アイドルマスターシンデレラガールズ 〜自称天使の存在証明〜   作:ドラソードP

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第40話 カワイイボクとサプライズ

第40話

カワイイボクとサプライズ

 

 

 開始されたライブは順調に行われていった。美嘉が表に出てから数分、美嘉はその巧みな話術で観客の心を鷲掴みにしていく。

 そう、俺達は今、本物のアイドルの舞台裏に立っているのだ。

「しかし、凄い人気だな……」

「確かにお客さんは多かったですけど……そうなんですか? プロデューサーさん。ボクには何がなんだかわからないです」

 俺と幸子が立っている場所には別にモニターとかがある訳でも、外の様子が見れるわけでもない。何も無いステージの出入口付近でただ音だけを聞いて、ライブの状況を判断している。

「まあ、確かにここからだと、表のステージで何が起きているのかは目で見れないから分からないかもしれない。だがお客さんや美嘉、スタッフさんの反応や動きに注目すれば、ある程度想像できるものよ」

 そのライブの状況を実際に俺が目で見ている訳では無いが、観客の歓声や、美嘉の話し調をよく聞けば状況は容易く理解できる。スタッフさんの方も見たところ忙しそうだが、特に何か異常事態が起きているわけでもなく、平常運転そうだ。

「プロデューサーさんにそんな能力が……でも、ボクからしたらちゃんと表からライブを見たかった感じもあるんですけどねえ」

 幸子は想像以上に何も無いこの場所に飽きてきたのか、どこかつまらなさそうに舞台裏の様々な物を見回している。

「まあ、幸子の言い分もわかるが少し考えてみてくれ」

「何をです?」

 確かに、幸子の言い分もごもっともだった。表からライブを見れば、ライブがどのようなものかはすぐに、簡単にわかるかもしれない。しかしそれなら普通に個人でライブを見に行くなり、大型ライブなら後でDVDなりで見れば済む話だ。

 だが恐らく、美嘉はライブというものを、ライブを構成するアイドルやスタッフの現地目線で俺達に見て欲しかったのだろう。普通には見られないライブの裏側、そこで実際に自分の目で見て、耳で聞いて、肌で感じてもらい、幸子に今回の仕事で少しでも色々なことを勉強して、充実した時間にしてもらうために。

「要するに、美嘉は幸子や俺にただの観客としてではなく、ライブを作る一構成員としてライブを見てもらいたかったってことだな」

「なるほど……確かに、そう言われてみるとわかる気がしますねえ」

 と、外の様子が変わった。メロディがかかり始めた感じからすると、歌が始まった様だ。

「どうやら、ライブパートが始まったみたいだな」

「観客の人達の歓声……凄い!!」

 歌が始まると観客の盛り上がり度合いは急激に上昇する。曲に合わせ合いの手のようなものも始まり、まさに会場一帯が一つとなっていた。

「ほら、ここでなら普段ごちゃごちゃしてしまってよくわからない観客の観声とかも、うるさ過ぎず良く聞こえるだろ?」

「わかります! どれだけの人がそのアイドルを求め、応援しているのか!」

 幸子はようやくここに居る意味を理解してきたのか、顔つきが変わる。気がつくと幸子は、どこか遠くの何かを、俺には見えない何かを見つめ始めた。

 恐らく、彼女は自分をそこに重ね合わせ、想像しているのだろう。自分が舞台に立ち、歌う姿を。

「それにさ、ライブの方だけじゃなく、舞台裏のスタッフさん達とかも見てみろ幸子。ライブの照明や音声、演出の為にこれだけの人がそのアイドルの為に動いてくれてくれているんだ」

 幸子ははっと吾に帰り、舞台裏を見渡す。舞台裏では照明や演出、それらの伝達をするためのスタッフさんが、忙しそうにあちらこちらを行ったり来たりしている。

「幸子にはプレッシャーを与えてしまうかもしれないが、アイドルってのはこれだけの物を背負って、歌って、演じていかなければいけないんだ。今の場合はここに居る観客だけかもしれないが、それこそいずれは日本中のファンや、支えてくれる人を背負って」

「世界中のファン……」

 普段ならここで「フフーン! 勿論そういうことなら大丈夫です! カワイイボクなら、そんな世界中のファンを満足させることくらい、余裕に決まってます!」とか言い出しそうなものだが、意外にも幸子は神妙な顔をしていた。不安を感じているようにも、何かを考えているようにもそれは見える。

「別に、さっきから俺はさっきから知ったような口調をしているが、俺も内心かなり緊張している。幸子にここまでのライブをさせてやれるのか、満足できるアイドルライフを送ってもらえるのかってさ」

 実際ここに立つだけで、ライブの全ての空気を直に感じることができる。ファンも、スタッフも、アイドルも、全てをだ。それ故に、俺は実際に幸子をライブに出している様な感覚に陥り、本番さながらの緊張感を肌で感じていた。

