Fate/Liar heart   作:木樵蝋梅

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For Assassin

 満ちる、刻。ぐるぐるると廻る風、ただただ、見上げるしかない巨躯。そのおおよその大きさは2mを越える人間。

 否、彼を人間と形容するのは誤りだろう。彼を見た人は揃って彼を同類だとは思うまい。2mを越える巨躯のみであれば彼を人間だと認められる。それだけではないのだ。彼は人間ではないのだと、私の直感がそう伝えていた。人類の願い、願望、尊敬が入り混じった、その名の通りの”英雄”。彼を形容するのであれば英雄であると言うのが一番正しい。顔面には多数の切り傷。片耳は千切れ裂かれ、口端は切れて奥歯が露出しているオカシサ。その装束は黒色のマントとジーンズに目だけを覆う髑髏の仮面。上半身はマントで覆い隠すのみとなっており、目の遣り所に困る。

 彼は英霊。そして、私はその召喚者。普通ならば彼の名が瞬時に理解出来るのだろう。私にはそれが出来ない。理由は私が未熟であるから。理由は私が、彼の”触媒”を一切用いていないから。

 触媒を用い、召喚する英雄を選別する方法を良くとるのが魔術師であると聞く。私の学んだ時計塔でも同じ事が成されていた。私はそれを良しとは出来なかった。

 呼び寄せた英雄が仮に異端者であれば? 私自身と馬が合わず、主人殺しを行ってしまうような英雄だった場合は?

 だから私は”触媒”を用いない己の精神性によって呼び寄せられる方法を取ったのだ。断じて触媒が用意出来なかった訳ではない。幸い、私の精神構造は一般的なソレである。ならば常識人が召喚されるだろう。強さは勿論関係するが、私は完全な聖杯など望んでいない。噂に聞く”小聖杯”で私の願いは事足りるのだ。そんなちっぽけな願いでも、私は聖杯を手に入れなければならない。

 決められた時間、決められた場所、決められた言霊を用いての、不確定要素の召喚。私の精神は、一体誰を呼んだのだろうか。

「問おう。貴女が私のマスターか」

 そう言うのが当然であると、ただ耳に馴染むかのように解けていく声色。その声が如何に自分の為に練られたものであるかは言うまでもない。私はただの四属性使い。五大属性を起源に持つ、”トオサカリン”の劣等種。エーテルなんて対応はないし、四大属性であったなら火・水・空気・土であったところを、火・水・風・雷という特異属性を複合した良く分からない私の起源は、魔術師の中では異端に分類されるが、異端者の中では劣等種に分類される。

 馴染む事も許されず、突出する事も許されない個人。エアリス・ヴァン・サティスファクト。それが私、それが私の魂に刻まれた名前。

「貴方は──誰?」

 考える間もなく声が出た。思わずと言えば正しいのか、それともそれが必然であったと言う事が正しいのだろうか。私には形容することが出来ない。私は、ただ彼を知りたかったのだ。──余りにも、脳に引っかかるその貌を見て。

 英雄は息をふっと小さく吐き出してやれやれと手を上げた。彼は本当に英雄なのだろうか? 英雄としての気迫もある。英雄としての巨躯もある。しかしそれでも。何故この英雄は、こんなにも頭に引っかかるのだろう。

「私か。私は”英霊”のような大層な事は一切していないさ。ただ。私はこの聖杯戦争の抑止力として呼ばれただけに過ぎない。だから。現存するかもしれないし。しないかもしれない。ただし。私はこれだけは言える」

 其処で英雄は言葉を区切り、私を抱きかかえて持ち上げた。2mを越える巨躯に私は抗う事は出来ず、成されるがままに私は身を任せた。英雄の貌がぐっと近くなる。喉の機能が麻痺している、喉が言葉を放つ事を拒否している。

