その光景に自分は目を疑った。自分の幼馴染が自分の中で息絶えようとしている。
「来栖!しゃべるな!大丈夫!大丈夫だから」
「・・・・た・・く・・る」
傷口から血が滲み出してきている。僕の手からあまり出るほどに。それでも彼女はしゃべろうとする。
彼女は何かを言った。僕は必至でそれを聞き取った。
「・・・・・」
「来栖?おいっ!来栖っ!返事をしろよ!」
彼女は何も言わなくなり、自分の手から彼女の手がゆっくりと滑り落ちた。僕は叫んだ。
「うああああああ!!!!!」
それから凄まじい光が走った。それから先を僕は覚えていない。
「う・・・ん?」
何か背中に感触があるな。柔らかい。だけど・・・頭が痛い。ここはどこだ?自分は今まで何を。
「う・・・!!」
途端に激しい頭痛がする。だめだ。思い出そうとすると頭が割れるような痛みがする。
「くっ・・・・!」
咄嗟に近くの棚に縋り付く。良く見るとそこは普通に人が住んでいたような一室だった。そして自分が今寝ていたところがベッドだったと気ずく。
「・・・・?」
そこでようやく自分の感覚が戻ってきた気がした。しかし体の痛覚も戻ってきたのか、体の関節全てが悲鳴を上げている。
「!!」
頭が痛みですっきりしてきた。そしてこの部屋の向こうから声が聞こえることも。
「何だ?」
初めて声が出た。自分の出した声だ。妙に声が高い。今の状況では自分がどんな姿なのかや性別も分からない。
とりあえず声が聞こえる方向に行こうと思った。
「鍵はかかっていないな」
なぜ今、そんな事を思ったのかは分からない。しかし実際に鍵はかかっていない。体中に痛みが走りながらもその扉を開けた。
「・・・・・」
「・・・・・・」
え?今、見た光景がものすごく気まずいのですけど。何を見たかって?それは皆が集まって机にケーキを中央に置いて歌を歌っていたからだ。つまり誰かの誕生日を祝っていたのだろう。
しかも自分に気が付いのか、皆が皆驚きのあまり言葉を失っていた。
「・・・・・もしかして気がついたの?」
皆の中で人一倍大きな女子が聞いてくる。しかしどこかで見たことが・・・・
「ぐっ!」
それを思い出そうとするとすると頭痛が再びした。それを見て彼女達が慌ててこちらに来る。しかしそれすら確認することもままならずに視界が暗転した。
そこは暗い闇の中、誰かがどこかで何かをしている。自分はそれを見ているだけだ。
「どうしたの?のんちゃん」
一人のピンク髪の子がもう一方に聞いている。
「白々しいわね。本当の事を言ったらどうかしらxxxxx」
その光景に映っている少女達はどこか見覚えがあった。とても身近に思えていた。しかし心のどこかでこの光景を見たくないという気持ちがあった。
空気が変わる。
しかし続きを見る前に辺りが光って周りが再び見えなくなった。
自分は再び、ベッドの上で起きた。傍らでは少女が寝ていた。見たところ中学くらいの年ごろに見える。
「あ、あの・・・・・」
どうしたものかと考えた結果、少女を起こすことにした。
「う・・・ん?あっ!起きたのね!乃々お姉ちゃん!!」
少女を起こすと自分を見た瞬間に飛び起きてどこかに行ってしまった。一体どうしたのだろうか。確かに倒れた記憶はあるがその後に何があったのだろう。
その後にどたどたと足音が響いてきた。部屋に来たのはさっき見た少女と中年の白衣を着た男だった。
「よかった起きたのね!!」
「これはたまげたな~~。乃々、下から道具を持ってきて」
「ふむふむ。大丈夫そうだな。リハビリをしないと歩け無さそうだから乃々あとで彼女に松葉杖を頼む」
「自分でやりなさいよね。もうっ!」
どうやらここは医院らしい。医者である男性が乃々と呼ばれた少女になぜかは知らんが怒られていた。あれから診察されたがどうやらさっき歩けたのは相当な無理をしたからだと言われた。
「ところであなた名前は?」
「え・・・あ・・えと・・」
考え中にいきなり声をかけられた為に慌ててしまう。しかし冷静でも答えれはしなかった。自分は
