それは突然やってきた。
アインズ・ウール・ゴウンが世界の覇者となって数百年。各地域で
惑星を覆うほどの共栄圏は作為的な紛争により「平和」が強調され、そこに住まう人々は疑いもなく過ごしていた。
そんな共栄圏が、アインズ・ウール・ゴウンが攻撃を受けた。
それも多くの都市が、組織的に、また同時多発的に攻撃を受けたのだ。
この攻撃はアインズ・ウール・ゴウンにとって計り知れない衝撃となった。
混乱の中、敵の規模や目的が不明なまま
敵は宇宙からやってきたのだ。
敵の攻撃から1ヶ月。
被害は各都市圏の深部にまで達し、各
そんな状況のなか、ナザリックは反撃をせず、情報収集に徹していた。
「侵略者は“アインズ・ウール・ゴウンを”というよりは、この惑星そのものが狙いのようです」
「現在までの被害は?」
「人口100万を超える230都市が襲撃を受け、その半数以上が都市機能を失っております。各都市の常備軍も抵抗は続けておりますが、状況は悪くなるばかりです」
「難度に変動はあるか?」
「変わらず150から200です」
階層守護者統括アルベドの報告にモモンガとやまいこが頷く。
「肉体的、魔術的に秀でた種族はともかく、多くは防戦一方か。――やまいこさん、そろそろですかね」
「そうだね。ボクらを蹂躙できると油断してくれれば
「潰したいですね」
「その為の一手を打とう。デミウルゴス、分かっているね?」
やまいこが傍らに控えていたデミウルゴスに作戦を確認する。
「はい。
「そうだ。そして敵の母艦か、より高コストなユニットが降りてくるのを待つ」
「では、
「物理的に手が届かない敵ほど厄介なものはないな。――惑星そのものを直接資源化するような相手じゃなくてよかったですよ」
「未だ声明ひとつ無いし、きっとまともな相手じゃないね」
開戦から今に至るまで、敵との対話は一切ない。
数少ない戦果も無人戦闘機や無人爆撃機、戦闘ドローンばかりで捕虜もない。
「まあ、その分こちらも気兼ねなく叩けますから」
モモンガは苦々しく呟く。
戦争でも、ゲームでも、一方的に攻撃され続けるのは不愉快なのだ。
たとえそれが反撃に必要だとしてもだ。
敵を最大限に翻弄し、適度にその戦力を削りながら任務を全うした。
そこからは我慢の沈黙。
数ヶ月後、敵は赤道付近に物資の集積基地を完成させた。
ナザリック第十階層「玉座の間」。
多くの配下が見守る中、「諸王の玉座」に座るニグレドにモモンガは問う。
「どうだニグレド」
「懸念された逆探知はありません。衛星軌道上にコロニー級1隻、戦艦級12隻、空母級3隻、輸送艦8隻を確認いたしました。現在、輸送艦とその護衛艦を除くすべての大型艦艇がコロニー級と接続されています」
敵艦隊を映す
「接続――、というよりは合体?」
「ドックを兼ねているんだろうけど、半分出てるし、コバンザメみたい」
推定されるコロニー級の大きさは、直径2キロ、全長20キロの円柱形。その側面に300メートル級の戦艦と1キロ級の空母が取りついている。
「星間移動する際はひとつになる感じですかね」
「もしくはワープ能力がコロニー級にしかないとか。コロニー級そのものがギルド拠点の可能性もある」
「だとすると叩くのはコロニー級の母艦一択ですね。大気圏内外、でも
モモンガが命ずる。
「作戦は事前に取り決めた通り、闇に乗じて決行する」
始まりは小さなエラーだった。
輸送艦発着エリア。
管制室でふたりの作業員が談笑する。
「もうすぐ次の便がつくそうだ。――それ、面白いのか?」
「微妙。単に物理メディアが趣味なだけですよ。チーフも読みます?」
ひとりが読んでいた大衆紙を軽く掲げる。
「いや、でも気にはなる。結局、降りられるのか?」
「大気も重力も問題無いらしいですよ。ただ原生生物は狂暴、現地勢力も敵対的でいまだに襲ってくるそうです」
「使節団を襲った奴ら、まだ残っているのか。再三の交渉も決裂して戦争になったんだろ? 嫌だねぇ」
