「良くやったな二人とも」
モリー師匠が褒めてくれるが、素直に喜べなかった。サーベルトが戦い続けようとしなければ、俺は逃げ出していたのだから。
「ありがとうございます、モリーさん」
「いい止めの一撃だったぞ」
ライアンさんはサーベルトの背中を叩きながら称賛する。
「ラグサットちゃんも最後の特技すごかったわね。まさかドラゴンの炎を跳ね返すなんて」
「たまたま閃いたんですよ。もしあの特技を閃いてなかったら、多分俺はやられていたでしょうね」
本当にギリギリだった、思い返すとよく閃けたと思う。もしかしたら敵が強いほど、ピンチの時ほど閃き易いのだろうか?
「それにしても、トラペッタの近くにこんなモンスターが居るとは… たまに場違いなモンスターが出るとは商人仲間から聞いてましたが」
そう言ってトルネコさんはドランゴを見る。釣られて俺もドランゴを見るが、おかしな事に気付いた。倒した筈なのに未だに塵になっていない。不思議に思っていると、なんとドランゴがおきあがった。
「サーベルト、まだ終わってない!」
「そんな馬鹿な… 確かに倒した筈だ。レベルも上がったのに」
再び戦闘体勢に入ると、モリー師匠が手で制してきた。
「待て」
様子を見ていると、ドランゴはそんけいのまなざしでこっちを見ている。
「時々特殊なモンスターを倒すと、こうしてモンスターに認められる。認められたモンスターをスカウトして自分のチームを作り、他のチームと戦う。それが儂の主催する『ザ・モンスター・バトルロード』だ」
モリー師匠が様々なポーズを取り、最後に拳を握り右腕を上げると火柱が立つ。モリー師匠の特技、モリーバーニングだ。演出のためにわざわざ特技を使うとは流石師匠、回りの草が燃えているが。
「モリーちゃん、『ザ』は付かないでしょ。勝手に付けないの」
「む? そうだったな。では改めて…」
「それでこのバトルレックスをスカウトすれば、そのモンスター・バトルロードに出せるということですか?」
モリー師匠の言葉を遮り話を進める。またポーズを取る所から始められるのは時間が掛かるからな。
「…まぁそういうことだ。お前達はまだチームは持っていないが、いずれチームを持ったときに入れるといい。それまでは預かっておこう」
「どっちがスカウトする?」
サーベルトに尋ねると、答える前にモリー師匠に質問した。
「二人で1つのチームを持つというのは出来ますか?」
「出来るな」
「ならいつか二人のチームを作った時に正式にスカウトしないか?」
サーベルトからそう提案される、悪い考えではない。了承の意を伝えるとその時までモリー師匠が預かってくれることになった。
「いつか仲間に誘いに行くからね。えっと、何て呼んだらいいかな? バトルレックスだからバックス?」
サーベルトに名前を付けるセンスは無い。ドランゴは戸惑いながら名乗る。
「ドランゴ… 私の名前…」
ドランゴは片言だけど話せるようだ。
「これから宜しくね、ドランゴ」
本当にいつかチームを持てるんだろうか? 確か二十万G必要だった筈、道のりは遠い。
トラペッタの町に戻るとユリマやルイネロをはじめ、住民が出迎えてくれたがドランゴを見るなり大騒ぎになった。モリー師匠が事情を説明すると、バトルロードを知っている住民が居たため、受け入れてもらえた。
ドランゴは住民にもう襲いことを約束し謝罪した後、モリー師匠に連れられバトルロード格闘場に向かった。
町中にドランゴの事が知れ渡り、祝いの宴が開かれる。サーベルトはルイネロにユリマとの事を認められ、正式に恋人同士になった。幸せそうに二人で宴を楽しんでいるな、そう思ったら酔っ払ったルイネロに絡まれて難儀しているのが見える。認めはしたものの、これからも二人の邪魔をしそうだ。
俺は師匠達と席を共にしている。宴を楽しんでいる師匠達にタイミングを計って頼みこんだ。
「これからの修行は特訓の時の様に、厳しくお願い出来ませんか?」
「…それは構わないがどういう心境だ?」
モリー師匠は訝しみながら聞き返す。
「今日の戦いで痛感しました。私は肉体的に少しは強くなったかもしれません。しかし、精神的には全然成長出来ていませんでした。薬草も尽き倒せそうにないと判断し、逃げ出す事を考えたんです」
「逃げる事は恥ではない、時にはその選択が正しいこともある。それに逃げずに最後まで戦ったではないか」
その時の事を思い出し後悔の念に駆られ、俺はさらに心中を吐露し続ける。
