やはり俺がチート部隊の隊長をするのは間違っている 作:サラリーマン
「絶滅天使(メタトロン)、起動」
≪ザ・ディザスター≫からフランとファルが俺の使いやすいように変化させた≪絶滅天使(メタトロン)≫を起動する。
起動と同時に絶滅天使(メタトロン)の使い方が頭に流れ込んでくる。
(…これ俺が使いやすいようになってるか?)
頭の中に入ってきた情報を整理した結果がこれだ。
ごちゃごちゃ考えている時間もないので最も早く楓子さんたちの下へたどり着くために俺は
翼を生やした(・・・・・・)。
よくアニメとかで見るような翼。それが俺の背中に生えている。これがブラックトリガー≪絶滅天使(メタトロン)≫の能力の一つ、飛行能力だ。
まず俺は確認するように翼で大きく空気を叩く。そして今度は鳥がはばたくように連続して翼を動かすと、体が少し浮き上がった。肩甲骨のあたりから伸びている骨を動かすイメージを作るのに少し手間取ったが、一度イメージして慣れてしまえばあとはもう楽々飛べるようになっていた。
ひとまず高度を10メートルくらいに保ち、その場でホバリングする。時間がないのは分かっているが自分の攻撃の性能などをぶっつけ本番で試してみたくはない。なので一回そこら辺のトリオン兵が試してみたいが…
「見つけた」
上空から少し離れたところに一体のトリオン兵と、そのトリオン兵と対峙している三人の人影が見えた。その三人には悪いがそのトリオン兵で性能実験をするために横取りをさせてもらおうか。
その場所まで一瞬で飛ぶと俺は翼から一枚の羽を分離させる。そしてその羽の先端をトリオン兵に向けるとその先端からレーザーを撃った。
これがメタトロンの二つ目の能力、レーザー攻撃だ。その名の通りレーザーでの攻撃なんだが、その威力がすごい。相手がシールドを張っていようと、間に建物があろうと超高密度のレーザーでトリオンでできているものすべてを蒸発させる、という代物だ。
まずはただ撃つだけで、二発目はレーザーを曲げてみる。バイパーをリアルタイムで弾道を引くときと同じような感じでイメージするとその通りになることが分かると、すぐに止めを刺し、また翼を広げる。そして飛び立とうとしたところで声をかけられた。
「ヒキオ?」
「「比企谷?」」
そこにいたのは千種隊の三人だった。ここにはいないがたぶん千種もどこか狙撃できる位置にいるだろう。
「ヒキオ、あんた大丈夫なの?」
「ああ。心配かけて悪かった」
俺が倒れたのは千種隊の防衛任務の引率の時。ただでさえ初めての防衛任務で緊張してたって言うのに引率者が急に苦しみだして殺してくれ(やることとしては同じ)なんて言われたときの気持ちを考えると非常に申し訳なく思う。
「アンタその恰好…」
「ああこれか?これはだな、あん時の原因となったものが変化したものだな」
「それ着けてて大丈夫なの比企谷。また暴走とかしないの?」
「千種妹の懸念ももっともだがその心配はもうないぞ」
「そ、ならいいんだけど。あ、お兄」
背後に人が降りた音がする。俺は振り向きつつそいつに向かって声をかける。
「久しぶりだな千種」
「おう久しぶり。それで早速だが比企谷、城戸司令からの伝言だ。『終わったらすべて説明してもらう。早くケリをつけろ』だってさ。」
きっと俺には通信できないから千種を通じて伝えてきたのだろう。
「了解。そういうことだからもう行くわ。お前らもやられないように気をつけろよ」
さっき飛ぼうとした時と同じように翼を広げ、空気を叩くように数度震わせ一気に空に上がる。
「おーいヒキオー!今度あーしも飛んでみたい!」
「あ、あたしも!」
「そういうことなら俺も。」
「………」
「ん?サキサキは?」
「無理無理無理!高いところとかほんと無理だから!」
千種隊の頼みに手を挙げて答えると、翼を震わせ、飛んでいく。目指すは陽乃さんと謡が戦っている戦場だ。俺は今出せる全力でそこへと向かった。
***
全力で飛ぶとすぐに陽乃さんたちのいる戦場の上空にたどりついた。まだ気づかれてはいない今のうちに上空から一発でかいのを打ち込んでおきたいが、それをするには陽乃さんの位置が近すぎる。何とか離れてくれるといいが…
ん、なんか陽乃さんの動きがおかしい。動きにキレがないというか、いつもより動きが遅い。よく見てみると、援護をしようとしている謡の動きも遅い。もしかしてこれは敵のトリガーの効果か?
