アイドルマスターシンデレラガールズ 〜自称天使の存在証明〜 作:ドラソードP
久しぶりの幸子です。
ちゃんと主は生きています。
第24話
幸子の部屋(後編)
で、あるからして。毎度お馴染みでもない幸子の部屋は後半戦へと入っていった。
俺も話を聞いてなんとか彼女、森久保乃々についてようやく理解してきたが……まあ、悲劇のネガティブ少女といった感じの印象だったな。
いきなり街中でばったり出会ったプロデューサーにスカウトされ、半無理矢理アイドルにさせられた挙句、両親は勘違いで大喜び、結局しぶしぶアイドルになるしかなくなるも、そんな熱血プロデューサーだから特訓内容も厳しい。そして今日もまた過酷な特訓をさせられそうになった彼女は逃走、いつもの隠れ家にしていた空き部屋に逃げるもあら不思議、そこにはなんと最近知り合った同期のアイドルとそのプロデューサーが。
神様は本当に残酷だな。こういうか弱い子には試練を沢山与える物だ。それに比べうちの幸子と言ったらドヤ顔、ドヤ顔、ドヤ顔のバーゲンセール、ドヤ顔の押し売り、ドヤ顔の叩き売り、いやもはやドヤ顔の抱き合わせ商法だ。更にドヤ顔だけでは無く、ちゃんと誰が見てもカワイイと言うであろう完璧な容姿も持ち合わせており、そのカワイさを際立てる一々あざとい行動、更に親や周囲環境にも恵まれ、悩む事なんて乃々とは正反対で一つも無さそうな生活をしている。ただ、色々恵まれているとは言ったが唯一、神様は幸子に謙虚さを与えるのを忘れていないだろうな、と思うことは度々あるが。
「さあ乃々さん! ボクに続いて言ってください! もりくぼはカワイイ! はい、りぴーとあふたみー!」
「もりくぼは……カワイイ……うぅ……」
「なんですかその声!! このままだと何も変われないですよ! それにもっと笑ってください! 笑顔、笑顔ですよ!!」
さて、結局幸子の番組ごっこの内容はこの通りグダグダになってしまった。急に幸子は『乃々さんにアイドルをやる気になってほしい!』とムキになり始め意地でも自信をつけさせようとしている。
しかし、そんな幸子の努力虚しく、乃々はまったく考えを改める様子が無かった。幸子は乃々の態度に相当もやもやしているのか、まるでトレーナーさんの様に厳しく指導している。恐らく幸子自身がポジティブだから、ネガティブ思考がゆるせないのだろうか。
「さあさあ、自分に自信をつけるのもやる気を出すのもまずは笑顔からですよ! さあカワイイボクに続いてやってください! カワイイボクはカワイイ!!」
違う、そうじゃない。幸子の笑顔は笑顔というよりいつものドヤ顔だ。
「別に、もりくぼは変わるも何も、最初から変わる気はありませんし……やる気をつけたって勝てないものには勝てませんし、ああ……やっぱり早くアイドル辞めたい……」
「はいそこ、つべこべ言わないでください! さあ早く!」
「うぅ……何で私はこんな目に……かわいいもりくぼは……かわいい……うぅ……やっぱりかわいくないしむーりぃー……!!」
乃々は顔を真っ赤にしている。余程恥ずかしいのか耳まで赤いのがよくわかる。
「レッスンの時も思っていましたけど、乃々さんはなんですぐにこうなっちゃうんですかねえ……」
「いや、そもそも私は……もりくぼはアイドルを頑張りたいわけじゃないし……沢山の人とか笑顔とか特に苦手ですし……マラソンなんか走りたく無いし……あうぅ……」
「それじゃあ他にやりたいことや、将来の夢とかは無いんですか?」
「別に、将来夢とかは無いです。それでもと言うなら……例えば森で小細工を作る仕事とか、お弁当におかずを一種類だけひとりで詰め続ける仕事とか……」
「本当に人と接したくないんですねえ……」
乃々は気が付くと体育座りの体勢で部屋の隅へと行ってしまっていた。顔を足で隠す様に座っており、恐らく本人は色々辛いのだろうが、第三者の俺からするとそんな乃々の様子がなんだか小動物のようで可愛らしい。
「うぅ……これじゃあマラソンを走っていた方がマシだったかも……もう嫌だ……」
