アイドルマスターシンデレラガールズ 〜自称天使の存在証明〜 作:ドラソードP
第50話
Producer&I Understand
あの後、幸子に半ば部屋を追い出されるような形で買い物に行かされた俺は、渋々と購買へと向かった。
プロダクションの廊下には夜の九時近くだと言うのに、人はまだそこそこ居て、廊下などは意外と静まり返った印象は無かった。この人達も恐らく、俺と幸子の様に家に帰れなくなった境遇の人達なのだろう。今回の台風による影響が目に見えてわかる。
ということで、社内を数分ほど歩いて購買に着くと、先ほどの話通り購買は臨時営業をしていた。肝心の商品のラインナップとしてもまだ、色々と残っている様子で、流石に弁当の様な物は昼間の時点で売り切れていたようで無かったが、インスタント麺や簡易的に腹を満たせる栄養補助食、その他スナック菓子の類の様なものはあった。俺はその中から自分と幸子の晩飯になりそうなもの、飲み物を買うと、足早に売店を後にする。
さて、今回の話はその帰り道か。俺は何やら見慣れぬ女性が購買の近くで、雨風が吹き荒れる外の様子を眺めているのを見かけた所から始まった。
その人は社員にしては何か違う気がするし、かといって見た目からしてここのアイドルといった感じでもない。それに、先程の飛鳥のプロデューサともまた違った感じで、どこかの担当プロデューサーという訳でも無さそうだ。
しかしそんなことはともかく、どうやらその女性は雰囲気からして困った様子のようだ。普段はあまりそういうのに反応しない俺にしては珍しく、親切心か何かが働いてしまい、気になってその女性に声をかける。
「うーん……困ったわね、この調子じゃ今日中には帰れなさそうだわ」
「すいません、来客の方ですか? 何かお困りの様だったので」
「ん……? 私? まあそうとも言えるし、そうとも言えないかもしれないわね」
女性は視線を、窓の外からこちらの方に向ける。その振り返った際に顕になった整った顔立ちは、このプロダクションのアイドル達とはまた違い、いつぞやの自称女神の様な、モデルを連想させる様な類のものだった。
「私、今日ここに用事があって来た者なんだけど、生憎の台風で帰りの電車が止まっちゃって帰れなくなっちゃっていたのよ。で、『まだ』ここの関係者じゃないから泊まり込む訳にもいかないし、かと言ってホテルに行くには微妙に距離が遠いし、とか色々考えていた所ね」
まだ、ということはいずれ関係者になる人なのだろうか。これから新しくアイドルになる人、という雰囲気には見えなく、ではこれからこの人もプロデューサーになるのか、もしくは社員としての入社か、など俺の中では様々な推測が交差していた。
「ああ、それならここのプロダクションは結構空き部屋とかもありますし、多分相談すれば泊まれないことも無いと思いますよ。それにこれから関係者になる方なら尚更かと。もし聞きづらいようでしたら、自分が相談とかをしてみますが」
「いや、大丈夫よ。私はもう二十八にもなるいい大人なんだから、そういうことならあとで自分で聞いてみるわ。ありがとうね、親切な社員さん」
その女性は軽く頭を下げる。どうやら自分の声かけるが、何か良い手助けになった様だ。やはり誰かのために行動する、ということもたまには良いものだな。
「それにしても、見ず知らずの困っている女性に声をかけられるだなんて貴方、かなりのお人好しか度胸が据わった方ね。ここでは何かやっている方かしら」
「はい、自分は……なんというか、ここでプロデューサーをやっている者です。まあまだまだ新人で、担当アイドルもテレビに出てる様な有名人では無いですが……」
「わかるわ。貴方確かに、プロデューサーって感じの顔付きをしてるものね。それに元アナウンサーという身だからそういうの、少し接するだけで色々わかっちゃうのよね」
「ん、わかるわ……? 元アナウンサー……?」
