「迷ったわね……」
この少女の名はマイン。帝都に跋扈する悪を排除する殺し屋集団の一人である。
その殺し屋集団の名前は【ナイトレイド】。
彼女はそのナイトレイドに任された暗殺の仕事の帰りであった。
今回の任務は、帝都に居る貴族の暗殺であった。その貴族は帝都の住民や、帝都の外で暮らしている住民を捕まえては自分の実験体にしていた。その事実をその実験体として連れて行かれた男の人の恋人の女の人が教えてくれた。
陰から調査し、その貴族が黒だとわかり、すぐに暗殺を開始した。
そして今はその暗殺の帰りであった。
暗殺は無事に完了。その帰り道、この世界で存在している危険種と言われる化け物と遭遇し、撃退はしたがそのおかげで帰ろうとしていたナイトレイドのアジトへの方向を見失ってしまい、森の中で絶賛迷子なうであった。
「めんどくさいわね。ったく、あの危険種、次に会ったら蜂の巣にしてやるわ」
今は完全に真夜中。あたりは真っ暗になり視界が悪くなっていた。
ここで野宿をしようと思う者もいるが、彼女はそんなこと考えない。
「こんなところで野宿なんてまっぴらごめんよ!汚くなるじゃない!」
ということである。
「仕方ないわ。勘で行くしかないわね」
女の勘で先へすすむマイン。だが、夜の森はそう簡単にいかせてはくれなかった。
夜は夜行性の動物が多い、危険種も例外ではない。
「グルルルゥ……」
「あら、また来たの?懲りないわね」
森の茂みから出てきたのは、先ほどマインが撃退した危険種である。
その姿は、まさに狼。その大きさは普通の狼とは比にならない。白い体に黒のタイガーパターンの模様がある。
しかも先ほど撃退した時より狼の数が増えていた。数は10。完璧に囲まれている状態であった。
「まいいわ。今無駄にイライラしていたところだから、あんたたちは私の鬱憤を晴らすのにちょうどいいわ!しかもこの≪ピンチ≫!使うにはちょうどいい!」
背中に背負っていた身の丈はある武器を取り出す。
その武器の名は帝具・浪漫砲台パンプキン。
帝具
1000年前、帝国を築いた始皇帝の命により造られた48の超兵器。体力、精神力を著しく消耗するがその性能は強大で、帝具の所有者同士が戦えば必ずどちらかが死ぬと言われている。始皇帝の「ずっとこの国を守っていきたい」という願いのもとに開発されたが、開発から500年後の内乱により半数近くが行方不明となっている。
マインのパンプキンはその一つである。
精神エネルギーを衝撃波として打ち出すことができる。使用者がピンチになるほどその威力は上がる。
銃身も戦況によって形状も変えられる。
「さてと……ぶちかますわよ!」
パンプキンの引き金を引く。瞬間、銃口からマシンガンのように衝撃波が打ち出される。
ガガガガガガガガガ!
「グオオォァアアアァッ!?」
襲い掛かってきた狼たちは宣言通り蜂の巣にされていく。しかも見る限り完全なるマインのピンチ。そのピンチによりパンプキンの銃の威力は増す。ピンチの状況ではなければ、そう簡単にこの狼たちはやられはしない。
マインはそれを活用し、狼たちを攻撃していく。
「ギャアアアア!」
「グオオオアァ!」
狼たちを倒したのに約40秒、その場に残ったのは銃口から白い煙が吐き出された、その銃を構えたマインだけであった。
「すっきり!ふぅ~。まあ暇つぶし程度にはなったかしら?」
パンプキンを担ぎなおし、先へ進もうとする。その時……。
「ゴアアアアアア!」
地面からモグラのような危険種が出てきた。大きさは先ほどの狼の数倍。
モグラは常に土に潜っているので目は退化している。しかし、この危険種は鋭い眼光を持っていて、マインを鋭く睨み付ける。
「まためんどくさそうな奴が来たわね…。めんどうだし一撃で………え?」
パンプキンを構えたマイン。だげ、マインの目にはモグラとは違うものが目に入ってきた。
それは、先ほど転生し、チートな能力を手に入れ、この世界にやってきた男が天から落ちてきたのだから。
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「このクソババアァァァァァァァァァァァァ……!」
どうも天から落ちてきている男です。
あ、この世界での名前決めてなかった。何にしようか…ん~。
って!こんな事考えている場合じゃなかった!