「何言ってんですか! まだまだ特訓はこれからですよ! さあまた……」
「まあ、もうその辺にしといてやれ幸子。彼女、幸子の勢いに完全にビビってんぞ」
俺は二人の様子を眺めていたが、流石に幸子の暴走が目に余ってきたので静止を入れる。幸子は仕方ないですねとソファに再び座り込むが、乃々は遂に部屋の隅から動かなくなってしまった。
「……もりくぼは静かに暮らしたいだけなのに……何で皆してもりくぼを、人前に無理やり引きずり出して見世物にしようとするんですか……もりくぼが何をしたっていうんですか……」
「見世物……か」
俺は乃々の言葉が引っかかる。そして俺は先程から思っていた、乃々にどうしても言いたかったことを口にする。
「まあ、聞いた限りだと別に俺は皆乃々ちゃんが嫌いで、そういうことをやってるわけじゃないと思うんだけどなあ……」
実際本人は気がついていないみたいだが、この子は幸子と同じで本当に周りから愛されていると思う。その愛の形こそ一見違うように見えるが、本質は幸子に向けられているそれと全く同じだ。
現に、彼女のプロデューサーだって初見で彼女の魅力を見抜いたわけで、そのプロデューサーは彼女を本気でアイドルにしたいらしいし、親御さんもそんな内気な彼女が……まあ、勘違いだが変わろうとしているのを聞いて応援しようとしている。それに、あの自分しか頭に無い幸子ですらなんだか彼女のことを少し意識しているみたいだ。
俺は乃々に対して、益々興味が湧いてくる。なんだか彼女がここでアイドルを辞めてしまうのが、色々もったいない気がするのだ。ある意味、俺も幸子みたいに無理やりな行動などにこそ移さないが、実際彼女の周りにいる人の意見と同じで、こんな彼女だからこそ将来的にアイドルの世界に揉まれて変われる、そんな様な気がしている。彼女は少しネガティブだが、それさえ治ればまた、幸子や飛鳥の様に将来的に輝けるアイドルの原石なのかもしれない。
「俺は君のことをまだあまり知らないし、君のプロデューサーでもないから無理強いはしないが、もう少しアイドルを続けてみたらどうなんだ?」
「いや……でも、もりくぼも人前には出たくないし……ファンの皆さんもこんなもりくぼは見たくないと思いますし……お互いに得をしないというか……」
「いやいや、君の事が好き、応援したいと思うからファンなんじゃないか。今はまだ居なくとも、きっといつか君にもできるさ、沢山のファンがね」
「……それならじゃあ、もりくぼにはファンはつかないですね……」
しかし、とは思ったものの、本当にこの子の発想はすぐにマイナスの方向に行くな。もしかして性格が変な磁力でも帯びているのじゃないだろうか。そうとしか思えないほど、彼女の思考はすぐにネガティブな方向へと言ってしまう。
「……君がやめたいと言うなら、俺は幸子と違って別に無理に止めはしないよ。まあそれでも一言言わせてもらうとすれば、別に、俺からしたらそんな君も魅力的だとは思うんだがなあ……」
「えっ……あっ……そ、そんな魅力的なんて……そんなこと……あうぅ……」
彼女は遂に壁の方を向いてしまった。再び耳が赤くなっているのに気が付く。
そして次の瞬間、幸子の鋭い瞳が俺を捉えたのが視界に入った。そう、俺は失言を言ったことに気がつく。
「プロデューサーさん……! 何でボク以外の他のアイドルを口説いているんですか……!!」
「あ……い、いや……す、すすすまない、い、今のは語弊があった。別にそういう気があって言った訳じゃないし……そ、そもそも別のプロデューサーの担当に俺が手を出すわけないだろ!!」
俺は必死に幸子に説明する。しかし、幸子は完全に怒りきっている。乃々は壁を向いて動かなくなってしまっているし、何なんだこの状況は。
「ま、まあとにかくそろそろ時間も時間だし、プロデューサーさんにも迷惑かかるだろうからもう戻ったらどうだ? これからについては第三者の俺に言うより、乃々のプロデューサーさん自身に言った方が良いだろうし。もし、一人で行くのが不安なら俺達が事情説明してあげても良いぞ?」
