アイドルマスターシンデレラガールズ 〜自称天使の存在証明〜 作:ドラソードP
第38話
カワイイボクと城ヶ崎美嘉
「それじゃあ……いただきまーす!」
「いただきます、と」
「はい、いただきまーす」
俺達三人は弁当の封を開ける。途端に周囲には具材の匂いが溢れ出し、俺の腹は急激に減り始めた。
「良い匂い……」
「やっぱり人間、食べていかないとやっていけないな」
「まあね。アタシみたいな忙しい身になると、そういう事は痛烈に感じる様になったかも」
俺たち三人は敷物に座り、他愛のない話をしながら昼飯を進めていく。先程は彼女、美嘉の圧倒的なカリスマ性の前に圧倒された俺たちだったが、こうして比較的日常に近い状態で相対すると、不思議なことにやりずらいとかそんなことは無かった。
「忙しい身、ということは美嘉さんはもう、一日の三食の食事が安定しない程度には忙しいんですか?」
「いやいやいや、まだそこまでじゃないんだけどさ。結構なハードスケジュールとかがあって、やっぱりある程度食べておかないと体が持たないんだよね」
「流石先輩のお言葉、参考になるな」
「先輩って、アタシはまだまだそこまで大した物じゃないよ〜」
等と美嘉は言っているが、纏っていたあの雰囲気は長年やってきた人間のそれだったと俺は思う。それにこうやって謙遜する辺りからも、中途半端な実力での威張りや威圧、といった負の印象が一切伝わってこず、改めて彼女の持つスペックの高さを実感させられる。
「実際この346プロにアイドル部門ができてまだ数年、アタシもまだアイドルになって一年と少しくらいで、最近ようやく仕事の流れを把握してきたくらいだからね。まだまだ先は長いよ」
「一年と少し……意外だな。てっきりもう少しアイドルをやっていそうな貫禄と雰囲気だが」
「そんなにおだてても何も出ないよ?」
「いやいや、本当に凄いと思うぞ? 俺なんてもう社会人になって三年と少しだけど、最近ようやく社会の雰囲気ってものに慣れてきたばかりだからな。もっとも、プロデューサー歴に限ってしまえばまだ一週間弱だけど」
本当、その通りだ。二十三にもなる男ですら社会に、業界にある程度適応するのに数年かかったというのに、一年弱で人気アイドルという地位を得ることが出来た彼女のスペックと素質は、まさに未知数なのだろうと俺は思う。少なくとも普通のアイドルならば、一年と少しアイドルをやった程度でカリスマなんて肩書きは付けてもらえないだろう。
「だって、美嘉はその一年と少しという短い期間だけで、世間の話題になれる様なアイドルに慣れたんだろ? 普通じゃ何年もかけて、人気になっていくのであろうにな」
ただ、もしかしたら美嘉のプロデューサーがとても有能で、その努力もあって彼女が短期間で人気アイドルになれた、という可能性も否定は出来ないが。もしそうだとしたら、俺も負けていられないな。
「そこまで褒めてもらえると、なんだかちょっとだけ照れるかも。まあでも、アタシにはモデル時代のファンとか、経験とかがあったから、多少は普通の人よりは土台が良かったのかもしれないけどね」
「へえ、モデルをやっていたのか。確かに雰囲気とかから、薄々そっち方面に関わっていたりしたのかもなとは思っていたが」
「モデルとは言っても、雑誌の読者モデルみたいなものだったけどね」
初対面の時から感じていたオーラ、それは本来アイドルが持つべきそれとは違っていた。それがなんだかは最初わからなかったがなるほど、つまりはモデルとして鍛えられてきた、経験の賜物だったわけか。それなら一年半で人気のアイドルになれるのも、少しは納得かもしれない。多分モデル時代からの経歴を合わせれば、俺よりも長い間業界に携わっていたことになるだろうからな。
「でもアタシからすれば、アタシよりも多分幸子ちゃんの方こそこれから一気に伸びると思うんだけどな〜。結構素質が有りそうかも」
「なんでだ? こんなちびっこくてぴょんぴょん跳ねるだけのナルシスト系アイドルが?」
「プロデューサーさん、なんだか言い方に悪意しか感じられないんですが」
