バハルス帝国の先遣調査隊は義勇軍へと再編され、フェオ・ライゾから北東のフェオ・ジュラを目指す。案内役のゴンドは地上から目指すのは初めてだと言っていたが、種族的な特性か、はたまた炭鉱夫としての技量か、彼はフェオ・ジュラまでの方角や距離を高い精度で把握しているようだった。
アゼルリシア山脈を進むこと数日、山を越え谷を越え、切り立った幾筋もの尾根を越えると、先導していたクレマンティーヌがフェオ・ジュラの地上砦を発見する。
「ほら、あそこ、村みたいになってるとこ」
案内を受けて峰から眼下を覗くと、急ごしらえの集落に囲まれた地上砦の全景が広がっていた。
山腹に半ば埋まったような地上砦はフェオ・ライゾのものと変わらないが、こちらは周囲を集落が取り囲んでいて、遠目にも多くの
「ゴンド殿、あそこで間違いありませんか?」
「間違いないはずじゃが……」
レイナースに問われたゴンドの表情は複雑だ。
自分以外の
それは間違いないだろう。
「まずは少人数で来訪を伝えましょう」
それにしても、とモモンガは思う。
本来、先触れは指揮官の仕事ではない。ましてや将軍と同格の権限を持つ四騎士ならばなおさらに率いている部隊を離れる訳にはいかないだろう。にもかかわらずレイナースは自ら行っている。
実力を尊ぶ軍隊ゆえに帝国最強の肩書が我意を許しているのかもしれないが、部隊を率いる将としてはやや無用心だ。
――何事も率先する姿勢には好感が持てるけど。
地上砦で出迎えてくれたのは軍部や警察を管理する総司令官だった。
先触れに国交のある帝国旗を掲げていたことと、彼らの同胞であるゴンドが同行していたことで滞りなく話が通り、指揮官のレイナースと護衛の兵士2人、漆黒のモモンと
この段階で総司令官自らが案内をしていたことから、モモンガは
会議室のような部屋に通されると8人の
道すがら受けた説明によれば、200年前の魔神襲来の際にほぼ全ての王族が絶え、最後に残ったルーン工王も
目の前にいるのはその長たちだ。
信仰系
鍛冶などを主とする生産関係を管理している鍛冶工房長。
軍事警察関係を管理している総司令官。
食料生産を管理している食料産業長。
内務全般を管理している事務総長。
酒造りを管理している酒造長。
鉱山の発掘を管理している洞窟鉱山長。
交易や外務を管理している商人会議長。
皆同じような髭面で、同じような背丈で、同じような服装だ。
せめてお伽噺の小人のように、派手な色の服で個性をだして欲しいとモモンガは思う。
――食料産業長がいるのに酒造りのためだけに長がいるって凄いな。
ユグドラシルの
フェオ・ライゾの街並みもそうだったが、フェオ・ジュラの街並みもみすぼらしかったのだ。アゼルリシア山脈に住む
ユグドラシルで
――すこし、残念だ。
転移世界の人間よりも優れた武具を作れるようだが、単純な製造だけならナザリックのシモベで事足りる。モモンガの興味を引くのはルーン技術だけだ。
各自簡単な自己紹介を交わすと、洞窟鉱山長が口を開く。
「まずは
「は、はい」
洞窟鉱山長がジロリとゴンドを一睨みするがすぐに表情を和らげる。
「自己責任とはいえ独りでフェオ・ライゾなぞに行きおって! と、小言のひとつも言ってやりたいところじゃが、お主の上げた狼煙のお陰で避難民を
ゴンドは気の毒なほどに恐縮している。
その姿にモモンガは同情の念を禁じ得ない。
モモンガが遠慮がちに質問する。
「避難民とは地上の集落のことですか?」
「うむ。10万もの民をいきなり移動させるわけにもいかんからのう。地質調査や避難先を探させておる。本来は一足先にフェオ・ライゾに行って都市機能を回復させる役だったんじゃ」
「なるほど。もしフェオ・ライゾに向かっていたら……」
「捜索隊を組んでフェオ・ライゾに送り込んだかもしれないし、見捨てて地上に活路を求めたかもしれん。どの道、儂らは出遅れ、何かしらの被害が出たはずじゃ」
状況は相当厳しいようだ。
仮に彼らが地上へ逃れたとしたら、人間のように堅固な壁を築かねば民を、そして国を守れないだろう。
