アイドルマスターシンデレラガールズ 〜自称天使の存在証明〜   作:ドラソードP

38 / 76
第31話 カワイイボクとプロデューサーさん

第31話

カワイイボクとプロデューサーさん

 

 

 俺はただひたすらに、彼女の元へと走った。渋谷のセンター街へ向け、荒れ狂う風の如く。今にも肺が千切れ、心臓が爆発してしまいそうな感覚がする。

 すぐそこに迫った雷雨の天気予報が幸をしたのか、センター街には先程の様な人混みは無く、そのお陰で俺は遠慮なく全力を出し走ることができた。電話越しの音だと、そこまで人通りが少ない道では無かった筈だ。恐らく、このまま道なりに行けば何かしら手がかりがあるだろう、そう俺は思っていた。

 そして案の定俺の勘は当たり、しばらく進むとそこには俺のスマホが落ちたままになっていた。そしてスマホが落ちている近くで、周囲の店の店員と思われる人達が集まりざわついているのがわかった。

「あの、すいません。この辺で白い帽子とワンピースの子を見かけませんでしたか?」

「ああ、居たよ。だが少し前に高校生位のいかつい不良に因縁をふっかけられて連れていかれてしまったのだが……」

「クソッ、遅かったか!!」

「一応私達も止めに入ったのだがね、その不良は止めに入った男性を殴り飛ばして行ってしまった……」

 と店員が視線を向けた方向を見ると頭を氷で冷やしている男性が座っていた。相当思いっきりやられたのだろうか。顔は虚ろで座っているのがやっとといった感じだ。

「……君は、もしかしてあの子の知り合いか、もしくは家族の方かい? なら、気持ちは分かるが助けに行くのはよしておいた方が良い。最近は変な若者が渋谷あたりに良く居るからねえ。一応警察にはすぐ通報したから、すぐに犯人は捕まるはずだ」

「……少女が連れていかれた方を教えて欲しい」

「しかし……」

「俺は……彼女を助けに行かなければならない。それが……アイドルである彼女のプロデューサーとしての使命だから……」

「アイドル? プロデューサー? すまないが……君は一体」

「お願いします、教えてください」

「……わかった、教えよう」

 店員の男性は俺に幸子が連れて行かれた方を教えてくれた。どうやらすぐそこの路地を曲がって行ったとのことらしい。

「そこまでしてあの少女を助けに行こうとするとは……本当に君は何者なんだ?」

「俺ですか……? まあ、そうですね……俺は……」

 

 俺は?

 

 俺は彼女の何なんだ?

 

「俺は……」

 そんなの、決まっている、

「……俺はプロデューサー、いずれは日本中に知られるトップアイドルこと、輿水幸子のプロデューサーとだけ名乗っておきます」

 俺はそれだけ言い残し路地の方へとすぐさま走って行った。

「輿水……幸子……? そしてプロデューサーか。なんだかよくわからんが、若いって羨ましいなまったく」

 路地の先は人気が少なく、まあこういった展開の定番といった感じの場所になっていた。

 俺はあらゆる五感を研ぎ澄ませながら、少しずつ奥へと歩いて行く。するとしばらく進んだ所に曲がり角があり、そこの先から声がしている事に気がついた。

「さあどうする? 払える金が無いならその身体で払ってもらっても良いんだぞ?」

「だ、誰がボクのカワイくて大事な身体を貴方みたいな人に!!」

「貴方みたいな人? ふざけんじゃねえぞガキが!!」

 男は廃材の様なものを持って振り回している。今の所幸子には外傷は無いみたいだが、このままだと幸子に危害が及ぶのも時間の問題か。

「ひいっ……助けて……誰か助けてぇ……」

「おうおう、さっきまでの威勢の良さはどうした? 良い顔してんじゃねえかほら」

 幸子に指一本でも触れてみろ。俺は貴様を法の許す限りで痛めつけてやっても構わないんだぞ? しかし、とは頭の中で考えつつも、では実際どう動くか。

 本当なら幸子と俺の立場上、あまり無闇な戦いは避けたいのも事実だ。それに、本来であれば空手とか柔道みたいな武道の技は、どんなクソ野郎であれ一般人に使いたくないものなのだが。