「私は。神しか殺せない暗殺者。ハサン・サッバーハと呼ばれた人間だ」

 巨躯の男はそう言ってはにかみ微笑んだ。言葉を発するべきか? それは無理だ。私の喉は発声そのものの機能を忘れかかっている。降ろせと身振り手振りで表現すべきか? それは無理だ。アサシンに持ち上げられた私は、手足の自由はあっても行動を起こせば無為になる。それは比喩か。私はただ、このアサシンに全神経を乗っ取られたかのように身動きが取れないだけだ。脳が彼の異常性に警笛を鳴らす。私には彼を図れない。精神性から呼ばれたのだから彼は私と似通った点があるはずなのだが。私には彼を見るマスターの目も、彼を図る魔術師としての技量も足りない。彼は何者なのだろう。

「ハサン・サッバーハ?」

 その問いかけだけが許されていたのだろう。私の喉は正常に機能した。これが必然であったのか、それともアサシン自体がこの質問を待っていたのか分からない。ただ彼は首肯して、私の工房から飛び出した。筋肉を若干収縮しての跳躍のみで、私の工房の屋根を破り表に飛び出す。

 山の翁、ハサン・サッバーハ。彼らはイスラムにおける暗殺集団である。それは知識としてあったし、その”ハサン・サッバーハ”の集団の中からアサシンが召喚される事も知識としてはあった。だがこの英霊は、暗殺者に向いた体格をしているか? 答えは否だ。2mの巨躯でどうすれば暗殺者なんて名前が付けられて召喚されるんだ。

 神しか殺せない暗殺者と、彼はそういった。

 その意は私には分からないい、略歴から能力パラメータまで一切の情報が不明。貌には見るに耐えない傷跡。片耳は失われ、口に至っては端が裂け、奥歯が露出している。傷の理由を聞こうにも彼に話しかけられない。彼には人間を圧倒させる威圧感が存在していた。

「勿論私はそんな名前では断じてないが。いやしかし。周囲の人々は私をそう呼称したのだから仕方あるまい。私はハサン・サッバーハで相違ない」

 思わず口を噤んだ。つまり彼は”ハサン・サッバーハ”ではないのだ。ただそう呼称され、”ハサン・サッバーハ”としてその名を地に馳せて英霊へと昇華した。彼の名は他にあるのだろう。その名を教えて貰おうにも、喉が上手く機能しない。声を絞り出そうとしても喉で止まり、ひゅーひゅーと肺から空気を放出するだけ。

「……おいマスター。何故貴女はそんなに苦しそうなのか。答えてくれないか。発声阻害は私の……あぁ。なんと言ったか。呪いの類だから声が上手く発せまい。主従の間であれば念話が可能な筈なんだがね」

 失念していた。というか、出来たとしてそれは間抜けに写るのではないだろうか。主従で出来たとしても、私の知る聖杯戦争の文献には念話をするシーンなんて──あ、いやあった。間違いなくあった。

『……これで文句ないかしら。というか貴方ね、サーヴァントの癖に生意気なのよ。主人に向かってその話し方はないんじゃないかしら』

 少し苛立ちを織り交ぜながら言ってみた。これで感情は通じるだろうか。私には分からないが、彼ならきっと察してくれるだろう。そうしてくれないと困るし。

 このアサシンは発声阻害の呪い持ちと来た。これは彼の輝く貌も驚きだろう。彼もこんな呪いを掛けられていたなら多少生きながらえただろうに。

 発声阻害の伝承は数が多すぎて分からない。威厳によってか言葉が発せなくなる、という記述のある文献は星の数程あるし、それから巨躯の男まで絞ったとしても現れないだろう。そんな次元ではない筈だ。”ハサン・サッバーハ”でもない。きっと彼は誰かなのだろうが、存在すらも否定するのだ。思考してどうにかなる問題でもない。

「いいや。私は誤ってなどいない。私は抑止力だと言っただろう。私は世界側の人間だ。サーヴァントではあるがしかし。私は君の傀儡ではないと正しく理解して欲しい。私は世界の傀儡なのだから」

『世界の傀儡様が私の令呪一つで死んじゃうのね。可哀想に』

 皮肉たっぷりにそう言ってやった。アサシンの表情が曇る。

「そりゃあ私は哀れに思われる境遇ではあるさ。が。しかし。それがどうした。令呪など使わせなければいいだけの話じゃないか。まったく貴女もおかしな事を言う。冗談は道化だけにしてほしいものだ」

