僕がいちばんセクシー   作:カイバーマン。

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10ステップ 疾走するお嬢様

川岸の近くにある小さな野球グラウンドに設置されたリング。

今ここに二人の少女がプライドと大切な物を賭けて血沸き肉躍る決戦の火蓋が切って落とされる。

 

「よし、お前さやかとか言ったな。アタシ佐倉杏子ってんだ」

「あそ……で?」

「あんこって呼んだらドロップキックだかんな。アンタの為にアタシがセコンドやってやるから気張っていけよ」

「……」

 

現状を未だ理解していない美樹さやかが、わけもわからず青コーナーの角にあるパイプイスに座っていると、リングの外に立っていた見知らぬ少女、佐倉杏子が親しみを込めて話しけかけて来た。さやかはジト目で彼女の方に振り返る。

 

「セコンドとかそんなのどうでもいいんだけど? そもそもなんであたしが仁美とボクシングしなきゃいけないのよ」

「あの珍獣が『喧嘩した相手と仲直りするにはもう一度喧嘩すればいい』って自信満々に言ってたからよ、いつの間にかこうなっちまった」

「“いつの間にか”の中でアンタはなにも変に思ってなかったの? バカでしょアンタ」

「うるせぇバカって言うんじゃねえ! セコンドしてやんねえぞ! あれ? ていうかセコンドってなんだ? 白いのに指示されてここ来たけどなにすんのかわかんねぇ……」

「なんでこのバカをあたしの所に置いたのよ……」

 

頭を抑えて一人悩む表情を浮かべる杏子にさやかは不安な気持ちが一層高まりつつも、チラリと向かいにいる一人の少女に視点を変えてみる。

 

 

 

 

 

そこには対戦相手である志筑仁美が自分と同じ様に赤コーナーの角に座って鹿目まどかと話をしていた。

 

「キュゥべぇに言われて私、仁美ちゃんのアシストみたいな事を任せられたんだけど……仁美ちゃん大丈夫?」

「ええ、最初は驚きましたが今は落ち着いていますわ。フフフ、まさかさやかさんとこんな事をするハメになるなんて……」

「?」

 

不安そうなさやかとは対極的に仁美はどこか楽しげに笑みを浮かべていた。それにまどかが首を傾げていると仁美は彼女の方に振り返りながら話を続ける。

 

「まどかさん、わたくしとさやかさんは恭介さんの件で溝が生まれたのは勿論知ってますわよね?」

「う、うん……」

「ですから今回のを機会に、お互いに溜まっているのをぶつけてみるのも悪くないと思っているんですのよ私」

「……でもボクシングって事は二人で殴り合うんだよ?」

「フフフ、友達というのですわねまどかさん」

 

しおらしくこちらを見上げているまどかに仁美は不敵な笑みを浮かべた。

 

「互いの拳を交わってから生まれる絆もあるのです、“強敵”と書いて“とも”。大切な友人であるさやかさんとこうして戦うのもまた運命だと私は感じておりますわ」

「そのセリフどこで覚えたの仁美ちゃん……」

「義理のお兄さん達から教わった言葉です」

「うわぁ仁美ちゃんカッコいい……」

 

右手にグローブをハメながら仁美は笑顔でビッ!と歯でしっかりと噛んだグローブのヒモを引っ張って自分の握り拳のサイズに合わせている。どっからどう見てもお上品なお嬢様がやる仕草ではない……。

まどかは唖然としながらそんな彼女にますます不安感を募らせていると、今度は彼女の傍にまた別の少女が

 

「あら、こちらのコンディションはバッチリのようね鹿目さん」

「私はバッチリじゃないですけど仁美ちゃんはやる気MAXです……」

「そうなの、ちなみに私のコンデションも絶好調よ、こんなに大勢のお友達に囲まれて今にも昇天しそうな勢いだわ」

「いや昇天はしないで下さい……ここでマミさんが天に昇る事になっちゃったらもう完全に収拾つかないんで……」

 

優雅にティーカップを持ちながら歩いて巴マミがやってきて、まどかは頬を引きつらせる。

 

「なんでティーカップ持ってるんですか?」とツッコミそうになりかけたまどかだが、あえてここはスル―して話題を変えた。

 

