大切なのは『原作を開始しようとする意志』だと思っている。
開始しようとする意志さえあれば、たとえ今回は話があまり進まないとしても、いつかはたどり着くだろう?
向かっているわけだからな… 違うかい?
ゼシカの誕生日の次の日、リーザス像の塔に行く予定だったのでリーザス村に来てみたのは良いんだが、サーベルトがこちらを睨んでいる。
「おはよう、サーベルト。今日はいい天気だな」
爽やかに挨拶するが返事が無い。
「…られた」
「何だって?」
「裏切られた!」
昨日の事をまだ根に持っているようだ。
「信じてたのに…」
「裏切ったんじゃ無くて、ちょっと背中を押しただけだろ」
「ちょっと背中を押した? 崖から突き落とされたかと思ったよ」
サーベルトがドラクエⅣの友人に裏切られ、人間不信になったホフマンの様になっている。トルネコさんなら信じる心を持っているかもしれない、借してもらえるよう頼んでみようか。
「真面目な話、あそこまでしないと告白しないと思ったんだよ」
「…それにしても、他にやり方は無かったのか?」
サーベルトにも自覚があったのか、少し納得出来たようだ。
「有るにはあったが…」
「なら!」
「師匠達に話して追い詰めるという策だけど、そっちの方が良かったか?」
「…」
サーベルトは答えない。ある意味究極の二拓だ答えられないのだろう、難しい顔をしている。
「機嫌を直して、モンスターを倒しに行こう。ユリマの誕生日プレゼントのために、ゴールド稼いだ方が良いだろ?」
「…そうだな。よしっ、気持ちを切り替えて行こう」
ようやくリーザス像の塔に行ける。
「確かルーラで飛べるんだよな?」
「いや、最初は歩いて行こう。見せたいものもあるし、ライアン師範から教わった槍を試したい」
サーベルトはライアンさんを師範と呼ぶ様になった。ライアンさんが師匠だとモリーと被る言い出し、協議の結果師範に落ち着いたらしい。俺もそう呼ぼうかと思っていると、「お前はあくまでも儂の弟子だからな」と釘を刺されたので俺はライアンさんのままだ。
サーベルトは魔法の袋から、てつのやりを取り出して構えると槍を振り回す。中々様になっている。
「その槍は買ったのか?」
「いや、ライアン師範に貰った。前にラグサットがスライムプディングに、ブーメランやハンマーを使えない状況にされただろ? その話をして自分も剣だけじゃなく、槍も持とうと考えていると伝えたら、自分が昔使ってた物だからとくれたんだ」
嬉しそうに、てつのやりを渡すライアンさんの顔が目に浮かぶ。そしてサーベルトがその話をしたせいで「ブーメランは仕方無いとしても、戦闘中に武器を手放すとは何事だ」とモリー師匠にしごかれたことを思い出した。
「何か特技覚えたか?」
「しっぷうづきを覚えたよ、素早く攻撃して先手を取る特技だ。ただ素早さ重視で威力が少し下がるけどね」
「ならモンスターが出たら先手は任せる」
「分かった、それで試してみよう」
リーザス村を出てサーベルトの案内に従い、道なりに進む。途中何回かモンスターと戦うが、もうこの辺りのモンスターに負ける事はない。サーベルトの槍もこの辺のモンスターなら問題無いようだ。
さらに進みリーザス像の塔に着いた。
「どうだ?」
サーベルトがドヤ顔をしている。
「…何が?」
「見てたろ? 迷わずに着いたぞ」
この人は何を言っているんだろう… ここまでほぼ一本道の上、リーザス村を出たらこの塔が目視出来るのに、どう迷えと言うんだ。
まさか見せたいものというのはこれなんだろか? もしかしたらサーベルトからしたら凄い事なのかもしれない、何にしても機嫌が良くなったので良しとしよう。
「おめでとうサーベルト。にしても、ここがリーザス像の塔か」
「僕のひい婆さんの、そのまたひい婆さんのリーザス・アルバートという人が建てたらしいんだ。この塔が出来てから人が集まり、リーザス村が誕生したという話だね」
リーザス・アルバート、旧名リーザス・クランバートルはかつて暗黒神ラプソーンを封印した七賢者の子孫の一人で、彫刻家の町リブルアーチのクランバートル家からアルバート家に嫁いできた人物だ。その時に七賢者の力がクランバートル家からアルバート家に移ったという話だった筈。
「凄い才能のある女性だったらしいよ。剣も呪文も一流の魔法剣士で、さらに彫刻の腕も一流とか」
「サーベルトはその魔法剣士の才能を受け継いでいる訳か。かえんぎりやら、しんくう斬りなんかの魔法剣を覚えるし」
「攻撃呪文は使えないから、有るとしたら剣の才能だけだろうね。それよりその扉を開けてくれ」
サーベルトはニヤニヤしている。この入口の扉は特殊な開け方をする扉で、開け方を知るリーザス村の住民以外はまず開けられない。サーベルトは開けられないで戸惑っている俺を見たいのだろうが、生憎既に知っているため上に持ち上げるように扉を開けた。
