アイドルマスターシンデレラガールズ 〜自称天使の存在証明〜 作:ドラソードP
第4話
カワイイボクと堅物なプロデューサー
さて、あの後幸子と別れた俺は、そのまま上司へ初日の報告を終わらせた。
会社側の評価としては「まあ、初日ならこんな物か」「とりあえず、この二人ならなんとかなるだろう」「ようこそこちら側の世界に」との話だった。
そんな感じで評価が良かったためか、俺たちの話は社内に瞬時にして広まり、期待の新人が現れた、などと注目されることになってしまった。
正直な所、あまりこう人に注目されるのは好きな方ではない。それに、俺的にはプロデューサーである俺なんかより、アイドルである幸子の方に噂になって欲しいのが本心な所なのだがな。まあ、まだまだ仕方が無いことか。
そりゃあなんだかんだ色々あった気がしたが、今日はまだ『プロデュース初日』だ。それに、あの彼女の強いキャラのお陰で妙に時間が長く感じたが、上司に報告を終えた今でもまだ、時刻は昼の一時少し前である。
そう、俺は今、はっきり言って午後の時間を持て余してしまっていたのだ。しかし、肝心の彼女を帰らせてしまった以上、何か活動をしようにもできないし、かといって彼女が居たとしても、まだまだできることは少ない。それなら何をして午後を過ごすか、とりあえず、彼女のプロデュース計画でも立ててみるか。俺はそんな事を考えながら、何となく旧館エントランスの方へと足を運んでいた。
「女の子を長時間待たせるなんて、プロデューサーさんはダメダメですねえ?」
丁度、エントランス広場の中心に差し掛かった頃か。俺の耳には聞き覚えがある声が入り込んだ。
声の主を探し、辺りを見回す。すると、椅子に座った幸子の姿がそこにはあった。
「ん? なんだ、まだ居たのか」
「まだ居たのかって、酷いじゃないですかプロデューサーさん! ボクは帰るだなんて、一言も言ってませんでしたよ」
そう言われ、なんとなく先程彼女との別れ際の会話を思い出す。すると確かに、彼女は帰るなどとは一言も言っていなかった。
「……それじゃあ、俺にまだ何か用でもあったのか?」
「はい! ボクはやっぱり気が変わりました! 帰るのは止めです」
そう言うと彼女は、満面の笑みを浮かべる。
「ボクはプロデューサーさんと会ったばかりで、プロデューサーさんのことをまったく知りません! だから、今から色々話を聞かせてください!」
「……俺のこと? なんでだ?」
「なんだか、折角カワイイボクとお話ができる良いチャンスだというのに、あんまり乗り気じゃないみたいですねぇ」
俺の反応を見て、笑みを浮かべた幸子は瞬時にして、顔をしかめる。
「いや、乗り気じゃないとかそういうわけでは無いんだが……」
「この後、予定があるようには見えませんが」
幸子に図星を突かれる。
そうだ、彼女と別れたからと言って今日、俺一人でできる予定があるという訳でもない。実際、俺は今すぐやるべき事も無かった為、気分転換も含め中庭の方へと向かおうとしていた。
「それとも、なんです? プロデューサーさんは長時間、健気に帰りを待ってくれていた女の子を、家に返すような人なんですか?」
「……別に、そんなつもりは無いよ。ただ、俺なんかに話を聞いた所で精々、幸の薄い男の何の変哲もない人生くらいしか聞けないぞ?」
「面白いとか面白くないとか、そんなことは良いんです! ボクは、ボクをプロデュースしてくれるプロデューサーさんが、一体どんな人なのか知りたいだけなんですから!」
そういうと彼女は椅子から立ち上がり、俺の方へと歩いてくる。そして俺の手を握りしめ、強く引っ張ってきた。いくら少女とはいえ、中学生の子ともなるとその力はなかなかに強い。
「まあ別に、今日はこの後、やることもなくて丁度暇だったし、付き合うのは構わない……って、ああわかった、わかったからそんなに引っ張るなって。俺は逃げないから大丈夫だ」
「そうと決まったなら、話は早いですよ! 何事も、事は急げです! さあさあ行きましょう、プロデューサーさん!」
その表情と声はどこか、とても嬉しそうな感じだ。まるで、その言葉を待ってました、とでも言いたげに。
なんというか、彼女の俺に対する接し方を見る限り、少なくとも彼女から、それなりに好意を持ってもらえているみたいだな。
内心彼女、幸子が俺のことをよく思ってくれているのかが不安だっただけに、安心して胸をなでおろす。
さて、こうして俺は幸子に腕を引かれ、ほとんど無理やりな形で外にへと連れ出されることとなった。そして俺は、浮足立つ幸子に連れていかれるがままに、気が付けばプロダクションの近くにある公園にへとたどり着いた。
その公園はそこそこ広く、昼間ということもあり、広場では沢山の子供たちが元気良く遊んでいる。