「マミさんもキュゥべぇになにか言われてここに来たんですか?」

「ええ、『傍にいても邪魔だからまどかの手伝いでもしていてくれ』って言われちゃった、泣きたくなったけど堪えたわ、偉いわ私」

「でもうっすら涙目に……」

 

マミの話を聞きまどかがボソッと呟くと彼女の背後にスッと人影が

 

「巴マミ、まどかに近づくのは止めて。貴女は家に帰ってケーキ量産工場の工場長にでもなってなさい」

「……アハハ、もういきなり現れても段々驚かなくなっちゃったよほむらちゃん……」

 

なんの唐突もなくまどかの背後に現れたのは暁美ほむら。

彼女は横目でマミを軽く睨みつけた後、すぐに想い人であるまどかの元へ視線を流し

 

「まどか、私は志筑仁美が死のうが美樹さやかが死のうがどうでもいいけど、あなただけは私が救ってみせるわ」

「恐ろしい上に縁起の悪い事言わないでよ! 仁美ちゃんもさやかちゃんも私の大事なお友達なんだから!」

「問題ないわ、例えどっちが屍になっても私の誰よりも深い愛で忘れさせてあげるから」

「万能過ぎるよほむらちゃんの愛!」

「私の事は忘れないで!」

「そして何故にマミさんが泣きながら私に抱きつくの!?」

 

屈折した使命感を持つほむらと、泣いているマミに腰に抱きつかれなにか叫んでいるまどか。

そんな彼女達を「あらあら」とリングの上で愉快そうに笑みをこぼす仁美。

 

 

 

 

 

向こう側にいるメンバーを眺めながらさやかはどこか遠い目をしていた。

 

「あの連中はなんでここにいるんだろ……」

「本当だな~」

「いやアンタもだから、耳元でガム噛むな」

 

自分の背後でコーナーにしがみつきながらクチャクチャと音を立ててガムを噛んでいる杏子にさやかが額に青筋を浮かべていると、彼女達の傍にピョンと一匹の小動物がリングのロープに飛び乗ってやってきた。

 

地球外生命体・キュゥべぇ。このイベントを企画して立ち上げた張本人である。

 

「気分はどうだい美樹さやか? ちなみに僕は最悪さ、なんて言ったって君が目の前にいるんだから」

「あたしも最悪よ、廃棄物にしてやろうか」

「やれやれ、このパトリオットセクシー・レクイエムに対してなんて汚い言葉だ。少しは口を慎むというのを覚えたらどうだい? ま、無理だろうけど、なにせ君はあの美樹さやかだし」

「ボクシングする相手がアンタだったらよかったわ……」

 

相変わらず憎たらしい奴だとさやかは目を細めてキュゥべぇを睨みつけた。

 

「ていうかアンタ、まどかに何か言われて私達にこんな事させようとしたんでしょ?」

「察しがいいねさやかのクセに、けど悪いけど僕は君達の為にやってる訳じゃないから」

「は?」

「全てまどかの為さ、君達がギスギスしてるとあの子が悲しむんだ」

 

やるべき事はすべて彼女一人の為。

その揺るがない決意を見せるキュゥべぇに対し、さやかは呆れたように「ふ~ん」と声を盛らす。

 

「……本当アンタはまどかには甘いわね。あの子の願い事なら全部叶える気?」

「彼女の願いを叶えるのが僕の使命だよ」

「尽くす男って奴? やだやだ、ナマモノのクセに……」

 

無表情なキュゥべぇにそう呟くとさやかは右手にグローブをハメながら彼にけだるそうに語りかけた。

 

「言っとくけどこんなふざけた事やってもあたしと仁美が仲直りするなんてのは無いから」

「それはあり得ないね、これは僕が考えた計画だよ?」

「だからなによ……」

「僕は天才だよ? しかもセクシーだよ?」

「いやセクシーは全く関係ないだろうが……」

 

ジト目でさやかがそうツッコむと、キュゥべぇはロープの上で尻尾を左右に振りながらさやかにそっぽを向く。

 

