アイドルマスターシンデレラガールズ 〜自称天使の存在証明〜 作:ドラソードP
第30話
再来の女神とプロデューサー
俺はすぐさま人波に走り戻った。
幸い幸子はあの白い服のおかげで目立つし、それにあの幸子のことだ。どうせ見つからなくてもすぐにひょっこり現れるだろう。そう最初俺は軽く考えていた、いや考えて自分を落ち着けようとしていた。だが、探す時間が一分、五分、十分、三十分と経つほどに俺の中の焦りは確実に増して行く。
この渋谷の溢れる様な人波は、あの幸子の目立つ白い姿をかき消すのには容易だった。白い服に帽子の人なんて、それこそこれだけの人数が居ればいくらでも存在する。
それに恐らくあの幸子のことだ、人波の外に出ることができず、そのままどこかに流されている可能性すらある。その場合、更に合流が難しくなるだろう。俺はますます時間が経つ焦りから冷静さを失っていく。
俺は人波をかき分けるように走り、渋谷の街を端から端まで探していく。だがそこは何であろうと渋谷だ。そう簡単に走って、すぐ回れる広さでは無い。更に、今日買った様々な物や幸子の荷物を持っているせいで動きに一々制限がかかる。そして真夏の炎天下が俺に止めを刺す。
正直舐めていた。テレビやインターネットで見ているよりも遥かに人も多いし、広い。都会のことをよくコンクリートジャングルなんて訳す人も良くいるが、こうなるとまさに広大なジャングルの様だ。
正直、こんな限定的な条件を想定することなんてできなかったが、それでももう少し対策や、こうなった場合の事を考えておくべきだったと後悔する。なんたって相手は幸子だ。不測の事態はいくらでも有り得た筈なんだ。
幸子がいなくなったのに気が付いてから四、五十分程は走っただろうか。極度の焦りや、急激な運動、真夏の暑さにより時間感覚が曖昧だ。それになんだか、急に全身に疲れが襲ってきた。
俺は幸子が気を利かせ待ち合わせ場所に帰ってくれている可能性も考え、一応確認のため今日の待ち合わせ場所だった石像の元に向かった。だが、そんな淡い希望もすぐに潰える。
「クソッ、ここにも居ないのか!!」
石像の周りには誰も居なく、ベンチにまちまちと人が座っているのが見受けられるだけだった。俺はとりあえず一旦冷静になる為に、自動販売機で水を買い、空いていたベンチに座る。
額からは汗が滝のように流れる。だが、体はどちらかというと寒いともとれなくもない。まさに、冷や汗をかいている。中学二年の少女が荷物も、携帯も、さらにはお金すら、何も持っていない状態で渋谷の真ん中ではぐれたら果たしてどうなるものか。
俺はプロデューサーだ、大袈裟かもしれないが彼女を、少なくとも『幸子』という少女を預からせてもらっている身だ。ようやく任せてもらえたアイドル、それも本来だったら俺の手に余りそうな素質を持っている子だ。仮に彼女に何かあってからでは何もかもが遅い。
『新米のプロデューサーが休日にアイドルと出掛け、その先で不注意によりアイドルが何かしらの事件、事故に巻き込まれた』
恐らくそこまでの大事になれば、彼女のプロデュースをなかったことにされる事だって充分に有り得る。それどころか俺の、いや幸子の夢が永遠に潰えてしまう可能性すらある。
どうやら最悪の場合、警察に相談して探してもらう事等も視野に入れる必要がありそうだ。そうすれば夢を絶たれるのは俺一人だけで済む。彼女だけは無事にいて貰える。
俺は再び幸子を探しに行こうとベンチから立ち上がろうとする。すると横から、聞き覚えがある声がした。
「ふふっ、大変そうですねプロデューサーさん」
「……ん? あなたは……確かこの前の」
隣には確かに数十秒前まで誰も座っていなかった。だが今、そこにはこの前事務所で出会ったあの自称・女神の姿が存在していた。
「お久しぶりです、プロデューサーさん。プロデュースの方はどうですか?」
「まあ、見ての通り色々やらかしてしまって……」
「やらかしてしまった、ですか?」
「それが、うちの担当と休日で買い物に来ていたのですがはぐれてしまって……」
俺は自称女神に経緯を話す。この前のあの不思議な出来事を思い出し、彼女なら何かいい案や何かをくれるでは? と咄嗟に思ったからだ。彼女は少し変わっているがおよそ悪い人ではない。そうなんとなくではあるが、理解していた。
「それは大変でしたね……」
「それで幸子を……丁度これくらいの身長の、ちっちゃい女の子を見かけませんでしたか? 白い帽子に白いワンピースの」
「うーん……すみませんが、私は見かけませんでしたね……」
「そうですか……」
お互いにうまく話し出すことができずに、会話が途切れる。俺は焦りから視線が泳ぎ、街並みを眺めてしまう。
「ところで、前から気になっていたんですが貴方は一体……やはり前に一度会ったことがある気がして……」
「さあ、私は貴方と出会ったのはこの前が初めてですが……」
「そうですか……」
何か妙だ。会った、というよりは正確には見た事がある気がする。ちょっとしたど忘れのような感じで思い出せないのだが……
「っとしまった、こんな所で呑気に話している場合では無かった!! すみません、早く幸子を探しに行かなければ!」
俺は思い出したかの様に立ち上がる。だが何をすれば良いのか、どこへ行けばいいのかわからずその場で立ち上がったは良いが、そのままになってしまう。
「まあまあ、そんなに焦らないでください。焦ったところで汗をかくだけですよ?」
「寧ろ今のギャグで汗が冷めましたよ!!」
俺は再びパニックに陥りそうになる。幸子を見失って、もうそろそろ一時間が立つ。あれだけ晴れていた空の雲行きも予報の通り、少しずつだが悪くなってきており、雷雨を警戒してか駅や建物に向かう人も気のせいか多くなってきた気がする。
