昔、SAOの世界で死神と呼ばれていた俺。襲ってくる敵を自衛のため殺害していたところ、殺されたプレイヤーの妹と今俺は対峙している。いくら相手が襲ってきたとしても、ふと我に返れば相手の命を散らし現実でも殺害しているのだ。改めて現実に思うと牢屋に閉じ込められる理由も分かる。そして…俺は目的を果たすことができずここにいる俺はまだSAO死神の魂を引きずっているのだ。殺した相手を思い出す度胸が痛い。そんな中俺は何とか言葉を絞りだす。
「俺は…過去の自分を捨てるためにここに来たんだ。以前の俺をここで捨て去って戦いを終わらせたい…俺との戦いで命を落とした者を…ここで供養するんだ」
もちろんそんなことを全く思っていない。正直に言えば俺から襲わずに相手から襲い掛かってきているのだから、俺には罪なんてないと思っている。まだ残っている死神の考えを引き出しなんとか答えたものの、俺の心はすでに限界を迎えていた。その話を聞いたカザネは変なものでも見るような目で俺を見ながら装備の入れ替えをしていた。
「あんた…どっかのギルドでも入ってんの?その考え気持ち悪いわ…オレンジプレイヤーなのに」
「全員がそうじゃないんだよ。殺したくて殺しをしている奴ばかりではないんだ」
俺はそう言うと立ちあがり次の階層へのドアを開けた。何か俺の胸がひものようなもので縛られているような感覚に陥り、初めての感覚に胸を押さえてしまう。が、何とか我慢して階段を下っていった。
そして戦闘を続け…なんとか地下50層手前までたどり着いた。カザネも無事無傷でここまで来ることが出来て、二人でボスに挑むこととなった。
「まさか…あんたがここまで来るとはね。」
「まぁ…死神に勝ちたい思いは俺も変わらないからな。」
お互い笑顔なしで地下50層の扉を開く、そこには黒いオーラで覆われ古びた布らしきもので包まれた巨大な人型の影が立ちはだかっている。あれがここのボス、死神だろう。袖から覗く手は全て骨で右手には鎌、左手には骨の頭蓋骨、さらに右手の鎌は以前俺が使っていた鎌と酷似していた。その瞬間、忌まわしいあの世界の記憶がフラッシュバックするように脳内で再生され吐き気に襲われる。俺は平然を装るのも限界で地面に倒れてしまう。それに反応しカザネはこちらを見るが、すぐに死神の方向へ見向く。死神もこちらを向きこちらの様子を確認してくる。フードから覗く顔はやはり人間の骨でその様子から死を管理していることが伺える。
『よく来たな妖精共…我は死を管理せしもの……お前たちもすぐに楽にしてやろう…』
吐き気を収め死神の様子を見計らうが、そんなこと関係なくカザネは装備しなおした槍で攻撃していく。が、死神はそれに反応するようにカザネを素手で吹き飛ばした。カザネは叩きつけられた後、うめき声をあげ苦しそうに息を荒げる。この動きからそうだ…モチーフは完全に俺だ。有名人になったわけではないが、もしかするとこのゲームの関係者は俺というオレンジプレーヤーが生き延びたことが問題であり、間接的にでも俺を殺害する計画ではないかと判断する。何故このイベントが作られ、どんなものがモチーフになっていることを言わないゲームの世界だからこそできるこの業だ、非常に良くできているが汚い。俺は死神に飛びかかるがもちろん死神はその攻撃を防ぎ鎌を振り回す。この動きは俺の初期のころ、まだ俺が死神となっていない頃の動き…ここしかないと思い攻め込む。
「これが終わったら運営に文句でも言ってやろうかな。まぁ俺の言うことなんて聞く耳すら立ててくれない気がするけどな…」
独り言を呟き一気に懐まで突っ込む。流石、初期の頃でも反応速度はよかったので死神は懐を必要に守ろうとする。が、俺は守りに入っている腕を蹴り顔に鎌で四連撃を食らわす。その攻撃によってボスの横に表示されている体力はグリーンからイエローに急速に減る。さらに下の方ではカザネが槍で脚部を何度も突きボスはバランスを崩し膝まついてしまう。ボスなのに体力ゲージが一本なのは俺のレベルが低いということを表したいのだろうか。