「ま、アホの君にはわからないだろうね。これは僕の緻密かつ大胆かつエロスでパーフェクトな計算の下で作られた100%成功する作戦さ」

「なんで計算の中にエロス入れんのよ、ていうか成功するとかあり得ないから」

「あり得るかあり得ないかなんてアホの君には聞いてないけど」

「あ~アンタさっきからアホアホアホアホうっさいわね!」

「気にすんなって、勝手に言わせとけばいいじゃねえか」

 

堪忍袋の緒が切れたのかキュゥべぇに向かって怒鳴り声を上げるさやかに、背後から杏子がポンと彼女の肩に手を置く。

 

「アタシだってそいつには散々バカって呼ばれてるしな」

「それは揺るぎない事実だからいいじゃない、あたしは違うから、アホじゃないから」

「んだとぉ! テメェだってアホだろうが! テメェがあの仁美って奴と仲悪くなったからまどかが間に挟まれて居心地悪くなってんだぞ! わかってんのか!」

「アンタに言われなくてもわかってんのよ! 部外者が首突っ込むな!」

「アタシはまどかの友達だ! ダチが困ってんなら野暮とわかってでも助けてやろうとするのがダチなんだよ!」

「野暮とわかってんなら引っ込んでろバカ!」

「んだとこのアホ!」

 

互いに気の強い性格の方なので相性が悪いのか睨み合って口喧嘩を始めてしまうさやかと杏子。

するとそれを傍から見ていたキュゥべぇが彼女達に話しかける。

 

「頭の悪い事やってないで今は試合に集中しなよアホのさやか。君が今から喧嘩するのはバカあんこじゃなくてあそこのワカメさんだよ?」

「アンタはそんなにあたしに殴られたいわけ!?」

「ほら、レフェリーの御到着だよ、顔を上げてみてよ」

「ん~?」

 

さやかの返事を軽く流してキュゥべぇは顔を上げて彼女に上へ向けと促す。

イライラしながらもさやかはとりあえずリングチラッと顔を上げると

 

「とうッ!」

「ぶッ!」

 

上空から何者かが体を丸めた状態でクルクルと回りながらこちらに落下してくる。

それを見てさやかが思わず噴き出していると、その人物はスタッとリングの中央に綺麗に着地した。

 

現れたのは高そうなスーツを着た二枚目の若い男性。

彼はすぐに懐からマイクを取り出して声高々に叫んだ。

 

「御指名ありがとうございます! 今回この試合のレェフリーを担当させてもらう! シュウです!!」 

 

頬を引きつらせているさやかに向かって、レェフリーであるシュウが派手な動作で深々と頭を下げる。

 

「以後よろしく!」

「いや誰だよ!!」

 

間もなく試合開始

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さやかの言い分も無視してどんどん話が進んでいく。

彼女の背後には今日初めて会ったばかりの杏子がキュゥべぇになにやら指示されており。

真ん中にはキラキラしたスーツを着た自分の知らない男、レフェリー担当のシュウが派手に踊っている。踊っている理由は不明。

向かいのコーナーには対戦相手である仁美がニコニコと笑っていた。

 

「なんであの子今から殴り合うのに笑ってんのよ……虫も殺せない性格なのに……」

「はーい! それでは試合開始前5分前になりましたので説明をさせていただきます!」

「ん?」

 

リングの外から爽やかな男性の声が飛んで来たのでさやかは怪訝な表情でそちらに目を向けてみた。

 

レフェリーのショウと似た様な雰囲気を持つ派手なスーツを着た男が机に肘を突いた状態で椅子に座っていた。

 

「ちなみにわたくしは今回の実況担当をさせてもらう! シュウさんの後輩ホストです! 以後よろしく!!」

「だから誰だよ! おい、白いの!」

「そこでラウンドが終わったら君はすかさず美樹さやかにこの煮えたぎった熱いお湯を頭からぶっかけて……ん? なんだい?」

「なんだいじゃないわよ! アンタ今そいつになに指図してた!」

 

杏子になにか言いつけるのを中断してこちらに小首を傾げてきたキュゥべぇにさやかは沸々と湧き出る怒りを抑えつけながら口を開く。

 