「まあ、立ち話もあれですし、とりあえずそこのベンチにでも座って話しましょう! プロデューサーさん!」
「これ、わざわざ連れてこられた理由があるのか……?」
「ふ、雰囲気作りですよ! それに、なんだかプロダクションだと、周りの社員さんの目が気になるので!」
そう言うと幸子は、公園の隅に置かれたベンチの端に座り、自分の横を軽く手で叩いて合図をする。これは、自分の横に座れということなのだろうか。だとしたらなかなかに大胆なことをするものだ。恐らく普通の人間なら、今日あったばかりの人間にこんなことはできないだろうし、しようとも思わないだろう。
俺は彼女の行動に、彼女の素の人懐っこさが表れているように感じた。
「あー……そういうことならじゃあ、遠慮なく座らせてもらうかな」
しかし、いくら仕事上これから付き合っていく人間とはいえ、アイドルの隣に座るとなると、少しだけ抵抗がある。
流石に俺は、中学生の歳下相手に恋愛感情を抱くような人間ではないが、それでも年頃の少女が纏うその雰囲気は、心の波長に乱れを生じさせるには充分だ。
「なんですかプロデューサーさん? もしかして、カワイイボクの横に座るのが恥ずかしいんですか?」
「恥ずかしい……とは違うが、しかし近いものなのかな。やはりこういうのは、何歳になっても慣れないもんだ」
そう言い、俺は苦笑いを浮かべる。
「まあボクはカワイイから、恥ずかしくなるのは何歳になっても当たり前のことですねえ……ってあれ、そういえばプロデューサーさんは、何歳なんですか?」
「……俺か?」
と、幸子は突然話を止めると、疑問の視線をこちらにぶつけてきた。
「……一応、俺はここの人間になって三年、歳は二十三といったところかな。実を言うと俺もまだ、社会人にはなったばかりで、あんまり会社暮らしには慣れていないんだけどさ」
「それなら安心してください! これからは、カワイイボクといつでも一緒に居られるんですから! 例えこの先、どんな辛いことや悲しいことがあっても、ボクのカワイさを見ればすぐ元気になれますよ!」
「……相変わらず、自信満々だな。まあ、その勢いならすぐにアイドルとして売れて、人気者になれるだろうよ」
「自信があるのは当然です! だって、カワイイんですから! それにそもそも、ボクは産まれた時から、既に人気者なんです!」
彼女の発言は一言一言がなんだか面白いことを言う。ナルシストも拗らすと、こうして一つのキャラとして成立するものなんだな。まるで、どこかの芸人か何かみたいだ。
「逆に、何をどうしたらそんなに自己評価を高いまま維持できるんだか。そこまで自分に自信を持たれると、何かしら特別な理由があるのか気になるな」
「ボクに質問ですか? あれあれプロデューサーさん、そんなにカワイイボクのことが知りたいんですか?」
「ああ、俺は君のプロデューサーだからな。これからのプロデュースの参考にもしたいし、できれば君のことは色々と知っておきたい」
実際、彼女のその溢れる自信については、理由を知っておきたい限りだ。そこまで自信を持てるには、何かしら特別な根拠か何かがあるのかもしれない。それが分かれば今後のプロデュースにおいて、彼女の武器として、強みとして、活用できる可能性が大いにある。
「そうですねえ……じゃあ、おねだりしてください!」
「そうか、なるほどな。おねだり……おねだり?」
予想にもしていなかった彼女返しに、俺はペースを崩され反射的に聞き返す。
いや待て、今の流れをどうしたらそうなる。何故そうなった。
「そうです! 質問するということはつまり、ボクのことを今よりももっと深く知りたいということですよね? プロデューサーさん?」
そういうと幸子はスカートの裾を少しめくりあげる。
「物事には、それなりの対価が必要なんです。それに、中途半端な気持ちでボクのことを知られるのは、なんか嫌ですからね! プロデューサーさんがどれくらい本気なのか、試してみます!」
「いや……待て、ちょっと落ち着け、ストップ! ステイ!!」
「さあ、早く!」
これはもしかして、彼女なりの自分のことをもっと聞いてくれという、本心の裏返しか何かなのだろうか。こんな回りくどいことをして、なんだか素直じゃないな、と思いつつも、しかしそんな彼女の姿が少し可愛く思えてしまう。
だが、そんな感情と共に、俺の中にはもう一つ、別の感情が浮かびつつあった。それは、彼女の困った顔が見てみたい、というちょっとしたいたずら心だ。
俺はその場で身なりを整え、姿勢を正すと、彼女の方を真っ直ぐに向いて行動に移した。
「それじゃあ……お願いします」
俺は声のトーンを落とし、真面目な雰囲気を作り出すと、深々と頭を下げる。
「……あ、あれ? なんか少し硬すぎませんか? プロデューサーさん?」