「観光はしばらくは無理そうですね。――あ、来ましたよ。仕事に戻りましょう」
チーフが管制室の端末に手を伸ばす。
発着エリアに戻った無人輸送船は、着艦前に必ずスキャンされる。
モニターにエラーが表示された。
「コード:027-529?」
「なんだ、エラーか? 再スキャンしてみろ」
「今度はできた。――チェック、クリア」
作業員が端末を操作すると、巨大なロボットアームが無人輸送艦を掴む。
そしてゆっくりと発着エリアまで降ろされると以降は、ドロイドたちの仕事だ。待機していたドロイドたちが一斉にコンテナを降ろして格納庫へと運んでいく。
作業員たちは再び談笑に戻る。
「モジュールの交換時かもしれないですね」
「ああ、メンテチームに言っとくよ」
保安局、司令部。
多くのモニターと端末、大勢のオペレーター。しかし小さな作動音だけの静かな空間に、やや呆れた声が響く。
「幽霊?」
およそ司令部に似つかわしくない単語に、制服を着た恰幅の良い局長が視線を上げる。
「はい。下級市民と中級市民から、コロニーの広い範囲で通報が入っています。数が多く対応に追われています」
部下の報告に局長は唸る。
「戦勝式典を終えて戦時体制も解除されたのに、今になってストレスで集団幻覚か?」
「医療局からは分析に時間がほしいと」
「わかった。上層部への報告は――いや、分析待ちだな。こんなオカルトめいた騒ぎ、どう報告しろというのだ」
コロニー主軸船殻区、特殊推進機関、制御室。
突然の警報に技術者たちが計器類に飛びつく。
「おい、あれが見えるか」
「嘘だろ。骸骨の、――王様?」
特殊推進機関がある区画一帯は立ち入り禁止エリアだ。入れるのは上級技術者のみであり、それも制御室を経由しなければならない。
そんな隔離された空間に、黄金の錫杖を持ち、黒を基調とした衣装を纏った骸骨の王様がいた。それも頭部は黒い後光を、足元からは赤黒いオーラを発し、開けたローブの腹部には赤黒い球体が覗いている。
「どうやって入ったんだ? センサーは?」
「実体はあるが、サーモを見ろ。悪戯にしちゃ手が込み過ぎている」
「警備を呼べ。俺は緊急回線で保安局に報――」
『
受話器越しに緊急回線の呼び出し音が聞こえるなか、聞き馴染みのない音声が響く。
「――何だ?」
「マイクが何か拾ったようです」
『
「喋った、のか?」
『
「局長、主軸特区より緊急入電です」
「繋げ」
司令部に添えられた大型モニターに「主軸特区:特推部」と表示され、すぐに「通信切断」の表示に切り替わる。
「ん? おい、主軸特区へ繋ぎなおせ」
「試みていますが、応答ありませ――」
突然、司令部の電気系統が落ち、オペレーターの言葉も思わずといった様子で途切れる。
数秒後、区画全体が予備電源に切り替わり、今度は瞬くように非常灯が灯る。
薄暗いなかで局長が命令を下す。
「アルド補佐官、参謀本部へ行って状況を聞いてこい。トニー補佐官は小隊規模で主軸特区へ急――っ!?」
司令部全体が「ズズンッ」と突き上げるような揺れに襲われる。
「くそっ、何が起こっているんだ? ふたりとも急行しろ! 現時刻をもって厳戒態勢に入る」
『はっ!』
ふいに電源が復旧、端末を操作していたオペレーターが報告する。
「局長、外郭区画から電源を迂回させました」
「よくやった」
にわかにオペレーターたちが忙しく端末を操り、口々に報告を挙げる。
「特推部、依然繋がりません」
「居住区支局から10-34、コード3進行中」
「商業区支局から10-34、コード3進行中」
「工業区支局から10-99、コード4進行中」
報告とともに現場の中継映像が次々と表示される。
同時に、保安部隊のバイタル状態も表示されるが、所々赤く――死亡を伝えていた。
映像では保安部隊が暴徒化した市民に対して発砲しているようであった。
「幽霊騒ぎの次は暴動、だと? 居住区と商業区に応援を送れ」
