気づけば現実に帰ってきていた。が、体は重く全身に筋肉痛が広がり起き上がることも一苦労だった。ナーヴギアを外しても頭がクラクラする。正直に言えば先ほどまでの記憶が全て抜けきっていたのである。あっちで俺は一体何をしていたのか、どうなったのかもさっぱりだ。時計は午前9時を指していた。
「おい死神、そこに朝食が置いてある。早く食って授業に参加しろ」
窓の外から監視人、吹田が舌打ちをして椅子に座る。が、俺にはどう返していいのかわからなかった。朝ご飯を食べ服を着替えてベッドの横にある大型モニターを起動しクラスで行われている授業に参加、ノートをとろうとするが、手に持とうとした鉛筆は地面に落ちていく。自分の手を見ると震えており何が何だかわからなくなりベッドの上で塞ぎ込んでしまう。いったん呼吸を落ち着けて顔を上げるとALOの俺が死神と同じ格好をして俺をあざ笑うようににやけている。終いにはナーヴギアを見た瞬間にすべて思い出してしまった。
『お前の行動は罪だ…お前の存在がこの世界を変えた。この平和な世界を変えたんだ』
『お前は…自分で自分を殺すのだ…お前の存在はお前の周りにいるプレイヤーに影響させ、悪夢へと…誘…ウ…………』
『考えてみろ、お前の悲しみとここにいるプレイヤー達の悲しみ、どちらの方が大きいと思う?そりゃあ、人間一人の悲しみより多数の人間の方が悲しみが大きい!この問題はお前や、この世界にいるオレンジプレイヤーを抹殺すれば終わるんだ!!俺たちはその被害者で集まり、黒い汚濁を白に染め直す白い真実へと書き換えるんだ…!オレンジプレイヤーの戦意を削ぐにはまず死神のお前の殺害が重要となる。お前も平和を望んでいるんだろう?』
「やめろ!!消えろ!どっか行け!!俺に纏わりつくんじゃない!!」
周りを見るが誰もいない。いないのにミラの声が耳元で聞こえ、俺は何も考えられなかった。ひたすら周りにあるものを振り払い破壊した。グラスや花瓶、ガラスやプラスチックの何かが割れていくが、止められなかった。そして手元に何もなくなり布団を殴る。
「……僕には…力なんて……なかったんだ」
周りを改めて確認すると部屋にあったものがほとんど破壊されており地面には破片が散らばっている。あのナーヴギアも力尽きたのか、モニターとなるディスプレイ部分がひび割れ、充電器となるコードが千切れている。まるで地獄絵図。が、こんな世界から僕は出ることは出来ない。何をしても罪は消えずこの記憶は生きて居る限り残り続ける。いくら現実で何もしていなくてもあの世界での出来事が俺のすべてを変えてしまった。こんな閉じ込められた世界にいるなんて……理不尽だった。
・・・・・・・・
リンネが意気消沈している時、何も知らないアモネは風呂から上がりALOにログインする。そして同種族のアルゴに教えられた場所に向かうが、そこにはリンネの姿はなかった。不思議に思いアモネはリンネにメッセージを送るが、まずリンネはログインすらしていなかったのだ。現在の時刻はPM9:00、いつものリンネなら食事も終え、午後七時にはログインしているのにいない、アモネは焦りローベに連絡を取り、しばらくしてローベが走って現場に到着した。
「ローベさん…昨日のダンジョンのことなんですが…」
「知っているぜ!リンネが誘ってきた死神のクエストのことだろう!!」
「そ、そうなんですけど…何かあったらログアウトする前に私たちにメッセ送ってくれるじゃないですか…」
「うむ!けどなかったな!!…何かあったのか!?」
「今気づきました!?…でリンネさんはおとといにこのクエストの話をした後、明日向かうって言ってそれっきりなんですよ。しかも今日はログインしてないんですよ…」
「い、いや!もしかしたら昨日はログインできなかったとか、アモネちゃんに合わせたのかもしれないぞ…?」
アモネはそう考えたいが、嫌な予感しかしない。まさかこの世界でキルされて死んでしまったのか、そう考えると心が張り裂けそうで自然と足の力が抜けてしまった。
「違うわ、昨日私とそのクエストをクリアしたのよ」
「貴方はこの前の…」
アモネたちと反対側にクエストのドロップ品、『セイグリッド・デスライサー』を持つカザネが二人を睨みながら立ちはだかる。アモネは無意識にカザネに突進していき胸ぐらを掴む。特に抵抗もせずにジト目でアモネを睨むカザネ、そんな態度の彼女をアモネは許すはずもなかった。
