インフィニット・ストラトス ~力穢れなく、道険し~   作:鳳慧罵亜

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第71話

 

「『テレシア』ねえ……かなり有名な高級店じゃないか。星も4つは付いていたはずだ。よかったなそんあところのチケットタダでもらえて」

 

「お、おう……でもよ。なんつーか気後れするんだよな。そういう高級な店って……」

 

一夏と蘇摩は自室で話し合っていた。というよりは一夏の話を蘇摩が笑いながら聞いているといった形だが。

その話のタネは一夏が以前受けたというインタビューのお礼にもらったらしい高級店の券らしいのだが、あまりにも高価な店なために気後れしてしまているということなのだ。

 

「でさ。蘇摩ってそういう高級店とか行ったこととかある?」

 

「ある」

 

……ですよねー。

 

「3年前だったかな?イギリスのレストラン……名前は確か『オラクル』だったかな?」

 

「お、『オラクル』って確か5ツ星レストランだよな……?」

 

一度は聞いたことがある名前が飛んできて、多少びっくりする。

蘇摩って以外にセレブな生活とかしてたり……?

 

「してねえよ」

 

うお。俺の考えをコイツも読んできやがった。何?俺の考えってそんなに読みやすいの?

何だか考えたら負けなような気がしてくる。

 

「あの時は、名門中の名門の人の誘いだったからな。断るのも無作法ってものだろう?」

 

あ、成程。

 

「それに、もう3年近く前の話だ。今は特にそれといった高級店とかは足を運ばないな」

 

意外と言えば意外なのだが、逆に納得もできる。確かに蘇摩はそんなにセレブだとか、お金持ちだとかそういったイメージがわかないものな。

なんというか。普通より少しだけお金持ち?それでもって運動ができるイケメンってとこか?

 

なんか羨ましいな。というより結構モテそうだ。実際持てるのかもしれないけど。

 

「『テレシア』と言えばあそこのビルは結構いろいろあるんだよな。高級なものばかりだけど」

 

「まあ普通の高校生程度じゃ手が届かないようなものばっかではあるな」

 

蘇摩が俺の言葉に同意する。だが、普通のという言葉をつけているということは、やはり蘇摩は普通に買えるのだろうか。

まあ、普通儲からないはずの傭兵家業で、異例なほどかなり稼いでいるらしいし、それより武器の調達とかにもお金はかかるだろうし、

あの店のものも普通に買えたりするのだろう。

 

「とは言っても、俺も買おうとは思わないがな20万のハンドバッグとか、何に使えってんだよ。日本円でAKライフルが200丁買えちまう」

 

え、200丁てことはAKライフルって2000円くらいしかしないの?それは驚き。って蘇摩。なにげに物騒なこと言うなよ。

 

「まあ、篠ノ之も誘ってるのだろう?まあ、気張っていけよ。そろそろ行かねえと間に合わなくなるぞ」

 

「おう。……はあ、なんだか重いな」

 

一夏はなにかにすがるような思いで、普段より重い足を持ち上げたのだった。

 

――――

 

「さて、と……」

 

一夏が部屋から出ていったあと、蘇摩は制服の内ポケットから携帯を取り出す。無論これは先日裏で買っておいたトバシ携帯だ。

ボタンを軽黒ずむを刻みながら押していき、通話ボタンを押す。

 

まもなくコール音が通話口からかすかに聞こえてくる。数回のコールの後、電話を取る音が聞こえる。固定電話にかけたのだから当たり前か。

次に聞こえてきたのは、いかにも事務系な無機質な女性の声。

 

「はい。こちら『テレシア』でございます。ご予約でございますでしょうか?」

 

「はい。本日の夕方5時にできますでしょうか?」

 

かけたのは『テレシア』。今日は、特別暇なので真面目に働こうと思い、一夏が行く店に先回りすることにした。

 

「少々お待ちください」

 

その後、数十秒の後、再び女性の声が聞こえてきた。

 

「はい。先ほど予約のキャンセルが来ましたので、4次40分からでよろしければ、入ることができますが、如何なさいますか?」

 

「ああ。それで頼みましょう」

 

「かしこまりました。それでは、予約名の方を頂戴いたします」

 