局長は戸惑いながらも増援を指示する。
発砲するに至った経緯は後で調べればいい。
今は現場を掌握しなければならない。
ただ、ふと局長は中継映像に違和感を覚える。
「映像を拡大しろ」
大型モニターに居住区の様子が映し出される。
暴動にしては何かが不自然だった。
過去にも暴動はあった。大抵は一般市民と治安部隊が対峙する構図だ。
しかし中継映像では市民と治安部隊が協力して暴徒らと交戦していたのだ。
「局長、工業区支局から入電、繋ぎます」
オペレーターの声で思考を中断する。
『こちらティラドス。局長、外出禁止令の発令を。詳しい報告は後程上げますが、先ほど工業区で作業員同士の争いがありました。既に鎮圧し、治療が必要と判断した当事者らを医療局へ送ったのですが……』
「どうした、続けろ」
『それが、医師が言うには
「感染? それは――」
不穏な言葉に口を挟もうとするが――。
『聞いてください。負傷したうちの隊員も医療局に送ったのですが、治療中に錯乱し、近場の者を襲いだしたとの連絡を受けました。暴れる様子が件の作業員たちと同じようでして、医師は伝染病の疑いがあると』
「分かった、外出禁止令の件は任せろ。お前は部隊を分けて居住区と商業区の応援に向かえ」
『まさかコロニー全体が?』
「ああ、混乱が続いている。俺は議員会に上申する」
『了解。両区域に急行します。通信終わり』
再び司令部全体が揺れる。
局長は薄くなった頭をガシガシとかく。
「コロニー全域に外出禁止令を発令、各現場との情報共有を密に。私は中央へ出向く」
しかし決意を固めた局長に、不吉な報告が入る。
「局長、主軸特区へ出動したトニー補佐官含む小隊のバイタル消失。ロストしました」
〈
護衛に階層守護者のシャルティア。補佐役に
そんなモモンガは悩まし気に首を傾げる。
「あの妙なエネルギーシールドさえなければもう少し侵入も楽だったんだがなあ」
「予定通リ
「ふむ。アストラル系に先陣を切らせたのは正解だったか」
壁をすり抜けて侵入できる非実体モンスターは、ある意味で人間狩りに特化した種族だ。建造物内へ逃げても四方の壁のみならず、天井や床までもが脅威となるのだ。
そんな
破壊手段は魔封じの水晶に込められた〈
「懐に入ってしまえばこんなものか」
侵略者がどのゲームから転移してきたのかは分からない。ただ今までの戦闘を振り返ると宇宙艦隊同士の戦いがメインのゲームなのだろう。
これはモモンガの想像だが、コロニー船内で行われる内政効果は艦隊強化に偏り、クルーの強化は生産性の向上がメインで戦闘面の強化ツリーが無い、あるいはプレイヤーの趣味で機械化や自動化ツリーに特化させているのかもしれない。
再び
「
「流石に対応してくるか。――
「畏マリマシタ」
フェイズ2は徹底的な外郭破壊を目的とする。
連れてきた配下が全て
「
「はい、お任せください!」
モモンガの呼びかけにトニー補佐官とその指揮下の6名の隊員が敬礼する。シャルティアに選別された彼らは、小隊から分隊規模にまで縮小していた。
彼らは
シャルティアが不安そうに進言する。
「モモンガ様、新しい下僕は戦力として不安でありんす。今からでも
「初めから戦力として期待していないから気にするな。それよりも、あいつらに代わって7体の下僕がシャルティアの支配から抜けたわけだが、支障はあるか?」
モモンガの問いにシャルティアは懐からメモ帳を取り出す。
「いいえ、ご存じのとおり〈吸血〉は使い勝手の悪いスキルでありんすから、重要な仕事は任せてやせん」
「よろしい。――では、我々も敵の中枢へ向かうとするか」
〈
コロニー主軸船殻区、議員会中央作戦室。
中央にホログラムが浮かび上がる円卓に、宇宙服を着こんだ5人の男がいた。
「ユータっ! いったい何が起こっているんだ!?」
