………あれ?
俺は焦って時計を確認する。9時45分、約束の時間の15分前だ。まぁ、俺自身は今日行こうと思っている所がちゃんとやっているかの確認をしていたので9時に1度ここを訪れてはいるのだけど……。
…もしかして時間間違えてた!?
俺は焦って麦野さんとの待ち合わせ場所である映画館前に向かった。
「麦野さん!ごめん。もしかして時間間違えてた?」
「……ううん。違うよ……。」
……なぜか麦野さんがこちらを向いてくれない。
え!?なんで!?もしかしていきなり危機ですか!?
機嫌が悪いのか確かめるために当たり障りのない話題を出してみる。
「あっ!麦野さんあれ見て!この映画館無料で写真撮って貰えるんだって!」
「……カップル限定ってかいてるよ?」
「え!?」
……なんだか話を続けても墓穴を掘っていく気しかしないので直接聞く事にした。
「あの……もしかして何か怒ってる?」
「ち、違うよ!……その…ちょっと早起きしたから眠たくて…。」
「ああ、そっか。よかった〜。」
「……ねぇ。」
「え?どうしたの?」
「その……、今…駅と逆からきたよね?なんでかな〜って思って。」
「え?ああ、別に何もないよ。少し歩いてただけ。」
「そ、そっか……。」
あれ?なんで麦野さんそんなに顔が赤いの??
え?別に怒らせるような事はしてないし、その逆もまた然りだよね??
あ、写真のこと?いや、流石にないか……。
取り敢えず2人で映画館に入って何を見るかを決める。
え?最初から決めてないのか?
勿論良さそうなものを幾つかピックアップしているし、朝に1度スタッフのお姉さんに何がやっているかを確認している。その時に見なかったので、不審だなという目で見られてこの後見に来る事、そして今から他の場所の下見に行く事を説明するはめになった。
……あれ?なんかお姉さんと麦野さんが微笑みと赤面でアイコンタクトしてるんだけど。
…もしかして知り合い??
「あの、勇真くん。何を見ればいいと思うかな?」
「あ、えっとね。これとこれ、あとこれも面白いんだって。この3つがおすすめだよ。麦野さんはどれがいい?」
「う、うん。あたしもその3つのどれかがいいと思う。」
お姉さんの微笑みがピクピクしている。え、どうしたんですか?あと麦野さんがずっと真っ赤なんですけど。もしかして調子悪い??
「あの、麦野さんもしかして調子悪い?顔赤いけど大丈夫?」
「ふぇ!?だ、だいひょうぶ!…………あうぅ……。」
麦野さんが噛んでしまった恥ずかしさで蹲ってしまった。
そしてお姉さんが後ろを向いて震えている。
いや、あなたは笑っちゃダメでしょう。
「だ、大丈夫だよ!噛む事ぐらい誰にでもあるから!それにほら!少しの人にしか聞かれてないし!」
麦野さんは「あうぅぅぅ」と言ってさらに小さくなった。
お姉さんはもう耐えられないとばかりに他の人を呼びながら見えない場所に行った。
えー、何この状況。
俺はそれから数分の間、
今日の髪型や服装が可愛いとか、
なんだかいつもより大人っぽいとか、
でもいつもの麦野さんも可愛くて素敵だとか、
麦野さんの笑顔が可愛いとか、
怒られるかもしれないけど少し拗ねた顔も可愛いとか、
少し涙目な時も可愛いけどあまり見たくないとか、
たまに見せてくれる少し抜けている所が愛くるしいとか、
ひたむきな姿がかっこよくて綺麗で素敵で輝いてて見惚れてしまうとか、
だからそんな失敗を気にしないでいいとか、
むしろそういうところがどうしようもないくらい人を引きつける麦野さんの魅力だとか、
だから今日は下じゃなくていろんなところを見て、
いつもの輝いてて可愛い麦野さんの笑顔が見たいとか、
そういう事を必死に言いながらどうにか復活してもらおうと麦野さんを励まし続けていたら麦野さんが耳まで真っ赤にしながら、
「も、もうゆるして〜〜〜〜!!!!」
と言いながら口を押さえてきた。
え?何も怒ってないよ??