≪正解だよハチ君。≫
「っ!」
何か急にフランの声が聞こえてきたんだけど。なにこれ怖い
≪怖いなんて心外だな~≫
≪フラン、ハチが困ってるから。ハチ君の仲間の運動能力が下がってるのは相手が持ってるブラックトリガー≪ザ・テンペスト≫の能力だよ。能力は任意で相手に様々の効果を付与すること。今回はハチ君の仲間に運動能力低下の効果が与えられてるんじゃないかな?≫
≪おいちょっと待ってくれ。なぜこうして会話できているんだ?≫
≪そんなこと今はいいんじゃない?ほらあのお姉さんピンチだよ≫
陽乃さんが相手の錫杖を受けきれずに先の尖がった錫杖が陽乃さんの太ももに突き刺さる。すぐに抜かれるがそこから漏れ出るトリオンの量が尋常でない。
≪あーたぶんあれトリオン漏出増大もかかってるね≫
≪なあ、あれって無条件にかけられるわけじゃないよな?その条件って何だ?≫
≪音だよ。所有者によって形は変わっているけど、音が条件だよ。たぶん彼女の場合は錫杖の音かな≫
≪それって近接戦闘してたら確実にだめだよな≫
≪うん、だめだね。けど遠距離攻撃ならけっこう余裕だし、ハチのブラックトリガーがあれば負けることなんてほぼないと思うよ。≫
なんか相手が持ってるのってすごいブラックトリガーなんだよな?そんな簡単に倒せるもんなのか?
≪あったりまえじゃん!私とファルがハチ君専用に作り上げたブラックトリガーだよ。≪ザ・テンペスト≫の本当の使い方もできてないのに負けるわけないじゃん≫
≪本当の使い方ってどういうことだ?≫
≪ハチもさっき能力を聞いたときに思ったと思うけど、あれって援護が基本でしょ。それで彼女は相手の能力を下げることに使ってるけど、本当は味方の能力をあげる方が何倍も効果が強いんだ。≫
≪心が通った相手なら効果はさらに大きくなるよ。確かブラックトリガーがテンペストだけの一個小隊が一国をほぼ壊滅させたなんて話もあったよね≫
≪まじか、何そのチート≫
俺のブラックトリガーも十分ぶっ壊れだがあれもやべぇな。確かファルは俺の変化前のブラックトリガーもあいつのテンペストも七星外装(セブンアークス)って言ってたから、名称から察するにこんなぶっ壊れブラックトリガーがあと5本も残ってるのかよ。これ以上はぜってー相手にしたくねえわ。
≪さてそろそろ倒しに行こうか≫
≪ちょっと待ってくれ。陽乃さんが近くにいすぎて、今攻撃すると陽乃さんにも当たっちまう≫
≪いやその心配はないよ。ハチのレーザーは意識すれば対象だけを消失させることも可能だよ。ほら想像して。君の仲間は絶対に消失させない。ゆっくりでいい。確実にイメージして作るんだ≫
ファルが言ったことを何度も頭に反芻させつつ、レーザーをゆっくりと作る。ひたすらに敵だけを消失させるイメージを。
≪そうそうその調子。確実なイメージができたところで放て!≫
俺は絶対に逃がさないように直径をでかくしたレーザーを放つ。そのレーザーは陽乃さんごと敵を包む。陽乃さんは驚いて空を見上げ、こちらに気付き、笑顔を見せる。
そして、レーザーの光が収まった後には、こちらを見上げ笑顔の陽乃さんと、気を失ったように倒れている女性がいた。
***
後日談、と言うか今回のオチ。
「ブラックトリガー≪ザ・テンペスト≫の所有者は四埜宮謡とする。本来であれば今回の襲撃でブラックトリガー使いとなった比企谷、四埜宮の両名はS級となるはずだが雪ノ下陽乃の強い希望で両名はA級のまま、非常時のみブラックトリガーの使用を許可することとなった。以上をもって解散をする。」
ディザスターの襲来から約1週間。俺と謡、ボーダー上層部、各隊の隊長が揃った今回の襲撃の事後報告会と題した会議が終わった。この会議の主な議題は三つ。論功行賞の発表と捕虜となった三人のこと、そしてブラックトリガー使いとなった俺と謡についてだ。
まずは論功行賞から。特級戦功にはうちの隊それぞれと迅さんが。一級戦功には太刀川隊や風間隊などA級上位部隊が入った。
捕虜三人については一応一通りの尋問は行うがあまり無茶なことはしないらしい。何でも迅さんが敵だった二人と交渉し、向こうの要求を呑む代わりに情報提供をしてもらうらしい。
最後に俺と謡について。本来ならS級となるところを陽乃さんが最大のスポンサーと言うコネを生かして、脅はk…脅s…お話してとりあえずはA級のまま、非常時にはブラックトリガーを使用するとなった。
これで会議は終わり。俺と謡は本部内の廊下を歩いているのだが…
≪いや~キドシレイだっけ?あの人顔が怖かったな~≫
≪フラン失礼だって≫
さっきからこの二人が、特にフランがうるさい。
この二人はこのまま俺の頭の中に居座り続けるらしい。理由を聞いたところ、『玄界を見てみたい』との簡潔な答えが返ってきた。まあ俺から追い出す気もないし、そもそも追い出し方もわからないから結局はこのままなのだが。
こうして1週間に渡る《ザ・ディスティニー》を巡る一連の騒動は終わり、舞台は激動の冬へと移った。
迅さん、原作で普通に黒トリで通信してたけどどうやったんだろ?