 まあでも見たところ、相手は見た目が少々派手な所以外は高校生くらいのガキだ。大人である俺が脅せばなかなか効きそうな物だが……

 何かいい物は無いか、そう俺は考えた。そしてふと、咄嗟に手に持った紙袋の中身に目がいく。

「サングラス……その手があったか……」

 俺は咄嗟に機転を利かせて幸子が買ったサングラスを取り出し身に着けた。何故わざわざサングラスを身に着けたのか、先程幸子が『プロデューサーさんのセンスは独特』と言っていたのは覚えているだろうか。

 そう、今明かそう。なんと俺の格好はアロハなシャツに帽子、といった姿なのだ。なんというか夏だから少し挑戦してみたかったというか……今年の流行り、みたいな雑誌を見ていて気に入ってしまったというか……

 まあ今はそんな事はどうでもいい。つまりはその格好にサングラスをかけ、少し服装を工夫して、目つきと声をキツくすれば恐らく、不良の若者一人を脅して懲らしめるには十分かもしれないということだ。

「準備完了……」

 俺はタイミングを見る。いかに幸子へのリスクを低くするか、いかに不良のスキをつくか、俺は息を殺してタイミングを謀る。

「さあ、グダグダ時間をかけても何も変わらないし白黒つけようや、あ?」

「うう……」

 男が幸子に手を伸ばした。それを見た俺は影から身を出す。

「……おいそこのガキィ、その子に指一本でも触れて見ろ。二度とその指と手を使えなくなることになるぞ?」

「ああ? 誰だテメエ」

「へ……?」

 幸子が気の抜けたような声を出す。予想していなかった乱入者に、不良も幸子も困惑している。

「おいなんだゴラァ、文句あんのか?」

「その子、嫌がっているじゃないか。今すぐにその子から離れろ」

 俺は声を低くして威圧をかける。まあこういったことには学生時代に『少しだけ』慣れていたからな。

「嫌がっている? 僕はね、そもそも被害者側なんだよね。歩きスマホをしていたこの子にぶつかられてねえ、骨でも折れたかもしれないんだよ。わかる? この罪の重さ」

 なるほど、話して説得しようと思っていたが、こいつはどうやら相当性根が腐っている人間だな。俺はあまり人前でキレる事はあまりないが、実はどちらかというと短気だ。もしかしたらカフェインの取り過ぎのせいなのかもな。

 とりあえず、主に俺の虫の居所的な問題で、穏便に済ませる事はやはり無理そうだ。こうなったら仕方が無いが、不良にはお引き取り願おうか。

「ね、わかってもらえたおじさん? つまりはさ、悪いのはこの子の方な訳よ。だから邪魔しないでもらえフゴヘッ!!」

 これが本当の『腹=パン』だ。

 古より伝わりし邪なる物を内部から破壊する拳、つまりはイラッと来た奴を爽快にぶん殴るための必殺技だ。

「テメ……エ!!」

 不良は一瞬苦しそうな声をあげ、廃材を力無く落とす……も、案の定よろめきながらすぐに殴りかかってきた。だが俺はその腕を掴むと、その勢いのまま軽く壁の方へと投げつけた。