「”記憶が無い”んです。名前も自分が誰なのかも」
「記憶喪失か。まいったね~~」
男性の方が声を上げながら髪をぼりぼりと掻く。
「じゃあ何も覚えていないの?」
「・・・・はい」
正直に言う。隠していてもしょうがない
「まぁ、身元も分からないししばらく家で預かることになるけどそれでいいかな?」
「はい。いいです」
それを言うと男の人はニカッと笑い自分の頭をゴシゴシと揺らした。
「それと自己紹介しなさい。まずは乃々から」
呼ばれるとさっきの彼女が出てきた。
「私は来栖 乃々!よろしくね!」
それが私と彼女との出会いだった。
それから数日後
「御飯よーー!」
来栖の声が聞こえた。どうやらもうそんな時間らしい。今まで洗濯物などの家事をしているとすっかり時間になっていた。私はリハビリも兼ねながらそれらをこなしていた。
「よいしょっと」
未だに自分の記憶は戻らない。それどころか体は松葉杖を使わなけらばまともに歩けないのだ。
「あっ!お姉さん手伝うよ!」
声をかけてくれたのはここで一番幼い結人だった。彼はどうやら六年前に起きた事件で暗い所で怖い経験をしたために暗闇を極端に怖がるようになってしまったがそういう時には自分が連いていっている。それと関係しているのかは分からないが彼は自分が松葉杖を使って歩いていると必ず手伝うようになってくれた。
「ありがとうございます」
私は笑顔で答えた。結人もそれに釣られて笑う。すでにダイニングでは明かりが明いていた。
「さ、結人は手を洗って来てね。あなたはそこに座ってて大丈夫よ」
しばらくすると佐久間_父さんと結衣がやってきた。
「おっ!今日は上手そうだな。どれ一口味見して・・・」
「だめっ!手を洗ってからにしなさい!」
味見と言う名のつまみ食いをしようとした父さんに来栖が怒る。それに「ちぇ」と言いながらそそくさと手を洗うお父さん。
「今日のごはんは何なの?」
「今日はね。安い肉と野菜とカレーのルーが手に入ったからカレーライスよ」
おっ、カレーライスか。自分はカレーが好きであったかは分からないが来栖の料理はいつもおいしいので今回もきっとおいしいだろう。
「みんな席に着いた?」
「ついたよー!」
「じゃあ恒例の・・・・」
目の前には香ばしい臭いとたくさんの具が入ったカレーがある。そしていつも食事の前に言う言葉を口にする。
「いただきますっ!」
この家で自分は上手くやっていけそうだった。このままこの時が永遠に続けばいいとそんな幻想が自分の頭に広がった。
「はい、ではまた三分くらい募集をかけるんで適当によろです」
その言葉を言った瞬間に一気にコメントがあふれ出した。流れ具合を見てみると「ハルちゃんの熱愛報道はいつ?」というコメントでの依頼を見つけて大谷 悠馬は思わず微笑んだ。
狙い通りだ。
依頼の大半はイケメン俳優や女性アイドルに関する事だから視聴者の傾向を読むことは馬鹿みたいに簡単だった。
問題はどの人物の名前が挙がるかだがこればかりは運に賭けるしかない。
がハルちゃんーー確か名前はハルコと言ったかーーならば大丈夫だ。先日行きたくもないイベントに行って”直接見てきた”ばかりだ。
「・・・・よし」
大谷はそのことに満足していつものようにつまみを取ってくるために立ち上がった。
渋谷駅から徒歩八分 家賃15万 1LDKのマンション。
震災後に建てられたマンションなので全体の造りや内装などは今風だった。欲を言えばもう少し広い所が欲しいが以前住んでいた家賃四万のボロボロのワンルームに比べれば雲泥の差だった。
「来年にはもう少し便利な所に引っ越すか・・・・・・」
大谷はマイクに音が拾われない様な小さな声でポツリと言う。大谷は21歳になってようさく人生の充実感を味わっていた。小学校高学年からネットゲームに嵌って、学校に行かなくなり、次第に部屋からも出ないようになって、いつの間にかただ眠くなるだけの薬を手放せなくなってーー。
