業火の奇術師   作:ジュースのストロー

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ここから原作に突入します。
多少の改変があるのはご容赦下さい。





探り屋も狙撃手も奇術師もバーにいる 3

「バーボン、今日はこの後予定ありますか?」

 

そう言われて付いてきた彼の行きつけらしいバー。聞く所によると、彼は名前の割にお酒がてんで駄目だった気がするのだが、やはり間違いだったのだろうか。

いや、今はそれよりも目の前の方が重要だ。恐らく自分と同じ様に驚いているであろうこの男。

 

「何でここにいるんですか、ライ。」

 

仕事の時でも中々出ない声色だった。

 

「彼は私が呼んだんですよ。事後報告になってしまい、すみませんでした。」

 

そう言ってスピリタスに頭を下げられると、これ以上怒る事も出来なくて、大人しく酒を注文する。

 

「お二人とは、それぞれ付き合いがありますが、3人では無かったと思いましてね。」

 

そう言って双方にウィンクしてくるスピリタスは絵になってるし、言う事も分からないでもないが、どうして仲の悪い自分達を誘うのか分からない。 スピリタスに限ってそれを知らない等有り得ないから、これはきっと確信犯なんだろう。あぁ、この男のたまに発揮する茶目っ気は本当に訳が分からない。

 

「マスター、私はいつもの下さい。」

 

せめてもの抵抗にと頼んだライをマスターに注いで貰ってる間に注文されたスピリタスの「いつもの」。本人も言っていたが本当に常連だったのか。それならあの噂は嘘だった事になる。やはり名前からして度数の高いものを水の様に飲んだりするのだろうか。

先に手元に置かれたライに礼を言うと、マスターは裏の冷蔵庫を漁り始めた。そして手に持ったのはオレンジ色の紙パック。カクテル系かと思いきや、それをそのままグラスに注いでスピリタスに渡してきた。

 

「あ、あの。それは何でしょうか?」

 

「これはですね「カシスオレンジだ。」……ライ?」

 

「これはカシスオレンジだ。」

 

何故か頑なにカシスオレンジを主張してくるライ。いや、それも殆どジュースだろう。大して変わらない気がするのだが……。

こそっとスピリタスに確認を取ったら、やはりグラスの中身はオレンジジュースだったらしい。行きつけのバーがある癖に酒が飲めない何て……。ライはよくスピリタスに誘われて2人で飲みに行っていたらしいのだが、毎回毎回オレンジジュースで、そ全く気にしないスピリタスにライが注意したそうだ。

前は注文する時点でオレンジジュースと言っていたので、その度に他の客が軽く吹くのが嫌だったんだとか。

 

「ライ、これはカシスオレンジなのですか?」

 

「あぁ、そうだ。」

 

どうでも良いが、あのライからカシスオレンジ何て可愛いらしい単語が出てくるのは何だか笑いを誘う。

 

「それで、今日は何の目的があってこんな場をセッティングしたんですか? まさか、只の親睦会だなんて言わせませんよ、スピリタス。」

 

もし本当に親睦会なら、今飲んでるライを飲み終えたら帰ろう。これ以上、あの男と同じ空間にはいたくない。

 

「それはですね、とある男が見つかったのでその報告をしようと思ったんですよ。」

 

「男? 誰です、それは。」

 

「とある情報屋ですよ。何でも私達の組織にとってよくない情報を持っていたとかいうね…………本当は殺さ」

 

ライがスピリタスの手を背中にまわし、頭を勢いよくテーブルに押し付けた。ガシャンと音がして、グラスが倒れたがそんな事を気にしている場合ではない。

 

「何をやってるんですか?! ライ」

 

ライはその言葉を無視してスピリタスの事を睨みつける。

 

「お前の他に知ってるやつはいるのか?」

 

「どうでしょう? こんな所で話してる位ですし、話してるかもしれませんね。」

 

きつく拘束されながらもスピリタスは楽しそうに笑って、話に付いて行けない自分は戸惑う。

 

「ちっ…………お前は、何を考えているんだ?」

 

「何って、幸せな未来……とか?」

 

「…っはぁっ……。取り敢えず、話してみろ。」

 

ライが溜息をついてスピリタスの拘束を離すと、そこには今までで1番良い笑顔のスピリタスの顔があった。

 

 

 

□■□

 

 

「はぁっ?! FBI? マジで言ってるんですか?!」

 

「あぁ。」

 

ライこと、赤井秀一はもはやスパイを隠す事に諦めの段階に入っていた。黒の組織に潜入して、ライという名前を手に入れたが、まさかこんなにも早くスパイがバレてしまうとは思ってもいなかった。目の前でキャンキャン吠えているバーボンを無視して思考にふける。

そもそも何故赤井がスパイだとバレたのかというと、先程スピリタスが話していた例の情報屋のせいである。やつは組織的に、見て良くない情報を持っていて、以前殺す依頼をされたのだがFBIがこれに目を付けて保護したのである。スピリタスの話だと、そいつが恐らくFBIの保護下から脱走して、組織の末端が発見したのだと。そいつは末端も末端なので、幹部では未だスピリタスしかこの情報は掴んでいない。だが、その仕事で最終的に情報屋を殺した筈の人物がスパイであり、それがイコール赤井秀一なのである。