「いつもの暴動イベントだと思ったら市民がゾンビ化していた。戦闘ドロイドを出して感染拡大は防げたけど、今度はコロニー各地で爆発が発生している。高濃度の放射線が検出されているからランク5以上のドロイドじゃないと近づけない」
「ゾンビに爆発? なんだよそれ」
「ユニット数が減り続けている。それと、電総研が言うには特推部が完全消失、通常推進機関も損傷8割。この宙域からの離脱は絶望的だ」
「完全消失って、物理的にってこと!? え、この赤いの、そういう事? エラーじゃないの!?」
状況を聞いて慌ててコロニー船のステータス画面を確認する4人。
船体の各所が赤く強調され、素人目にも異常事態が分かるユーザーインターフェースが表示される。
「そういうこと。いまこの瞬間にも破壊は続いている」
事実、作戦室は微震が断続的に続いていた。
5人が各々端末から情報を得ようと操作する。
「ルーク、確かにワープドライブが根こそぎ失くなっている。パルスエンジンは……、再配置しないと駄目そうだ」
「重力場発生装置の出力が下がっている。あと数時間で止まるぞ」
「へ、兵器の製造ラインもアラートが出ている。予備機を緊急起動したけど、3分前の監視映像に何か……、みんな、こ、これを見て」
「え、幽霊? これガチ?」
「無理無理無理、おいカケル! そんなもん共有すんなよ! 俺ホラー苦手なんだって!」
「ゾンビだけなら何かしらのウィルスか感応波の可能性もあったけど。まさか侵略した連中の怨霊だってのか?」
円卓中央で再生された映像には半透明の幽霊と市民の姿をしたゾンビが映っていた。
映像の中で幽霊がゾンビに何かを手渡して姿を消す。続いて残されたゾンビが片手を掲げると、手元が光り――画面全体がホワイトアウト、そのまま映像が途絶える。
「この爆発で製造区画の3割が消失、主軸にも甚大な被害がでている」
沈黙が落ちる。
「最高硬度の船殻を破壊するってヤバくないか?」
「幽霊なんてどう相手すればいいんだよ!?」
「落ち着け。壁をすり抜けできるみたいだけど、
「つまりあれか、プラズマ砲で――、なんだ?」
考察を続ける一同の前に一羽の烏が現れる。
「と、鳥!?」
〈
烏だけでなく、突然おぞましい声が作戦室に響き、5人の男は咄嗟に席から腰を浮かす。
「控えなんし。アインズ・ウール・ゴウン共栄圏の盟主にしてナザリック地下大墳墓が主、偉大なる至高の41人の長、モモンガ様の御成りでありんす」
先ほどの声とは別に、鈴を転がすような声で口上を述べる紅の戦乙女がひとり。
そして彼女の後ろには、ドス黒いオーラを纏う骸骨の王様がいた。
だが、その口上に応える声はなかった。
「死んでおりんす」
「流石に初見殺しが過ぎたか」
緊迫した状況下、
様子見をしようものなら12秒なぞあっという間で、これは不可避の死だ。
「復活アイテムも無し、と」
円卓に突っ伏した男たちに復活の兆しはない。
モモンガは円卓中央に浮かぶホログラムを見る。コロニー船全体のステータスが表示されているが、徐々に赤い区画が増えていく。現在進行形で友軍による破壊活動が行われているのだ。
そんな友軍を止めるべく、モモンガは〈
『将軍、フェイズ3に――』
『モモンガ様ッ! スグニ退――』
「っ!? モモンガ様!!」
シャルティアと
宇宙空間に引きずり出されたモモンガは、憎悪の感情とともにコロニー船の外壁に叩きつけられる。そして間髪入れずに振り抜かれたレーザーブレードが直撃する寸前、シャルティアが素早くモモンガを搔っ攫う。
姿を現したのは全身を武装で固めた全長10メートル程の二脚型メカ。
そのメカが悪態をつく。
『クソッ! 大人しく死んどけよ! 死体がよぉ!!』
「モモンガ様、ご無事ですか!?」
「ああ、大丈夫だ。――あれを暫定レイド級とする。今は回避に専念しろ」
「了解でありんす」
プラズマ砲の弾幕が撒かれるなか、シャルティアはモモンガを抱えながら飛ぶ。
「しかしあの声、作戦室に居たひとり、ルークだったか。〈
モモンガはルークに問う。