一時はただ先の見えない暗い将来に自殺を図ろうとしたときもあった。六年前の地震で部屋から出る事は出来たが既に大谷を見限っていた両親との距離は縮まることはなかった。
受験に失敗して浪生活になって渋谷で一人暮らしを始めてから親とは一度も会っていない。受験は三連敗中ということになっているが浪人生になってから一度も受験していない。
「ⓐちゃんにもたまには本当の事が書かれているもんだーーチーズでいいか」
スーパーで安く売っているチーズを丸ごと冷蔵庫から取り出す。本来大谷はこんな安物など口にはしない。
だが二コニヤ放送の内容はもちろんだがそれと同じくらいの演出をしなくてはならない。
イケメンでもましてや可愛い女子でもない大谷が話題性のある放送を継続させていくためにはーー。
『いかにも苦労して暮らしを成り立たせている貧乏人』と言うキャラ付けが必要だった。
先月では目標としていた最大視聴者数が四千人を突破した。取り立て何の肩書きもない大谷にとって、この数は異例とも言って良かった。やはり三か月前にグループ内で人気投票を行っている某アイドル集団の順位をおおまかな投票数も含めて全て事前に言い当てたのが効いたらしい。
あれからじわじわと視聴者数は増え続け、先月の終わりごろ、二コニヤ動画のトップに取り上げられてから一気に視聴率が伸びた。
現在は、四千五百を超えており、この分だと今月のには五千人を超えることも十分にあり得るだろう。
”自分の能力”について疑い出したのが去年の終わり頃。
はっきりと自覚を持つようになったのはⓐちゃんねるのオカルト板で盛り上がってきたとある噂。
大谷は端的に、自分が行っている放送の名前でそれを表現していた。
『俺氏、未来が見えてしまう件について』
チーズを切ろうと包丁を取り出して、妙な音が響いた。
「・・・・・?」
気のせいかと思っていると、
トン、トントン、トン
と変わらず音が響いてきた。ドアからだ。間違いなく自分の部屋のドアがノックされている。
「ん・・・・?密林か?」
怪しみながら応対に出ようとする大谷は壁にかけている時計を確認した。
午後11時 41分。
宅配便が訪ねてくる時間帯ではなかった。
「・・・・何だよ。つか、生放送中だっつうの・・・・」
大谷は無視を決め込もうとしていた。だが、無機質に同じ調子でノックが続いた。
まるでこちらを訪ねてくることが目的ではなく、その音を響かせることが目的だとも思えてしまった。
「・・・・・・・」
どことなく不気味な雰囲気がして、大谷は外の様子を見ようとインターホンカメラのところに行こうとしたが意味が無いことを悟って舌打ちした。カメラがついているのは一階のオートロックの部屋だけだ。五階にある大谷の部屋にはインターホンはついていてもカメラはついていない。
大谷は諦めて、
「くそ・・・・。つか、用ならインターホン押せよ・・・」
まだ音は続く。
「酔っ払いか・・・・?」
いや、それにしてはノックの音が規則正しすぎだ。開けろとわめきたてる声もしない。
「・・・・・・」
普段見慣れたドアが異質に思えてきた。とりあえずインターホンを使って外の人物の用件を知ろうと端末があるリビングに向かうおうとして。
『大谷さん、私です。突然すいません』
響いてきた声に立ち止った。
「・・・・?」
『私です。こんな遅い時間に申し訳ありません』
大谷は心の中で声の主を探ったがまったく身に覚えがなかった。が、声の調子と言動から変質者の類ではないことが分かった。
申し訳ありませんと断ってくる声には本当に誤っている気持ちが感じることができた。
「・・・・・・」
大谷はわずかに安どの息を吐くと自分が包丁を持ったままのことに気がついた。途端に大げさに緊張していることが馬鹿らしくなり、包丁をシンクの上に置きながら
「はいはい、今開けます。どちら様ですか?」
『私です。覚えていませんか?』
だから誰だよと思いながら、大谷はドアを開けた。
彼が後にどんな結末を辿るかも知らずに。
不定期更新になりますがよろしくお願いします。