「それじゃあそんなプロデューサーさんに……はい、これを受け取ってください」
と、不意に自称女神が何かを差し出してきた。それは紙切れか何かだろうか。数字のようなものが並んでいるのが見受けられる。
「これは……?」
「ふふっ、とりあえず時間がありません。その電話番号を近くの公衆電話からかけてみてください。きっと、貴方にとって良い結果となると思います」
そういうと自称女神は空を指先しそちらを見るように指示してきた。
「あの天気予報は少し外れています。雨は多分あと、三十分もすれば降ってくるでしょう。とにかく早く公衆電話を見つけ出し、先程の電話番号にかけてください。そうすれば……」
声が急に止まり俺はベンチの方を見る。するとそこには自称女神の姿は影も残さず無くなっていた。
辺りを見渡してもこの前と同じく、まるで夢でも見ていたかのように彼女の姿は消えている。しかし手にはちゃんと謎の電話番号が書き記された紙切れが握られていた。俺はひとまず女神の警告を信じ、近くの公衆電話を探すべく再び走り始めた。
それからしばらくして、すぐに公衆電話を見つけた。俺は何かから逃げるかのような勢いで電話ボックスに入ると素早く硬貨を投入し、紙切れに書かれた電話番号に電話をかける。
一体誰に繋がるのか、果たしてこれに何の意味があるのかわからない。まさか質の悪いイタズラじゃないか、そうも思った。だがこういう状況になるとそういったものでも利用したくなるものだ。まさに、藁でも縋る気持ちという訳か。
と、しばらくの呼び出しの後に誰かが通話に出た。果たして電話に出たねは誰なのか、どこに繋がったのか、俺は高まる鼓動を抑えその声を聞いた。
『もしもし? もしかしてプロデューサーさんですか?』
俺はその声を聞き一瞬唖然とした。何故って、あんなに死にものぐるいで探していた人が何事もなさそうに電話に出たからだ。
「幸子!!」
『キャッ、いきなり大声でどうしたんですか! まったくか弱いボクを勝手に置いていったくせに……』
「悪かった……でも良かった……無事で……」
『まったく、ボクを置いて勝手にいなくならないでください!!』
「ああ……本当にすまなかった……」
俺はある意味泣きだしそうになる。何故って、死ぬほど心配していた反動だ。あれだけ心配していたのに、これだけ何事も無かったことへの安心だ。
「とりあえず、荷物も財布も携帯も無くて大丈夫だったのか? と言うか何で幸子にこの電話は繋がったんだ?」
『大丈夫も何も全然平気ですよ! 財布だったら鞄ではなくポケットに入れていたので。それに目的のお店、先に見つけちゃったからもう買っちゃいましたよ?』
「えっ……あ、ああ」
『あと何で幸子に繋がったってプロデューサーさん自分の携帯にかけているんですよ? もしかしてよくわからないでとりあえず自分の携帯かけたんですか?』
「えっと……あ、ああそうだ」
そうか、幸子は俺のスマホを持っていたわけだからそこにかければ普通に繋がったのか。だが……俺でも覚えていない、俺の変えたばかりの新しいスマホの番号をあの自称女神はどうやって……
やはり謎が謎を呼ぶ。流石は謎の女神だ。
「とりあえず、早く合流しよう。今幸子はどこにいるんだ?」
『ボクですか? ボクは今センター街の……ってフギャッ!?』
幸子が喋っていた次の瞬間、謎の衝突音と共に幸子が声をあげる。
「……おい、おい幸子?」
『おいゴラァ!! どこ見て歩いているんだガキ、ぶつかったじゃねえか!!』
『えっ……あっ……あのー……』
「おい、おい幸子!!」
『おっと、痛たた……これは骨が折れちゃったかなあ……どうしてくれるんだい?』
『そ、そんな!! 絶対今の衝撃位で折れるわけ無いじゃないですか!!』
『ああん? 歩きスマホをしておきながらなんだその態度は、話があるからちょっとこっちこいや!!』
『キャッ!! やめてください!! だれか、誰か助けて!! プロデューサーさん……プロデューサーさん!!』
「おいてめえ!! どいつだかしらんがうちのアイドルに何してやがる!! 」
無情に電話ボックスの中に俺の声が響く。受話器の向こうからは周りの音と幸子のだんだんと小さくなっていく声が無情にも聞こえてくる。
体が凍りついたように冷たく感じる。どうやら安心したのも束の間、想定していた最悪の事態になってしまった。とにかく急がなければ、今度こそ本当に幸子の身が危険だ。
俺はすぐさま電話ボックスを飛び出した。幸子の最後の言葉では『渋谷のセンター街の中』と推測できる。
気がつけば、俺の体は考える前に商店街へと、文字通り全力で走っていた。
「幸子……待ってろ幸子ッ!!」
女神が言っていた通り、少しずつ陽の光は厚い雲により遮られ陰り始めた。まさにこの状況を示しているかのようだ。
雷雨、そんなことは既にどうでもよかった。今の俺にはただ、俺が行くまで幸子に無事でいて欲しい、そう願い走ることだけしかできなかった。
実はこの話は本来漫画として書きたいのが本心でした。
と言うか小説を書いている理由が絵が下手で書けないから、というのが実は最初は本心でした。
しかし書いているうちに文字だけで表現をする限界を見てみたくなり、気がついたら今に至っていました。
次回、渋谷編完結。
謎の当たり屋に絡まれた幸子は果たしてどうなっちゃうのか、プロデューサーはシンデレラを助けにくる王子様になれるのか、1章前半最終回です。
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