その言葉を聞いた瞬間、俺の頭に雷撃の様な何かが走る。そして一瞬の時間差の後、その目前に立っている人の顔が即座に俺の見知った人の顔に変化した。
「……いや、もしかして……あなたはまさか……!?」
「あら? どうやら私を知っている方のようね。まあ、確かに最近は
例えば、日常生活等の中で
理由として本人が一般人に気が付かれないように様々な努力をしている可能性もある。しかしそれよりも一番の理由として、逆にただ一般人がその有名人に気が付いていないだけなのだ。
『似ている人を見かけた』
『まさかこんな所に居るわけが無い』
そんな人間の心理が、本来すぐそこにいるはずの有名人をただの一般人に変えてしまう。
ということで何故俺は突然このような事を考え始めたのか。そう、俺の前に立っていたその女性の正体こそが原因だ。
「一応、貴方とは初対面だから名前を言っておくと、私の名前は川島瑞希。ついこの前までアナウンサーをしていた、今は夢追うだけのただの一人のオンナね」
川島瑞希。彼女は、去年あたりからそのモデル顔負けの美貌とスタイル、そしてそんな姿に似合わぬ明るいキャラとで東京の方でも有名になってきていた、地方局のアナウンサーである。
地方局のアナウンサーと言いつつも、最近はタレント業も兼任している様な形だったし、意外と彼女が言う通り実際認知度は高くなってきていたのかもしれない。で、実は俺はそんな彼女のちょっとしたファンの一人で、彼女が出ている番組は結構見ていた身だったのだ。
しかし残念なことに、つい最近の出来事なのだが、突如として夢を追うためにアナウンサーを引退する、とテレビで言っていたのを見かけたのだが……そんな人が何故このプロダクションに居るのだろうか。
「あー、失礼でなかったら、今日ここにいる理由とか聞いては駄目……でしょうか」
「えぇ、全然構わないわよ。大した用事では無かったしね」
大した用事では無いとは言っているが、恐らく大した用事だろう。こんな大手プロダクションに、こんなに美人で有名な元アナウンサーが来るだなんて、恐らく移籍か何かなのだろうか。もしくはタレントを本業にするとか、もしくは女優か何かを目指すとか……様々な可能性の憶測が、頭の中を飛び交う。
「実は私、これからアイドルを目指すことにしたのよ」
「へえ、アイドル……ヘェアッ!? アイドル!?」
俺は耳を疑った。予想外の発言に、思わず言葉にならない声を出してしまう。アイドルを目指す、確かに彼女はそう言ったのだ。俺の今までの予想や憶測を遥かに覆す彼女の言葉に、俺は心底驚かされる。
「私、昔からアイドルに憧れていてね。で、そろそろ年齢も年齢だし、タイミング的に考えて恐らくこれが夢を叶えられる最後のチャンスだと思ったの。そこで私は一念発起してアナウンサーを辞めて、夢だったアイドルを目指すことにしたのよ」
「アイドルを……目指す……」
まさかの自分の守備範囲内の話だった為に、俺は逆にどう反応すれば良いのか分からなくなってしまっていた。今思い浮かぶ感情はただただ困惑のただ一色。俺は混乱する頭を必死に落ち着かせながら、会話を続けていく。
「本当はアナウンサー業も安定した仕事ができて、それでも良かったんだけどやっぱりダメだったのよね。本当にやりたい仕事だったのかと聞かれると、少し違う物だったし」
そう言うと川島さんは話を続けて行く。
「だからいっそのこと、今アイドル活動の関連で話題になっているこのプロダクションでアイドル募集のオーディションを受け、落ちたら夢を諦めて花嫁修業でもすることに決めたのよ」
「それで……結果の方はもう出たんですか?」
「ええ。結果は合格、採用よ。それで私は今日、そのこれからについての話をしに、ここに来ていたって訳なのよ」
「それは良かったです! じゃあいずれは、自分達と同僚として働ける機会もあるかもしれないってことですか」
「そういうことね。でも今は同僚より、アイドルって言ってくれた方がちょっと嬉しいかも」