イエローになった途端死神は姿を変え、俺たちと同じ大きさになりさらにその顔は髑髏から白黒の怪しげな仮面を被った容姿になる。流石に人の顔を見せたら人権侵害になるのか、個々の配慮はよくできているが先ほどからの仕打ちは十分な仕打ちだと思う。
「カザネ、距離を取れ!近づかれたら終わりと思え…俺が攻撃を受け止めるから隙を見つけたら槍で突いてくれ!」
「わ、わかったわ!」
そう言い、俺自身へと姿を変えた死神の様子をうかがう。やはり俺のAIなのか、あちらから攻撃を仕掛けてくることはなく、挑発をするように人差し指でこちらにこいと示してくる。その挑発に乗るように俺は前進していき、死神から2,3歩離れたところに武器を振り降ろす。彼はそれに反応して攻撃をしてくる。このAI、本当に俺と同じ考えならば相手の攻撃行動に対して攻撃を仕掛けると予想して攻撃を仕掛ける。何故なら俺は殺される前に殺す思考だ、一撃でも食らいたくないため相手の攻撃によって俺は今まで動いていた。やはり、このクエストを考えた相手は俺のことをよく知っている相手!
そんなことも考えさせてくれず、怒涛のラッシュを続ける死神。その一振りは一度でも当たってしまえば本当に地獄に連れていかれそうな気さえする。そして攻撃を受け止めるたびに脳裏にあの世界の光景が流れていく。なんとかその攻撃の間をぬって攻撃しようとするが近づけない。
「ちょっと、私はもう我慢の限界なんですけど…そっち行くわ…!」
「そこから動くな!死ぬぞ!!」
が、そんな声が届くはずもなくカザネが全速で前進するが、死神はそれに反応し俺の前から消えカザネの前へと移動する。それを好機にカザネは槍のソードスキル『リヴォーブ・アーツ』を放つ。が、全て鎌で受けられあの世界ではなかった風の魔法ですらも防いでしまった。カザネは呆然として下がろうとするが下がる度死神は距離を詰め今にもカザネを殺そうと全力で鎌を振り回す。もう我慢できず俺も限界に来ていた。俺は走り出し死神に抱き着く形で拘束する。俺はカザネに賭けた。
「カザネ!このままとどめを刺せ!!俺事刺し殺せ!!」
「えっ!?私には…プレイヤーなんてっ刺せない…!殺しは…」
「ここでお前がやらなきゃ俺もお前もおじゃんだ!!選べ!!」
「っ…!!」
覚悟を決めたのか、カザネは槍を構え直しソードスキルのモーションに入る。死神は俺の腕を振り払おうと力を込めるが、ここで離したら子のクエストの特殊ルールで増幅した痛みで俺が彼女を殺してしまうことになってしまう…これ以上俺の問題で命を奪いたくなかった。カザネは接近し、もう一度槍の五連撃『リヴォーブ・アーツ』を放った。死神にダメージが入るが、俺にもダメージが入り激痛が走る。そして拘束を解いた後、両手斧で切り上げて振り降ろす。その瞬間だった。
『お前の行動は罪だ…お前の存在がこの世界を変えた。この平和な世界を変えたんだ』
胸がズキンと痛くなると同時に耳元から俺自身の声が聞こえ、死神は後ろに下がり雄たけびを上げながら蒼いポリゴンへと変貌していく。
『お前は…自分で自分を殺すのだ…お前の存在はお前の周りにいるプレイヤーに影響させ、悪夢へと…誘……ウ…………』
ガラスの割れる音が鳴り死神は四散していった。その直後だった、緊張が解けたのか体に力が入らず無抵抗のまま地面にひれ伏してしまう。起き上がろうという気もせず、何を考えていたかすらわからなくなる。自分は今まで何をしていてどうしてここに存在するのか。俺の頭は真っ白に染められ、目を開けているのに目の前が真っ黒になっている。何か声が聞こえてくるがなんて言っているかわからない。自然と俺は意識を失い、虚無の世界へと足を踏み入れたのだった。