「おい、それに5人乗りこんでいるのか? それともお前ひとりか?」
『このデスペラードは最上位の万能二脚機体、俺ひとりで殺れるってことだ』
「ふむ、――別行動か、あるいは復活速度に個人差がある、か?」
『黙れっ!!』
デスペラードの突進に合わせ、シャルティアも距離を取るように飛ぶ。
モモンガは声を張り上げる。
『〈
「シャルティア、奴に近づけ!!」
モモンガの培養層破壊の指示を聞いたメカがコロニー船へ踵を返し、それを追うようにシャルティアとモモンガが肉薄する。
直後、モモンガの指輪がひとつ光り、デスペラードを巻き込んで転移する。
「行かせはしない」
『強制ワープ!!?』
モモンガは〈
そして魔法を放つ。
〈
黒く輝く黒曜石の剣がデスペラードを襲う。
『クソッ! 本当に魔法なのかよ、うぜぇ!!』
飛び交う黒曜石の剣は決して強力なものではない。
それでも数でデスペラードを翻弄し、その行動を制限しながら追い込んでいく。
そして、デスペラードの背後を取ったシャルティアが指示通り背部推進機関へ突撃する。
「せぃっ!」
『ちょこまかとっ!!』
シャルティアの
「くっ!?」
無手と思われたデスペラードの手首から突然レーザーブレードが生じ、シャルティアは不覚にも斬撃を受ける。
「モモンガ様! あれをご覧ください!!」
シャルティアがブースターを指差す。
淡い水色の光が覆っていた。
決して早くはないが、ジンワリと、しかし確実にブースターが修復しつつある。
「
『ああ、残念だったなぁ!!』
得意げな様子のルークだったが、彼は不意に
『これは、――重力!?』
ルークが慌ててサブブースターを最大出力にする。
「気づくのが遅かったな」
強制転移とメインブースターの破壊はただ連中の分断を狙ったものではない。
惑星の重力で捕らえ、ナザリックの土俵へと叩き落とすことこそが真の目的だ。
重力に逆らおうとするデスペラードの目と鼻の先に、モモンガは駄目押しの一撃を放つ。
〈
『糞がぁ゛あ゛ぁぁ!!!!』
モモンガは墜ちていくデスペラードを見届けてひとつ頷く。
「よし。シャルティア、我々も離脱するぞ」
宇宙から大地へ。
デスペラードは落下の勢いをスラスターの推力だけで弱められず、地面との凄まじい衝突で大きなクレーターを生じさせていた。
最初にたどり着いたのは、やまいこと、それに従うコキュートス、アウラ、マーレの4名。
相手は全長10メートルの巨大兵器。
それでも、レイド戦経験者のやまいこがいれば問題なく戦えるはずだった。
実際、重力の影響か宇宙で見せたデスペラードの機動力は見る影もなく鈍重、接敵から5分ほどは優位に戦えていたのだ。
事態が変わったのは、ナザリックで補給を終えたモモンガとシャルティア、それにアルベドの3名が合流しようとしたまさにその時。
マーレが死角から、まったくの意識外から致命的な一撃を受けたのだ。
マーレを攻撃したのは2機の人型兵器。ビームソード二刀流の近接スタイルで、大きさはデスペラードの半分。スラスターが目立つ細身の機体だった。
モモンガが〈
コキュートスは初手から四手四刀。
刃の数こそ同じだが、二対一の状況は予断を許さない。
シャルティアとアルベドはデスペラードの注意がコキュートスへ向かわないように牽制し、モモンガがそれを支援する。
「モモンガさん、ボスは任せる!」
やまいこがマーレを回復しながら叫ぶ。
「アウラ、やまいこ組と新手を直ちに隔離!」
「はい!」
モモンガが返答する間も無く、やまいこの指示でアウラが巨大な巻物を解放し、直後、やまいこ組と新手ともども忽然と姿を消す。
その場にはモモンガ、シャルティア、アルベドの3人と、デスペラードだけが残された。
「やってくれたな、ルーク」
『なにが起こっている?』
「同じ転移者として少しは同情心があったんだ」
モモンガの冷たい語りかけに、しかしルークは応えず、呼び出したはずの自律型支援機が消えたことに困惑の声をもらす。
