立場は突如として入れ替わる。強者が権力を失い弱者に代わり、大富豪が革命で大貧民になることだってある。逆を言えば弱きものが強大な力を得ることだってある。彼も突如力を得た一人だろう。だが、それぞれその後その力をどう使うかは…皆一緒ではなくまたそれも数奇な運命だ。
狩場を教えてもらい俺のレベルは60、他の三人も70前後までレベルアップした。が、相変わらずナディの態度は傲慢で俺らを下に見てくる。今日も狩場の提供報酬として、バラからもらった俺の家に勝手に住み着き、その上朝ごはんの提供を要求してくる。俺としてはもう慣れたものだが、どうしても相方の方がそうでもないようだ。
「ちょっと強いくらいで調子乗りすぎじゃありませんか?リンネさんも許可してないですし」
「これくらいされて当然だ、なんせ俺はお前らに強くなる場所を提供したんだからな!それなのに感謝の言葉もないのか…失敬な女だな、結婚出来ないよ?」
「このガキ…!!」
「まぁまぁ…ナディの朝飯は俺がおごるから、アモネ達は先にご飯食べててよ」
「お前たちこそさ、俺のおかげで攻略しやすくなったんだから感謝して欲しいよね。感謝が足りないっていうか…」
「…ご馳走様でした」
静かにカザネが食事を終え外に出て行く。流石に負けたのか、ナディは少し不満そうに食事を始めた。まだ怒られるで済むだけマシである、この世界では一つの動きが死に左右される。その前に本当にダメな人間は相手にもされないのだから。
少し遅れて食事を終わらせるとナディが外で待ちくたびれたのか、地面に寝そべっている。俺は頭を下げ謝罪ながら彼に接近した。
「戦闘しかできないなんて…本職は犯罪者?それともギャング??」
「ナディ!あんた言っていいことと悪いことがあるわよ!!いい加減に…!!」
「まぁいっか…この世界では勝ち残ればそれでいいもんね」
「…」
大量のワードに俺は返答できない。過去を話したいのは事実なのだが、何にせよまだ日が浅く、ナディがなぜ俺らに接触したのかも分からない。俺は苦笑いをしてナディの言葉に頷いた。
「ごめんな、少し疲れててさ」
「まぁ関係ないんだけど、今日も死なないといいな!」
「あぁ…死ぬ訳にはいかない…!!」
目の前に巨大なゴリラ型のモンスターが立ちはだかる。俺たちはフィールドに駆け出した。
「流石に疲れたわね…」
「俺たち戦闘力は前より上がっているけどなぁ…疲れだけは抜けてくれないな、ハハハ!」
「お前たちのはただの歳だろ…こんなんまだまだ序の口だし」
「っていうナディさんも息が切れているじゃないですか…」
「あーやめよう!喧嘩しても士気が下がるだけだから‥」
「やっぱまともなのは死神だけじゃん、他もちゃんと動いて倒せばこんなに疲れることもないんだよ!もっとちゃんと動けよ!」
戦闘がひと段落し、モンスターのポップが少ない木陰で休憩する。そこで一人だけ立ち上がりナディが息を荒げて俺たちを睨む。確かにナディが動いて仕留めていることは事実だ。だが俺たちは元々モンスターを狩っているメンバーでもなく、ローべとカザネはALO出身で戦闘方式もまったく違う。全てが悪いわけではないと思うが、今それを言ったところでナディが納得するわけがない。黙って小言を聞いた。俺以外の三人も怒られるが、自然と目が細くなり不機嫌になっている。今日はいつもと何か違う。自然と俺の胸はざわついていた。
「そうだ、なら気分転換にさデュエルでもしよう!お前らの実力も見たいし…死神のプレイングも見たいし!」
「うーん…ナディ、悪いけど俺はそんなにデュエルしたい!ってわけでもないし、そろそろ死神呼びもやめてほし…」
「何言ってるの?お前はさ、いろんな人にちやほやされてさ気づいてなんでしょ、自分がすごいってことにさ。だったらもっとその力を使って強い仲間を集めればいいじゃん。こんなポンコツな仲間じゃなくてさ!]
