8月のある夜、学園都市の自然公園で虫達の声に耳を傾けている1人の少年の姿があった。別にそれだけなら特におかしいことはない。確かに完全下校時刻は過ぎているが、人なのだから破りたくなる日もあるものだ。
ただ、この少年は明らかに普通ではなかった。何故なら、その少年の前には多くの虫が集まり順番に鳴いているのだ。そして最後の虫が鳴き終えると、少年は口を開いた。
「なるほど、ありがとうみんな。また1週間後にこの公園に来るから、その時もよろしく頼むよ。」
少年がそう言い終わったあと、虫達はそれぞれの方向にそれぞれの方法で消えていくのだった。
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ところ変わって車の中、少年は電話をしていた。
とは言ってもいつも喋るのは少年だけ、これは少年と電話相手の暗黙の了解なのだ。
「あ、もしもし響さんですか?」
もちろん返事はないが、それが逆に肯定を表すのだ。
「調べた結果ですけど、やっぱり間違いないみたいですね。とは言ってもまだ全く実用段階ではないようです。これから調整をしていくんだと思います。計画書もなんとか一部手に入れました。これは例の場所に置いておきますね。」
もちろん返事はない。だが少年は話をやめない。
「あ、計画とはまだ関係ない事ですけど例の子の噂もどうやら本当のようですね。ハッキングして調べましたけどとても小1とは思えない数値ばかりでした。」
一拍おいて少し声を低くする。
「そう言えばつい先日、健康診断と称してDNAサンプルの入手と体の研究、あわゆくば洗脳をしようとしたようです。いずれもヘブンキャンセラーの妨害で失敗したそうですが。」
ギリッと歯をくいしばる音がする。少年は電話の向こうから音が聞こえた事に少し驚いたようだが、さらに驚く事が起こる。
「誠、お前はもう何もしなくていい。あとは全部俺がやる。お前は暫く学園都市を出ておけ。戻る時は俺が伝える。それまでは戻ってくるな。」
「………またまた、それは嘘でしょ?どっちになっても連絡はない。それにダメだよ、計画を成功させても僕もここにいなくちゃ意味がない。そうでしょう?」
「……だが、」
「大丈夫、覚悟はできてるよ。それに成功した時に外にいたら待ってるのは地獄だよ。どの道そうなら僕は響さんと一緒がいい、役にたちたいんだ。それに、少しくらい僕に恩を返させて?」
「……そうか。なら、何か頼みたい事があったら連絡する。……ああ、それと、恩なんてとっくに返してもらったよ。寧ろこっちがあるくらいだ。だから、本当にすまない。」
少年は電話の相手の声を聞きながら思う。おそらく、この人がこの後に自分を頼る事はないのだ、と。
「ハハハ、どうせならそっちじゃない方が聞きたいかな。」
「……ふふふ、そうだな。………誠」
「……ん。」
「……色々手伝わせてしまって本当にすまない。」
「だからいいって。」
「ああ、そうだったな。それから……
……ありがとう。」
「……………ん。」
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この頃麦野さんと会う回数が少し増えた。実にありがたい事である。
ただ、問題なのが話題だ。期間が短くなればなるほどお互い話す事がなくなってくる。いくら何でも能力の話だけをするのは無理があるのだ。結果として違う話をする事が増える訳だが、何故今この話をするかというと、盛大に話題の選択を間違えてしまったのである。
「あー、あのさ。ごめんね?」
「別に?何も謝るような事してないと思うよ?ただ友達と映画に行ったって言っただけなんだし……。」
本当にそう思うならできればこっちを向いてほしいな〜〜。とは言わない。というか言えない。いや〜やばいね拗ねちゃったね。
「いや、でもさ…」
「何?あたしがそういう所に友達と行った事がなくて話に付いていけてないだけだから気にしないで?話したいだけ話すといいよ。」
やばい、これはやばい。今なんとかしなければこのままグレて人や建物にビームぶつけてパリィパリィ言っちゃう戦闘狂な人に成ってしまうかもしれない。
…こうなれば一か八かだ!!
「あー、もしかして友達とそういう場所行った事ない?」
「友達どころか一度も行った事ないけど?」
「な、なら!今度僕と行こう!!」
「……え?」
「一度もないんでしょ?なら僕と行こう!!」
「……別に気を遣ってくれてるのなら大丈夫だよ…」
少し反応してくれたけど、どうやら気を遣われたと思ったようだ。いや、確かに今は使ったけど元々いつかは遊ぼうと思っていたのだ。少し早くなったにすぎない。
「違うよ!僕が麦野さんと遊びたいんだ!!」
「……なんで?」
「えっと、それはその、ほら!麦野さん一度も行ったことがないんでしょ?って事はもし僕と行けば僕は麦野さんの初めての存在になるって事だ!なんかそれって特別な気がするんだ!僕は麦野さんの中で特別な友達になりたいかな……。」
「……ふぅ〜〜ん。」
まだこちらを向いてくれない。くそ何かあと一押しが欲しいな。
「そ、それにその、と、友達と遊びたい事に理由なんているのかな……?」
ああー!ハズい!!
なんか年取るにつれて色々言う事には慣れるけど、こういう一切脚色しない事を言うのは正直気恥ずかしい。多分俺は今顔が少し赤くなっているだろう。
麦野さんは俺の言葉に反応してこっちを向いてきた。今度は逆に気恥ずかしくて俺が少し違う方をみる。
「……ふふふ、勇真くん顔真っ赤だよ?」
訂正、どうやら少しではなかったようだ。まぁそんな気はしてたよ。
「う、それは触れないで欲しかったかな?」
「ふふふ、仕返しだよ。」
「え?」
「初めて会った時、あたしに同じ事言ったんだよ?覚えてない?」
「あー、そう言えば言ったような気もするかな。」
2人の視線が合い、お互いクスクスと笑い合う。どうやらもう大丈夫そうだ。
「それで?」
「え?」
「いつにする?あたしの初めての存在になってくれるんでしょ?」
「あー、今度の土曜日はどう?丁度その日は能力開発ないんだ。」
「ん、多分大丈夫だと思う。」
「そっかならそういうことで。」
「うん、そういうことで。」
なんともいえない空気の中、僕らはまた顔を見合わせて笑い合うのだった。
「ところで、初めての存在。とか他の人には使っちゃダメだからね?」
「え?なんで??」
「いや、多分あらぬ誤解を招きそうだからだよ。」
「……?うん、わかった。」