川島さんは恥ずかしそうに微笑む。軽い感じで川島さんは話をしているが、その瞳の奥にはアイドルとしての強い信念のような、燃え滾るように熱い想いのような物が見え隠れしていた。その並々ならぬ想いの強さは形を持って、今そこに存在している。
「……そう、オンナには何時になっても捨て切れないオトメの心があるのよね……」
一瞬川島さんが何かを呟いたのが聞こえたが、よく聞き取ることができなかった。と、次の瞬間川島さんはよし、と気合いを入れ直すと再び話し始めた。
「さて、外の台風の大雨みたいに湿っぽくなっちゃったからこの話はおしまい。その量の買い物、貴方誰かにお使いを頼まれていたんでしょう? 私の方ならもうオトナのオンナなんだから、これからの事は色々頑張ってどうにかするわよ」
「ああ、そういえば。てっきり自分の方も目的があるのを忘れていました」
ヤバイな、ちょっと長く話し過ぎた様だ。あんまり帰るのが遅れると
「それでは一応、また何か頼まれれば自分の方でできることがあるならなんでもするので、何かで会う機会があったら気軽に言ってください」
「なんでも? うーん、そうねぇ……じゃあここで会ったのも何かの縁ってことで、今度お互いに仕事がない日にでも飲みに行きましょうよ」
「そんな、良いんですか!?」
思わず俺は声をあげる。こいつ、プロデューサーの癖して推しはアイドルじゃなくてアナウンサーというな。いや、もうこれからアイドルになるから別に何もおかしくはないか。
「別に、飲みに行くことに良いもなにもないわよ。飲み会なんてそんなものでしょ? 飲みたいから飲む、話したいから話す。それに私も何か、あなたに興味が湧いてきちゃったし」
「いやいや、自分は川島さんが思う程大した人間じゃないですよ。まあでも、自分も色々アナウンサー時代の話とか聞きたいことがあるので、川島さんが良いと言うならば是非自分も飲み会のお供に」
「良いわ。それじゃあいつか飲みに行きましょう。約束よ?」
そう言うと川島さんはメモ帳を取り出し、それに何かを書くとページを一つ切り離し、俺に渡してきた。
「私のメールアドレスと電話番号よ。何かあったら連絡して頂戴。勿論、何か無くても連絡してくれて良いわ。私、まだまだアイドル活動とかで分からないことも多いから、色々教えてもらえると有難いかも」
「わ、わかりました。それじゃあ有難く連絡させてもらいます」
まさか憧れの人と出会え、その人の今度の就職先が自分の職場だっただけでなく、連絡先まで貰えてしまった。自分でも何が起きているのかさっぱりな状態だが、多分落ち着いてくる夜中とか明日の朝になると、テンション高くやるやつだろうなこれは。なるほど、これが業界で働くってことか。
「あとそうそう、話は変わりますが中学生位の小さい少女には気を付けて下さいね。そいつがうちの担当なんですけど色々と面倒なヤツというか……」
「あ、プロデューサーさん居た!!」
噂をしているとその話に出そうとした人物の声が聞こえた。振り向くと俺の帰りが遅いことを心配したのか、幸子がこちらに向かって走って来ていた。どうやらこれは思い描いていた最悪のパターンになってしまった様だ。
「ああ悪い、ちょっと立ち話をな」
「なんです、プロデューサーさん。カワイイボクのお使いをほっぽり出しておいて美女と道草ですか? 随分と偉くなった物ですねえ、プロデューサーさん」
幸子は随分と御立腹の様だ。まあ今回幸子が怒っている理由は間違いなく道草食った俺だし、どうやら部屋に帰ったらお説教確定だな。中学生にお説教されるとは、新たな何かに目覚めそうだ。
「あら? 美女とはありがたいお言葉ね。貴女がプロデューサーの担当アイドルの子?」
「はい! このお使いをほっぽり出して道草を食っていたダメダメプロデューサーさんの担当アイドル、輿水幸子です!」
「ふふっ、そうなの。輿水幸子ちゃんか……貴女も充分可愛いわよ。将来は多分美人さんね」
幸子は川島さんに可愛いと言われ誇らしげに胸を張る。美女に可愛いと言われ、幸子なりに少し嬉しいのだろうか。いつものドヤ顔とは違い、珍しく純粋に喜んでいるようだ。