「やばいやばいやばい!どうしたらいいの!?」
そう叫びながら落ちていていると地上に女の子が見えた。
ピンクのツインテール。ピンクの服。ピンクの瞳。まさにピンクずくし。
うむ。神様の言う通り、この世界にはかわいい子がいるようだな。
Sクラスだな。
「そこの可愛い子ちゃん!この状況どうになからない!?」
「はぁ!?無理に決まってるでしょ!?」
「だよなぁぁぁぁぁぁぁ!」
一直線に地面に落ちていく俺。だが、ここで救いの手が来る。下を向くと、どでかいサイズのモグラ。このまま行けば地面に当たる前にモグラの背中に直撃する。地面に当たるより痛くはないだろう。
「おいそこのモグラ!動くなよぉぉぉぉぉぉぉ!」
モグラとの距離、約100メートル。完璧だ。完璧な着地作戦だー!
だが………。
「…………………(スッ)」
「「あ」」
モグラが俺に気を使ってくれて、少しだけその位置から少しだけ動いてくれて、地面に激突できるようにしてくれた。
(あぁ…ありがとうモグラ。うれしいよモグラ。てめぇは後でフルボッコの刑だ!)
二度目の人生で最初の思い出。初めて地面とキスしました☆
ドカァァァァァァァァァァァァン!
「きゃぁ!」
俺が激突した地面は、落ちたと同時に大きなクレーターができた。
「あ……が…が……………」
「ちょっとあんた。大丈夫?」
「な…なんとか…………」
神様からもらったチートのおかげで何とか死なずに済んだ。
だけど体の節々が超痛ぇ……。
(あら、中々のイケメンじゃない。バカっぽいけど………)
「こ、ここはどこだ……?」
「ここは帝都から5キロ離れている森よ。ってか、なんであんた空から降ってくるのよ」
「帝都……なんだそりゃ…、あ、神様が言ってたあれか。えっと、これには事情がありまして…………」
どうやってこの状況を打破しよう…。だけどそんなことをさせる訳ないモグラが、背後からとんでもない殺気を出していた。
「グルルルルゥ………」
「あ!このくそモグラ!てめぇのせいで痛かったんだぞ!親父の拳骨より痛かったぞ!」
当たり前だ。
「ちょっとあんた!早く逃げなさいよ!こいつは危険種。普通の人間のあんたが勝てる奴じゃないわ!」
「え?危険……………ぐへぇ!?」
モグラのでかい腕の横振りが俺の体に直撃し、近くの木の幹に直撃する。
「いってぇ!この野郎!」
「だから早く逃げなさい!こいつは私が…!」
帝具・パンプキンを構え、連射する。だが、モグラの体に直撃しても小さな焦げ跡がつくだけ。それほどのダメージは与えれらなかった。
「くっ!こいつ体が硬すぎる!」
「ギャアアア!」
「この……きゃっ!?」
完全に油断した。完璧なピンチ。この威力があればこのモグラを倒せる。だがマインにはそれができなかった。構えなおそうとした時、落ちていた石に躓いてしまった。
「しまっ…………」
即死だ。マインはそう思った。パンプキンは手放してしまい、モグラの攻撃を防ぐ術がない。ここで命が終わる。モグラの攻撃が当たる………はずだった。
「え……………?」
「グア?」
「可愛い子に手を出してんじゃねえぞ。このモグラ野郎!」
モグラの一撃を体で受け止めた俺。
この野郎…。とってもカワ(・∀・)イイ!!女の子に手を挙げたな…。
貴様は……。
「フルボッコの刑だぁぁぁ!」
そのままモグラの腕をつかんだまま空中へとぶん投げる。
チートだからどんだけ重くても関係ないのだよ!
