アイドルマスターシンデレラガールズ 〜自称天使の存在証明〜   作:ドラソードP

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第3話 カワイイボクと真面目なプロデューサー

第3話

カワイイボクと真面目なプロデューサー

 

 

「ここが新しく、ボクとプロデューサーさんの部屋になる場所なんですかねえ?」

 今日から俺達の仕事部屋となる個室、その長い間使われていなかったのであろう部屋は、お世辞でも綺麗とはいえない有様だ。だが、それでも専用の部屋がもらえるという事実だけで、俺たちにとっては、充分過ぎるほど有難いことだった。

 本来、大規模なプロデュースでもない限り、部屋は他プロデューサーとの共有が普通だ。だが、今回は会社に所属するプロデューサーが増えてきたことなどもあり、共有で使われている部屋がもう満室で使えないとのことだった。

 そこで俺たちは、346プロの社内にある、今のところ使われる予定がなかった、この小部屋を使わせてもらえることになったという流れだ。

「さて、どう片付けていこうか」

「ボクは、プロデューサーさんが仕事をしている姿を眺めていたいので、ここで見ているだけでも別に、構いませんよねえ?」

「俺が掃除している姿を眺めていたいって……変わってるな。まあ、別に構わないよ。俺もアイドルに、仕事を手伝わせるようなプロデューサーじゃないからな」

 そう言うと俺は、窓際に置いてあったソファの埃を払った。

「ほら、多少埃は取っておいたし、幸子はソファに座っていていいよ」

「それじゃあ、プロデューサーさんの好意に甘えて……失礼しまーす!」

 そういうと幸子は遠慮なくソファに座り込み、こちらを眺め始めた。これは、彼女の早く掃除しろという催促なのだろうか。

 とりあえず俺は、入口のロッカーから箒とチリトリを取り出すと、掃除を始めていく。

「さあ、始めるか」

 思った以上に部屋は汚れており、まさか物置かなんかだったんじゃないかと疑いたくなるくらいだ。しかし、部屋自体はそこまで狭くなく、割と通気もよく、綺麗に掃除をして、ある程度家具を揃えていけば、なかなかの部屋に化けそうだなと思った。

「さあ頑張って下さいプロデューサーさん! カワイイボクが、応援してあげないこともありませんよ?」

 なんというか、こう実際に間近で見て接してみると、アイドルって歌って踊っているだけで、楽そうな仕事だよな、とついつい思ってしまいそうになる。まあまだ、今日は初日だ。数日もすればこんな感情も、すぐに無くなることだろう。少なくともそんなことを考えているうちは、俺も半人前の新人プロデューサーだ。

 しかし、こうしてアイドルの担当プロデューサーになってみると、いつもやってきた雑用仕事より、違った事や対人での配慮が多く、なかなか大変な物だ。これが彼女が売れてきて更に仕事が増えると、今以上に忙しくなっていくのか。そう考えると、プロデューサー業もまた大変だな、と。でも逆に言えば、それは嬉しい悲鳴で、それだったら早くそうなれた方がいいのかな、と憧れに近い感情も同時に抱く。

「ふぎゃあ!?」

 と、そんなことを考えながら黙々と掃除をしていた所、部屋には突然幸子の悲鳴が響いた。俺は彼女の方へと、慌てて駆け寄る。

「幸子!?」

「ぷ……ぷぷプロデューサーさん!! ゴ……ゴキブリ!!」

 そう彼女が指さす方向を見ると、そこには案の定、みんな大嫌いな黒い彗星、またの名をゴキブリが辺りを縦横無尽に走り回っていた。

 ゴキブリはそこまでの大きさはなく、虫にある程度耐性があった俺は、とりあえず幸子に目をつぶらせた。

「こいつを……くらいやがれ!!」

 そして、彼女が目をつぶっているその隙に、俺はゴキブリに箒の一撃を食らわせた。そして、動かなくなった所を箒で巧みにすくい上げると、窓から外に華麗にスローインし、見事退治に成功したのであった。