 タン、と何処かの屋根に足を着いてアサシンは蹴る。ロシアの土地は酷く寒い。冬場であれば外に出る時には凍死を覚悟しないといけないくらいには寒い。暖かい土地で聖杯戦争をすればいいのに。聖杯は場所を選ぶと言うから仕方なく付き合っているが、もし場所を変えられるのであれば温暖で豊かな土地が良い。イタリアとか。

 令呪を使わせないとこのアサシンは言ったのだ。それはサーヴァントとして当然だろう。主人に逆らう事をしなければ誰だって自害させない。私も自害命令に令呪を使おうだなんて微塵も思っていない。小聖杯で事足りる私の願いに、大聖杯は必要ないのだ。五人殺せば良い。というか共食いしてくれないかとまで思っている。最後の一人が私を殺す可能性を持っている限り、私はこのアサシンを手放す事は出来ないのだ。

『貴方もまたすごい事を言うのね。道化だけにしてほしい、という言葉はそのままブーメラン。貴方こそが道化に相応しいわ。だって貴方今、不可解な行動をしてるじゃない。私の工房が滅茶苦茶なのだけれど?』

 屋根を突き破って出るか普通。筋肉自慢したかっただけなんじゃないか? そう疑うくらいには意味が分からない。私は未熟だとは言っても時計塔出身の魔術師だ。しかも異端の烙印まで押されてる。私の起源をフル活用した結界だったのにアサシンは工房を破壊したのだ。

「何を言う。マスターの優れていた点は工房の場所を人間が他にいる教会にしていた所くらいだ。いや。これは不運だったと言うべきだろう。神と邂逅する所だったんだぞ」

 さっきからこのアサシン、神が神がと五月蝿いぞ。何考えてるんだ。

『貴方サーヴァントでしょう? しかも神しか殺せないって言ったわよね? バカなの? 死ぬの?』

「そりゃ悪かった。でも残念ながら今は無理だ。私も世界も神を殺す事を今は望んでいない」

 なんだこの使えないアサシン。仕事しろサーヴァント。生き残ればいいとは言ったがそれでも他サーヴァントは殺すべきではないだろうか。アサシンは何処かの屋根に足を付けてそこで半回転、後方へと身体ごと向けてバックジャンプ。ふわりと遠心力が働いて私はひやりとした。アサシンは私を嘲るような笑みを浮かべて言葉を放つ。

「その問答は私がしたかったものだがね。マスターはバカなのか。そして死ぬのか。むしろ感謝してほしいくらいなのだが。今のマスターではあのサーヴァントのマスターとやりあうなんて不可能だろう。私もあの神とは戦いたくなかったというだけだ」

 淡々とアサシンは言葉を紡いでいたが、私はただ絶句していた。アサシンの呪いで元から声が出なかった事に感謝したいくらいだ。声が出ていたのなら間抜けな声を出していただろう。想像くらいつく。

 神か、この暗殺者は神と言ったのか。さっきから引っかかっていたのは『神』の一単語だったのだろう、私の穴をピタリと埋めた神はそうして目の前にて力を振るう。

 見えるのはただ、一直線に伸びた雷光の残滓。軌跡を描いたままそこで停止している様が私には捉えられた。本来であれば雷光の軌跡は見えないのだろう、私の起源に雷がある事が幸いした。魔力の軌跡を見る事くらいは出来る。私の四属性の魔術は起源に通じているお陰で恩恵を受ける。四つの属性の魔術しか使えないし、実生活においても弊害は出る。例えば植物に触れると枯れるとか。

 雷光の残滓は教会を真直に射抜き、周囲に被害を及ぼして魔力を霧散させる。魔術であった事には違いなかったが、あれは魔術であるとしても大魔術か何かだろう。それを設置されていたのに、私が気付かなかった? そして何より、私の四属性の起源工房が破壊されただと?