『戦術データリンクが切れた。計器は正常、
「――何百年と経っても沈静化は慣れないものだ。全く不快だよ」
〈
「ふむ、搭乗者への直接攻撃が阻害されたか」
不意に放たれた即死魔法が不発に終わる。
「我々の知るパワードスーツと同じ、機体性能が搭乗者を補うタイプか」
『くっ!!?』
攻撃されたことに気づいたルークは、慌てて戦闘を再開する。デスペラードを駆り、煙幕と小型ミサイルを放つ。
アルベドがモモンガを庇うように立ち、飛来する小型ミサイルを見据える。
〈ミサイルパリー〉
〈カウンターアロー〉
漆黒の
『威力がおかしいだろ!!』
エネルギーシールドで魔法の矢を防いだものの、シールドの削れ具合にルークが不満を漏らす。
「こちらとしてもその
『そりゃ良かっ――』
「そこぉ!」
モモンガが言葉で注意を引き、シャルティアが再度背面のメインブースターを刺突する。
この攻撃で修復途中のメインブースターに再びヒビが入る。
デスペラードはその巨体を捻って背後のシャルティアにレーザーブレードを振るうが、今回はシャルティアに後ろへ跳ばれて届かない。それならと肩の重機関砲で追撃に転じるが、またもや
『っ!? 伏兵――いや、分身か!?』
ダメージを再三蓄積していたメインブースターは、
「ダメージ評価としては中破以上、大破未満か?」
モモンガは両手をデスペラードに向ける。
〈
紅蓮の炎がデスペラードを包むが、耐熱性が高いのか装甲に変化がない。
そこへアルベドが地を蹴って距離を詰め、バルディッシュと漆黒の
「シャルティア、時間を稼ぎなさい!」
アルベドの意を察したシャルティアがデスペラードの注意を引くように連撃を放ち、
アルベドの力が爆ぜる。
〈
重い金属音が大気を振るわせる。
「ちっ、硬い!」
装甲を砕いたものの効果が薄いと感じるアルベドだったが、当のデスペラードは体勢を崩したまま動く気配がない。
〈
追撃として放たれたモモンガの斬撃が、ダメ押しとばかりにデスペラードの膝関節を砕く。
モモンガ含めたナザリック勢には与り知らぬことだが、ルークが「万能二脚機体」と謳ったデスペラードは元来宇宙専用機であり、メインブースターを失った巨体の各関節には文字通り荷が重かったのだ。
破壊できたのは片足だけ、しかし成果としては大きい。
『くっ!?』
ルークはデスペラードを立たせようとするもののアルベドとシャルティアから攻撃を交互に受けてうまくいかない。
『それならっ!!』
振り上げた腕の装甲が展開し、隠されていた砲口が露わになる。
次の瞬間――轟音とともに大口径の弾丸がばら撒かれる。
「っ!! モモンガ様、お下がりを!! 〈ウォールズ・オブ・ジェリコ〉!」
アルベドの全体防御技が発動する。
彼女の素早い対応にモモンガとシャルティアの被弾は最小限で済むが――。
次の瞬間、空が光に覆われる。
『星にしがみつく猿の癖によぉ! もう許さねえっ!!』
周囲の塵が中空に浮き始め、空を覆う光が徐々に熱を帯びる。
「これは!? 超位魔法か!!?」
モモンガはユグドラシルの超位魔法〈
『戦艦を破壊しなかったのは間違いだったなっ! 地表の全てを焼き尽くしてやる!!』
プラズマ放射による軌道爆撃。
デスペラードの装甲を微塵も疑わず自らを巻き込む無茶な運用、いや、自爆覚悟の運用だった。
「〈不浄衝撃盾〉!」
「〈ウォールズ・オブ・ジェリコ〉!」
「〈
試みられる三者三様の防御。
広範囲を覆っていた光がモモンガたちへと収束を始め、比例して細かい放電と熱が増す。コロニー船の指令室は制圧済み。つまり目の前にいるルークが照準し、調整しているのだろう。
妨害を試みたいモモンガたちだが、しかし眩い光に視界が白く染まってゆく。
例えるなら、〈
アルベドの張りなおした〈ウォールズ・オブ・ジェリコ〉が瞬く間に崩壊する。
「っ! 〈イージス〉!!」