『にゃあ!? 何にゃこれ……って、にゃぁあああああああああ!!』

 どうやらこれは最悪のパターンだろうか。下を歩いていた誰かに爆弾が直撃した様だ。辺りには、誰かの悲鳴がこだまする。

 下を歩いていた誰か、本当にすまない。呪うなら、そいつがこの部屋に居た事を呪ってくれ。

 俺は何も見ていないし聞いていない。そう自分に言い聞かせると、窓をそっと閉めた。

「まったく、何なんだこの部屋は……」

「ぷ、プロデューサーさん?」

「ああ、もう目を開けても大丈夫だぞ」

 なんというか、その怯える姿も愛らしさがあり、こういった細かいところで他人を魅力できるのがアイドルなのか、と少し勉強させてもらえた。

「ふ、ふふーん! べべべっべつにゴキブリなななんて、こっ、怖くなんかないですよ! プロデューサーさんがちゃんと仕事しているか、試したくなっただけなんですからねっ! ね!」

 幸子はソファの隅で震えながら、体育座りをしてこちらを見ている。なんというか攻めれば強気だが、逆に攻められるのには弱い感じなのか。今後の参考にさせてもらおう。

「すまないな、こんな汚い場所に居させてしまって。俺もなるべく早く仕事を見つけてきて、もっと君にアイドル生活を充実させてやれられる様に、努力するからさ」

「しょうがないプロデューサーさんですねぇ……ボクはカワイイだけじゃなくて、優しい完璧美少女だから、なんでも許してあげちゃいます!」

 なんというか出会いから時間が経ち、慣れてくる程に彼女への見方が少しずつ変わってくる。まあ別に、彼女が嫌いになったとかそういうのとは違うのだが……この短期間で俺に芽生えてきた感情は何なのだろうか。気になる割に、それがどの様な気持ちなのかわからない。

「あと、ボクの名前は輿水幸子です。ちゃんと幸子という、パバとママに貰った、カワイイ名前があるんですからね。これからは、君呼びは禁止です」

「あっ……悪いな。別に君……いや、幸子のことが嫌いなわけじゃないんだ。ただ、如何せんまだ慣れなくてね」

「確かに、こんなカワイイ子に名前呼びできることなんて、そうそう無い機会ですからね。プロデューサーさんが照れて、名前を言いにくいのも、分からなくはありません」

 幸子はそう言うと顔に皺を寄せ、何か考えるような素振りをしながら、俺の顔をじっと見てくる。

「……それじゃあ、いきなりの名前呼びに抵抗があるなら、やっぱり名前の最初と最後にカワイイをつけて……」

「却下だ幸子」

「なんでこうやってツッコミを入れる時だけは、普通に言えるんですか!」

 さて、それからはというものの、彼女とこんなやり取りをしながら、何事もなく部屋の掃除を続けていった。

 ただ、いくら小部屋とはいえ、流石は大企業だ。部屋はそれなりの広さがある。少なくとも、俺の自室よりかは確実に広く感じるな。

 また、部屋には掃除する家具こそ少ないが、潔癖症気味な俺は細かい点が気になり、色々こだわって掃除してしまった。

 壁、窓、通気口、その他etc……とにかく、部屋の隅々までを拭いて回ったか。そんなこんなで気が付いたら、時間はあっという間に二時間ほど経過してしまっていた。

 まあ、今後何事もなければ、恐らくこの部屋はずっと俺たちの部屋となるんだ。掃除には限らない、初期の時間投資は、惜しまない方が吉だな。

「それにしてもプロデューサーさん、本当に細かいですねぇ。まあ、几帳面な人は嫌いではないですが」

「特にやることも無い人間ってのは、こういう細かいことにこだわるしかないんだよな。なんと言えば良いんだろうな……つまり、今までの癖ってやつかな」

「なんだか、闇が深いです……」

 そんな訳で、俺の努力の甲斐もあり、埃だらけだったこの部屋は、人が何か作業をするのに支障が無い位には綺麗になった。

 こう綺麗になった部屋を眺めてみると、気分まで清々しくなってくる。

「さて、というわけで感想はどうだ?」

「部屋も隅々まで綺麗で、ここなら伸び伸びと過ごせそうですねぇ。流石、カワイイボクのプロデューサーさんだと褒めてあげますよ!」

「気に入ってもらえたみたいで、俺としても頑張った甲斐がある。良かった」

 綺麗になった部屋を眺め、腕を組みながら満足気に頷く幸子。だが、彼女は一切部屋の掃除には加わっていない。

「それじゃあプロデューサーさん。部屋が綺麗になった所で、早速今日はこれから何をするんですか? お仕事とかは?」

「……仕事、か」

 一通り部屋を見渡し、満足した彼女は俺に対して、疑問の視線をぶつけてくる。

 俺は咄嗟に彼女の言葉に反応したが、そこで一つの疑問にぶち当たった。

 

 

 

ん?

