素晴らしい世界かもしれないが不死人には物足りない 作:みーと
けど、考えて見てほしい。突如更新されなくなって作者が失踪する作品なんて山ほどある中で戻ったきたのだから、それだけでマシじゃない?
それはいつの事だったか。アルトリウスが素晴らしき世界へと移り、いくらかの時が経った頃。アクセルから遠く離れたアルカンレティアでは、ある噂が巷を賑わせていた。
曰く、街から郊外。人通りも少なく、治安も良いとは言えない其処に幽霊が出ると。
無論、始めはゴースト系の魔物でも住み着いたかと言われていたが如何にもそうではないらしい。アクシズ教の総本山、女神アクアのお膝元なのだ。多くのアークプリーストを抱えるこの街ではゴーストの類など次の日には天に還っていなくてはならない。どれだけの除霊を行おうとその幽霊が現れたという報告は消えなかった。
やがて事態は悪化した。怖いもの見たさ、興味半分で其処へ向かった冒険者が翌日、死体で発見されたのだ。やはりモンスターだったか?と誰もが思ったが、確信はなかった。
ひとえに異様な死体の所為だ。それはまるで体中の血液や諸々の水分を奪われたかのうように干からびていた。外傷による大量出血でもない。否、それ以前に致命傷になりそうな傷すらなかった。
この怪奇現象に誰もが戦慄する中、ギルドが動いた。この幽霊の討伐を依頼として用意したのだ。
渇いた死体がまるで吸血鬼に襲われたようだと、吸血幽霊などという呼び名がついたそれを討ちに出かけた者はいる。しかし、この依頼が成功することは無かった。討伐に向かった者たちは皆、変死体として土に埋まっていくのだ。そうして犠牲者が増えるたびに跳ね上がっていく成功報酬に釣られ、今日もまた愚かな冒険者が幽霊退治に向かった。
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幽霊退治を請け負った冒険者、名をカインという青年はソロで活動するタイプである。各地を転々としながらギルドの依頼をこなして生計を立てている。当然今回の依頼も1人。というよりも今回に限って言えば地元民、つまりアルカンレティアの者たちは関わりたくないと協力も断った為である。彼の本心は前衛を受け持つ戦士であるがゆえに、幽霊に強そうなアークプリーストの1人でも入れば楽かと言った程度か。
「しかし、吸血幽霊ね…馬鹿げてるとは言えないか」
無論、この素晴らしき世界には山ほどそれ系統の魔物がいるし、実際にこの世に未練を残して成仏出来なかった魂は幽霊になる。だが、今回のように変死体を生み出すなど聞いたこともない。
やがて件の街はずれへとやってきた。
そこは多少不気味という程度で、何処でも郊外の裏路地などこんなものだろう。
あたりをきょろきょろと見回すが、幽霊らしきものは見えない。
空は既に暗く黒い。薄い雲で着飾った三日月が怪しく光っているだけである。銀色の光が周囲を照らしていた。
勿論、依頼として受けたのだし、幽霊がいなかったで直ぐに帰ることは出来ない。いや、そんな事をすれば怯えて逃げてきた臆病者扱いは免れないだろう。そんな事は彼のプライドが許さない。
変化が起きたのは近くに置いてあった木箱に腰をかけ、時が経つのを待っていた時だ。
妙な音が眠気に負け、微睡んでいた彼の耳に届いた。ん?と顔をあげると、何の変哲も無かったはずの路地に赤黒い渦のようなものが浮かび上がっていた。
一見すればそれは魔法陣のようでもあるが、何の法則性もない。魔法とは本来高度に体系化された学術理論である。ゆえにそんな無秩序、無法則なものはあり得ない。
冒険者としての彼の本能が警鐘を鳴らしていた。あの渦から何かが出てくる。そして出てくる何かは酷い脅威であると。