守護者のなかで最も防御力に長けたアルベド。守り手に特化した彼女は言わばモモンガの盾。ここに至って彼女に残された主を守る手段は、身を挺して自身の装備する
〈イージス〉とは三重装甲を少しでも長く持たせるための、被ダメージ量を減らす
シャルティアを庇っていた
「――〈清浄投擲槍〉!!」
MPを上乗せした必中の神聖属性の魔法攻撃が、デスペラードがいるであろう方向に投擲される。
雷の壁に吸い込まれるように戦神槍が消える。必中である以上はデスペラードに当たっているはずだが、光の収縮は止まらない。
雷の勢いがさらに強くなる。
「
即時召喚された
雷のスリップダメージで
アルベドの鎧も一層目は既に無く、二層目にもヒビが入り始めている。
「モモンガ様、一時撤退を!」
「ここで引いては、やまいこさんが」
万が一この場に現れたら大惨事だ。
「な、なにか、止める手はないのか!?」
不意に光の収束が弱まる。
同時に雷撃も消え、ルークが狼狽えたように叫ぶ。
『あ゛あ!? なぜだ!! なぜ戦艦まで消ぇ――!!?』
『
大気を割って降ってきた一条の純白の巨大な槍がデスペラードを貫く。
その威力は絶大で、白亜の槍はデスペラードの機体を貫くに止まらず、大地はヒビ割れながら捲れ、発生した衝撃波が周囲にいたモモンガたちをも吹き飛ばす。
音が止み、モモンガたちが土砂と粉塵をかきわけて顔を出すと、巨大な槍がデスペラードの操縦席付近を貫いており、装甲の隙間をバチバチと電流が這っているのが見えた。直後、デスペラードの巨体がガクンと沈み込み、重い金属の機体から動力が失われたのだと直感が告げる。
静寂。
風が、戦場を撫でる。
「これは……、――っ!?」
困惑するモモンガたちの前に、漆黒の人型メカが降り立つ。
大きさはモモンガたちの知るユグドラシルのパワードスーツに近い。
アルベドとシャルティアが咄嗟にモモンガを庇おうとするが、当のモモンガがそれを手で制す。
モモンガは人型メカを観察する。見るからに軽量型で、速度重視の設計思想が窺えた。
そして胸元に視線が釘付けになる。そこにはナザリック地下大墳墓の“玉座の間”を知る者にとって馴染み深いエンブレムがペイントされていた。
『いやあ、間に合ってよかった。――お久しぶりですね、モモンガさん』
ありふれた日常のような気安い挨拶。
モモンガはしばし呆然とし、やや呆れたように肩を落とす。
「おかげさまで助かりました。――本当に、お久しぶりですね。その紋章がなければ誰だか分かりませんでしたよ、弐式さん」
『ははは、久しぶりにその名で呼ばれたな。あ、顔を見せたいけど、いまは探査用の身体じゃないから、このままでゴメンね』
弐式炎雷。
かつて共にユグドラシルを駆け抜けた戦友だ。
『――そうか、ユグドラシルから転移したんだね』
モモンガは古い記憶を掘り起こす。
「そちらはアーベラージからですか?」
『アーベラージはサ終、転移は精神的続編ってやつからですね。メコン川さんが一緒だけど、少し遅れて合流予定です。モモンガさんは、――もしかしてギルドごと、ですか?』
メカのセンサーアイがモモンガの後ろに控えるアルベドとシャルティアを捉えたのが分かる。当のふたりはどうも居心地悪そうにしている。知らない存在が御方の気配を纏っていることに戸惑っているようだ。
「ですね。まあ、込み入った話は後にするとして、よくこの星に居るって分かりましたね。それとも、偶然?」
『これだけ主張しといて偶然な訳ないでしょう』
メカが片手を差し出すと、その手のひらからホログラムが浮き上がる。
『探査機がこの映像を送ってきたときは目を見張りましたよ』
「ああ、
弐式炎雷が見せた映像。
そこには戯れに描かれた
「ナザリック地下墳墓を発見するのは2度目ですよ」
「はは、これも縁ですかね。――それにしても、あの槍を撃ち込んだのはその機体ですか?」
『ん? ああ、違う違う。あれは新型恒星間輸送機に無理やり付けた地殻破壊用大質量砲からですよ』