 

 

 

「そういや今日、俺たちはこの後どうするんだ? 」

「……いや、ボクに聞かれても知りませんよ。そういうのを考えるのが、プロデューサーさんの仕事じゃないんですか?」

 俺は幸子に真面目な表情で返事を返される。

「まさかプロデューサーさん、何も考えていなかったとかそんなオチは、さすがに無いですよね?」

「か、考えはしたさ……昨日の夜から」

「昨日の夜って、そんな翌日の晩ご飯考える様なノリで担当アイドルの予定を考えないでくださいよ!!」

 さて困った。俺としてもまさか、こんなに早く予定が終わってしまうとは予想にしていなかった。

 いや、正確に言えば、今日は元々そこまで予定を入れていなかった、というのが正しいのか。今日は彼女との顔合わせから、互いの自己紹介、部屋のセッティング。そして、多少の今後の活動方針の打ち合わせ、程度までしか予想していなかったからだ。

「まあ、昨日の夜からっていうのはさすがに冗談だ。本当の所は、昨日の夜どころか、二週間前くらいから予定の方はちゃんと考えていたよ」

「だとしたら、それこそ簡単なレッスンくらいなら予定に組み込めたんじゃないですか?」

「……いくらプロデューサーとはいえ、俺は超能力者でもなんでもないんだ。会ったことのないアイドルの予定を組むのなんて、限度がある」

 彼女が言う通り、確かに事前にやろうと思えばレッスンや、宣材撮影など、いくらでも予定の立てようはあったのかもしれない。だが、俺としては、まだ会ってもいないアイドルの予定を立てるのは、色々と早計な気がして、あまりやりたくはなかった。事前に渡されていた資料に書かれた情報だけでは、一人の少女を理解するのに不十分だと思っていたからだ。

「意気込んでいる所、なんだか色々悪いな。だけどこれが俺の方針なんだ。君をプロデュースすると決まった以上、確実な一手を打っていきたいからな」

「……こうまじまじと説明されると、プロデューサーさんが言うことも確かに、間違いとは言いきれませんねぇ」

 実際、まだ俺たちには何かやらなければいけない予定や、期限がある訳でもない。それならむしろ、変に勢いと意気込みだけで突っ走って、初っ端からミスをするよりかは、多少冷静な位の方が今後の為にも良いだろう。

「……そうだ、これはようやく掴めたチャンスなんだ。無理に突っ走って、機会を無駄にはしたくない」

 俺は自分に言い聞かせるようにそう呟く。

「よし、それじゃあ少し早めになるけど、今日のアイドル活動は終わりだ」

「……えっ? 流石に早くないですか? いくら予定がないとは言え」

 幸子は俺から、予想していなかった返答が返ってきたのだろう。咄嗟に聞き返してくる。

「そうだ、予定はない。別に予定もないんだからこそ、無理してこの部屋に残る必要もないだろ? レッスン場だって今日は使えない訳だし」

 と、俺は久しぶりに一働きして、疲れた体をゆっくりと伸ばしながら、大きくあくびをした。なんというか、いつもより明らかに仕事量は少ないはずなんだが、それでもいつも以上に疲れたような感じがする。

「というわけで、俺のプロデュースは終わり。今日これからの幸子の仕事は、明日からのアイドル活動に備えて、ゆっくり休むこと。良いね?」

 幸子は一瞬不服そうな顔をする。そして、やれやれといったジェスチャーをし、ため息を漏らす。

「しょうがないプロデューサーさんですねえ。そういう事情なら、今日の所は終わりってことにしてあげても良いです」

 しかしそう言った後、彼女は俺の顔に指をさしながら、念を押すように言葉を続けた。

「でも、明日からは早く、ボクにでもすぐにできるような、アイドルらしい仕事を見つけてきてくださいね。わかりましたか? プロデューサーさん!」

「元よりそのつもりだよ。むしろ、今日で君の事はそれなりに分かったからな。明日からは、ガンガン予定を入れていくつもりだ。幸子も、あまりにもの仕事量に、いきなりへばったりしないようにな?」