「なんだ知ってたのか、ゼシカから聞いたのか? まぁいい、ここのモンスターで注意が必要なのは、じんめんガエルだ」
「大丈夫だ、下手に攻撃すると背中を向けてきて強力な攻撃をしてくるんだろ?」
感心したようにサーベルトは声を上げる。
「おぉ! 本当にラグサットは物知りだよね」
「色々勉強したからな」
主に攻略本や攻略サイトで、とは言えない。
「これからも頼りにしてるよ。ここには神の贈り物も出てくるし、回収しながら最上階まで登ろうか」
神の贈り物とは要するに宝箱の事だ。ランダムにダンジョンや地上に出現し、中身もランダムで中身を取り出すと箱ごと消えていく、所有権は見つけて開けた者に有る。ランダムといっても場所によって、出やすい場所や出やすい中身もあり、ゲームでいう普通の宝箱と青い宝箱の二つが混ざった様な性質を持つ。稀に鍵も掛かっていて、それらには普通の宝箱より良い物が出てくる確率が高いという。それらを神の贈り物と称しているのがこの世界だ。たまにそれを悪用するモンスターも出るが、この搭には今まで出てきた事は無いらしい。
サーベルトと共に塔を登っていくと、ここで初めて発覚した問題が出てきた。野外等の広い場所と狭い室内等の場所では、有効な武器が違って来るのだ。例えばブーメランだと野外ではモンスター全体に攻撃出来る、しかし室内だと地形やモンスターの配置によっては壁や天井に当たり、落ちて戻って来なかったりする。
サーベルトも狭い場所では槍の攻撃手段が限られるので、主に剣を使っている。
「訓練場は地下だけど広いから問題にならなかったんだな」
「狭いと槍も突くことなら出来るけど、振り回すのは難しいね」
「今度、師匠達に相談してみよう」
ブーメランを腰に差し、ハンマーに持ち換える。じんめんガエルやベビーサタンなどと戦いながら、宝箱を回収し進んでいくと最上階に着いた。最上階には綺麗な女性の石像があり、目には赤い宝石が嵌めてある。
「あれが御先祖様のリーザス・アルバートが彫刻したリーザス像さ」
俺はリーザス像より、その前の場所に注意が向く。何故ならばこのリーザス像の前の場所こそが、サーベルトがドルマゲスに殺される場所だからだ。
「どこを見てるんだ?」
「…悪い。思っていたより綺麗な場所だな? リーザス像も埃をそんなに被ってないし」
咄嗟に誤魔化そうと話を振る。
「年に一度の聖なる日だけはモンスターが現れなくてね、その日は村人全員でお参りして掃除してるからな。またここに来たら少し掃除しても良いか?」
「その時は手伝おう」
そう言うとリーザス像の前で跪きリーザス像に祈る。サーベルトを助け、ラプソーンの復活を阻害しない方法が見つかります様にと。しかし、リーザス像は何も答えてはくれなかった。
再びモンスターと戦いながら搭を降り、いつものトラペッタの店に向かった。ユリマはまだ来ていないようなので、先に軽い食事と飲み物を注文し、サーベルトに尋ねる。
「予算はこれから稼ぐとして、どんな物をプレゼントしようか考えてる?」
「ゼシカの時と同じ、服か装飾品かな」
「告白するんだろ、装飾品の方が良いんじゃないか? 指輪とかさ」
俺の提案にサーベルトは狼狽えた。
「ゆ、指輪は早くないか? そう言うのはもっと親しくなってから…」
サーベルトは顔を赤くしてモジモジしている。
「それなら他の装飾品か。髪飾りや首飾り、耳飾りや腕輪とか?」
「そういうの、あまり詳しくないんだよね」
「装飾品じゃないけど、実用性を考えるとかぜのぼうしもお薦めだな。使うとルーラの効果がある帽子で何度使っても無くならないし、守備力もそこそこ高い。普通は手に入り辛いはずだが、トルネコさんなら手に入るかも」
「いいなそれ。リーザス村へも自由に来てもらえるし」
いつでも気軽に会える様になるのが嬉しいようだ。
「売値が1400Gだから、最低でも2800Gはするけども」
「高いな、ちょっと手が出ないかもしれない。いや、頑張ればいけるか?」
サーベルトは一人悩んでいる。
「後はもうバレてるんだし、家族にも相談してみたら?」
「バレたんじゃなくて、バラされたんだけどね。家族に相談なんて恥ずかしくて無理だよ」
チクリと嫌味を言われた、まだ完全には許していないらしい。
「他には、村の同世代の友達に聞いてみるとか」
「同世代の男は居るけど、友達と言えるまで仲良くないんだよね。領主の息子と領民の息子じゃ、こっちが仲良くしたくても対等な関係になれないんだよ。ラグサットが初めての友達なんだ」
意外な告白だ、考えてみればそうなのかも知れない。サーベルトの性格が良くても、領民はどうしても一線を引いてしまうのだろう。
「俺も似たようなものだ、サーベルトが初めての友達だよ」
「そうなのか…」
何か奇妙な空気が漂う。気恥ずかしいので話を強引に戻した。
「最後は師匠達だな」
「師範達に相談するのか?」