さて、どう名乗ろうかな?流石に蘇摩・ラーズグリーズはまずいよな。偽名っぽいし、下手にイギリス権の名前を使うのも気が引けちまうし……よし思いついた。。

 

「海堂誠司。海に堂々の堂、誠実の誠に司ると書きます」

 

「海堂誠司様ですね。では次に予約先の連絡先をお願いいたします」

 

ここはトバシの電話番号をそのまま伝える。

 

「ありがとうございます。それでは4次40分にお待ちしております。ありがとうございました」

 

最期の言葉を聞いたあと、俺は電話を切った。それにしても、3年ぶりくらいか。高級店に入るのは。ってそういやテレシアって……。

 

「紳士服じゃないと入れなかったんじゃなかったっけ……?」

 

今更だが、嫌な予感がしてきたぞ。一夏の奴はそんなこと知らないはずだ。

どうするか……。

 

「困ってたら助けるか。うん」

 

そう言って、蘇摩は適当に着替えて、ドアを開いた。

 

――――

 

「いらっしゃいませ」

 

「予約をしていた海堂だが」

 

「海堂様ですね?少々お待ちください」

 

現在俺はそれなりに高級なスーツに身を包んでいる。セットで諭吉が30枚ほど飛んでいく値段だが、俺の黒いカードを見れば数字がほとんど変動していない。

いまさらに思う。俺はこの8年間で一体どれほどの金を稼いできたというのだ?

 

だがその黒いカードは店では使わない。とは言っても支払いには何の問題もない。いくらかおろしてきたからな。

 

「確認が取れました。本日はようこそお越しくださいました。海堂様」

 

「ああ。ありがとう」

 

そう言って、俺は店に入る。一夏が来るまでには少し時間がかかるだろうから、少しメニューを楽しませてもらおうかな。

 

店員を呼んで、メニューの中から適当に注文する。さて、どれくらいの料理が出てくるのかな?

 

――――

 

さて、本日のメインがご到着なされたか……。

 

一夏が入ってきた。ものすごく緊張した感じで固まっている。その格好はかなり高めのスーツに薔薇の花束という、かなり豪華な格好に仕上がっている。

黒と白のスーツとシャツを、深紅の薔薇で飾る。シンプルながら、それゆえの美しさを出している。

 

恐く、誰かが買ってあげたのだろうか。一夏にあれのセットが帰るとは到底思えない。というよりも普通の学生が到底帰る代物ではない。

偶然、イツァムかロスでもいたのか?だったら連絡くらいはきそうなものだがな。もしかすると、ロシアのハリかリリウムあたりか?あいつらなら俺の連絡先は知らないはずだし。

 

リリウムは一夏に一度お会いしたいとか言ってたしな。

 

……ようやく一夏と篠ノ之が合流したな。さてさて、渋めのレッドを注文しておいてよかったかな?。

ちなみに海堂誠司は21歳の敏腕トレーダーという設定だからな。こういった店にも顔を出せるのさ。

 

いやー少し顔的に大丈夫かと不安だったが、まあ童顔の大人なんて結構いるからな。そんなものだろう。

 

さてさて、篠ノ之に一夏は緊張でガチガチだな。だからこそ俺の存在にも気づく要素はないというわけなのだが。

……こんな高級店で襲撃とかはないだろう。

毒を盛るという線もあるが、こんな高級店にいきなりやってくるとは亡国も思うまい。

 

む?……またひとり入ってきたな。あれは……!

 

拙い。

 

スコール・ミューゼルじゃないか。一夏を追ってとは思えないが……偶然というのが本音だろうな。もしかすると……。

それに、店員の対応から、彼女はこの店では顔がしれている。あまり下手な行動はしてこないだろうが、注意は必要か。

彼女は一夏の方を見やると、楽しそうに微笑んだ。そして、適当な席に座ろうと思っているのか、あたりを見渡す。

 

「!」

 

「!」

 

一瞬、蘇摩とスコールの目線が重なる。すると、スコールはこちらを見て微笑んで、まっすぐにこちらに歩いてきた。

こちらの向かい側の席に優雅な動作で座る。白人のほりの深い顔つきに金色の長髪があまりにもこの店の雰囲気にマッチしていて、思わず見とれてしまうような雰囲気だ。

 