「フフーン! 当然です!ボクはいずれ世界一、いや宇宙一のアイドルになる存在なんですから!!」
「あらあら……それじゃあ私とは、ライバル関係って事になるわね」
「私とは、ということはあなたもアイドルなんですか?」
「まあそうなるわね。とは言っても、まだこれからアイドルになるアイドル見習いのヒヨッコだけれど」
「あー……幸子、前までテレビに出ていた川島瑞希って名前のアナウンサーの人知っているか?」
「勿論知ってますよ? 確かこの前夢を追うためにアナウンサーを引退したとかいう……」
幸子はそこまで言いかけて川島さんの方を向く。状況を飲み込めなかったのか、一瞬川島さんの方を見たあと俺を見て、川島さんを見るというのを暫く繰り返す。そして再び川島さんの方を向き固まると幸子は声を上げる。
「えっ……えええええ!?」
「まるで俺と同じ反応をするなお前……」
「ふふっ、なんだか幸子ちゃんと幸子ちゃんのプロデューサーって凄く仲良さそうね。雰囲気からしてよくわかるわ」
幸子は再び暫く固まった後、ようやく口を開いた。
「ま、まさかアナウンサーを引退した理由がアイドルになる為だったなんて……そこまでの影響力を持つアイドルって凄い……」
言葉より経歴が語る、そんな川島さんの話を聞き幸子は呆気に取られる。だが、幸子もそれに負けてたまるかと川島さんに話しかける。
「ま、まあとりあえず? 川島さんのキャリアがどれ位凄いかは知りませんが、ここでアイドルとして活動する以上はボクの方が先輩なんですからね! 売れるまではボクの言うことを聞いてもらいますから!」
「そう、じゃあそんな幸子ちゃんには、今度アイドルについて色々教えて貰わなきゃね。ね、先輩さん」
「せ、先輩……? フ、フフーン! 分かりましたそれなら何でも聞いてください!」
おいおいちょろ過ぎるぞ、ちょろ水幸子。川島さんのたった一言で態度が目に見えて変わったな。
「じゃ、じゃあボク達の方はもう行くので川島さんもアイドル、これから頑張ってください!」
「そうね。私もあなた達といつか並べる日、楽しみにしているわ」
「それじゃあ急ですいません、失礼します」
こうして俺達は川島さんと別れると自室の方へと歩いて行った。
「……最初は見ず知らずの環境で正直どうなるか心配だったけど、良い職場そうで安心したわ。瑞樹、なんだかこれからが楽しくなってきたかも」
さて、この後お使いを終え自室に戻った俺は案の定幸子の説教を受けることになった。正座させられた挙句十分近くに渡り日常の細かいことも含め、とにかく色々と叱られた。もっとも、その肝心の叱られた内容は、後半からいつもの如く自分についての自慢話にすり変わっていたのは言うまでもないが。
しかしあの川島さんがアイドルか。今やアナウンサーまでもが目指す様々な女子の理想の存在、アイドル。その話題性、影響力は未知数か。
もしかしたらあの自称女神も、アイドルに憧れを持つただの追っかけだったりするのかもしれないな。そうしたらそれはそれで、今度はストーカーみたいで怖いが。
どうも皆さん、車をエンストさせるのに定評のあるフレンズな作者です。
現在福島の辺りで車をエンストさせまくってます。
さて、今回は川島さんの話でした。
アニメキャラとして好きな人が幸子乃々美嘉飛鳥蘭子なら、現実に居たとして好きな人は楓さん川島さん卯月未央凛智絵里でしょうか。
なんだかんだ世間ではネタにされてますが、川島さんって本当に美人で、明るくて、家事もできて、頭も良くて、良い人だと思います。
川島さん結婚して。
次回、プロデューサーと幸子が現代の利器に驚きます
文章の改行や空白
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前の方が良い
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今の新しい方が良い