「リンネさんをどうしたんですか…場合によったら貴方を絶対許さないです…!何があったんですか!!」
「こっちだってあんたの仲間は一体何があったのか聞きたいわ。昨日一緒にクエストに行っただけで、ボスを倒した時に急に倒れたのよ。こっちが大迷惑だったわよ…!」
「リンネさんはあのクエストに命を賭けていたんですよ…」
「別にあいつのためのクエストでもないし、私はしたいことをしただけであいつのことなんてどうでもいいことだからあいつがどうなろうが私は知らないわ。」
「このクソアマ…私が黙っていたら好き勝手言って……タイマンでボコボコにしてやります!」
「類は友を呼ぶって本当なんだ…私はそういうの嫌いだからパスね。」
怒りに震えるアモネは速攻でデュエルメッセージを送るが即答で拒否され、短刀で襲い掛かると槍で起用にアモネをさばいてくる。対立する二人を蚊帳の外から見ているローベはどうにかして止められないか考える。だが、よく見るとカザネは攻撃をするのではなくアモネの攻撃を弾いているだけで、これ以上に戦闘が酷くなることはなさそうだ。とりあえず撤退することを考え、ローベは様子をうかがう。が、どうも収集はつきそうになかった。
「なんでリンネさんを…!」
「それを聞きたきゃ普通に聞けばいいじゃない。戦いが全てのオレンジプレイヤーは怖いわ…」
「この…!八つ裂きにしてやr…」
「最後にリンネはどうなったか教えてくれれば俺たちは帰るー!それだけ教えてくれー!」
「勝手にログアウトしたわよ…あ、死なれるのは嫌だしこっちで身柄預かっているから。」
カザネは冷めた表情でアモネに槍を寸止めし、睨んだ後シルフの街へ飛んで行ってしまった。アモネは後追いをしようとするがローベが止めに入りこの勝負は終幕となった。アモネはどうも納得がいかないようで、短刀を何度も振り降ろし、ぶつぶつと文句を言う。
「あの女…絶対一回はキルしてやります。あんな女、リンネさんには害にしかなりません!」
「まぁ落ち着こうぞ…とりあえずリンネがいつ帰ってきても大丈夫なように俺たちも状態を万全にしておこう、な?」
「は…はい!私がいることでケットシー領には入れると思うので、そこでクエストや種族の情報を集めましょう!」
おう!と言った後にローベは走ってルグルー回廊へ消えていった。それを見てアモネは苦笑するが、その反面本当に帰ってくるか不安だった。アモネは横に首を振りリンネの帰還を信じ大空へ飛び立った。
・・・・・・・
シルフの街に入りとある宿屋でチェックインをし、部屋に入るカザネ。4,5畳ほどの部屋にはベッドくらいしかない。そのベッドの上に人影が一つ、カザネはため息をつきながらその陰に話しかける。
「あんた…今日もここにいるのね…カミュ」
「だって~カザネちゃんが来るって信じていたからついつい~」
「まったくあんたって本当ストーカーよね……」
ため息をつくカザネの前には、にへらと笑うプーカ族の少女カミュがいた。今日はパジャマになっており、ピンクのフリフリのパジャマを着ている。カミュは笑ったまま両手を広げカザネを自分の胸へと誘う。カザネは最初は渋るものの、だんだんと目が潤み始め先程とは全く違う弱弱しい声を上げてカミュに飛び込んだ。うわーんと胸の中で泣きわめき、それを何も言わずに背中をさする。
「カミュ…私怖かったからまた強く当たってしまって……一人のパーティメンバーが倒れたのに…しかもドロップアイテムは私が持っているの…」
「うんうん…他には?」
「その…仲間の女の子にも、ひどいこと言っちゃった…」
「そっかぁ、また出会ったら次謝ろうね~。そのドロップアイテムって、武器なんだよね~?」
「え、えぇ…この鎌なんだけど…」
カザネが差し出した鎌『セイグリッド・デスライサー』は禍々しく、月光に照らされ怪しく紫に光る。その大きさは例えると…道路標識ほどだろうか、身長が170cmほどあるカザネが持っても大きめのサイズだ。カミュは腕を組んで考えて何かひらめくと手をポンと叩く。
「私の知り合いにラプラコーンの知り合いがいるんだ~その子は武器の声が聴けるんだよ~」
「ぶ、武器の声?何かのスキルなの?」
「いいや~誰にあっているかとか~武器の気持ちが分かるんだって~。死神のことも調べられるかもしれないじゃない~?」
確かにと手を叩き再びカミュを抱きしめる。そして一日、今後の予定を立てログアウトした。その後の寝室、緑と黄緑の炎がベッドの上に燃えている横で、紫の炎が弱弱しく消えかかっていた。