「確かに逃げる事が正しいこともあるかもしれません、しかし結局は勝てた訳です。今回については、逃げる事が正かったとは思えません。それに私が最後まで戦えたのは、サーベルトが居たからです。あいつが最後まで戦うと決めたから… あいつを一人残して逃げることが出来なかっただけなんです」
悔しさから手をに力が入り、思わず拳を握りしめる。俺の告白、いや懺悔をモリー師匠だけでなくライアンさん達も静かに聞いてくれている。
「今思えば特訓の時もそうでした。モリー師匠に自分の攻撃が通じないからって、縮こまって防御ばかりしてた。そんな事で強くなれるわけ無いのに… もし、ちゃんと特訓出来ていればあそこまで苦戦することも無かったかもしれない。
興奮する余りテーブルに拳を叩き付けると、大きな音が出て回りの注目を集めてしまった。
「…すみません、少し頭を冷やしてきます」
俺は落ち着くため、席を立ち人気の無い方へ歩き出した。
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「随分嬉しそうだな」
ライアンがニヤケながら話し掛けて来る。
「嬉しいさ。弟子が自分の欠点に自ら気付いただけでなく、すぐさま改善する意思を示したのだ。師として嬉しく無いわけがない」
そう、修行を付けている内に気付いたラグサットの欠点。
「サーベルトも倒せたから良かったものの、ラグサットがあそこでブレスを跳ね返す特技を閃かなかったら、危うかったですね。ラグサットは、ああ言ってましたが私はあそこで逃げても、良い判断だったと褒めましたね」
トルネコがそう感想を漏らす。
「難しい問題ね。ピンチの時、攻めるか逃げるか、正解は時と場合によるわ。だけどあの二人はその内の片方しか選択肢が無い、ある意味良いコンビね」
マリーの言う通り、選択肢が1つしか無いのは問題だ。例え結果が同じでも、それしか選択肢が無いのと、選択し決断するのでは全く違う。今回の事でラグサットにも困難に立ち向かう選択肢が生まれたのだ。
「これでラグサットは1つ壁を超えるな」
「サーベルトもな。強敵と戦い勝利したことで自信も付いたし、攻めるばかりでなく退く事も教えれば良い戦士になる。ユリマという恋人も出来た事だし、素直に覚えるだろう」
全員で今後の育成方針を話し合い、最後に酒の入ったグラスを持つ。
「それでは方針も決まった事だし、弟子達の成長を祝って… 乾杯!」
「「「乾杯!」」」
皆で弟子の成長を祝い、飲んだ酒は格別に旨かった。
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「ラグサット」
人気の無い所で夜風に当たっていると、サーベルトがやって来た。
「ユリマはどうした?」
ようやく恋人同士になれたんだ、こんな所に来てないでユリマと居れば良いと思い尋ねる。
「ルイネロさんが酔い潰れてね、家に連れ帰って介抱してるよ。ラグサットはどうしたんだ?」
「ちょっと夜風に当たりたくてね」
流石にサーベルトには本当の事を言えないので、適当に濁した。
「今日はありがとう。お陰でルイネロさんにも認められたし、この町も守ることが出来た」
「ルイネロさんの事はともかく、町を守った事は礼を言う必要はないよ。俺だって守りたいという気持ちはあったからな。逃げようとしたけど」
笑って言うとサーベルトは首を振る。
「ユリマさんに今回の戦いを話したら、ラグサットの言う通りだと言われたよ。師範達も居たんだし死ぬ気で町を守るより、逃げてでも自分の事を守って欲しいとね」
ユリマからしたらサーベルトに生きていて欲しいのだろう。
「師匠達が居たならそう考えてもおかしくはないな。…でも、もし師匠達が居なかったら、どうするのが正解だったんだろうな?」
その答えが戦う事だとしても、それを選べる様に強くなりたい。
「分からないよ…守るって難しいな。何かを守り自分も守るのは更に難しい」
「正解が分からなくても、これからやる事に変わりはない。強くなれば良い」
「確かにね、強くなれば何かを守りつつ自分も守れる。その意見に賛成するよ」
「そう言ってくれると思って、師匠達に修行を厳しくするように頼んでおいたから。具体的には特訓と同じくらい」
事後承諾になるが一応報告するとサーベルトは絶望の表情を浮かべた後、顔を叩いて気合いを入れている。今までの修行よりきつい特訓がこれからの日常になるのだ、気持ちは分かる。
「明日から頑張ろうね」
「あぁ、頑張ろう」
そう決意していると、酔っ払いが近付いて来た。
