前回登場した女性は水梨玲奈こと本道玲奈さんでした!
分かりましたか?
キーワードはCIA、女、少年と同い年位の弟がいる、という所ですかね。
「はぁっ? どういう事なの?!」
女、改め水無怜奈は驚きを隠せなかった。先日盗み出した情報は見事無事にCIAの本部へと届ける事が出来、肩の荷が降りたと思った所に先程の連絡。
その内容は「今すぐ黒の組織に戻る様に」との事。いや、スパイがバレた所に戻っても蜂の巣にされるだけだろうと呆れそうになった時に、聞き捨てならない情報が目に飛び込んできた。
どうやら、自分のスパイは未だバレていないらしい。確かに見つかってしまったのは黒の組織の男というか少年1人だけだが、自分が今回十分に怪しい行動をした自覚はある。それなのに何故だと本人にメールで問いただせば、別の人間に罪を擦り付けたのだとか。暗に関係ない人間を始末したという少年に不満を覚えるが、それでも少年が話した事が本当ならこちらとしては助かるのが事実だ。潜入1つでも膨大な時間がかかり、更に代わりになる有能な人間はそうはいない。組織でも酒の名前を授かる程の地位を手放さないで済むという事実は大きいのだ。
すぐに下っ端で黒の組織に潜入している部下に連絡を入れたが、確かに少年の言う通りだった。1人の武器取引をしていた男が犯人とされ、始末されたのだという。これで、もしも罠だった時を考えると頭が痛いが何故だか女は少年を信用した。いや、信用したいと思ってしまった。
先日交換した、メールアドレスから送られてきたメールを読み返してやっぱり胡散臭いと思いながらも、女は黒の組織へ戻る準備を始める事にした。
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「何だかやけに御機嫌だな、スピリタス。」
「そう見えますか、ライ。」
バーのカウンターに座る男が2名。片方は少し前に女を追いかけ回して見事契約まで漕ぎ着けた男で、もう片方は女の車にわざとひかれて関係を築き組織に潜入した男である。
「どうせ今回の事件もお前が噛んでるんだろう。……例えば、本当は鼠を敢えて逃がしたとか。」
その言葉にスピリタスは軽く目を瞬いた。
「流石ですね、ライ。今回の事は私とボスとでしか詳しい内容は分からないのに。」
ライはグラスを傾けながらも気にした様子もなく、話を続ける。
「簡単な事だ。ここ最近次々と組織の末端が逮捕されてる。……それも随分と悪質な者達がだ。それとこの間のスパイ未遂事件を照らし合わせると、スパイに敢えて情報を握らせて逃走を許し、組織の末端の浄化をした。……違うか?」
「お見事です。情報を不審がられない様にこの事は秘匿されていたにも関わらず、そこまで分かってしまうとは。……あの情報に書かれた者は少し悪行が過ぎる者達でして。あまりに自制が効かない者は組織としても不要なので別の機関に処理してもらおうかと考えましてね。」
ニッコリ笑った顔はとても楽しそうで、内容の物騒ささえなければ勘違いしてしまいそうだ。
「毎度ながら恐ろしい奴だな。流石、ボスに気に入られているだけある訳だ。」
その様子に軽く呆れながら軽く笑う。肩を竦めて返すスピリタスはボスのお気に入りで、黒の組織にはそれこそライが来るよりもずっと前からいた謎の深い人物だ。その戦闘能力もさる事ながら、潜入が得意でよくCIAやFBIにも出入りしているらしい。今回の作戦もスピリタスが潜入して得た情報があったこそ成功したと言っても過言じゃないだろう。それ位、組織では重要な人物だ。
そんな男とこうしてバーで飲んでいるのは何故かというと、勿論自分がスパイであるため何か情報を掴めたらというのもあるが、それだけではない。
「マスター、ジュースをもう一杯下さい。」
この男、仕事が終わると途端に気が抜けるのだ。普段は黒の組織に相応しい、微笑みながらも冷たい目をしているのだが、プライベートになると打って変わって本当に柔らかな笑みになる。初めて見た時は二度見してしまったが、今では慣れたものだ。
プライベートに関われば何か情報が得られるかもと思い、深く入り込んでみたが今の所何も有益なものは得ていない。いや、唯一得た情報はこの男が想像よりも幼いという事か。やれジンが鬼畜だの、ベルモットが怖いだの、バーボンがウザイだの、愚痴を聞かされる事があるし、先程から飲んでいるものはオレンジジュースである。