『アサシン、あれは何か分かる? さっきから神がどうこう言ってるんだから正体くらいは分かるんでしょ』

 アサシンは然り、と頷いて再びバックステップ。

「推測くらいつくとも。雷を使う英霊は数多くいるが。あれほどの雷光となると一気に絞れる。インド神話で言うインドラ。北欧神話の雷神トール。カナーンのフェニキア。バビロニアのマルドゥーク──挙げるとキリがないのでここで終了にするが。雷というだけで幾百の英霊から数十体まで絞れたんだ。僥倖とするべきだろう」

 雷を見たのか。このアサシン、私の起源で見れた残滓を見れるわけがないのだから、きっと肉眼で雷光を捉えたのだと思う。人智を越えた身体能力くらいは分かる。というかそれくらい出来なければ英霊とは言えないだろう。

 アサシンはそこで私を纏った黒いマントで覆う。なんだろう、気配遮断の一種だろうか。マントの中からは回りが見えないと思ったがそれは誤りだったようだ。マントは内側から透けて見える。何だこれ。透○マントか。私は抗議のエルボーをかました。ついでに魔力パスから止めろと命令を加えて。

「貴女はバカなのか。英霊に肉体的ダメージを与えられるとでも思ったか。この身は傀儡だが私は世界の使者だぞ」

『世界の死者なのね。わよね。そりゃそう、だって貴方冷たいもの』

「それは一言余計だぞマスター。私は確かに死者だが今はこうして生を得ているのだから冷たいわけがない」

『心が』

「……ほっといてくれないか。生前が悔やまれる」

 わぁお。生前冷たかった事を認めた上に英霊様のトラウマを掘り当ててしまった。

 それはそうとして雷の英霊が既にいると、そういう認識で正しいのだろうか。

『ところでアサシン、貴方自分が何番目に召喚されたとか分からないかしら? 分かると私が凄い楽』

「分からないに決まっているだろう。いくら世界側だと言えど私はサーヴァントだ。サーヴァントの域を脱する事は出来ない」

『じゃああれは? サーヴァント同士の通信的なの。近くにいると感じるんでしょう?』

「そんな広範囲に渡って出来る訳がないだろう。そんなことが出来れば聖杯戦争は破綻する。貴方は聖杯戦争をやはり一から学び直した方がいいんじゃないか。便利な事ばかり覚えていてちっとも勝ち残る思いを感じられない。貴方は希薄な存在感だけで気配が遮断されるのと思っているのだろう」

 失敬な。気配遮断くらい出来る。時計塔時代には私もアサシンの再来と恐れられたものだ。別に影が薄いとかではなく、風の起源を使用すれば光の屈折がどうこうでステルス出来る事を知ったから多用していただけだ。そんな事を言えばアサシンは黒い透明マ○トで気配遮断なんて言っているんだ。そっちの方がインチキじゃないか。

 降りるぞと小さく私に声を掛けて、アサシンはロシアの住宅街の路地へと入り込んだ。そこで漸く私は地面に足をついた。アサシンだからって隠れなくてもいいじゃないか。あと臭い、路地裏臭い。

「聖杯の降霊場所は何処だマスター」

 疑問符を用いわずに私に語りかけるアサシン。巨躯が悪目立ちするからだろうか、多少猫背になっているのが可哀想に感じてきた。アサシンは剥き出しになった奥歯を爪で弄り歯垢を落とした。何も食べてないじゃないかアサシン。召喚前に獣でも食べたか。

 サーヴァントの質問に答えなければならない、私は記憶を手繰り寄せて聖杯戦争の知識を引き出す。イメージは仕切られたタンスを開けるイメージ。余り記憶を整理していないからだろうか、ごちゃごちゃになっていた。探す事約三秒、聖杯戦争の記憶を呼び起こしてアサシンに説明を始める。

『聖杯の降霊場所はロシアよ。というか私たちサティスファクトの土地が用いられる。今回は聖堂教会の監督役はまさかの時計塔の教師陣多数だから安全な筈。ただし、今回の聖杯戦争は従来とは趣向が違うわ』

