落雷にて崩壊した教会は瓦礫の山と化していた。本来落雷は雷であるから、ここまでの破壊力を生み出す事はない。ましてや一つの協会を倒壊させるなどいう威力の雷は、伝説の中でしか存在しない。
つまりは、伝説の中でなら成せる所業なのだ。
雷撃を主として戦った──逸話として雷の関わる人物は膨大な数に渡る。雷を斬ったとされる雷切の持ち主が一番想像しやすいだろう。教会を破壊したのはきっと、その手の伝説を持つ英雄。
雷音が去った頃、ガラリと音を立てて教会の瓦礫が崩れる。山として積み重なっていたものが消えて、そこから出るは白の人間。病的な白、と形容する事が最も適切だ。自然に生み出された白ではなく、無機質な、人工的な白をした中世的な人間が瓦礫の下から出てきた。否、出てくると言うのは誤りだろう。這い出る様を想像してしまうといけない。
では、如何にして出たのか。瓦礫からその名のとおり出てきたのだ。さも当然かのように、動く事が必然であるが如く、その”白”はその場に顕現する。白、白、真白。その部位の、如何なる場所に至るまで白色。髪、腕、脚、装束までもが白で統一されている中、やっとその人間が瞳を閉じている事に気が付いた。
瓦礫の上に静かに佇む様は誠に”聖人”と言っても差し支えないものだった。”聖人”は手に茶色の表紙の厚い本を持ち、その本に施されておる金刺繍の文字には”聖”の力が込められている事が、凡人であっても理解出来る異質感。その文字の意は、聖書の中の一節を記していた。
人間はを覚ましたのかゆっくりと目を開いた。驚愕すべくは、その開かれた瞳の色彩がない事だ。瞳孔部分に至るどの場所も白。本来、人間ではありえない事に、人間の意質感は増していく。人間は何処か愛しそうに本の刺繍を撫で、ハードカバーであろう本の表紙を開いた。
ロシアの土地で紡がれる、異国の言葉。──雷のような声で「きたれ」と呼ぶのを聞いた。
カチャリと鍵が外れる音。三秒の間響いた解錠音は、程なくして尻すぼみに消える。
「──第一の封印は解かれた《セブンス・トゥ・アンロック》」
読み上げた人間は一人、歓喜に犯された笑みを浮かべる。その歓喜は己を悦ぶものか、はたまた達成者の其れか。人間は手にした本に呼びかける。答えるように、天から舞い降りてくるのは白色の馬と、馬に騎乗した貌のない兵士。手には弓矢、頭には冠が与えられている事が見て取れた。生物、兵士ともに生気を感じられず、同じく覇気もない。ただ見えるのは義務感と、諦めと倦怠感。呼び出された事が億劫であるがしかし、一騎に抗う術はないのだと、頭を垂れて人間の元へと降りた。さすれば人間は満足気に白馬の頬を撫で、本を閉じて一息吐いた。ぶるると唸る白馬に感嘆の吐息を吐き出す白い人間。
「神は──正しかった!!」
あまりの絶叫に生きて声を聞いた人類は驚いただろう。白い人間から発せられた声は、人間の容姿からは想像も出来なかったしゃがれた雷のような声。白馬を疾走させて、見境無く起こる事象に歪んだ笑みしか浮かべない様。一体誰の影を写したヒトなのだろうか。
かくしてここに、七騎の英霊が揃った。七騎を従えるのは、それぞれの思いを抱く主人たち。
──穢れを払え、神の力。
──その術を阻止せよ、王の力。
──神を殺せ、神殺しの力。
ここに茶番は出来上がり、番のない偽の聖杯戦争が始まる。
嘘吐きの戦いの中で、嘘吐きの心や、如何に。