アイドルマスターシンデレラガールズ 〜自称天使の存在証明〜   作:ドラソードP

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第32話 カワイイボク専用の社畜プロデューサーさん

第32話〈プロデュース9日目〉

カワイイボク専用の社畜プロデューサーさん

 

 

 今日は珍しく朝食を抜いた。

 朝のニュースも見なかったし、電車も一本早くした。更に、いつもならあまり考えないことだが、急いで家を出てきたため鍵を閉めてきたか心配でしょうがない。それもこれも幸子と出会い、プロデューサーになって環境が色々と変わってきたからだろうか。なんだか最近、今まで朝几帳面にやってきていた流れが、煩わしくなってきたのだ。そんなことをやっているくらいなら、早くプロダクションに、あの部屋に行きたいと身体が疼く。

来週の月曜日に迫った幸子の初ライブや中間審査、今後の方針、そして何よりもそんな幸子との距離感などなど、今の俺にはとにかく考えることが沢山ある。その一分一秒全てが勿体ない。

まさか、これまでの自分の人生で、会社に早く行きたいなどと思う日が来るとは正直思ってもいなかった。まあそれ以外にも、今日に限っては更にそれらの理由に加え、あの事件があったその後が気になるというのもあるが。とにかく、そんな感じに様々な事を考えていたらいてもたってもいられず、体が勝手に動いてしまっていたのだ。

 そう、今週は気分を変えてやっていかなければいけない。確かに土曜日は色々あったが、そんな過ぎ去ったことよりも遥かに問題なことがすぐそこに迫っているのだ。

 何せ今日で幸子の初見せライブ(仮称)まであと少しで一週間を切る。一応、ダンスの方は幸子が毎日頑張っていてくれたお陰で割と順調なのだが、まだ歌の方のレッスンと、当日の流れについての打ち合わせが充分にできていない。多分ライブの方の詳細は今日辺りにでも届くと思うが、歌のレッスンは早めに受けさせておかなければいけなさそうだ。もっとも、歌に関してはダンスよりも多少安心できそうなものではあるが。

 さて、そんな感じで今日や今後の流れを考えながら歩いていた所、気が付けばもう事務所の部屋の前に着いていた。ネガティブな時よりもポジティブな時の方が時間は一瞬というが、まさにその通りなんだろう。

 しかし、ここにいざ立つと仕事のことを考えなければなどと思いつつも、あの土曜日の件で幸子に嫌われてしまってはいないか、なんて内心心配な自分もいる。実際すぐに仲直りはしたとはいえ、幸子といつも通りに接することができるか色々と気まずいものだ。

 俺は身だしなみを整え、普段より重く感じる扉を開ける。

「あ、おはようございますプロデューサーさん!」

「ん……? ああ。なんだ、今日は早いな幸子」

 そこには俺の想像や心配に反して、満更でもない感じで何やら作業をしている様子な幸子の姿があった。

「フフーン! ボクはボク自身のことだけでなく、プロデューサーさんの仕事環境のことも考えてあげる優等生ですからね! わざわざ早くから来て、部屋をもっと住みやすく、カワイくアレンジしてみました!」

 俺は部屋を見渡す。すると部屋全体に置物や小物等が色々と追加されており、雰囲気が色々と変わっている。なんというか全体的に女子力が高くなったというか、悪く言えば更に事務所感が薄れて生活感が出てしまったというか……

「もっとじっくり見てください! 一昨日の渋谷で買ってきた物や、自宅から持ってきた物で部屋を色々いじってみたんですよ? まあ幾ら何でも、最初の何も無い状態だと寂しかったですからねえ……」

「へえ、これ全部幸子がやったのか? 悪くない、なかなか良いセンスじゃないか。まあ、最初の殺風景な部屋のままってのもアレだったしな」

 ソファにはクッション等が追加されており、棚には可愛らしい置物が、そして冷蔵庫にはなんだかマグネットみたいなものが沢山貼り付けられていたりもした。他にも俺のデスクの上が整頓されていたり、細かい点を見ると色々と変わっているようだ。