「これはこれは、町の英雄のお二人ではありませんか」
酔っ払いは酒の入っているであろう瓶をあおる。
「大丈夫ですか? 飲み過ぎでは?」
「流石、英雄様はお優しい。こんないくら修行しても、呪文1つ使えない人間を心配して下さるとは」
更に酔っ払いは酒をあおる。これ以上絡まれるのは御免だ。サーベルトにこの場を離れるよう促し、ここを立ち去ることにした。
「モンスターを倒し、町を守ったからっていい気になるなよ? 私だって呪文が使える様になればそれくらい出来るんだ!」
「行こう、ラグサット」
二人して足早に歩き出し、しばらくしても後ろから叫び声が聞こえてくる。
「いつか呪文を使える様になって、お前達や馬鹿にしてきた奴らを見返してやるからな!」
完全に聞こえなくなるまで離れ、周囲が賑やかな所まで来ると介抱が終わったであろうユリマが現れ、サーベルトと二人何処かへ歩いていった。今度は邪魔は入らないだろうから、思う存分イチャイチャすると良い。
俺は先程の酔っ払いのことを考えていた。あれは間違いなくドルマゲスだった。呪文を使えない事を気に病み、トロデーン城から神鳥の杖を盗み呪いを掛けラプソーンに操られる、ドラクエⅧを代表するボス。
今ここでドルマゲスを助けても物語が始まらず、ラプソーンが復活しないためそれは出来ない。
ふと空を見上げると、満月が浮かんでいた。満月を見ながら考える。
(本当に運命を変えつつ、ラプソーンを復活させる方法は無いのだろうか?)
いくら考えても相変わらず解決策が思い浮かばす、しばらく満月を眺め続けていた。
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いつもの日々が始まった。ドランゴとの戦いで防具が傷み修理に出したため、しばらくモンスターとは戦わずに修行の毎日だ。サーベルトの家宝の鎧は着ている者だけでなく鎧自身も回復するらしい、チートにも程がある。しかし傷みが激しいので、同様にしばらく使えないようだった。
モリー師匠は約束通り特訓の時のように爪を装備し、嵐の様な攻撃を仕掛けてくる。前回のように防御ばかりではなく、こちらからも攻撃するが通用しないのは変わらない。だけど少しずつ、攻撃が当たりそうになってきている。やはり困難に立ち向かった方が得るものが多いようだ。
サーベルトはライアンさんに、時には退く事の重要性を教わり、剣や盾を使った防御法を改めて修行する。俺はライアンさんに「もしかしたら本当に危険で逃げた方が良い時でも、サーベルトは熱くなって逃げないかもしれない。その時は首根っこ掴んででも逃げてくれ」と頼まれた。勿論そんな時が来たらそうするつもりだ。
ドランゴとの戦いと修行の日々のお陰で、いくつかの特技と呪文も覚えた。特に
その事を師匠達に話したら自分達に使ってみろと言い出した、最悪の流れだ。考えてみて欲しい、師匠達を挑発して怒らせるのだ、使う前からオチが透けて見える。そのため拒否し続けていたら少しずつ怒り始めた。使わなくても怒られ、使っても怒られるという理不尽極まりない状況に陥った。
やむを得ず一人では本当に俺を狙うのか分からないと理由を付け、サーベルトを巻き込むことに成功した。友情って素晴らしい、一人では困難な事も二人なら乗り越えられる、そんな気がしてくる。サーベルトが驚きの表情でチラチラとこちらを見てくるのは気のせいだ。
マリーさん以外の三人と俺達二人という状況で『ちょうはつ』を使用する。特技の効果により頭の中に、相手を怒らせるのに効果的な言葉が浮かび、大声で叫ぶ。
「だっさいヒゲだな! むしり取ってやろうか!?」
その後の事は思い出したくはない。俺は金輪際、師匠達のヒゲを馬鹿にすることは無いだろう。
そして悪い事だけでなく、使ってみて初めて分かった事もある。確かに師匠達は俺を集中的に鬼の形相で狙ってきたが、複数に効果の及ぶ攻撃では他の仲間も巻き込まれる事がサーベルトの貴い犠牲により発覚した。友情って素晴らしい、改めてそう思う。
そして覚えた呪文は転生特典で選んだ呪文だったが、これ単体ではあまり意味が無いため別の機会に語ろう。そう、もう1つの男なら誰でも選ぶであろう呪文を覚えた時に……。
修行で新たな特技や呪文を覚えるなど、身体面での成長は分かり易いが、精神面での成長は自分では分かり難い。それが焦りと不安に繋がり、我武者羅に修行する日々が続いた。
月日が流れサーベルトの17歳の誕生日が訪れる。その日は丁度、満月の日だった…