「もう追い詰める必要は無いが、いずれ絶対にバレるぞ。後で知ったら多分拗ねたり、修行がきつくなるかも知れん。マリーさんなら女性の意見も聞けるし、トルネコさんはあんなに強いけど本来は商人だからな。俺達じゃ手に入らない物も手に入れてくれるし、装飾品の知識もあるだろう。俺もゼシカの誕生日の時はお世話になった」
「成る程、一理ある。次会ったら相談してみるよ」
サーベルトは師匠達にも相談することにしたらしい、良い判断だ。とある二人は本気で拗ねかねないし、マリーさんとトルネコさんに相談するのは大正解だと思う。
「俺も知らない仲じゃないから、プレゼントを用意しないとな。流石に高い物は贈らないが」
「でもゼシカの時は、高い物を贈ろうとしてたよな?」
「これから告白するサーベルトが居るのに、高い物を贈るのは違うだろ? ゼシカの時とはまた別だ」
そう答えるとサーベルトは真面目な表情で尋ねてきた。
「…僕はそういう事に疎いからはっきり聞くよ。ラグサットはゼシカが好きなのか?」
まさか、サーベルトにそんな事を聞かれるとは思わなかった。答えに窮していると、さらに続けた。
「もしラグサットが本気でゼシカの事を想っているなら、僕は協力を惜しまない。だけど本気じゃ無いのなら「お待たせしました」」
サーベルトの話の途中でユリマがやって来た。何を言おうとしていたんだろうか。
「何のお話をしていたのですか?」
「…今日の戦闘の反省会だよ」
サーベルトはそう誤魔化した。俺は早めに食事を済ませ、二人の邪魔にならない様に店を出た。いや邪魔にならない様にではなく、サーベルトと顔を合わせ辛かったからだ。
(俺はゼシカを好きなのか、か)
最初は神様からの転生特典で転生先を選べるという話になったとき、どうせなら原作キャラを彼女にしたいという軽い気持ちで選んだ。
今はどうなんだろう。ドラゴンクエストⅧのゼシカでは無く、現実のゼシカとして接して来ただろうか… 実際に会って話をしてきた今は、ゼシカを好きと言えるんだろうか…
俺はサーベルトにまた同じ質問をされない様、願うしか出来なかった。
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幸いサーベルトにその質問をされる事は無く、修行と実戦の日々が続いた。
たまにゼシカと会っても以前程上手く話せない。ゼシカは少し不思議に思っていた様だが、今の俺にはどうすることも出来ない。
サーベルトは師匠達に相談した結果ギリギリまでゴールドを稼ぎ、かぜのぼうしを贈りたいらしい。もし駄目なら別の物を贈るようで、トルネコさんに両方の手配をお願いすると、トルネコさんは快く了承してくれただけでなく、2500Gに負けてくれた。戦い方はアレだが本当に好い人だ、いつか恩を返せるだろうか。
俺もゴールドの配分を変えようと提案したが断られた、自力でプレゼント代を稼ぎたいのだそうだ。ゼシカの時、最初は親から貰ったゴールドも使おうとしていた俺とは大違いだった。それならばと原作知識を活かし、野外にある宝箱を積極的に回収しサーベルトに協力する。ゴールド以外なら売ってゴールドに変えて分けた。
予想通りゲームで宝箱があったと思われる場所は出現し易く、中身もゲームと同じ物が出る確率が高い。
そして遂に2500G以上貯まり、ユリマの誕生日がやって来た。
「いよいよ今日だな。俺のプレゼントは後日渡すから、今日は邪魔が入らないぞ。頑張れサーベルト」
「あぁ、行ってくる」
リーザス村に来てサーベルトを激励する。
「兄さんしっかりね」
「バシッと決めて来なさい」
「母さん達まで見送りに来なくてもいいから!」
アローザさんとゼシカも応援するが、サーベルトは嫌がっている。これから好きな人に告白しに行くのに家族の見送りは辛いだろう。俺がやったことだが、同情を禁じ得ない。
サーベルトがトラペッタへ飛び立つと、俺もサザンビークに帰った。
そして次の日、師匠達との修行の日だがリーザス村へ行きサーベルトと合流することにした。結果は分かりきってるが、一刻も早く知りたかったのだ。
しかし、俺が見たのは落ち込み項垂れるサーベルトの姿だった。その両隣りにはアローザさんとゼシカが居たが、二人とも浮かない顔をしている。まさか断られたのかと驚く俺にサーベルトは頭を下げた。
「僕に力を貸してくれ」
何かトラブルがあったらしい。
「当然だろ」
俺はそう答え事情を聞くことにした。
神の贈り物
ダンジョンやフィールドに宝箱が有る理由付けに設定。
本当に神からの贈り物で、神が造り出した物、自然にある物であったり、誰かが落としたり、壊れて捨てられたり、忘れ去られたりしたものを回収、修繕し中身にして出現させている。
基本場所も中身もランダムだが、試行回数を十分に取るとゲームと同じ場所、同じ中身に収束する。他に完全にランダムな宝箱と鍵付き宝箱等もあり、ランダム宝箱のせいでミミック系が猛威を奮う。