「…」
「あ、もしくは前から弱い仲間で釣るんで強く見せるのが好きとか?そっちの方が弱そうだしやめた方がいいよ?あ、後その武器の効果さすごく強いの知ってるし!そんなに使わないんなら俺が代わりに使いたいからさ、この特訓の報酬として頂戴よ!!後…」
「黙れ!!」
気づくと俺は立ち上がり怒鳴っていた。なぜ怒ったのか俺には分からない、ナディの発言の何が引き金になったのかも分からない、ただ一つ分かるのはナディの機嫌を損ねた事だけだ。一度深呼吸をしてあたまを頭を下げるが正面から聞こえる荒い息遣いはますます悪化する。三人も驚いた表情で俺を見ていた。目の前に立つナディは涙を流しながら叫ぶ。何を言っているか理解が不能だったが、一通り何かを言い終えると俺の方を向き再び怒鳴る。
「お前はいいよな!!力を手に入れてこの世界で有利に生きているんだからな!お前らもこいつに守ってもらって楽しいか!?あぁ死なないからいいよな!!」
「あ、貴方だってレベルが高いじゃないですか…」
「やめろアモネ!!とりあえず、落ち着けナディ!一旦深呼吸を…!」
「あ?レベルが高い??この世界じゃそんなもの関係ないんだよ!最終的には強い武器…それが全てなんだッ!!だから俺は…死神お前が憎い!力を持っているのにまんべんに使わないお前に腹が立ってしょうがない!」
ナディはピックを投擲する。反射的に大鎌をだしピックを防ぐが、その行動がナディの逆鱗を逆なでする行為とは考えられず、短剣を右手に俺に襲いかかってきた。鎌の持ち手で受け止めるがモンスターと違い生身の人間の一撃は重く感じた。
「リンネさん!」「あの野郎…」
「三人は下がってろ!きたら危ない!!」
「ほら…俺を殺してみろよ!力をもっと使えよ!!死神なんだろ!!」
「俺はこの力をむやみに使いたくない…!」
「なら俺に…その方が武器も喜ぶはずだから!」
「これは…これはそんなものじゃない!殺しをするための武器じゃない…半端な気持ちで言うな!」
「…その力がない俺にそんなことを言うな!ならよこせよその鎌を!!」
小回りの効くナイフをさばき切ることができず、小刻みな攻撃は俺のHPを徐々に削っていく。ナディは俺を蹴り後方へ宙返り、その後体制を整えナイフを指の上で回す。後ろにステップをしたナディは姿を消す、ぼんやりした空間から俺たちに語り掛ける。
「…あの日俺は一つの命を守れなかった…俺を初めて正面から見てくれた人…俺が初めて惹かれたもの誰も好きになれなかった俺が好きになったもの…けどそれは!俺の目の前で砕け散った!!なんで奪われないといけなかったんだ…僕には守る力がなかった…僕には力がなかった…だから守れなかった!」
「…それは違う。武器や実力じゃない、気持ちが足りなかったと俺は思う」
「…黙れ!失ったものなんて僕より少ないくせに……そんなことを言うな!!」
潜伏スキルの一部で姿を消していることはわかる、数秒後に現れ的の不意を突く戦闘技術の合わせ技ということも容易に予想できるが、全くと言っていいほどどこにいるか分からない。俺は攻撃に備えガードを固めるが、数秒立っても俺の前には現れない。まさかと思い木陰の方を見ると、アモネめがけて走るナディが見えた。
俺は走り出すが攻撃を防ぐのに間に合いそうになかった。
「だったら…お前にも同じ思いをさせてやる!」
「アモネッ!!」
アモネを突き飛ばし攻撃をかばった。
すごく痛い。壁にもたれかかるのがやっとだ、体に空いた穴からは血が滲んだようにブロックノイズが散りノイズとともに俺の体から力が抜けて行く。ナディはどこに行ったのだろう、ゲージも見る余裕はなく、視界はぼやけて今や表情も見えない。
「リンネさん…しっかりしてください!」
「あんた…何で避けなかったのよ…!?」
「……痛い…苦しいな」
「何言ってるんですか…消えないでください!今回復結晶を…」
「…アモネ、もう手遅れよ。こいつの体力はもうゼロ、この世界では死んだのよ」
「そん…な……」
「ごめ…ん……な。結構痛くて…力も…入んねえわ」
「…あんたの意思は私たちが受け継ぐ。絶対攻略組でボスを倒してみせるわ」
「…それは頼もし…い……………」
鎌が手から離れ、地面に刺さる。目を閉じると意識は消えた。消える刹那、俺の頬に冷たい何かが零れたような、そんな気がした。