「カワイイボクに合うだけのカワイイセンス……ああ、やっぱりボクって完璧……カワイ過ぎる自分に惚れてしまいそうです……」

「確かに、珍しくこれは素直に褒められることだな……」

「素直じゃなくても褒めてください! いやでも……やっぱり本心で素直に褒めてください!」

 何だか前より、幸子が更に積極的になっているように感じるのは気のせいだろうか。俺に対してだけに限らず、幸子が自分の意思でこういうことをしたのは初めてな気がする。

「あれ、ところでプロデューサーさん。その荷物は一体」

「ああ。実を言うと丁度、俺の方も色々持ってきていたんだよな」

 そう言い、俺は鞄や袋の中から色々な物を取り出す。

「これからの時代はデジタルだ。いつまでも書類整理や仕事の依頼とかをアナログでってのは辛いし、そろそろ仕事内容も固まってきたからまずは自宅の使えそうなノートパソコンを持ってきた」

実際、使おうと思えば前の週の中場位にはインターネット回線は通っていたので使えないことも無かった。だが如何せん、少し前まで趣味で使っていたやつの為、仕事用にするために中身のデータの整理やら何やらに時間がかかっていたのだ。

「あとパソコン以外には予定とかを書くには丁度良さそうな小さいホワイトボードとか、飛鳥や乃々みたいな来客が来た時用に折りたたみ式だけど予備の小さなテーブルとかも有るぞ」

「プロデューサーさん、流石有能じゃないですか! これでようやく、ここもアイドルの事務所感が出てきましたね!」

「まあな。そろそろ怠けたことを言ってられなくなるし」

 俺は持ってきたものを部屋にセッティングしていく。

 しかし、一週間前の薄汚れた部屋とは随分大違いの部屋になったな。こうやって部屋が綺麗になると、気が引き締まると同時にやる気が今までに無いほど湧いてくる。作業に集中したいならまずは環境から、多少手間や時間がかかっても出資は惜しまない方が良い。

「まあ、ざっとこんな所か」

「カワイイボクに釣り合う、カワイイ部屋……完璧です……」

 しかし見た所、幸子は本当にいつも通りの平常運転そうで良かった。あの土曜日の出来事がきっかけで、幸子の方が色々やりずらくなってはいないか、幸子が心に傷を負っていなかったか、色々なことが心配で気が気でなかっただけに、少し安心する。

「……プロデューサーさん? さっきからボクをじーっと眺めてますけど、何か顔についてますか? ああ、もしかして『カワイイ』でも着いていたり?」

「⋯⋯いや、何でもない」

幸子は不思議にそうに俺を見る。本当に満更でもなさそうで、良くも悪くも全てがいつも通りの彼女に、何だか心配したことを損した気分にまでなってくる。

「ところで、体調の方とかは大丈夫なのか? 土曜日は雨に濡れたりしたし風邪とかは」

「何言ってるんですか、カワイイボクは風邪をひかないんですよ? そんな事もプロデューサーさんは知らなかったんですか?」

「それを言うならバカは――」

「何か言いました?」

「⋯⋯言ってません」

「……でも、ボクを心配してくれて気遣ってくれたことは、すこーしだけ褒めてあげますけど」

 まあ、心配に損も何も無い。幸子がいつも通り元気なら、幸子が変わらずのドヤ顔なら、それ自体が幸運なことなんだろう。こうして来る当たり前の日常こそ、もしかしたらちょっとしたことで壊れてしまったりするのかもしれないからな。何も起こらなかったことこそが本当は幸運だったのかもしれない。俺は土曜日、消えかかった日常を目の当たりにして、改めてそれを思い知った。

「さあプロデューサーさん、暗い話はここでさっさと終わりです! 今日の日程を早く教えてください! 一日に二十四時間という限りがある限り、ボクのカワイさを表現できる時間にも限りがあるんですから!」

