった。それで、あなたは私をどうするつもりだゾウケン」
少し熱がこもってしまった。ゾウケンはクツクツと嗤う。
「そりゃあもう、最高の触媒を用意してある。日本は金さえあれば簡単に買えるからな。現物がああして流通しているものは横流しにするもの容易い。貴様には、最悪のサーヴァントを召喚してもらおうかの。最も悪い、の意ではなく、最も劣悪な、という意のな」
意味が分からない。私を四苦八苦させて楽しませるつもりだろうか。最悪もなにも、そんなもので戦えると?戦う事が優先な自身の思考回路に驚愕する。飢えすぎだ。
「それで、その真名は」
「カッ、マスターにもなっていない貴様が知るものでもなかろうて。触媒が然りと作動する根拠もない。勿論、ワシは召喚出来る場所を選んだのじゃが。マスターが最悪な状態、霊脈もこの地は最悪な場所を選んだ。もっともサーヴァンと召喚で行われる深夜の真逆、昼間に行う召喚。悪し条件を整えた上で、触媒を用いるのじゃ」
意味が分からない。
「いいから召喚しろ、と言った方が早いかクズハ。蟲蔵の蟲を引かせれば魔方陣がある。その魔方陣も書いてある。劣悪にするために生贄の血液の代わりに蟲たちの体液を使っておいたがな。彼奴らもあれはあれで極上の魔力を持っているのじゃから、問題はなかろう」
まったくもって意味が分からない。説明しろと言ってもしてくれないのが臓硯なのだが。
「失念しておったが、令呪が宿っておらんと話にならんかった。どれ、手の甲を見せろ」
そう言って杖を私に向けてきた。逆らう事も出来ず、私は渋々了承し、右手と左手の甲を差し出す。何もないだろうに。
「案ずるでないぞ。ワシは令呪システムの考案者じゃ。一画程度、御する効果はなくともマスター権くらいは偽造出来んでどうする。そもそも、マトウのマスターは貴様じゃ。他に誰がおろうか」
そんな機能は知らない。ゾウケンは私の右手の甲にとん、と杖をぶつけると、緩やかな痛みと共に、薄い赤色の紋章が浮かび上がった。物語にあった紋章そのものが、目の前で宿る瞬間を見た。少しばかり感動を覚えたが、これはゾウケンの所業だ。信用するには値しないし、何と言っても、今から英霊を召喚する──らしい。真名どころかどのクラスと想定しているのかも、戦闘方法も。私の夢が台無しだ。
「滞り無く済んだか。マスターの刻印も暫し待てば聖杯から上書きされるだろうが、それはワシに言え。令呪は一画でいい」
令呪が一画。マスター権を二画放棄せよ、という事だろう。もしくは、マスター権を自分に譲渡せよ、といった辺りか。私はそんなゾウケンを横目に歩みを進めた。蟲蔵の重い扉を押し開ける。重苦しい音と共に、蟲たちが蔵の外壁へと隠れていく音が聞こえた。気持ち悪い。何度聞いても吐き気がする。
ちょうど蟲蔵の中心部分に、汚い色の魔方陣が描かれていた。知っている。このカタチを、私は知っていた。物語の中で散々登場しその中心部分にて英雄が召喚されるシーンは、何度思い返しても素晴らしいものだった。 あぁ、私は今、物語を紡ぐ立場にいる。これは、私が成せる事。私が、私だけが成せる、物語を紡ぐ事。
「召喚の呪文は間違いなく憶えているであろうな?」
腐臭と饐えた水気の臭いが立ちこめる、深海のような緑の空間。マトウ・ゾウケンが所有する土地の一つ、サティスファクトに存在する、マトウ邸の一つの蟲蔵である。念を押すように聞いてくるゾウケンに、私は首肯した。憶えているなどと言う形容詞では勿体ない程には憶えている。もっとも、これしか憶える事がなかったのだが。また私の回路が死んだ。喰い潰されたと言った方が的確だろうか。マトウの蟲が私の回路を食い散らかす。
「触媒には、黄金のマスクを用意した。貴様でも分かる有名過ぎる人物じゃ。しかとその目で捉えろ」
蟲蔵の壁から、黄金のマスクと呼ばれたその触媒が蟲によって運ばれてくる。見覚えのあるその造型と色遣いに、私の目は奪われた。緑色のこの空間でも、確かな黄金色を放つそれは、正しく万人が知っているであろう人物の棺桶。
「そうか、彼か。彼なのかゾウケン」
「カッ、貴様が召喚に失敗すればそこで終了じゃがな。早くせんと彼奴の適正クラスが埋まるぞ」
首肯する。頭に刻み込まれた、召喚の言葉を脳内で繰り返す。そう、初めの、オリジナルの、正しい召喚の言霊。私の持っていた娯楽はもはや聖書の如く私に焼き付いている。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
残っている微かな回路が、召喚に応じようと必死に鼓動を開始する。体の蟲が暴れ回った。激痛が走る。こんなにも痛いのか。あの物語ではそんな表現は薄いものだったのに、現実ではこんなにも、痛みとは素晴らしいものなのだろうか。感じる、物語の担い手となったこの感覚。自分は、あの物語のプロローグ部分をなぞっているのだと、自分は、主人公足るのかと。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。
──告げる。汝の剣は我が下に、汝の命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば答えよ。誓いを此処に。我は、常世総ての全となる者、我は、常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!」
知っている。物語として、この脳に刻み込んでいる言葉を、痛みに耐えながら淡々と紡いだ。煙が巻く。稲光がした。風で私が吹き飛んだ。ここまでは、私の知っている光景だ。目の前に立つ、その英霊を、私は名前しかしらない。彼のエジプトのファラオ。誰もが知る、謎の少年王。その彼が、今、私の目の前に。
「……もしもし」
「──k──k──s」
「あなたはどのクラスの英霊なのか、問いたい。答えてくれないだろうか」
「──A─s─a──」
金色の、豪奢な恰好をした青年が目の前に倒れていた。自分でも何があったのか理解出来ない。私が失敗した? 私が何か間違えた? 魔力不足で召喚が不完全だった? 私の失態が私を攻める。せっかくの物語が台無しになった気分だった。
「なに、成功はしているぞ。クズハ、貴様は確かに彼のファラオを召喚せしめた。彼奴の最良の状態が今なのじゃろう」
すっと、霊体化が解けて現れるかのように、一人の青年が遅れて召喚された。恰好も私の想像通りのエジプト民衣装。背格好は一般青年と大差ないだろう。
「遅れて申し訳ありません。王に代わって僭越ながら私めが。問いましょう、あなたがライダーである我が王を召喚した、マスターでしょうか?」
青年はそういうと、ペコリとお辞儀をして倒れていた王様であろう人物に駆け寄って負ぶった。