「本題に入りたいのだが、よろしいか?」
総司令官が間を見計らって話を引き継ぐ。
状況を一番よく把握している彼の表情は険しい。
「レイナース殿、率直にお聞きしたい。貴方がた義勇軍以外に、バハルス帝国の増援は期待できますかな?」
開口一番に増援の話題が出たことで他の長たちの表情が歪む。
苛立たしさと悔しさを感じるが誰も口を挟まない。総司令官の言葉は暗に500の義勇軍では足りないと言っているようなものだが、援軍が必要であることは皆が認めているのだろう。
「もちろんですわ。すでに
「そ、それはありがたい! それで……、いつ頃に、どれだけの規模の援軍になるか分かりますか?」
「確約はしかねますが、軍団規模であれば最低1万。到着は最速で20日、遅くても30日は必要かと思います」
「1ヶ月か……」
そう呟くと総司令官は押し黙り、考え込んでしまう。
「こちらからも質問を宜しいでしょうか。我々が得ているのは捕虜からの情報のみですので、できれば擦り合わせをしておきたい」
総司令官はレイナースの言葉に頷く。
「なんでも聞いてくれ」
「では、まずは敵の兵力を。実際に16000もの規模なのかをお聞きしたい。次に
「ふむ。捕虜の言った数は概ね正しい。大裂け目の対岸は奴らで溢れかえっておる。そして
「な!?」
「8000の間違いじゃないのか?」
総司令官の言葉に驚きの声を上げたのは後ろに控えていた帝国兵だ。
「本当は100人いたんじゃ。だが奇襲を受けて20人失った。まあ、お主らの軍団規模からすると驚くのも無理はないがな。少なすぎるのは認める。儂らも慢心していたのは確かじゃ。……こいつを見てくれ」
総司令官は机の上に地図を広げる。
“大裂け目”周辺の地図だ。吊り橋や砦の位置、地形の高低差まで細かく測量されている。
大裂け目。
それはフェオ・ジュラの西に広がる全長60キロにもおよぶ巨大な地層の裂け目だ。横幅は一番狭い所でも120メートル以上あり、深さに関しては未だに測定できていない。過去に観測班を2回送っているが、誰一人として帰ってきた者がいないらしい。
モモンガは地図を見る。
大裂け目とフェオ・ジュラを繋ぐ坑道は緩やかな螺旋の一本道だ。その中間に天然の洞窟を利用した
問題の奪われた砦は大裂け目にせり出した狭い崖棚に築かれていて、上から見ると扇を潰したような形だ。
「儂らはこの砦に魔道具を設置して吊り橋から来る奴らを一網打尽にしておった。だが、此処じゃ」
総司令官は砦のやや後方、北側の岩壁を指さす。
「ここに我々の知らない横穴があった。奴らが掘ってきたのか、それとも地殻変動なのかはわからんが、とにかくその穴から奴らが出てきたんじゃ。穴は小さくて一度に何百と通れる代物ではないようじゃが、それでも奇襲する分には十分効果を発揮した。我々がいま窮地に陥っているのがその証拠じゃな」
総司令官は自虐的に締めくくる。
「今はどのように防衛を? 大門だけで食い止めているのですか?」
「……油を使った」
「まさか! 火を放ったのか!?」
それまで大人しく成り行きを見守っていたゴンドが声を荒げる。
レイナースらはピンと来ていないようだがモモンガは察することができた。
「大門に穴を開けられたのだ! ……仕方なかった」
大門まで肉薄されているにも関わらず、総司令官が余裕をもってレイナースらに応対できる理由がそれだった。
彼らは大門に穴を開けられ、止む無く火を放ったのだ。煮えたぎる油と炎、それに煙に巻かれて
今は街中の可燃物と“風を起こす魔道具”を掻き集め、火を絶やさぬよう、そして煙が都市に流れないように見張るだけで精一杯らしい。
「だが、それも長くはもたん」
商人会議長が補足する。
彼によれば可燃物、とりわけ木材の貯蓄が少ないらしい。
聞けば東の森に“グ”を名乗る
――ん? “
モモンガは聞いたことのある名前に記憶を掘り起こす。
以前、報告書で見かけたはずだ。
――思い出した! アウラがうっかり殺しちゃった奴か!