一瞬で覚醒した意識、咄嗟に腰に刺した直剣と背負った盾を構える。
やがて赤黒い異形が這い出た。
それは嗚呼、見るものがみれば正しく幽霊だろう。恐怖感を煽るように髑髏が装飾に使われた鎧、身の丈の半分ほどもある肉厚な剣。そして血のように赤いオーラが揺れる左手。
目があった。その赤黒い異形は己を敵と認識したのだろうか、その剣を構えて此方へと走ってきた。
十数メートルの距離を一瞬で詰めてきた異形は大剣は上段に振り下ろした。気味の悪い咆哮が響く。いきなりとは言え、その程度で取り乱すほどではない。カインは落ち着き、剣を防ごうと盾をぶつけた。
しかし、…
…あろうことか、剣を弾く筈だった盾を彼の左腕ごと両断した。
声にならない悲鳴をあげ、痛みに悶え、出血に苦しむ。だがタダではやられない、意識が飛びそうな衝撃を押し殺し、直剣を異形に振るう。だが、通らない。異形の左手に防がれる。空間が歪むように魔力にも似たナニカによって盾が形成されていた。
チッと舌打ち一つ、バックステップで距離をとった。治療をする暇などない。かなりの重量がありそうな大剣だと言うのに軽々と片手で振るわれる。避けるので精一杯。僅かな隙を見て剣を振るも不可思議な盾に阻まれる。
そんな時、異形が大剣を両手で構えた。片手であれだけの威力、両手持ちなど想像を絶する。しかし絶好のチャンスである。左手が塞がったならあの珍妙な盾も使えないだろう。大きく踏み込んだ異形をめがけて雄叫びと共に全力で剣を叩きつける。
だが、それがどうしたと言わんばかり。渾身の一撃は相手を倒すどころか、よろめかせる事すら出来なかった。彼は知るよしもないが『戦技:踏み込み』は50%のダメージカットに合わせて、スーパーアーマーが付与される。常人が直剣を片手で振るった程度で崩せるものではない。
驚く暇もなく、仕返しとばかりに伸ばされた左手に顔面を掴まれた。どうにか離せともがくが、悲しいかな。その左手『ダークハンド』に掴まれたら最期。その後に待つのは死ばかりだという事をカインは知らなかった。
全身の力が抜けていく感覚と共に急速に彼という存在が渇いていく。
残るのは今までと同じように変死体と化した冒険者と、異形だけ。本来、踏み込みからは剣の一撃を繋げるべきである。しかし、左手を使ったのはそれほどまでに飢えていたのか、それともソウルに刻まれた記憶を探るためか。
人間1人分のソウルを喰らい満足したのか異形は懐から水晶を取り出す。そして水晶が輝きを放つと、異形は空気に溶けるように消えていった。
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そこは灯りの1つもない、灰にまみれた王たちの玉座。火の消えた火継ぎの祭祀場。
そこに先ほど異形……『ダークレイス』があった。祭祀場の中央、かつて篝火があったそこに佇む女性は闇の僕の姿を一瞥した。
「何も言う必要はない。わかっているとも。今度もまた何一つの収穫もなかったのだろう」
嘆息する彼女にダークレイスは一言謝罪をし、暗闇へと消えていく。
彼らは探している。王と崇めた人物と1度は手に入れた、はじまりの火を。そこにあった筈なのにいつの間にか消えてしまった。まるで彼らの達した悲願が泡沫の夢であったかのように。そんなわけはないのだ。確かに間違いなく王はいた。我らを導く真の人…亡者の王はいたのだ。
だが見つからない。ゆえに黒教会の指導者ユリアは嘆くのだ。
「ああ、我らが主よ。偉大なるロンドールの王よ。我らを置き去り、一体何処へ…」
素晴らしき世界の未来に暗雲が立ち込めた。
すみませんでした(土下座)
多分また次の更新も大分先なので気長に待っていただけたら…
オリジナルキャラ、セリフが一つしかない、単なるやられ役カイン。哀れな奴だよ、本当に。