「グェェェ!?」
「おいモグラ…。超次元サッカーを知ってるか?」
「ちょうじげん………?」
腰が抜けたマインが横にコテッと首を傾ける。
あら可愛い。ならばお見せしよう。
手のひらに溜めたエネルギーをサッカーボールにし、それを空中に放り投げる。
「ひっっっっさぁぁぁぁつ!」
足に力を入れ、5メートルくらい飛び上がり、サッカーボールを蹴り飛ばす。
「流星ブレードォ!」
エイリア学園最強!
蹴り飛ばしたボールが流星のように飛んでいき、モグラの丸い腹にめり込む。
あ、お腹にボールが埋まった・・・。
「グエエェ!」
「お次はこれだ!ザ・ワールド!」
名前を呼んだと同時に、背後に金色のムッキムキの男が現れた。
DIO様ぁ!力借りるぜ!
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」
バランスを崩したモグラに繰り出した渾身のラッシュ。終えたと同時にモグラは地面に鈍い音を立てながら落ちた。
「へん!参ったか!ハハハハハハッ!」
腰に手を当て高笑い\(^o^)/
チートに勝てる奴なんか居ない!この俺様が帝王だぁ!
まあ、そんな馬鹿な事をしているとすごい目で見られるのですよ。例えば、俺の後ろに居る女の子とか?
「あ…・・・あんた、ただの人間じゃないわよね?」
「いや、どっから見ても人間だよ!まぁ、少し諸事情があって………」
「ナニそれ…まいいわ。助けてくれてありがと。名前は?」
「名前………えっと、その………」
(な、名前どうしよう…。全然考えてなかったんだが……あ、そうだ)
「リュウ…。俺の名前はリュウだ。よろしくなピンクちゃん」
「誰がピンクちゃんよ!私の名前はマインよ!覚えときなさい!」
「オーケー。マインだな。そういえば、マインの持ってた銃はなんだ?」
「あ、これ?あんた帝具も知らないの?これは帝具パンプキン。私の相棒みたいなもんよ」
「てい……ぐ?な、、なるほど、分かった」
分かってないけどな!
「ところで、あんたは何処から来たの?空から降ってきたけど」
「えっと、これも言えないんだ。こっちも聞きたい事がもう一つあるんだが…、帝都って何処にある?」
「謎だらけよあんた…。帝都?それならここからまっすぐ行ったら着くわよ」
「マジか!サンキュー!マイン!」
マインの頭を優しく撫でると、マインの顔全体(耳も)真っ赤になった。
おぉ、茹蛸みたいだ。
「な、なにすんのよ!そんな事しても嬉しくないんだからね!このイナカモノ!」
「誰がイナカモノだ!いや確かにイナカモノだけど!」
「あんたみたいな奴、、危険種の餌になっちゃえばいいのよ!」
こ、この野郎…。可愛いと思ったけど腹立つ奴だ……っ。しかもツンデレ…。
「兎に角、教えてくれてありがとな。じゃ俺はここで………」
「え?リュウあんた、帝都に行くの?」
「まあな。どんな所か気になるしな」
「そう…………分かったわ…」
ん?マインの表情が暗くなったぞ?
なんで?
「おい、どうかしたのか?」
「別に…………。帝都はあんたが思ってるようなところじゃないから…。それだけ教えてあげる………」
「お、おう分かった。じゃ、またどこかでな」
「えぇ。せいぜい頑張って生き残りなさい」
「応!」
マインに背を向け、帝都に向かって走り出した俺。
そう、この世界では俺はリュウ。これが新しい世界での俺の名前だ!
どんな人生か…。楽しみだ…。
「リュウ…ね。面白そうな奴…」
マインはパンプキンを背負い、ナイトレイドのアジトへと向かった。
暗殺の報告と、リュウのことを報告に…。
人が次第に朽ちゆくように、国もいずれは滅びゆく・・・千年栄えた帝都すらも、今や腐敗し生き地獄。人の形の魑魅魍魎が、我が物顔で跋扈する・・・。
しかし、それもこれまで。この時を経て全て変わる。
この世界の未来は、平和な世か、地獄の世か、いずれすべてはこの男によって託されることになる。
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