麦野さんが顔を真っ赤にしながらだけど立ってくれたので周りを見ると、お姉さんがいつの間にか人を連れて戻ってきていた。
でも2人とも顔を手で押さえながら違う方を向いて震えている。
いやいや、だからあなた達が麦野さんの失敗を笑ったりするから麦野さんが蹲っちゃうんじゃないですか。
その事についてさすがに文句を言おうか麦野さんに聞いたら「お願いだからやめて」と言われた。さすが純粋な麦野さん。人に優しい。
あと、麦野さんの手を引きながら映画館を移動しているとすごい生温かい視線を感じた。
いやいや、確かに微笑ましい光景かもしれないけど見過ぎだよ。ほら、麦野さんずっと顔が真っ赤なままじゃんか。
映画を見終わり、すごい生温かい視線から逃げようと出口に向かう途中、麦野さんがお姉さんに呼び止められた。
麦野さんは何か封筒のような物を貰い、何かを言われて真っ赤になってから首を縦に振っていた。最後に「頑張って!」と言われてるところは聞こえた。
顔を赤くして帰ってきたのでなんの話だったのか聞くと、さらに赤くなって気にしないでいいと言われた。
……隠されるとよけい気になるのだが…。
その後は昼食である。
麦野さんに何が食べたいかと聞いたらなんでもいいと言われた。ここで慌てる奴は二流である。
どこでもいいという事は今求められるのは量でも質でもなく雰囲気だ。そして雰囲気がいい店にはちょうどその時欲しくなるメニューがある。それが分かっていれば後は相手の趣味に合いそうな所を選ぶだけだ。
という事で、ならあっちに良いところがあると言い、目的地まで先導していると何か嬉しそうな顔をしていた。
……あれ?まだ目的地見えてないんだけどなんで嬉しそうなの?もしかしてすごい期待してたりする?
……やばい、大丈夫かな。
目的地に着くと麦野さんは目を輝かせていた。どうやら期待には応えられたようだ。
……よかった〜〜。麦野さん多分こういう優雅だけど少し可愛いお店とか好きそうだと思ったんだよね。
お店の雰囲気は学舎の園のお店のような感じだ。
まあ、勿論行った事はないが、偶にパンフレットに載っている店はこの店の雰囲気と似ている。
少しふざけて
「気に入りましましたか?お嬢様?」
と言いながら手を差し出す。
すると麦野さんは少し赤くなりながら
「はい」
と答えて手を添えてきた。
こちらから始めたのでやめるにやめられず、
少し時間が経ってからどちらからともなく微笑み手を繋ぎ直し店に入っていった。
店の雰囲気はどうやらイメージ通りらしい。
朝覗いた時は準備中だったのではっきりとは分からなかったのだ。
その事に安堵しつつ疑問に思ったのだが、何故かこの店でも生温かい視線を感じる。さっきの映画館の人でもいるのかと見回すが、どうやら同じ顔はないようだ。
そうこうしているうちに麦野さんは注文を決めたようなので、店員さんを呼ぶ。店員さんは注文を聞いた後1度こちらを向いて微笑み、麦野さんを手で招いて耳打ちしてから戻っていった。
プシューー!!と音をたてそうな感じで麦野さんは赤くなった。なんだか今日の麦野さんは顔が赤い時間がとても長い気がする。
その事を麦野さんに言うと
「ゆ、勇真くんのせいだから!!」
と言われた。謎である。
その後も朝一度訪れた所を回ったので確実に楽しんでもらえたと思う。ただ、疑問なのがよく視線を感じた事だ。
後、何故かちょくちょく麦野さんの荷物が増えていた。
なんか偶に呼び止められて何か貰ってたんだよね。んで何か話して「頑張って!」って最後に言われるまでがワンセットだった。
帰ってきた時は大概顔が赤かった。
なんか今日の麦野さんは顔が赤い時間がとても多い気がする。それを口にしたらまた少し怒られた。げせぬ。