幸子はこちらに鋭い視線をぶつけてくる。だが俺は事実を言っただけに過ぎない。いくらそんな目で俺を見たところで、幸子には反論に使える材料が一切存在しない。
「まあ、ちょっとだけ先輩ぶらせて貰っちゃうとするとさ、先輩としての勘かな?」
「勘?」
「結構モデル業界で色々な人や、色々な環境を見てきたからさ、意外と結構分かっちゃうんだよね。どんな子が伸びるのか」
美嘉は幸子の顔をじっと見る。その目はアイドルの目ではない、長年をかけて鍛え磨かれてきた、業界人としての鋭い目だった。
「⋯⋯まっ、当たるかどうかは別として、幸子ちゃん大分可愛い顔してるしねっ!」
「フフーン! ありがとうございます! やっぱりボクのカワイさは、自他認める本物のカワイさだったってことですね! プロデューサーさんには、まだまだ見る目が足りないみたいです!」
「⋯⋯一応言っておくが、俺はお前のことがカワイくないとも素質が無いとも、そうは一言も言ってないからな」
しかしそんな幸子の耳には俺の言葉が届いている様子は一切無く、この通り満面のドヤ顔である。本当、自分のことを褒めるワードに対しては、餌にひきつけられたマグロの様にすぐ食いつく。幸子にとってカワイイという言葉は、まさに最高の釣り餌だ。
「それに、カワイイボクは最初から伸びきっている様な物ですから、その点も心配はありませんね! つまりはボクは完璧、究極、要するに女神なんです!!」
「相変わらず身長は伸びないみたいだけどな」
「うるさいですプロデューサーさん!! ボクはまだ中学生なんです!! 成長期なんです!!」
幸子がまた怒って体をポンポン叩いてくる。なんか田舎からきた親戚の子とかを思い出すな。
「フフッ、なんか幸子ちゃんを見てると、うちの妹と被っちゃうな……」
「あれ、美嘉さん妹がいるんですか?」
「うん。多分ちょうど幸子ちゃんくらいの年齢かな? 一応妹もアイドルを目指していて、未来のアイドル候補なんだよね」
「へぇ、姉妹揃ってアイドルとは面白いな。そりゃあ姉のカリスマ性は引き継がれているんだろうな」
「いや、本当のことを言えばまだまだカリスマって自称できるほどじゃないよアタシは」
仮にこれが幸子なら多分、カワイイボクの妹なんだから当たり前です! とかもっとも、姉であるボクの方がカワイイに決まってます! 姉より優れた妹はいません! とか言い出すんだろうな。軽々しく自称しない辺り、彼女のカリスマポイントがガンガン上がっていくぞ。
「まあまだ妹は幼いというか、年相応というか、よく男子と一緒に虫取りに行ったり、木登りをしたり、シールを集めるのが趣味な、普通の子なんだよね」
「へえ、シール集めはわかるが、虫取りや木登りとは、美嘉の妹ってイメージに反して結構ワイルドな子だな」
「ワイルド……あはは、本当にね。よく、どこからかカブトムシとかクワガタとか捕まえてくるんだけど、アタシそういうの本っ当に苦手でさ。あの子よく素手で触れると思うよ」
「そうだよな、俺も昔は結構虫取りとかはした物だが最近は少し苦手になった。やっぱり子供の頃って、なんでか知らないがみんな虫とか結構平気なんだよな」
「まあ、そんな事言ってるアタシもまだ高校生なんだけどね」
お互いに少し笑いがこぼれる。だが、数秒後に美嘉の高校生というワードが脳内で反響し、社会人生活をしている自分に突き刺さった。あぁ、歳とったな俺。
「……いや、それにしてもカブトムシやクワガタなんて、今の時代そこら辺には居なくないか? 一体どこから……なんだか美嘉の妹ってのに少し興味が湧いてきたぞ」
「何? もしかしてあの子をアイドルとしてデビューさせて、担当になってくれちゃったりして?」
「カリスマギャルのカリスマ妹か……よっしゃ! デビューするって言うならば俺が……って痛っ痛い痛い!!」
言いかけた途中で、幸子が脇腹を肘で突いてきた。
「あーはい、今の話は無し! 俺の担当はもう幸子が居るからな。まだ複数人のプロデュースなんて無理さ無理無理、ハッハッハ!! ……はぁ……」
「フフッこっちも冗談冗談、妹はまだまだアイドルになるには早いから」
