北条加蓮の昔話。始まりは彼女が5歳の時に遡る。

1 / 1
閲覧ありがとうございます。短いと思いますが、楽しんでくれれば幸いです。


北条加蓮の兄

アタシには6つ上の兄がいた。あ、いや、兄と言っても血の繋がった兄妹ではないんだけど。ついでに言うと義理の兄でもないよ。つまり、近所のお兄ちゃんみたいな感じ。

 

兄さんと初めて会ったのはアタシが5つの頃、病気で病院に入院しなくちゃならなくなって、案内された病室でだったな。その病室にはベットが4つ置かれていて、そのうちの1つに兄さんは横になって、つまらなそうにテレビを眺めていたんだ。

その時にやっていたのは当時、女の子の間で流行っていたアニメ番組でアイドルを目指す女の子たちの笑いあり、涙ありのサクセスストーリー。5歳の時にアタシが1番好きだった番組で16になった今でも鮮明に思い出せるよ。奈緒なら知ってるんじゃないかな? 今度聞いてみよっ。

 

あ、話の続きだよね? えーと、それで、そのアニメをつまらなそうに見てたから、ついカッとなって引っ叩いちゃったんだよね。こう、頭をバシッ!って。病気でピリピリしてたっていうのもあるのかな? それでね、その後、それが発端で見ず知らずの男の子と大ゲンカ。手は出なかったけど、大声でお互いを罵り合ってたよ。今にしてみれば、あれぐらい大声出したことないかも。

 

結局、喧嘩はアタシの両親と看護士さんに止められて終わったんだけど、その人と同じ病室でさ、2人しかいなくてさ、しかもベットが目の前なんだよ?気まずいったらありゃしないって。

 

でもね、子供って不思議なもので、喧嘩してもそんなことすぐに忘れるんだよね。あの時は夜の10時ぐらいだったかな? そろそろ就寝時間なのにテレビつけ始めて、アニメ見始めたんだよ、その人。アタシに遠慮してるのか音量は小さめなんだけどさ、狭い病室だったから、音がだだ漏れで。アタシも入院初日だったからさ、なかなか寝付けなくて、気がついたらその人に話しかけたんだよね。「何を見てるの?」って。

 

返事は来なかったよ。でも、その代わりに仕切りのために閉められてたカーテンが少し開いて、そこから、男の子のような手が手招きしてるんだ。

 

アタシも最初はビックリしたけど、あの人なりの照れ隠しなんだって思って、その手を握ったの。柔らかくて冷たい手だったな。一瞬、ビクッ! ってなってたけど、すぐにゆっくりアタシの手を引っ張ってくれたんだ。まぁ、真向かいのベットだから、すぐ着いちゃうんだけどね。

 

促されるまま2人でベットに腰掛けて、テレビを見たよ。何かのロボットものだったかな?

あはは、 実はあんまり覚えてないんだよね。テレビの光で照らされるその人の横顔ずっと眺めてたからさ。

実はね、昼間は喧嘩してたりしてよく見てなかったんだけど、その人、なかなかのイケメンだったんだよね。中性的な顔立ちでうなじあたりで切り揃えられたツヤのある黒髪。笑顔が似合いそうな人だったよ。アタシも声を聞かなかったら男だってわからなかったかも。でも、たぶん、あの人はアタシが横顔を眺めていたことに気がついてないかも。1つに集中すると周りが見えなくなるタイプだったから。

あ、そうそう、そういうところ、プロデューサーに似てるかも。プロデューサーも仕事一筋でたまに周り見えてない時、あるもんね。しっかり者の人たちは大変だ。

それでね、そこから、アタシはよくその人と話をするようになったんだ。病室に2人しかいなかったっていうのもあったんだけどね。

 

その人は大のロボットアニメ好き。ヒーローものじゃなくて、ロボットものが好きな男の子版光ちゃん、っていうのがわかりやすいかな? 古いものから新しいものまで、色んなものを知っていたよ。何故かビデオやらDVDがベットの下に大量にあって、見つかっては怒られてたっけ。

 

もちろん、アタシもアイドルのこと、ファッションのこと、流行りのもの、いっぱい喋ったよ。いちいちどういうことか聞いてくるから、色々と調べたりもして、気づいたらアタシの周りも雑誌だらけになっててさ、その時は2人して笑ったよね。結局、全部捨てられちゃったわけだけど。兄さん、って呼ぶようになったのはこのあたりかな? 特に何かあったわけじゃないけど、アタシに兄がいたらこんな感じかなって思ってふざけて呼んだら、そのまま定着しちゃって。

 

でもね、1つだけ、たった1つだけ兄さんがアタシに話さなかったことがあるんだ。

 

うん、そう。なんで入院していたのか。アタシがそれを不思議に思ったのは、アタシの手術が無事に終わった次の日のこと。ふと、聞いてみたんだよね。「兄さんはなんで入院してるの?」って。そしたらさ、笑いながらはぐらかされちゃって、結局、アタシが退院するまで分からずじまいだったんだよ。まぁ、小さい頃に思った疑問なんてすぐに忘れるけどさ。

 

でも、そのことがもう一度疑問に思う時があったんだ。それは、アタシが10歳の時。そう、よくアタシが出る番組で感動みたいな感じで流れるあの手術の時だね。その時もまた、一緒だったんだよ。病室が。兄さんと。

 

一目でわかったよ。全然変わってなかったから。髪が長くなって、メガネを掛けてて、体が大きくなった。それぐらいかな?