「学園以外では初めてね?『白い閃光(ホワイト・グリント)』さん」

 

「ああ。はじめましてになるな。スコール・ミューゼル」

 

互いに隙のない動作をしているが、どちらもこの場で戦うような気はないのだろう。隙きは見せないが、相手の隙を狙うような動きはない。

 

「とりあえず礼を言っておかなくてはな。一夏の服は、あんたが買ったのだろう?」

 

「フフ。彼、間近で見るとやっぱり可愛いわね?あたなとは大違い」

 

「ほう。なら俺はどう見える?」

 

スコールの言葉に蘇摩は問で返す。スコールはメニューを広げて、そこに視線を一度落としたあと、もう一度こちらを見た。

 

「かっこいいわね、貴方は。誇り高い戦士の貴風よ。私は好きよ。そういうの」

 

「ありがたく受け取っておこう」

 

「それにしても、意外ね。今日はいろんな人に出会うわ」

 

「俺もだよ。今日は意外な人物に会えた。これは僥倖かな?」

 

やがて、ウェイターがやってきて、スコールに注文を尋ねる。スコールは、俺のワインの対になるような、甘さが強い白ワインを注文した。

 

「クスッ。ここでやるつもりはないから、いい加減警戒を解いたら?ここは寛ぎ、食事を楽しむ場所よ」

 

スコールは先に動きを柔らかくして、両手で頬杖をつき、手を組んで顎を載せる。蘇摩も、それを見て動きを緩くした。

 

「いいことだな。ここはくつろぐ場所ということか」

 

蘇摩はワインを一口、口に運ぶ。その動作一つ一つが慣れたもので、気品すら漂わせている。

 

スコールの方も、たった今届いたワインをグラスに注ぎ、口に運んだ。

 

「やっぱりここのワインは美味しいわ。下手な外国のお店よりよっぽど安いしいいわね」

 

なにげのない会話。だからこそ、お互いに的であることを一度忘れて、まるで普通の知り合いであるかのような雰囲気になっている。

 

「お礼ついでにひとついいことを教えてやろう。久しぶりの酒で気分もいい」

 

「クスっ。何かしら?」

 

「何が理由でISを集めているのかは知らないが、あまり下手な動きはしないほうが身のためだ。現にお前らのエージェントがイギリスで行方不明になっただろう」

 

「……」

 

「俺たちは常に巨大で闇にうごめいている。その動きは誰にも止められない」

 

蘇摩はそこで口を閉じて、ワインを口に運ぶ。スコールはそれにたいして何か言おうとした時、それは起こった。

 

「お前は何をしている!」

 

突如、大きな声が聞こえて、店の一同はそこに視線を集中させる。そこには顔を赤くして眠ってしまっていた篠ノ之とそれを支える一夏がいた。

 

ウェイターと若者の話を聞いていると、どうやら間違えて篠ノ之に酒を配ってしまっていたらしい。

恐く緊張していた篠ノ之は落ち着こうとしてその酒を結構な両飲んでしまったに違いない。

 

「興が覚めたな」

 

「そうね」

 

蘇摩はゆっくりとあち上がる。スコールは机に座ったまま、微笑んでいた。

 

「……もうひとつだけ忠告しておこう」

 

蘇摩は立ち止まり、顔だけスコールに振り返った。

 

「一夏を狙うなら、俺をなるべく離せ。出なけりゃあ、全員殺す」

 

蘇摩は最後に口元に笑みを浮かべた。氷のような刃のような鋭い笑みを。それは今まで微笑みを崩さなかった。スコールの表情をも凍らせるほどに鋭かった。

 

――――

 

蘇摩と一夏たちがさったあと、ひとりスコールはワインを煽る。グラスの中のワインがちゃぷりと音を立て、波を立てた。

 

「クスクス……本当に怖いわね。蘇摩・ラーズグリーズ……」

 

(でも、その力がアダになるかもしれないわよ?)

 

スコールの脳裏に浮かんだのは、かつて自分の前に降り立ったひとりの天使の姿だった。




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