ここがバーでなかったり、バーボンがいなかったりしたら別なのかもしれないが、ここから逃げ出せるのは最早絶望的。更にあのスピリタスなら何かしらの策を用意していてもおかしくはない。そして不振な点も何点かある。バーボンが赤井がスパイだという事実を知らなかった事。簡単に自分に拘束されていたスピリタス。赤井を拘束したいなら捕獲人数をもっと多くするだろう事。これらの点と今まで赤井が感じたスピリタスへの印象も踏まえて、賭けに出る事にしたのだ。

 

「そう。ライ、いや赤井秀一。貴方はFBIの捜査官です。」

 

「……驚いた、そこまで知られていたか。」

 

言葉程驚いた様子もなく、ライが肩をすくめる。

 

「で、では、急いで組織へと連絡をしなければ……。」

 

バーボンが未だ落ち着かない様子で携帯に手を伸ばすのをスピリタスが手で制する。

 

「その必要はないでしょう? バーボン」

 

一瞬、バーボンの顔が固まったが、すぐにいつもの柔和な表情に直って笑った顔を作った。

 

「……どうして必要ないんですか?」

 

「それは貴方も良く知ってる筈ですよ。貴方もライと同じく……悪を根絶やしにしようとしているのでしょう?」

 

「ほぉ? それはもしかして…バーボン、お前も…………。」

 

「何を言ってるんですか? ライと違って明確な証拠もないのに疑われても困ります。」

 

バーボンはさも心外だと言わんばかりの顔をするが、内心では一気に警戒レベルを上げていた。ライほどスピリタスと付き合いがある訳でもないし、彼をもってしてもスピリタスという男の考えが全く掴めなかったからだ。

 

「安室透、本名降谷零。公安警察のスパイ。そしてこれらがその資料です。」

 

スピリタスがバーボンに投げ渡した資料には確かにバーボンの所属について書かれた資料があった。だがこれはおかしい。公安の情報管理は厳格に設定されている。それなのに、この資料はあたかも公安の機密文書をそのまま盗んで来た様なものだった。

 

「……これらを何処から持って来たんですか。」

 

「さぁ? 盗みは大の得意分野でしてね。」

 

その答えにバーボンは大きな溜息をつくと、一気に手元にあったライを飲み干し、スピリタスに向き合った。

 

「えぇ、そうですよ。公安警察のスパイですよ、僕は。」

 

だから何だと開き直った態度を見せるバーボンに苦笑だが、やっとここまで話が進んだと安堵しつつ、これ幸いと次の話に進む事にした。

 

「さて、お二人の招待が分かった所で、今度はこちらの正体を明かそうと思います。」

 

「「はぁ?!」」

 

「……お二人とも、実は仲が良いのではないですか?」

 

「いや、断じて違いますから! ってそれよりも正体?! やっぱり貴方も何処かのスパイなんですか??」

 

バーボンが何処か期待した目で訴え掛けてくるが、生憎違うのですっぱり否定させてもらう。

 

「いえ、黒の組織育ちの組織の人間ですが。」

 

「はぁっ?! じゃあ正体って何なんだよ?? というか、あんたは一体何考えてるんだよ??」

 

バーボンの言葉遣いが段々と粗暴になってきた。

 

「まぁまぁ、そんなに焦らないで下さい。今からお教えしますから。」

 

そう言って顔に手を掛ける。二人が息を呑むのが聞こえ、勢いよく変装していたメイクとカツラを剥がした。

 

「あ~、こほん。という訳で改めて宜しく。黒羽快斗だ!」

 

「「……。」」

 

「お~い。」

 

二人の前で手を振っていると、ようやく現実に戻ったのかやっと二人と視線があった。

 

「ちょっと待て、若すぎるだろ!」

 

バーボンが顔を手でペタペタ触って確認してくる。

 

「ちなみに、今年で13になる。」

 

「……ライ…俺達、騙されてるのか?」

 

「安心しろ、俺も絶賛混乱中だ。」

 

「小さい頃に組織に拾われてな。それからずっとベルモットの世話になっていた。この姿じゃ皆に舐められるから変装してたんだよ。」

 

そう言ってにかっと笑う姿は年相応に見えて、最早先程まで対峙していたスピリタスとは別人だった。

 

「それで、俺達に正体をバラしてまでしてしたかった、お前の目的は何だ?」

 

鋭いライの質問にバーボンも目を細めてスピリタスを見つめる。返答によっては、嫌ってる仲で違う組織とはいえ、同じスパイ同士ライと共闘してスピリタスを無力化する事も視野に入れる。

 

「二人と同じだよ。この組織をぶっ潰したいのさ。」

 

二人の眉間に皺が寄る。この言葉では判断に迷う。適当に言った言葉なのではないか、他に真意がたるのではないか、どうしても慎重になってしまう。

 

「原因となったのは、父親を組織に殺されたから。理由は大切な人を守りたいから、かな。」

 

原因を言う時の言葉は何処か悲しげだったが、理由を言う時の表情は、相手がどれだけ大切なのかが伝わって来る様だった。

ライはこの時、騙してしまった彼女を、バーボンは過去に亡くした同僚を思った。そしてスピリタスの気持ちが本物であるという事が分かってしまった。

 

「はぁ……分かりましたよ。貴方の事、多少は信用しましょう。」

 

「それで、俺達は何をすれば良いんだ?」

 

二人が幾らかスッキリした顔付きで投げ掛けてくる言葉に薄く微笑んだスピリタスは作戦の内容を告げた。

 

「名付けて、スコッチ救出大作戦だ!」

 

 





書きだめておいたのがここまでなので、次回から少し飛びます。ただ、次回からはスコッチ編です。お楽しみに!

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