 

アタシも最初は嬉しかったよ。もう2度と会えないと思ってた兄さんとまた会えたんだから。でもさ、気がついちゃったんだ。5年も前のことなのにハッキリ覚えていたよ。同じ病院、同じ病室、同じベットの位置。もしかしたら、アタシが退院した後も、ずっと兄さんはここにいたんじゃないかって。恐る恐る兄さんに聞いたよ。「ずっとここに入院してたの?」って。そしたら兄さん、笑いながら「バレちゃったかぁ」って、笑いながら言ったんだ。

 

その顔が、すごく寂しくて、儚くて…………

 

アタシはそれ以上、何も聞けなかったよ。なにか、聞いちゃいけない気がしたんだ。

 

また兄さんとはお向かいさんになったから、前みたいに、変わらず、2人で喋って、テレビ見て、ゲームして、ご飯食べて、寝る。そんな毎日だったよ。

 

ある日、兄さんは言ったんだ。「加蓮! 俺はアイドルのプロデューサーになるよ! それで、加蓮をトップアイドルにするんだ!」って。

 

どうして、兄さんがそんなことを言ったのかわからないけど、子供ながらに嬉しかったなぁ。早く病気を治して、退院して、絶対に兄さんにプロデュースしてもらうんだって、息巻いてた。

 

でも、日が経つにつれ、兄さんはだんだん弱っていった。ついには自分の力で歩けなくなって車椅子での生活を余儀なくされてた。心配そうに見るアタシを、兄さんはいつも、頭を撫でて、「大丈夫だよ。約束しただろ? 俺が絶対に加蓮をトップアイドルにするって」そう優しく声をかけてくれた。

 

だけど、突然、兄さんはアタシの前から姿を消した。目が覚めたら何もかも無くなってたよ。ベットに横たわる兄さんの姿も、小さめの液晶テレビも、ベットの下のビデオやDVD、棚に入ってた漫画やフィギュア、どれも全部、全部…………

 

アタシは恨んだよ。悪口も言った。嘘つき、バカ、ロボットオタク、病弱、男女、もやし野郎、他にもいっぱい。それでも、「死ね」って言葉だけは決して出なかった。

それに気がついた時、アタシは泣いたよ。嫌だ、帰ってきて、アタシ頑張るから、兄さんのためになんでもするからって。

 

好き………………だったんだろうね。それが、今のアタシにはその「好き」がどういう意味だったのかはわからないけどさ。

 

それで、あとはみんなの知っている通り、手術に成功して、元気になって、今はアイドルやってますっ! てね。

 

 

▽▽▽

 

 

 

「ふーん、なかなか泣かせてくれる話だね。加蓮が我儘だったって点を抜いても感動したよ」

 

凛はそう言うと手元に持っていたペットボトルのお茶を喉に流し込む。その態度に不服だったのだアタシは唇を尖らせ、不貞腐れてみる。まぁ、聞かないんだけどね。

 

「凛、それはちょっと酷くない? 折角、アタシがライブ前に緊張している凛のために昔話をしてるっていうのにさー」

「だって、プロデューサーの話でしょ、それ」

 

そう突っ込まれたアタシは目をパチクリとさせ、そして、ニヤリと笑った。

 

「えー? わからないよー?」

「だって、プロデューサーから聞いたよ。『俺は昔、大きな病気をして心臓を移植する大手術を海外でしたんだ』って」

「あー」

 

そう言えばそんなこと言ってたっけ。

 

その時、タイミングよく扉が開いた。噂をすればなんとやら、入ってきたのはプロデューサーだった。

「あ、兄さん」

 

突然、そんな呼び方をしたアタシにプロデューサーは一瞬、怪訝な顔をした。だが、その表情もすぐに変わる。

 

「急げ、加蓮! お前の番、もうすぐだぞ!」

「あれー? もうそんな時間ー?」

 

慌てるプロデューサーとは対照的にアタシはゆっくりとした動きで立ち上がった。

 

「それじゃあ、凛、また後でね」

「うん、頑張って」

 

お互いに拳を合わせる。なんか、こういう男の子っぽいもの、昔は嫌いだったんだけどなぁ。

かんかんかん、リズミカルに階段を駆け上がる。

 

「加蓮、ライブ前にそんなに急いでると、この前みたいになるぞ」

「大丈夫だよ、だいじょーぶ」

 

くるりと振り返って、プロデューサーの顔を見る。

 

うん、似てないね。兄さんとは違って浅黒く焼けた肌に剃って髪がない頭皮。全然似てない。だけど、兄さんはそこにいるんだよね。

 

兄さんとプロデューサーが重なる。

 

「あなたが育てたアイドルだよ? 少しは信用してほしいな」

 

そう言うと、プロデューサーは大きな手をアタシの頭の上に置いた。

 

「信用してるに決まってんだろ? 約束したじゃないか、絶対に加蓮をトップアイドルにするんだって」

あぁ、違う、やっぱり似てたよ。兄さんとプロデューサーは。

そう思うと、何か、熱いものがこみ上げてくる。だけど、今はその気持ちをアタシの中にしまっておこう。

 

「それじゃあ、応援しててね、プロデューサーっ!」

「あぁ! もちろんだ! 頑張れよ、加蓮」

 

アタシは階段を駆け上がる。舞台に上がる前、チラリと見たその姿は、こっちを見て心配そうに見つめるプロデューサーとその隣に立って手を振っている兄さんが見えた。

 

「みんなー! 今日はライブに来てくれてありがと〜っ!」

 

見てて、兄さん。アタシ、絶対トップアイドルになるから!




今後のために感想とアドバイスをしてもらえると助かります。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。