「そおい」

「ウゴフッ……!!」

 不良は壁にスタントマン顔負けの勢いでぶつかると伸びてしまった。俺はそんな伸びている不良の方へと歩いて行くと、頭を掴み座らせる。

「いいか、次は渋谷の空をフライングインザスカイするハメになるぞ」

「あんた……あんた一体何なんだ!?」

「俺か? 俺は通りすがりのプロデューサーだ」

「プロデューサー? なんでそんなもんがこんな技を……」

「若僧よ、人を見た目や職業で判断するな、良いな?」

 そう言い俺は不良の顔の真横目掛け拳を振り抜いた。

「……一本」

「ヒェッ……ヒイィヤァァア!!」

 不良は悲鳴を上げながら走り去ってしまった。そこには不良の先程までのイキがった姿は無く、実に滑稽なものだった。

「かー……いってえな……やっぱり成人すると、ちょっと筋トレサボるだけで体力落ちるって本当なんだな……」

 俺はすぐに幸子の方へと寄っていく。だが幸子は混乱して、俺だと気がついていないのか少し後ずさりをする。俺はそんな幸子を見てすぐさまにサングラスを取った。

「ああ悪い、俺だ」

「プロ……プロデューサーさん……!!」

 俺の顔を見た幸子は途端に目に涙を浮かべる。だが強がっているのか決してすぐには泣き出しはしなかった。

「す、す少し来るのが遅すぎませんでしたかねえ……? あと一歩遅かったらカワイイボクがあんなことや……こんなことに……」

「はいはいカワイイボクカワイイボク。なんだ、全然いつも通りで平気そうじゃないか」

「う、うるさいですねえ!! そんなカワイイボクを置いて勝手に行っちゃったクセに!!」

 そう言うと幸子は怒り込んだようにその場にしゃがみこんでしまう。

「ああ! 疲れました!! 疲れた……そうですよ、プロデューサーさんは一人で……ボクを独り置いて……!!」

「……立てるか? 幸子」

 俺はふて座りをしてしまった幸子に手を差しのべる。すると幸子は視線を逸らしながらも、俺の手を取り立ち上がった。

「……ふんっ!」

「……ああ、悪かったよ。怪我とかは無いのか?」

「大丈夫ですけど……プロデューサーさんこそ、ボクに心配かけさせないでくださいよ!!」

「それを言うなら心配させないでください、だろ?」

 そう言い俺は幸子の頭に手を乗せる。

「本当に良かった、お前が無事で」

「うっぐ……うう……プロデューサーさん!!」

 しばらくの沈黙の後、緊張が解れたのか途端に幸子は俺に抱きつき泣き始める。そこにはいつものドヤ顔をした幸子の姿は無く、一人の純粋な中学生の女の子の姿だけがあった。俺はそんな幸子に対して、ただただ頭をそっと撫でてあげることしかできなかった。

「もう二度とボクを置いて一人で先に行ったりしないでください!! ヒッグ……だって……ボクには……アイドルであるボクにはプロデューサーさんしか居ないんですから……グスッ……」

「悪い悪い、ごめんな。幸子には本当に怖い思いをさせてしまった。これじゃあプロデューサー失格だな……」

「そうですよ……プロデューサーさんはプロデューサー失格です……」

 気が付くと予報通り、周りでは雨が振り始めていた。まるで幸子の涙に同調して空が泣いているかの様だ。恐らくこの調子だと、すぐに雨は本降りになるだろう。俺はこのまま雨に濡れて、幸子に風邪をひかせてしまっては悪いと思い、とりあえず一旦この場から移動しようと思った。

「……帰るか、幸子」

「……おんぶして下さい」

「……ん?」

「だからボクをおんぶしてください! ボクは今日は死ぬほど疲れました! これはボクを置いていったプロデューサーさんへの罰です!! さあ早く!!」

「へいへい、わかったよ」

 俺はサングラスを再びかけ、アロハなシャツを脱いだ。そして背中に幸子を背負い、幸子が雨に濡れないようにシャツをかけてあげた。

「……ありがとうございます」

「ん、なんだ?」

「何でもありません! とにかく早く行ってください! カワイイボクが風邪をひきますよ!」

 そう言われて俺は両手には紙袋、背中に幸子、前には幸子の鞄をぶら下げた凄い格好でその場を後した。

 背中では幸子の呼吸が感じられる。良く感覚を澄ますとまだ少し泣いているのか、少しだけ小刻みに揺れているのがわかる。

 向こう側に再びセンター街が見える。これでようやく全てが終わったのか、と俺は少し安心した。

 だが、路地から出ようとしたその時、そこにまた人の影が立っていることに気がついた。

「ああ? まだあの野郎の仲間が居たのか?」

 あいつの仲間だろうか、手には何かを持っており、帽子を被っている。だがそこに立ちふさがる影は先程の不良より数倍の巨体をもっていた。それに気のせいか、服装の雰囲気が何か違う気がする……