「あのショウさんとか後輩とかなに!? どっからあんなもん連れて来たのアンタ!」

「僕のカリスマ性があればホストの一人や二人集めれるに決まってるだろ。人手が足りないから僕が呼んだだけだよ」

「ホ、ホスト!? アンタってそんなの縁があったの!?」

「キュゥべぇさん!」

 

ホストと聞いてさやかが驚いていると、話の種であるレフェリーのシュウが颯爽とキュゥべぇの前に現れた。

 

「手筈通り一通りの設備が設置できました! 後はお二方の試合を行うだけです!」

「なんで珍獣に敬語使ってんのこの人……」

「実は僕はまどかやマミと会う前にこの辺を色々と巡り回っていてね、一時期ホストの頂点に立っていた事があるんだよ」

「頂点!? アンタがホストの!? 宇宙人のクセに!?」

 

まどかやマミも聞いたことないであろうその新事実をいち早く知ったさやかが驚いて口をあんぐりと開けていると、傍に立っていたショウが妙に悟った表情で話を始めた。

 

「キュゥべぇさんはホスト界では『夜王』と呼ばれ数多の伝説を作った永遠のトップですから、ホスト界を去らなければ今頃きっと日本一、いえ世界一のトップに……」

「いや宇宙一だね、なにせ僕だから」

「アンタを指名していた客が見てみたいわ……」

 

こんな白くて性格の悪い生き物を一体どんな人がわざわざ指名して高い金を使っていたのかさやかが疑問を覚えていると、ショウがいきなりバッと両膝を落としてキュゥべぇに向かって土下座の体制を取りだす。

 

「今からでも遅くないです! キュゥべぇさん! 夜王と呼ばれたあなたの教えを是非若い奴等に教えてやって下さい!」

「止めてくれ、もう昔の話だ。今の僕は夜王でもなんでもない」

「キュゥべぇさん……」

「今の僕は全ての女性を救済する神じゃない、たった一人の女神を護ると誓った小さな天使さ」

「キュゥべぇさぁぁぁぁぁぁん!!」

「いやそこ感激する所じゃないだろ! 言ってる事意味分かんないし!」

 

相変わらずの意味不明な事をキュゥべぇが口走っただけなのに感激のあまり男泣きをして床に向かって大声で叫んだシュウ。

なぜに彼がこんな生き物を崇拝しているのかさやかにはさっぱりだった。

頭が痛くなった彼女はガックリと肩を落とす。

 

「もうさっさと終わらせてウチ帰ろう……コイツ等と付き合ってると頭おかしくなりそう」

「おいさやか! こんな熱さで大丈夫か!」

「そしてアンタはなんで両手に煮えたぎったお湯が入ってる鍋を持ってあたしに聞く!?」

「あ、やっぱおでんも入れとくか?」

「あたしはダチョウ倶楽部か!」

 

グツグツとよく煮えているお湯を両手に持ってキョトンとしている杏子にさやかはウンザリした表情で髪を掻き毟る。

一刻も早くこの連中から離れたい……さやかがどんど荒み始めていると、実況担当の後輩ホストがマイクを握って声高々に叫んだ。

 

「さあ! 間もなく試合開始です! プライドを賭けた二人のお嬢ちゃんの戦いが今切って落とされます!!」

「あんま声大きくしないでよ! なにやってんだって人が集まるでしょうが!」

「果たして勝利の女神は恋するお嬢ちゃんのどちらに微笑むのか! 由緒正しき名家の一人娘であり高貴な人柄を持つ志筑仁美ちゃんか! はたまた年中アホ丸だしで人間社会の底辺を突っ走っているマルでダメな女、略して『マダオ』の美樹さやかか!」

「おい! あのホストが手に持ってる台本書いたの絶対アンタだろ腐れナマモノ!」

「いや暁美ほむらだけど」

「あんのストーカー転校生がぁぁぁぁぁぁ!」

「それでは試合開始!!」

「ファイッ!」

 

さやかの雄叫びと共に、実況者である後輩ホストが上げ上げテンションのまま勢いよくゴングをカーン!と鳴らす。目を赤くさせているレフェリーのショウも試合開始の合図を叫んだ

 

遂に限りなくアホらしい試合が始まったのだ。

 