「プロデューサーさん……」

 と、俺の不安が幸子に伝わってしまったのか、幸子が手をぎゅっと掴んでくる。そして、その手を通して幸子の方の不安や緊張といった感情が伝わってくる。

「流石のボクも……なんだか少しだけ心配かもしれません……」

 俺はその手を優しくも、強く握り返す。

「なーに幸子らしからぬことを言ってんだよ」

 俺は幸子の方を向き、幸子の目をしっかりと見ながら言葉を続ける。

「何も心配する事なんて無い。この俺を誰だと思っている、なんとあの未来のトップアイドル、輿水幸子のプロデューサーだぜ?」

「未来の……トップアイドル……」

 幸子の方も、手を握る強さを強める。

「そ……そそ、そうですよ! ボクは未来のトップアイドルなんです! そしてプロデューサーさんは! プロデューサーさんは……そんなボクのプロデューサーさんです!」

「ああそうだ。だから、何も心配するな。俺がプロデューサーである限り、幸子が超絶カワイイボクでいてくれる限り、俺たちは絶対無敵で最強のコンビなんだからさ」

 幸子は俺の顔を下から覗きこんでくる。やがてその顔は、いつもの笑顔……もといドヤ顔に変わる。

「心配することなんて無い……そうです! フフーン! 来週のライブ……絶対に成功させましょう!! プロデューサーさん!!」

「言われなくても、最初からそのつもりだ!!」

 と、外の様子が再び大人しくなる。音楽が止まり、拍手が巻き起こっている感じからして歌が終わったのだろう。

「まあ、でもまずはその前に、彼女のライブを応援してやらないとな?」

「そ、そうですねえ! 少し早とちりしすぎていました! そもそもボク達は今、美嘉さんのライブのスタッフなんですし」

 その後もライブは順調に進んで行く。俺と幸子はそのライブが最後まで無事に終わるよう、スタッフさんに水を配ったり、小さな機材を運んだりするなど自分達にできる限りのことを手伝って回った。

 そして気がつけばライブが始まってから既に一時間近くが経っており、そろそろライブの方もクライマックスに突入していた。

 俺達は再びステージの出入口に向かい、美嘉を迎え入れる準備を始める。

 

 そして、最後の曲が終わる。

 

「そろそろか……」

「ん? 何がです?」

「まあな、もう少し待っててくれ」

俺は笑みを浮かべる。

「いや、だから何を待つんですか!」

 外では美嘉が最後のトークをやっている。会場の盛り上がりは本日最高潮といった感じか。

「もう! 焦らす人は嫌われますよ!」

「悪い悪い、本当にもう少しだ」

 美嘉のトークが終わったのか会場で は再び拍手が巻き起こる。そろそろ時間のようだな。

『というわけでみんなー!! 今日は最後までライブを聞いていってくれて本当にありがとう!! ここでさ、最後にちょっとだけ時間をくれるかな?』

「⋯⋯あれ? もう終わりじゃないんですか?」

「まあまあ、早まるでない」

『実はさ、アタシのライブの手伝いに今日わざわざ後輩のアイドルが来てくれて、スタッフ顔負けなくらいすっごく頑張ってくれたんだ!! だからさ、その子をみんなに紹介したいと思うんだー!!』

「えっ」

 実はライブが始まる前、俺は美嘉からちょっとでも良いからステージに幸子を出させてもらえないか? と提案をされていたのだ。美嘉としても幸子が来週に初ライブを控えていたことや、幸子が頑張って仕事をしていたことなどを知っており、だったら彼女の為にぜひとも、と。

 突然の美嘉からの提案に対し、俺は一瞬迷った。美嘉の独断でそんなことを勝手にやって良いのかと。それに何より、まだ人前に出たことのない幸子をいきなり舞台に出して、大丈夫なのかと。だが、その時美嘉が浮かべた笑みを見て、美嘉の絶対的な自信と何より俺たちへの信頼を感じ、これもある意味必要なことかとその考えに乗ることにしたのだ。