それはフィオーラ王国樹立後まもなくの頃。
トブの大森林を支配するために、森に住む有力な部族をアウラは訪ねて回ったのだ。そして東の森を支配する
アウラの報告書では、交渉の余地もなく相手を殺してしまったことへの謝罪と反省が長々と書かれていたが、短絡的なことをしそうにない彼女が何故と疑問に思い、モモンガとやまいこはアウラを呼び出して
曰く、ぶくぶく茶釜に名付けてもらった“アウラ・ベラ・フィオーラ”を弱者の名だと笑われ、“アインズ・ウール・ゴウン”も弱虫の集団らしい名だと馬鹿にされたという。
結果的にアウラの鞭で
――気持ちはわかるけど、あんなに落ち込むとは思わなかったな。
「火が消えたら奴らは間違いなくまた襲ってくる。砦の奪還が必要じゃ」
総司令官の声にモモンガは意識を会議に戻す。
「その意見に同意ですわ。その任、我々帝国義勇軍で引き受けましょう。ただ、協力は必要です」
圧倒的な戦力差を聞いてもレイナースはやる気のようだ。
とはいえ、モモンガも砦の奪還に賛成だ。地図を見る限り、大門から吊り橋の砦までは狭い通路で、砦の面積を考えると収容人数もそれほど多くはない。火と煙で後退したのなら、収容できなかった者は大裂け目の対岸へ戻っている可能性が高い。
つまり、火と煙に巻かれている間は手薄。砦の奪還は消火と同時に打って出るのが最善だ。
「協力は惜しまんぞ。何をすればいい」
「可能であればミスリル以上の装備を提供してもらいたい。それに加えて大盾を人数分。最低でも100単位で欲しい」
総司令官が商人会議長と鍛冶工房長に視線を送る。
「用意できるか?」
商人会議長が腰に下げた分厚い冊子を取り出す。
在庫状況を確認しているのか、ペラペラとページを捲る彼の表情は渋い。
「もともと帝国に納品予定のアダマンタイト製全身甲冑が10、オリハルコン製の近衛装備が40、ミスリル製の上級騎士装備が100ある。これらは元から人間用だから直ぐに使えるが魔化が済んでおらん。残りの分は
「ならば造るしかあるまい!」
鍛冶工房長が鼻息荒く立ち上がる。
「アダマンタイト、オリハルコン、ミスリル。倉庫からありったけの鉱石を持ってこい! 神殿の
職人総出で取り掛かれば何とかなるだろうと言いながら、鍛冶工房長は勢いに任せて部屋を出ていく。
「お、おい! 待たんか!! まったく……、失礼した。国を想っての行動と理解してくれ。西のフェオ・ティワズは廃都、北のフェオ・ベルカナは
「心中お察しいたします。ただ、時間は惜しい。我々も今できることをいたしましょう」
それから数日、
寝る暇も惜しみ、総出で装備の準備から作戦の立案、帝国兵と
そして、
しかし、十全とは言えない。
さらには旧式の物も混在しており、職人があれこれと手を入れたものの、残念ながら
ただ、
500人分ともなると結構な量だが、比較的扱いやすいオリハルコンとミスリルで基本構造を作り、アダマンタイトで表面処理を施すことで製造時間を圧縮したのだ。
完成した盾は形状こそバハルス帝国の標準的な大盾を模したものだが飾り気は一切なく、限りなく武骨で、しかし、整然と並べられたその姿は“敵を拒絶する壁”としての本質を悠然と物語っていた。
そして武器も新調された。
今、大門の前に帝国義勇軍と
いよいよ出陣の時だ。重装歩兵となった500人の帝国兵、その後ろにレイナースと漆黒、魔法省の
「なんとか間に合いましたわね」
「もう外の火がもたん。行動を起こすなら今しかなかろう」
「ええ、漆黒の皆さんも準備が宜しければ出陣となりますが、如何ですか?」
「はい。大丈夫です」
聞かれはしたがモモンガたちには準備の必要はない。
「いっちょやりますかー」
「いつでも行けるよ~」
やまいことクレマンティーヌは早く身体を動かしたいようだ。
なにせここ数日の間は、モモンガが魔法による偵察をする以外はルーン工匠の引き抜きのために働きかけていただけで、件の装備の準備などには関与していなかったのだ。強いて言えばクレマンティーヌのアダマンタイト製
つまり、有り体に言えば暇だったのである。
「よし。 ――聞け! 皆の者!!」
レイナースが全員に聞こえるよう声を張り上げる。
「この一戦は速度が鍵だ! 門が開き、火が消えたらすぐに突入する! 砦を奪い援軍の到着まで守り抜くぞ!!」
『おうっ! おうっ! おうっ!』
帝国兵が鬨を上げ大通りを震わす。
――はは、凄い迫力だ。