「嫌がる少女を男が路地裏に連れて行ったと通報を受けて来たが……どうやら犯人はお前らしいな」

「へ?」

「少女を下ろしなさい」

 俺は言われたとおりに幸子を背中から降ろす。そして次の瞬間、俺は男の姿をよく見て、その正体に気がつく。

「あー、二時十五分、少女誘拐容疑で現行犯逮捕」

 ガチャり、その音と共に俺は手錠をかけられていた。あーなるほど、ようやく状況を理解した。つまり俺の服装、横に居る泣いている少女、そして路地裏、不審者を捕まえるのには十分な状況だ。

「待って、俺は違います!! 悪いのはあっちに逃げていった若者で……」

「話は署で聞こうか、行くぞ!!」

 幸子は突然の展開に唖然としている。俺もなぜこうなったのかわからない。

「ま、待ってください!! その人はボクのプロデューサーで……」

「怖かったんだろうね……ささ、一緒に行こう」

「ち、違うんです!! 話を聞いてください!!」

 こうして、渋谷での幸子との遠征は俺が誤認逮捕されて終わるという予想外な……いや、本当に予想外だな。ま、まあそんなとんでもないオチで終わりとなった。一応この後警察官の人には幸子と二人で事情説明をして、誤解を解く話があったのだがそれはまたの機会に。

 ともかく、幸子には何事もなくて本当に良かった。今回の件で俺は自分がプロデューサーであること、そして彼女を、一人の命を預からしてもらっているという責任を再確認、再自覚させてもらえた。でも少なくとも、俺はもうこんな経験は懲り懲りだ。

 だがこんなことがあったにも関わらず、帰りの彼女を見るとテンションは思ったよりも低くなく、むしろ念願の浴衣を買えたことを素直に喜んでいたのには驚かされた。

 彼女が無事であったことへの安心感と共に、心配かけさせんなよという気持ちも今だからか少しだけ湧いてくる。まあそれも彼女が無事だったからこそ、思えることななかもな。

 あとそう言えばこの事件以来、なんだか幸子の俺へのアピールが更に強くなった気がする。理由は何であれ結果として、彼女との信頼を深めることができたのならそれはそれで良かったとするか。

 というわけでこれが今回の幸子との渋谷遠征の全貌だ。なんだかんだごたごたがあったし、あの女神の件等まだ引っかかることは沢山あるが、来週からはまたアイドル、プロデューサーとしてのお互いが本当にやるべき仕事が始まる。今日幸子にかけた不安の分、俺が頑張ってやらなければな。多分それが、プロデューサーとしての俺の仕事だ。

「そういえばプロデューサーさん」

「なんだ?」

「あの不良にやった技は何ですか? もしかしてプロデューサーさんも昔不良だったとか」

「いやいや違うよ。普通に空手や柔道とかの武術に関わる機会があってさ、まあそれだけだ」

「ま、まあそれなら良いんですけどねえ。でも……あの技はちょっと寒気がしたというか……下腹部に嫌な感じがしたのでなるべくならもうしないでください……」

「あ、ああ。まあわかった」

「それじゃあ、帰りにちょっとだけあのカフェにまた寄っていきます?」

「別に構わないが?」

「フフーン! それじゃあ早く行きましょう!! あと今日の罰としてお代は全部払ってくださいね? ねっ! プロデューサーさん」

「へいへい……」




とりあえずこの話で前半は終了です。
前期最終話と言う事で少し長めの話になりました。
まあむしろここからようやく本当のアイドルマスターになっていく予定ですから……

次回からはようやく入り始めた仕事など話に少しずつ進展があります。
あらたなトレーニング、初仕事、そして……

とりあえずここまでの視聴ありがとうございました。
初の二次創作な為色々と不慣れな事が多い中100人以上の方にお気に入りにしてもらえ作者、万々歳です。
まだまだカワイイ幸子と共に続けていく予定ですので、これからも感想や指摘、ダメな点などは受け付けていきますので皆さん、よろしくお願いします。

※2019年1月19日追記
とりあえず、リメイクはここまで!!
色々と投稿が無かった間に有りましたが、書き始めると終わりがないのでそれは活動報告か新話で。
待たせてゴメンなさい! それではまた自分が会社で闇堕ちしないことを祈って。

文章の改行や空白

  • 前の方が良い
  • 今の新しい方が良い
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。