「今の言葉は、プロデューサーさんからの好意に受け取ってあげます。あと、仕事なら大丈夫です。ボクなら、少し体を張る位の仕事くらいなら余裕ですから!」

「ほう? なかなかに大きく出たな。だったら本当に、バンジージャンプやスカイダイビングみたいな仕事を持ってくるぞ?」

「流石にそれはやりすぎですよ、プロデューサーさん! ボクはアイドルであって、芸人では無いんですから!」

「悪い悪い、そうだな」

 と、そんな風に彼女と話していると、突然部屋の中にノックの音が鳴り響く。

 俺は一体誰かと思い、扉を開けた。するとそこには、先程別れた上司が立っていた。

「調子はどうだい? 新米プロデューサー君」

「ふふっ、やめてくださいよその呼び方。一応、自分はもうここで働いて三年になるんですから」

「ほう? 随分といっちょ前なこと言えるようになったじゃないか。これは大物の誕生か?」

 俺と上司は互いに、冗談交じりに話す。

 上司とはこの数年で構築された、信頼関係があるからな。比較的良好な関係を築けているのではないだろうか。

 何せ、今回俺のプロデューサーデビューを、会社の上層に後押ししてくれたのは他でもない、この人だ。

「それで、肝心の彼女とは合いそうかい?」

「まあ、彼女とならなんとなく、うまくやっていけそうですね」

「そこはうまくやって『いけそう』じゃなくて、やって『いける』じゃないんですか? プロデューサーさん」

「悪い幸子、今はちょっとだけ静かにしていてくれないか?」

「ハッハッハ、確かに、早速仲が良さそうなことだ」

 上司は俺たちのやり取りを見て安心したのか、笑みを浮かべている。

「別に、急ぎの用があるというわけじゃなかったんだ。ただ、二人がどんな調子でやっているのか気になって来てみただけでね」

 そう言うと上司は、言葉を続けた。

「まあなんだ、この後時間があるなら、これから今日の報告や彼女について、少し話を聞かせてくれないだろうか? 事務所の他のヤツらが気になってしょうがないみたいでな。それにどうせ、初日でできることもないだろう。暇してるんじゃないか?」

 流石はベテラン、先を全て見過ごされていたか。

 悔しいが、全くもってその通りである。

「わかりました。それなら丁度、この後はまだ予定もないので、早めに報告の方に向かいます」

 そんな風に上司と話している中、不意に幸子の方を見ると、少し退屈そうにしている幸子の姿があった。

 ここで長話をするのも、彼女を待たせるだけでアレかと思い、俺は話を一旦切ることにした。

「という訳で、改めて今日は解散だ。初めてのことも多くて疲れただろう。ゆっくり休んでくれ」

「カワイイボクを一人で帰らせるなんて……まあ、やることがあるというのならば、仕方ないですねぇ。わかりました。それじゃあボクの為に、お仕事頑張ってくださいね、プロデューサーさん!」

「ああ、お疲れ様」

 こうして俺達は部屋を後にした。幸子は建物の入口の方へ、俺は上司と仕事場のオフィスへと向かっていく。

 とりあえず、初日の仕事は成功だろうか。明日から幸子のために仕事を頑張って探してきて、彼女を少しでも早く、一人前のトップアイドルにしなければな。

 果たして、俺達のこれからには一体何が待っているのか、というかどうなるのか、まったく予想ができない。

 ただ、少なからずわかることは、決してそれらは俺らを暇させない、飽きさせない、ということだけだろう。

 




本日のゲスト:前川みく

なんとなく出したかったんで出してみたんですが無理矢理感がすごい……

次回はプロデューサーと幸子の日常回です。そろそろ幸子の扱いの雲行きが怪しく……

文章の改行や空白

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