モモンガは帝国兵の気迫を全身に受けて気持ちが昂る。
以前、王国と帝国の戦争を覗き見たときは
レイナースの合図を受けて大門が開き、
「いざ進め! この地に帝国騎士団の武勇を轟かすのはお前たちだ!」
『おぉー!!』
兵士たちが早足で前進する。
目指すは砦が鎮座する崖棚とフェオ・ジュラを繋ぐ洞窟口だ。
モモンガは小走りしながら大門を振り返る。
案の定、
彼らのさらに後方へ目を向けると、
薄れていく煙に紛れて前進すること数分、坑道の先に占拠された砦が見えてくる。
そこを狙う。レイナースの「速度が鍵」とは、「対岸から
もし制圧に手間取るような事になれば、吊り橋を落とすことも視野に入れなければならない。
坑道を抜け、視界が通る。
ここまで来れば煙も坑道内の熱気も感じない。
砦前の広場には、身分的な理由からなのか、それとも単に砦に入りきらなかっただけなのか、数百体の
毛並みから察すると同じ部族同士で固まっているのだろう。突然現れた帝国兵に一様に驚いている。
坑道から広場へ出た帝国兵は、速度を落とさずにすぐさま二手に分かれる。
一方は来た道を塞ぐ200名の帝国兵。作戦中、そこを横20、縦10列の密集陣形ファランクスで封鎖する。彼らは盾こそ他の帝国兵と同じ大盾を装備しているが、鎧は改修した
そして残りの300名が広場の中ほどまで一気に前進する。こちらはアダマンタイト、オリハルコン、ミスリルの装備を混ぜた横60、縦5列の
帝国兵たちが瞬く間に横幅30メートルの
するとにわかに砦が騒がしくなる。
砦前にいた
戦いに来たのに煙で燻されて、彼らなりに鬱憤が溜まっていたのかもしれない。戦術や連携といった素振りを見せずに集団で突っ込んでくる。
帝国兵の構える大盾の隙間から、
――怖い。
モモンガは素直にそう思った。
照らし出された
迫る
魔法が使えない、歴然たるレベル差もない、頼れるのは己の
――前衛職に興味があったけど、この世界でレベル1からやれって言われたらキツイな。
地味な鍛錬や自己研鑽は嫌いではない。
ただ、それはユグドラシルのシステムで、可能なら今のレベルを振りなおす形で楽をしたいとモモンガは思う。
前衛職をしてみたい。でも、痛い思いはしたくない。
いかにもゲーマーらしい思考だとモモンガは己に呆れる。
――
「押し負けるなよ! 本国の連中も羨む武具で固めてるんだ。これで獣風情に後れを取ったら実力を疑われかねん!」
「まったくだ! 皆気合入れろ!!」
『おぉよ!!』
モモンガがかつての仲間に想いを馳せていると、目の前の帝国兵たちが仲間を鼓舞する。
前方に意識を戻すと
駆け出した
モモンガたちと共に控えていた
『ぎゃっ! ぶべっ!?』
『ぐぎゃ!?』
不運にも転んでしまった者たちは、勢い付いた味方に次々と踏みつぶされる。
そして、間髪入れず
後続の
転んだ仲間が障害物となり、勢いの無くなった
網にはミスリルが織り込まれているため、焦げ茶、黒、茶色の
そこへ、空中に飛んだ
もちろん、モモンガも参加する。
『
死にゆく
モモンガも魔法省の
なぜなら
――なるほど、こういった戦い方も面白い。補助魔法に魔力を割く必要が無いのはいいな。
背丈が違うだけで
ここまでが作戦の第一段階だ。
「行くよ! クレっち! レイナースさんも!」
「あいよ~」
「はい!」
ここからが作戦の第二段階。
アダマンタイト級冒険者と四騎士が敵を攪乱しながら“色付き”の
モモンガは空中から戦場を見下ろす。
接敵から今に至るまで順調だ。
やまいことクレマンティーヌに関しては実力も装備も知っているので心配はしていない。
だからだろうか、その目は自然とレイナースを追う。
前回は見ることが叶わなかった彼女の戦い。
その姿はまさに“演武”と呼ぶに相応しいものだった。華麗にして流麗、全身甲冑をものともしない軽やかな身のこなしで手にした得物を振るっている。
そして振るわれる一撃一撃が、鼻、顎、喉、手足の関節などを的確に捉えていた。それも二つ名の“重爆”に相応しく重い一撃でだ。
――綺麗だ。
舞う姿もさることながら、実力を伴った連撃は目を見張るものがある。
ナザリックの装備で固めればクレマンティーヌといい勝負ができるだろう。
――そういえば、
愛すべき変態が熱く語っていたのを思い出す。
偏った意見を散々聞かされた挙句、最終的にどう話がすり替わっていったのか「一見するとブルマだけど実は旧スク水に体育着の上だけ着た状態に名前を付けたい!」と叫んでいた姿が懐かしい。