しかし普段、幸子というイレギュラーでスペシャルケースな存在と接しているせいか、美嘉という現役高校生と話すと色々と大人びていて、また違った印象を受ける。というかむしろ、これが普通なのかもしれないが。なんだかまともに会話が成立することに、逆に違和感を覚えてしまう。
「なんか、こうしてみんなで話しながら飯食べるのって、良いよな」
「結構中学生辺りを過ぎると、そういう機会ってあんまり無いしね」
「俺なんて、幸子と会うまで会社ではずっと一人飯だったからな……」
考えてみると今までの人生、どちらかと言うと沢山の人に囲まれたりする方ではなく、こじんまりとした人生だったと思う。高校時代も毎日勉強で、ノートと参考書以外これといった友人も居なかった。それに家も両親は共働きで、あまり食卓を囲んだこともなかったからな。346プロに就職して社会人になってからは親しい友人等は更に居なくなり、まさに夢を追う自分との戦いだった。
そう考えると、幸子と出会ってからの毎日と言えば、いつでも気が付いたらそこに誰かが居てくれる日々になったよな、と思う。幸子以外にも飛鳥や乃々、そして今ここにいる美嘉など、様々な人と恐らくその場限りの付き合いじゃない、深い繋がりができた。ある意味、これは日々が充実していると言えるのだろうか。
いや、そんなはずは無い。
まだ俺と幸子はようやくスタート地点に立ったばかりだ。アイドルを持てただけで満足している程度のプロデューサーなど、それこそ出世もできず担当するアイドルと共に消えていくだろう。主役は俺じゃない、満足させるのは観客やファンと、幸子自身だ。
「……あっ、そうだ幸子ちゃんとプロデューサー。ちょっと今スマホある?」
「ああ、持っているが」
「ボクもありますけど?」
「それならさ、ここで会ったのもなんかの縁だし、ここで連絡先とか交換しておこうよ。一応立場上はアタシは先輩だからさ。アタシなりに少しだけだけど、今後の相談とかに乗れるかもしれないし」
「ああ、そうだな」
「ですね、ありがとうございます!」
と言うわけで俺達は美嘉と連絡先を交換した。因みに幸子のアドレスを見て美嘉がこれでもかというほどに笑ったのは言うまでもない事実だ。
「さて、ここまでアタシの話を結構してきたけどさ、プロデューサーと幸子ちゃんの話も良く聞かせてくれない? なんか色々と面白くて楽しそうかもって思っていたんだけどさ」
「俺達の話か……そうだな、例えばレッスン中にゲリラ豪雨の雷に幸子がビビって動けなくなった話とか……」
「プロデューサーさん、まったく話をするなとは言いませんから、せめてその話以外の話にしてください……」
「じゃあ飛鳥とトランプやった時の話とか? 乃々が来た時の話もあるし……後は渋谷に買い物に行った時の話とか……」
「へぇ、楽しそうな話じゃん! アタシにもっと聞かせてよ」
「プロデューサーさん! だからなんでわざわざそのチョイスなんですか!!」
こうして昼飯はまだまだ続いていった。俺達が話すこと一つ一つに美嘉は楽しそうに聞いてくれる。お陰で昼飯を食べ終わってもだいぶ話し込んでしまい、気が付けば午後の準備の時間ギリギリまで話し込んでしまいっていた。その後スタッフが美嘉や俺達の所に飛んできてようやく美嘉、俺、幸子の昼飯雑談は終わった。まあ俺としても幸子や飛鳥、乃々以外のまさに、今絶世期に入ろうとしているアイドル界最前線のアイドルに話を聞けて色々と興味深かった。
というわけでこの後は再び準備、からの美嘉のライブを見届ける。気分を切り替えて、しっかり気を引き締めていかなければな。
なんか色々自分が忙しかった間に、デレステで事件が起きたとか聞きました。
乃々が奇跡を起こしたとか……ニコニコで見ましたがリアルに恥ずかしかった……
いつもシアハートアタックみたいにモリクボォ、コッチヲミローって行ってきましたが……こっちが見れないよあれじゃ。
まさに美少女、森久保乃々でした。
次回、城ヶ崎美嘉、ライブ開始!
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