モモンガは何気なしに空を仰ぐが、地上からは軌道上の物体の視認は難しい。
そこへ――
「モモンガさんから離れなさい! 後は貴方だけよ!!」
突如、やまいこの声が割り込んだ。
巨大な鉄拳がモモンガの頭上を越え、弐式炎雷の黒い機体を襲う。
『あっぶねぇっ!? これ紙装甲なんすよ!!』
「む、避けられたか」
やまいこは鉄拳を握って再び弐式炎雷に突っ込む。
「やまいこさん! 落ち着いて、弐式さんです!! 弐式炎雷さん!!」
そのモモンガたちの呼びかけにやまいこの拳が空を切る。
「わ、わわっ!?」
そして、やまいこはらしくもなく足元の石につまずく。
「おっとっと!」
殴られずにすんだ弐式炎雷が反射的に抱きとめる。
やまいこは初めて見る黒いメカに抱えられ困惑する。
「え、
「やまいこさん、おひさ。――というか、ボロボロじゃないですか。大丈夫ですか?」
遅れてやってきたやまいこ組の面々を見やると、よほど戦闘が過酷だったのか全員がボロボロ。コキュートスに至っては片側の腕を2本とも欠損していた。
その様子を見て、モモンガは労う。
「やまいこさんをよくぞ守ってくれた」
そして、この様子を見ているであろう存在に合図を送ると、モモンガたちの近くに〈
「おうおう、懐かしい面子だなあ」
弐式炎雷は〈
そんな彼の視線が、ひとりの
やまいこが逡巡する弐式炎雷の背中を叩く。
「さっさと行く!」
弐式炎雷とナーベラルが向かい合っていた。
どちらも何かを言い出せずに、ただ向かい合っていた。
ナーベラルからすれば数百年ぶりだろうか。
ようやく迎えた再会だった。
遠くからその様子を見守るのは、人間の姿のモモンガとやまいこ。
野暮なことはしたくないが、とはいえ心配であるのも事実。ふたりの邪魔にならないように木陰に腰を下ろし、並んで眺めているのだった。
「大丈夫ですかね、あのふたり」
モモンガが腕を組みながら不安げに呟く。
「う~ん。弐式さんってどれくらい生きてるんだろ。延命してるって言っていたけど、まだ“人”なのかな」
「あれは操縦用端末義体に意識だけ転送しているらしいですけど。――どちらにせよ、弐式さんには今の人生がある」
やまいこが少し寂しげな笑顔をみせる。
「メコン川さんもね」
ふたりの髪を風が揺らす。
「彼女たちの選択を尊重しましょう」
「そうだね」
沈黙。
ふたりはしばらく、風の音をただただ聞いていた。
やがてモモンガは立ち上がる。
「さて、そろそろ戻りましょうか。明日から事後処理が大変ですよ?」
「そうだね。それに弐式さんとメコン川さんの勢力を迎え入れる準備もあるし」
やまいこが不意に笑い、モモンガの腕を小突く。
「落ち着いたら宇宙旅行に連れてってもらおうか」
「はは、宇宙かあ。――いいですね」
ふたりの笑い声が風に溶け――
――そして、物語は静かに日常へと戻るのだった。
独自設定と補足
・襲ってきた敵は宇宙を舞台にしたストラテジー系のゲームから転移してきている。戦艦やメカ同士による宇宙空間での戦闘をメインとし、内政や惑星の侵略などは簡易的なイベント演出のみで処理されていた。
・侵略者は議員会中央作戦室にいた5人がプレイヤーで、他は全てNPC。5人の年齢は18歳から24歳くらいで構成。ルークは若く精神的に未熟。
・侵略に際して宇宙未到達の文明と話し合う気はなく、コロニー内の住人には都合の良い情報だけを伝えている。ぶっちゃけプロパガンダ等やっていることはアインズ・ウール・ゴウン共栄圏とあまりかわらない。
・
・普段SFモノを読まないので諸々の稚拙な描写は何卒ご容赦。がんばった
・プラズマってなんだろう ( ᐛ)バナナ
・「彼女たちの選択を尊重しましょう」の“彼女たち”は、ナーベラルと弐式炎雷ではなく、ナーベラルとルプスレギナ。ナザリックに残るか、創造主に付いていくか。
・エモい感じで終わらせたかったけど〈