『ねー!! まだそこにいるんでしょー? 幸子ちゃん!! ちょっとステージまで出てきなよ!!』

「えっ……ええっ!?」

「大丈夫だ、行ってこい。こっちのことは気にしなくて良いぞ!」

 俺は幸子の背中を軽く押してあげる。

「いきなりのサプライズになっちまうが、ちょっとした晴れ舞台だ。とりあえずミスとかそういう深い事は気にするな! いつもみたいにどーんとやってこい!」

「でも……」

 幸子は一瞬戸惑ったものの、俺が笑顔を向けると、決心したのかステージへの出入口を走りくぐっていった。

 そして、幸子がステージに出た瞬間、会場からは拍手が巻き起こる。

『今日はありがとう、幸子ちゃん!!』

 その拍手は意外にもしばらく鳴り続いた。美嘉のファンは、見ず知らずの新人アイドルの為に拍手をしてくれている。

『みんな、あったかい拍手ありがとう!! どう? 幸子ちゃん。これが、ここがステージだよ!!』

『ふ……ふふーん……い、意外と〜……大きいですねえ……』

 ああ、案の定幸子は緊張しているようだ。流石の幸子でもいきなり初見の舞台では、まあこうなってしまうだろうな、というのは想定していた。

『どう? やっぱり緊張するでしょ?』

『あの〜……は、はいそうです……ねえ』

 幸子は声だけでも分かるくらいにガッチガチになっている。それが初々しいというか、なんというかまた可愛いらしいのだが。

『まあ、彼女はまだデビューしたてでライブとかの場には慣れていないからさ! とりあえず、まだまだ成長途中の幸子ちゃんのことを、これからみんな応援してあげてね!』

 観客からは幸子に再び暖かい拍手が送られた。しかしそれでも緊張はほぐれることがなかったのか、幸子は固まったままその場に立っているようだ。

 だが、これも試練だ。来週ライブを控えた幸子にはある意味、必要な経験だと思う。

 俺は今の幸子の心情も考えながら、しかし彼女のこれからのことを思い、飛び出したくなる足を抑えて心を鬼にして帰りを待つ。

『じゃあさ、ちょっと早いけど時間も時間だし、何か最後に一言あるかな? 幸子ちゃん』

『あの……えーっと……』

 しばらくの沈黙が続く。そして幸子は一呼吸をおいて話し始めた。

『……美嘉さん、今日は……そのー……アイドルの先輩として、色々教えてくれてありがとうございました!!』

 幸子は最後にどストレートに叫ぶ。てっきり、自分の事について最後はドヤ顔で何かを話すのかと思っていた。しかし極度の緊張からなのか、それとも今日色々と面倒を見てくれた美嘉への純粋な感謝の気持ちからなのか、真相はわからないが幸子は美嘉への精一杯の感謝を伝えた。いつも自分のことしか考えていない、普段の幸子ならば到底考えられないことだ。

 これは幸子にとって今日の仕事が良い経験になったということなのか、幸子の中に何かしらの変化が起きたということなのか、ともかく今ここでは真相がわからない。

 だが、一つだけ分かったことがある。

それは

 

『その時の幸子の顔は、いつも以上の満面の笑みだっただろうということだ』

 

 さて、ライブは終わり幸子と美嘉は舞台裏に戻ってきた。美嘉は幸子の予想外な感謝の言葉に感動したのか、若干涙目の様に見える。幸子の方も緊張が解れたのか、帰ってくるや俺に飛びついてきた。美嘉曰く「幸子ちゃん……本来幸子ちゃん自身のことをアピールさせてあげようと用意した場だったのに、わざわざあそこでアタシにお礼を言ってくれるなんて。みんなの前でちょっと恥ずかしかったような⋯⋯でもアタシ、先輩アイドルとしてちゃんとできたってことなのかな……」との話だった。

 そして肝心の幸子の方は「緊張して頭真っ白になっちゃった……いきなり天使のようなボクに無茶をさせるなんて、プロデューサーさん鬼か悪魔ですか!」なんて怒ってきた。だがすぐにそんな表情も笑顔に変わり「まあ、ステージの上から人を見下ろす気分は、すこーしだけ気分が良かったですよ!」なんて強がっていたが。

 こんな感じで無事にライブは終わった。俺のもくろみは当たり、幸子には少なからず良い経験となったようだ。気のせいか、帰ってきた後の幸子はアイドルとしての何かを少し掴めた様に見え、今日この仕事を入れたかいがあったようだ。

 無論、今日の体験は幸子だけでなく、俺にとっても全て貴重な経験となった。スタッフさんと一緒に仕事をしてみて背負っているものの多さ、大きさを知り、美嘉と接してみてまたアイドルという存在の深みを更に知ることができたと思う。そしてプロデューサーとしての俺の夢も、理想も、より形になってきた。幸子をこれからどうしてあげたいのか、そのためにはどうすれば良いのか。

 先はまだまだ長いかもしれない。振り返ればまだ、すぐそこに始まりがあった。だからこそ、そのまだまだ有り余るような時間の中で、幸子をアイドルとして、夢見る一人の少女として、最高に輝かせてあげたい。俺はここでただただそう思うのであった。

 




遅くなってしまいました。
今回はちょっと長めの幸子です。

本来だったら省いてしまっても良かった回なのかも知れませんが、個人的に幸子の成長を書いていきたかったのであえて、略さず書きました。
ちなみに本物のライブは実際に見たことなんて無かったので、アニメ版やネットでググッた知識程度しかない「にわか」です。
色々ご了承ください。

次回、初仕事の終わりと帰宅です。

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