「うぅ……わかりました……長居してご迷惑をかけてすいませんでした……」
乃々は立ち上がりオドオドしながらも立ち上がり頭を下げる。幸子と一緒でこういったマナーができるあたり、本当に根はいい子そうなんだよな。だからこそ、俺は彼女を応援してあげたい。
「そんな頭に下げなくていいよ。うちに来る子みんなに言っているんだが、うちは結構オープンだからね。またいつでも気軽に来てくれていいよ? まあ……君にとっては幸子が居て来づらいかもしれないが……」
「ちょっとそれどういうことですかプロデューサーさん! むしろカワイイボクを目的に来てくれてもいいくらいなんですからね?」
「はいはいカワイイカワイイ……」
なんだかんだ彼女、乃々もこういった反応がいつかできるようになったらいいのかもな、と思った。是非、そのうち彼女が本格的にアイドルをやる気になってくれたらその時は幸子や、できたら飛鳥なんかと三人でグループを作ってみたら面白そうだ。
と、こんな事を考えていると不意に乃々が何かを小声で何かを呟いていた。
「……あと、幸子さんのプロデューサーさんがそこまで言うなら……もう少しだけアイドルを……」
乃々が何かを言おうとした次の瞬間、外で聞き覚えのある威勢の良い声が聞こえた。
「森久保ォ!! どこだー? どこに隠れているんだー?」
「お、噂をすると。丁度時間的に良さそうだな」
「ひっ……プロデューサーだ……」
俺は扉を開ける。
廊下の先を見ると、そこには身長が二メートルはありそうな巨大な影が立っていた。
「あ、すいません!! うちのアイドルを知りませんか? 身長はこれくらいで巻髪の大人しい子なんですが……」
「ああ、その子ならうちで預かってますよ。ほら、そこに居ます」
俺は部屋の方を向く。すると乃々のプロデューサーは飛びかかるように乃々の方へと向かっていった。
「ひいぃ!?」
「森久保ォ!! いきなり逃げ出すだなんて本当に森久保はシャイだなぁ……ハッハッハ!! よし、行くぞ!! 午後のトレーニングの時間が無くなっちゃうからな!!」
その巨体のプロデューサーは丸太を抱えるみたいに乃々を軽々と抱えあげた。どうやら乃々の言っていた事は本当みたいだった。
「すみません、うちの乃々がご迷惑をおかけしました!! 私はこの子の担当プロデューサーです!! 面倒を見てくれてありがとうございました!! また機会があったら会いましょう!! それでは、さようなら!!」
そう言うと乃々のプロデューサーはそのまま荒れ狂う暴風のように走り去っていった。
「むりむりむりむりいいいぃぃぃ!!!!」
「さようならー! 乃々さん! また明日会いましょう!」
「頑張れよー!」
「ひいぃぃぃぃ! ……」
廊下には乃々の叫び声が無限にこだましている。出会いが突然なら、別れも突然だった。
「……行っちゃいましたね、乃々さんとプロデューサーさん」
「……そうだな」
俺達はまた二人っきりになった部屋に立ち尽くしている。
「……なんか、今日は疲れたな」
「……休みの割にですね」
俺達は開きっぱなしのドアを閉めてとりあえずソファに座った。
こうして、逃避行の美少女こと森久保乃々の話はとりあえず終わりを告げ、幸子の部屋はエンディングへと向かったのであった。
いきなりですがお気に入りが100を超えました!
私、正直ここまで伸びるとは本当に思っていなかったので感謝感謝の感謝です!(どうせ1桁で終わると思っていた)
これを記念して次回から並行してお気に入り100記念特別話を書こうと思います!
ここまでこれたのも作者のモチベが続いているのも幸子がカワイイのも皆さんのお陰です! ありがとうございます!!
これからも執筆、頑張りますので頑張ります! (卯月ダブルピース)
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