と、くだらない事を考えていたら
「何だ!? 敵にも
味方の
――咄嗟に回避運動ができるのは流石だ。
これも日々の訓練の賜物だろう。
回避行動を始めた
モモンガが
砦に固定されていたはずのマジックアイテムだ。無理やり引き剥がしたそれを、複数の
「マイ! あそこだ!!」
やまいこにマジックアイテムの位置を知らせる。
「了! クレっち!」
「はい!? え、嘘ぉおおぉぉぉ!!?」
やまいこがクレマンティーヌの襟首を掴む。
「いってこぉおぉぉぉーーーいっ!!!」
投げた。
そう、やまいこはクレマンティーヌをマジックアイテムを操る集団へ向けて投げたのだ。
「ぎにゃあぁぁぁーーーっ!! お馬鹿ぁあああぁぁぁーーー!!!」
猫耳を付けたクレマンティーヌがそれらしい悲鳴をあげながら放物線を描く。
そして流石は漆黒聖典と褒めてやるべきか、空中で器用に姿勢を制御すると猫のように綺麗に着地した。
――あのセットアイテムに“猫っぽくなる”なんて設定はなかったと思うんだけど。
モモンガは
彼らはゆっくりではあるが確実に前進している。目を凝らすと負傷者が幾人か出ているようだが、
このままいけば彼らが砦に辿りつくころには女性陣が砦を制圧できるだろう。
「モモン殿! あれを!!」
魔法省の
対岸からの増援だ。
――遮るものが無ければ流石に異変に気づくか。
「モモン殿、こちらには2人残すのでこのままレイナース様たちの援護をお願いします。我々4人で吊り橋の敵を押さえます」
「了解した。ここはお任せください」
吊り橋の4人に対して砦組はモモンガを含めて3人だが、人数の割き方としては申し分ない。
砦組には投網と
クレマンティーヌに視線を戻すと、マジックアイテムの奪取に成功したようだ。
レイナースも近くまで来ているので砦周辺の制圧はまもなく終わるだろう。
――あれ、やまいこさんがいないな。
周囲を見渡すが、やまいこの姿が無い。
となれば答えはひとつだ。
モモンガは降下してクレマンティーヌとレイナースに近づく。
すると近くにいた
その証拠にモモンガたち
――今なら投降を呼びかければ下るかもしれないな。
「クレマンティーヌ、マイが砦に突入した。援護に向かってくれ」
「りょーかーい」
クレマンティーヌは投げられたことを気にしていないのかケロッとしている。
返事もそこそこに砦へと走っていった。
「レイナースさんは室内戦闘は厳しそうなのでこのまま砦周辺の掃討をお願いします」
「そうですね。確かに、この槍では無理ですわ」
レイナースはしげしげと砦を窺う。
実際には狭い空間での戦闘を想定した槍術もあるのだが、
「そういえば、他の
どうやら吊り橋に向かった彼らはレイナースに伝え忘れたようだ。
報連相の大切さを感じながら、指揮官であるレイナースに改めてモモンガから現状を伝える。
「そうでしたか。では、私も吊り橋へ向かいましょう」
もちろんレイナースは物見遊山で向かうわけではない。
最終手段とされているが、状況次第では吊り橋の破壊も視野に入れている。レイナースはその判断をしなければならないのだ。
「こちらはもう大丈夫そうですから、お供します」
モモンガはもっともらしく振舞うが、こちらは完全に物見遊山だ。
大裂け目を近くで見たいのだ。
吊り橋に着く。
魔法省の
対岸の混乱は反対側に居ても伝わってくる。
それもそのはずで、今までは吊り橋を渡ろうとしなければ飛んでこなかった
対岸にいても安全ではなくなったのだ。
「何とかなりそうですね」
「ええ、これなら例のマジックアイテムの再設置と
一安心といったところだ。
吊り橋で
先ほどモモンガに話しかけてきた彼だ。戦況報告をするつもりなのか、攻撃の手を止めて飛んでくる、が――。
一瞬の出来事だった。
引き返し始めた彼が、突如として現れた巨大な何かに、
それは大裂け目に落ちていく
細く蛇のような肢体。
蝙蝠のような飛膜の翼。
冬の寒空のような青白い鱗。
蜥蜴や鰐を思わせる口からは冷気を纏った白い息が漏れている。
「
「なぜここに!!?」
モモンガとレイナースの驚愕をよそに、
「父の使いで来てみれば……。なぜ平原の虫が山にいる?」
独自設定
・
・
・帝国の受注内容。四騎士用にアダマンタイト、近衛にオリハルコン、上級騎士にミスリルなどの設定。
・吊り橋の砦の構造。収容人数云々とか。ご都合なり。