本来ならここで、ふざけ半分の答えを返すのが正解なんだろう。少なくとも彼女は、そんな返しを待っているように見受けられる。だが、意表を突いた俺の対応に、狙い通り幸子は気まずそうな様子を出している。
「まあ……そこまでして、そんなにも聞きたいって言うなら……しょうがないですねえ、少しだけ聞かせてあげないこともありませんよ?」
しかしそこは彼女、このあと面白い反応が見れるかと思ったが、この通りスルーされてしまった。困惑したのは一瞬で、また彼女の幸子ワールド全開だ。
「それで、プロデューサーさんは、ボクの自信の理由が知りたかったんですよね?」
「……あ、ああ。そうだ」
すると彼女は、俺の質問に対し何故そんなことをわざわざ? といった表情をする。
「そんなの、決まっているじゃないですか」
そう言うと彼女は、俺の目を見て話を続ける。
「ボクがいつも自信満々な理由はですねえ……」
「ボクがいつも自信満々な理由は……?」
しばしの沈黙、その間俺たち二人は黙って互いを見つめ合う。そしてそれから数秒後、幸子は勿体ぶるかのようにしながら口を開いた。
「勿論、ボクがカワイイからですよ!!」
「……」
知っていた。いや、どうせそんな答えなんだろうなと思っていた。俺はそれ以外の答えが出てくることを期待していたが、そんな可能性は元より存在していなかったようだ。
「いや、言うと思っていたが、まさか本当に言うとはな」
俺には、超能力者の素質でもあるのだろうか。頭の中で考えた言葉と一語一句違わずに、彼女は返答を返してきた。そのあまりにもの一致ぶりに、口からは乾いた笑いが小さく漏れ出す。
「それってつまり、プロデューサーさんは既に、カワイイボクの魅力に気がついていたってことですか? さすがボク、口に出さなくても自分の魅力を伝えられるなんて……天性の才能ですねえ」
「いや、まあ……そうだな。もうそういうことにでもしといてくれ」
ダメだ、俺は彼女のプロデューサーなのに、ずっとあちらのペースに乗せられてしまっている。話の流れが何を言っても、彼女の自画自賛へと収束してしまう。まるで、会話のブラックホールか何かのようだ。
「それじゃあ、そんなボクのカワイさをわかってくれるプロデューサーさんには、カワイイカワイイボクから、ご褒美です!」
「……へ? ご褒美?」
そう言うと幸子は突然、肩にかけたポーチ鞄の中から、何かを取り出した。それは、可愛い柄のカバーが付けられた、彼女のスマートフォンだ。
「さあ、プロデューサーさんも早く、携帯を出してください!」
「携帯? いきなりどうした」
俺も幸子に促され、ポケットの中からスマホを取り出す。すると俺のスマホを見た幸子は、満面の笑みを浮かべる。
「フフーン! なんと、プロデューサーさんには、ボクの電話番号とメールアドレスをあげちゃいます! こんな美少女の番号とメルアドをを手に入れられるんですよ。喜んでください、プロデューサーさん!」
「そうか、そういえばまだ、連絡先を交換していなかったな。わかったよ」
「プロデューサーさんってば、なんですかその薄い反応は。ここはもっと全身を使って、これ程までかってくらい喜んでもいい所ですよ! カワイイボクの連絡先なんて、普通手に入らないものなんですから!」
「はいはい、そりゃ嬉しいな」
「……本当に嬉しいんですか? 反応がわざとらしくありません?」
幸子は俺の反応に不満があるらしいが、そんなことはお構い無しに、俺は彼女と連絡先を交換した。
時代がスマートフォンに移ってからは赤外線通信とはいかず、手動で入力しなければいけないため、少しだけ手間と時間がかかる。
「いや、うん。入力終わったぞ、終わったけど……」
俺は初めて見た時、そのメールアドレスに驚いた。
『EverydayKawaiiBoku』
まさかとは思っていたが、メールアドレスまでこの始末とはたまげたな。流石に笑えてくる。
「どうかしましたか? プロデューサーさん」
「……いや、何でもない。ただ、少しツッコむのに疲れてきただけだ」
たまに自分の本音が出そうになり焦る。というか、そろそろ言ってしまっても問題はない気がしなくもないが……
「さて、話はこれで終わりじゃないですよ! まだまだボクも、聞きたいことが山ほどありますから!」
「はいはい、どうせ嫌だと言っても、勝手に続けるつもりなんだろ?」
「勿論、その通りです! プロデューサーさんに、拒否権はありません!」
こうして幸子と話はととまることを知らず、このあとも小一時間程続いていくことになるのであった。
最近幸子の事が気になって夜も眠れないですねぇ……
もしかしなくても病気を疑うレベル……
文章の改行や空白
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