 聖杯戦争。七人の魔術師がそれぞれ英霊と呼ばれるサーヴァントを引き連れて殺し合い、その勝者が聖杯という万能の願望器の使用権を得るというものだ。あくまで冬木の一例を取ったものであるが、今回は冬木の聖杯を使っているので説明は省略。要するに、七騎の英霊を使っての殺し合いだ。

『聖杯戦争は何回目かで呼称があるんだけどね、第何次聖杯戦争って言う風な。今回のは聖杯に細工してあるの。呼び出す英霊のランクを凄い上げてる。それこそ、神を召喚出来るくらいに』

 そう、違いはそういう事だ。本来神は召喚出来ない。出来たとして神話の英雄、つまりは神話の人間。もしくは召喚したとしても神格低下で人間に近しい状態で召喚され、力に大幅な制限が課せられる。その枷を人間の届く範囲内で外した戦争が、今回の聖杯戦争だ。

 聖杯は穢れていると、第五次聖杯戦争のマスター”トオサカリン”は言った。

 ならば聖杯を清めようと、第四次聖杯戦争のマスター”ロード・エルメロイ二世”は言った。

 ならばどうやって清める? と、時計塔の教師陣は問うた。

 神を降ろしてその力で清めようと、”アインツベルン翁”が提言した。

『神の力を使っての聖杯の浄化が今回の目的。神が本当に浄化出来るのかどうかの確証はないわ。それでも時計塔はあの膨大な魔力の塊を無視出来なかったみたいなの。だからダメ元でもやってみよう──という事になったのよ』

「そして私はその抑止力として世界にコキ使われる事となった。と。とんだとばっちりだ」

 アサシンは大きなため息を吐いてその場にしゃがみこんだ。座っても私の目線に合わせられるってどういうことだ一体。そこまで小さくないぞ。

 つまりはそういういこと。この聖杯戦争は穢れを浄化するために時計塔が行った儀式だ。そして、神殺しの暗殺者が呼ばれたということは、他にも神が多数いるという事で間違いないのだろう。

『私は時計塔代表になっちゃったから知識は全部詰め込んだだけなのだけれど。ちょっと知識のある一般人マスターとなんら変わりないわ。魔力量はあるけれど』

「儀式なのなら他のマスターとも協力して一斉に自害させて聖杯を満たすという方法もあっただろう。何故それをしない」

『マスターは聖杯が選ぶ。より特異な人物に、願いがある、聖杯へと願いをくべるマスターを選出するのよ。私には明確な願いがあったの。時計塔には私しか令呪の宿ったマスターはいなかったわ。つまりあと六人は外部魔術師ということになるわよね』

「当然と言えば当然か。世界にも意志があるから私を遣わせたのだ。言わばマスターも監督役になるのか。神が聖杯を浄化するのを見届ける意で」

『いえ、それは違うわ。あくまでそういう体裁を取っているだけで私は時計塔に肩入れするつもりはないもの。私には叶える願いがあるのよ』

「良い機会だ。この際聞いておこう。マスター、貴女はどんな願いを聖杯に望む?」

 アサシンが手を伸ばしてくる。私はその手を軽く握った。どうしてまたアサシンが頭に引っかかるんだ。

『……人体蘇生。どうしても生き返らせたい人がいるの』

 願いを吐露して後悔する。死者に私は一体なにを言っているのだろうか。

 私の願い、人体蘇生。とある人物を蘇らせようとしているのだ。たった一人だけの蘇生の奇跡だ。だから私は小聖杯で良い。大聖杯にしなくてもヒト一人くらい願望器なら叶えてくれるだろうと算段付けているだけだが。

「なんだマスター。私が願いを笑うとでも思ったか。顔が泣いているぞ」

 そんなつもりは微塵もない。さっさと霊体化しろバカ。魔力が勿体ないじゃないか。

「マスターがそんな顔をするから私も願いを言おう。記憶に処理が施されていて英霊としての自分しか思い出せないのだが。私の願いははっきりと分かるんだ」

 アサシンが私の頭を無造作に撫でた。撫でたというよりはワシワシと、まるで息子にするような愛撫で私は哀しくなった。

「私の願いはねマスター。幼い頃に分かれた知人との邂逅だよ」

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