初めてバーに来たのにオレンジジュースしか飲まないスピリタスを見て、酒が苦手なのかを聞いたら肯定が返って来た。名前からして強いのかと思っていたのに、1口飲んだだけでも酔っ払うと聞いて意外に思ったのを覚えている。それから自分からはバーに誘わなくなったが、どうやら店の雰囲気を味わいたい様でオレンジジュースを飲みに度々訪れるみたいだ。そして今日もバーに飲みに行く所で、たまたま出くわして今に至る。
「せめてカシスオレンジとかにしたらどうだ。バーに来て、一杯も酒を飲まないのは可笑しいだろう。」
「むっ、別にいいでしょう。私が何を飲んだって。……お酒は苦手なんですよ。」
そう言いながら、オレンジジュース片手にサーモンのカルパッチョを食べるスピリタス。
「そもそも、何故その名前で酒が飲めないんだ。ボスは何を考えて名前を付けたんだか。」
一瞬、スピリタスの持つフォークが揺れたが、すぐに何も無かった様に食事を始めた。ライはそれに気付いたが、きっと何も答えてはくれないだろう事を思って無視する事にした。
スピリタス…………70回以上も蒸留を繰り返し、そのアルコール濃度は96度を超えるという、世界で最も高いアルコール濃度の酒。火気厳禁。取り扱いを誤れば、あっという間に炎に包まれるだろう。
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「ベルモット……何をしてるんだ?」
「あら、もう帰って来たの?」
ライとの飲み会を終え、家に帰るとそこには何故かベルモットがいた。我が物顔でソファに寄りかかり、酒を並べて冷蔵庫の中身を食べるのはやめてもらいたい。
「あっ、取っておいたローストビーフ食べたな!」
「あぁ、あれね。結構美味しかったわよ。」
「当たり前だろ! あれは素材から拘って作って、楽しみに取っておいたものなのに!!」
「あのジンが珍しく美味しいって言ってたんだから、自信持っていいわ。」
「えっ、ジンが…………ってジンまでいたのか! 俺の家を私物化しないでくれ!!」
料理や酒ビンが散らばっているのを見ると、確かにこれはベルモット1人では消費出来る量でないだろう。折角ライとの飲み会で気分が良かったのに、一気に地に叩き落とされた感覚だ。
「スピリタス。」
急に真剣な表情で名前を呼ばれて、イライラした気持ちを抑え反応する。
「……何だよ?」
「貴方、今日はライと飲んでたらしいわね。」
「俺のプライバシーはないのか。……そうだけど、何だ?」
「あの男は危険よ、あまり関わるのはよしなさい。」
またか…………ベルモットはライの事をスパイだと怪しんでる様で、ずっと同じ事を言い続けている。
「分かってるよ。勿論線引きはしっかりする。それに……きっと最後に痛い目を見るのはあっちだ。」
前も似たような言葉を返したが、ベルモットも心配してか何度も忠告をしてくるので仕方ない。ベルモットには幼い頃から世話になったから、あまり反抗的な態度は取りたくないがこれだけは譲れないのだ。
自分でも彼に多少惹かれている所があるのは認めるが、彼はいつか組織を裏切るのも分かっているつもりだ。だから一定以上は踏み込ませていないし、彼の前で素の自分も晒してはいないつもりだ。今の自分の素を晒せるのは目の前のベルモット位だろう。
しかし、彼には大きな利用価値がある。あの名探偵を守る騎士として、組織から安全に抜け出させなければならない。今ではそれだけではなくなってしまったが、始めにライと接触しようと思ったのは利用するための足場作りのためだったのだ。
「快斗…」
「……その名前で呼ぶのは狡い。」
「ふふっ、ごめんなさいね。……だけどそれだけ貴方が大切だって事を忘れないでね。」
ベルモットは少しだけ辛そうに、でも愛おしいという気持ちが伝わってくる様に美しく笑った。
快斗はまだ中学生なので酒が飲めません。それとこの小説ではゲコ設定なので、大人になってもバーでオレンジジュースかジンジャエールを飲む姿が見られます。
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