あれから話し合いが終わって帰る直前までまで麦野さんは放心していた。先生に手を引かれ車に入って行く姿を見て和んでいると、どうやらやっと戻ってきたようだ。
「……え、あ、あれ?」
状況が分かってなさそうな感じだったので、分かりやすく伝えてみた。
「麦野さん、また今度ね!」
「え、…あ、…うん!うん!!」
どうやらこういうやりとりも久しぶりらしくすごく戸惑いながら、でも嬉しそうに返してくれた。
「…あれ?もうさよなら?」
やっと思考が追い付いた様だ。まあもう車が動き始めたから遅いんだけどね〜〜。
麦野さんは、待って〜、みたいな事を言いながら道路へと消えていった。アディオス!!!
「勇真(ゆうま)くん大丈夫だった??怪我とかさせられてない?」
「はい、とても可愛い女の子でした。また会いたいですね。次はいつ会えますか?」
「え、そ、そう?……勇真くんが会いたいなら何時でも会えるけど、あの子以外にも勇真くんの周りにはたくさん可愛い子がいると思うな〜。」
「本当ですか?ならまたすぐに会えるんですね!嬉しいです!」
俺の担当は俺の事をとても大切にしている。理由は勿論最有力候補(笑)だからだ。なのでこうしておかないと俺が怪我をする可能性があるから、と絶対これから先会う事はできなくなるのだ。
「そ、そんなにあの子が良いの?ああいう髪型の子なら普通にいるわよ?」
「むぅ、なんでそんなにダメって言うんですか?」
「あ、いや、ダメって事じゃないのよ?でもあえてあの子を選ばなきゃいけない事もないんじゃないかなと思ってね?」
担当さんが少し焦っている。まあ、理由は俺であるが。
能力は、特に子供の時には精神状態に大きく左右される事がある。さらに向こうからしたら俺はエリート街道まっしぐらで自分の要望が通らなかった事などほぼない子供なのだ。
そんな俺の要望を拒否する事によって能力が上手く発動できなくなったり、そうでなくとも拗ねてしまったりしては能力開発に大きく影響し、最悪自身の立場まで危険になってしまう。
……まあようするに会わせろよ?と脅している状況である。
その後も念のために今度はこんな事をしたいな〜という話などを時間ができるたびにしておいた。これでさすがに大丈夫だろう。
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「あのね!それでね!」
「へー、そんな事があったんだ〜。」
「うん!そうなの!」
え、今何してるか?聞いての通り会話だよ?
あれから2週間たってようやく会える事が出来た。
いや〜ここ数日大変だったわ〜。なんか今まで研究所には小学校低学年の子供なんて俺ぐらいだったのに急に増えたんだよね。ちなみに全員女の子。あと何人かは麦野さんっぽい雰囲気だった。
まあもしかしなくてもそういう事だよね。
そんな状況でも俺はめげずにアピールし続けたが、これではもうらちがあかないと、遂に昨日最終手段である偽能力不調を使ったのだ。
昨日は大変だった。数値を意図的に低くしていると、最初はどうかしたのか、何かあったのか、調子でも悪いのか、といった質問をしてきた。俺は
…分からない。と答えておいた。
これを聞いた研究者達はもう大慌てだった。
それはそうだろう、最有力候補(笑)と言われている子供の突然の不調、何より本人ですら原因が分からない、と言っているのだ。
仮にこのまま調子が戻らなかったら自分達の首が飛ぶ可能性がある。その結果、俺は10人ほどの医師軍団による健康診断を受けるはめになった。
診断が終わり最終的には最後に加わった両生類っぽい医者の、体には異常は見当たらないからおそらく心理的なものが原因だろう、という意見に全員が賛同し、次は精神科医に囲まれた。最終的には両生類っぽい医者の診断に全員納得していた。
もう彼だけでよくね??
診察結果はこうだ。
「おそらく、いきなり増えた子供たちに戸惑いや不安を感じたこと、その上会いたい人には会えないという状況からのストレスが原因だね?」
だそうだ。うん!予定通り!
……なんだけど、両生類っぽい医者が部屋を出て行く時に目配せをしてきた。…あー、これはバレてましたね。
……有能すぎるだろあの医者。
彼が出て行って暫くしたら担当の先生が駆け込んできた。
それから「そういえば、あの子に明日会えるそうだけどどうする?」と、平静を装いながら聞いてきたので、全力で会いたいと言っておいた。
その後のテストでは寧ろいつもより少し良い成績を出しておいたので、これからはどう興味をなくさせるかよりどのように付き合わせていくかの議論になるだろう。
「……ねぇ、ちゃんと聞いてる?」
「ん?もちろんだよ。能力を使いこなせてきたって話だよね?」
「……むぅ、まあそうなんだけどさ…。」
話題は合ってるはずなのに少し不満そうな顔をする。おそらく思っていた反応と違ったのだろう。なので
「ふふふ、ごめんごめん。さすが麦野さんだやっぱり凄いや。」
と言いつつ頭をナデナデする。一瞬驚いた顔をした彼女だが、すぐに嬉しそうで気持ち良さそうになり「えへへ〜」と言いながら少しだらしない顔になった。……やばい超可愛い。
少し時間が経つと何故か少し睨んできた。あれ?どうしたんだろ?
「…どうしたの?」
「……あたし、勇真君と同じ歳なんだけど。子ども扱いしないで貰えないかな?」
と言いつつ手を振り払おうとはしないんだから本当に可愛い。
「ふふふ、なるほどね。わかったよ。」
結局、麦野さんは暫くして俺が撫でるのをやめるまで撫でられ続けるのだった。
そんな2人をモニターで見ていた大人達はこれからのことについて話し合っていた。
麦野の担当の「やはり、これからは会う頻度をどんどん増やしていくべきでは?」という意見に賛同する派と、
勇真の担当の「まさか。ただでさえ危険な能力なのにまだ扱いきれないのでしょう?そんな子と会う頻度をどんどん増やすなんて、あの子に何かあったらどうするのよ。」という意見に賛同する派だ。
ここ数日、麦野は友達に少しでも近づくために今まで以上に能力開発に励み、まだ少しだが、自らの思い通りにできるようになった。
そして今、どうやら褒められる事に喜びを感じたようで、これからももっと褒められようとするだろう。
対して勇真は昨日、能力不調まで起こしている。
この2つから考えたらどうするべきかは決まっている。
だが、勇真は最有力候補(笑)だ。何かがあったら上から何を言われるか分かったものではない。
この結果、会う頻度に関するを2つのグループの話し合いは平行線をたどっていくのだった。