「あっ、ああ。そうだな、分かった」

俺は幸子のそんな言葉と様子を見て、気持ちを切り替え仕事モードにシフトを入れる。幸子が気持ちを切り替えたというのに、いつまでも引きずっていく必要も無いしな。

「あー……今日はとりあえず、午前中は初めてのボイスレッスンに行ってもらう感じかな。俺の方は来週のライブとか、今後のプロデュースの件で会議や打ち合わせに行ってくる。で、その関係で幸子の方は申し訳ないが、午後も変わらず続けてレッスンになるかもしれない」

 そういえば最近、こんな感じで幸子のボケ? に一々つっこまなくても大丈夫なようになってきた、というか慣れてきた。幸子理論をドヤ顔で言われてもこんな感じで、自然に会話を続けることができる。これもある意味、幸子と打ち解けられたという風に取るべきなのか、それともただの慣れなのか。とにかく、少しずつ進展はしているようだ。仕事的にも、幸子との関係的にも。

「まーたレッスンですか……仕方ないですけど」

「一応、今日会議が終わったら、現状でもできる小さい仕事でも良いから入れられないか相談はしてみるよ。確実に仕事を取ってこれるかはわからないが、少しは期待していてくれ」

「しょうがないですねえ……プロデューサーさんは最近良く頑張ってくれてますから、少しだけでなく結構期待しておいてあげます」

「おっ、ツンデレ幸子かな?」

「う、うるさいですねえ!! やっぱり前言撤回、期待なんてしませんよーだ!」

 とか言いながら、幸子は少しだけ笑みを浮かべた。それはいつものドヤ顔ではなく、普通に彼女なりの素直な嬉しいといった感情の現れだったのだろうと俺は解釈する。今までとは違った話の動きに、彼女なりに少し期待しているのだろう。

「とりあえず、話はそんな所だ。今週は先週から比べて本格的に忙しくなりそうだからお互い、気を引き締めて無理をしない程度に頑張っていこうな」

「何言ってるんですか。頑張るのはプロデューサーさんだけですよ! ボクはただ、自分が思う通りに自分のカワイさをみんなに伝えるだけです!」

「はいはい了解さん。幸子様の仰せのままに」

「ブラック企業の社畜さん並に、死にものぐるいで死なない程度に頑張ってくださいね! ねっ! プロデューサーさん!」

「なんか言ってることが物騒だぞ……」

 こうして俺達のプロデュース二週目が始まった。

 それにしても一週間が今までに無く早く感じる。毎日雑用や書類整理をしていた頃から比べると、そりゃあ確かに疲れるし大変なことも多いが、新たな発見や幸子との掛け合いがあって暇はしない。

 だが逆に、今度は時間が足りない様にも感じてくる。無駄に、流れるがまま過ごしてきたこれまでより一日一日、一分一秒全ての大切さがまったく違ってきたのだ。先程幸子の言った通り、一日には限りという物がある。今までみたいに与えられた仕事をただこなすのではなく、自分から動かなければ何も変わらない現実。それが今まで与えられた仕事しかしてこなかった、これなかった俺には強くのしかかる。

 そうだ、だからこそ幸子だけでなく俺も変わり、一緒に成長しなければいけない。いや、もしかしたら既に、幸子と接することにより変わってきた面もあるのかもしれないな。

 俺はネクタイを締め直す。どうやら会議の時間まではまだ少しあるな。俺は冷蔵庫から珍しくコーヒーではなく栄養ドリンクを取り出すと、一気に飲み干して気合いを入れ直した。

 




デレステ一週年おめでとうございます!(だいぶ遅い)
あと加蓮誕生日おめでとう!(実は加蓮も担当P)

さて話は二週目に入りました。
これからもしかしたら一話一話が長くなっていくかも知れません。
で、その関係上投稿スペースが遅くなったり、誤字が多発したり内容メチャクチャになったり……
ああ! 文章力が欲しい! サンタさん居るなら今年のクリスマスには文章力を、皆が思う幸子の可愛さを最大限に引き出せる文章力を下さい!!

文章の改行や空白

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