「仁美ちゃん! 本当にやるの!?」

「はい、では行ってきますわ」

「笑顔でグローブを構える仁美ちゃんが恐いよ!」

 

後ろで心配そうにしているまどかに向かって仁美はニッコリ笑顔でファイティングポーズ。

そんな掛け合いを見てさやかは「うげ……」と思わず声を漏らす。

 

「マジで仁美やる気じゃん……箱入り娘のクセにマジであたしとやり合う気?」

「行けー! さやか!! 思いっきりぶっ飛ばせ!!」

「うっさい! アンタは試合が終わるまで黙ってろ!」

 

あちらにはまどかがセコンドになってくれているのに対し、こちらには可哀想な頭を持った初対面の少女。

そんな事にさえイライラを感じながらもさやかは乱暴にイスから立ち上がってリングの真ん中に歩き出す。

 

久しぶりに、本当に久しぶりにさやかは仁美と真正面から向かい合った上で彼女の目を見た。

 

「困った事になりましたわね、さやかさん……」

「ったくバカな連中だよね、こんな事してもなにも終わらないっていうのに……」

 

居心地の悪さを感じながらもさやかは苦笑して立っている仁美に口を開く。

 

「まどかもまどかよ、あたしの知らない所で変な連中とばっか仲良くなっちゃって……」

「さやかさん」

「あの金髪の先輩はよく知らないけどさ、美人だけど性格が残念過ぎる変態とか。頭に脳みそ入れ忘れてるバカとか、もはや地球生命体でも無いナルシストな宇宙人とか……」

「“いきますわよ”」

「やっぱあの子にはあたしがしっかりついていないと……え?」

 

リングの上で冗談交じりにヘラヘラ笑っていたさやかに仁美は行儀よく彼女にお辞儀した後瞬時に腰を低くして間合いを詰めて……

 

「えい」

「うぐはぁッ!」

「さやかちゃ~ん!!」

「なにしてんださやか~!!」

 

仁美の鮮やかなボディブローがさやかの腹部に炸裂。

隙を見せていた所に重々しい一撃を食らいさやかはその拳の勢いで後ろに吹っ飛ばされた。

両耳から聞こえるのは相手側にいるまどかとこちら側にいる杏子の声。

 

「え、ちょ……なに……え? あたし、今仁美に腹一発入れられた……?」

「あら、思ったより綺麗に入りましたわね」

 

ロープに持たれながらもさやかは腹から来る激痛も忘れてゆっくりと顔を上げる。

 

親友であり対戦相手である仁美がこちらに優しく微笑んでいた。

 

「さやかさん、わたくしが色々と習い事をやっているのは知ってますわよね」

「……へ?」

「その習い事の中には護身術として格闘技も含まれているんですの、空手、柔道、ボクシング、カポエラ、ムエタイ、北斗神拳、南斗聖拳、西斗月拳、その他も諸々多くの格闘技を体得しました」

「は!?」

「そしてわたくしはそれら全て免許皆伝の印を貰ってますわ」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

笑いながら告白する仁美にさやかは我を忘れて大声で叫ぶ。

つまり彼女はほとんどの格闘技に精通しているとんでもないお嬢様だったのだ。

 

「ひ、仁美! ウソでしょまさかアンタがそんな……!」

「ウソか真かは己の身で体感して下さいな、それではもう一度いきますわよさやかさん」

「いやいやいやちょっと待って! マジで待って!」

 

再び構えを取ってこちらに接近しようとする仁美にさやかは慌ててグローブをはめた手を前に突き出して制止させる。 

 

「アンタマジであたしとこんな事やるの!? こんな事してなにか解決すると思ってる!?」

「さあ? わたくし、今回の件につきましてはそこまで考えておりませんわ」

「じゃあなんでこんな事すんのよ!」

「そうですね、強いて言えば」

 

焦りながら額から大量の汗を流しているさやかに向かって

仁美は一層ニッコリと、悩んでいる友人に微笑みかけるような優しい笑顔を浮かべた。

 

「さやかさんと本気でぶつかってみたいと思ったんですの」

「本気!? ちょ、ちょっと待った! なんであたしと本気で……!」

「えい」

「んぐはぁ!!」

「さやかちゃ~ん!」

「な~にしてんださやか~!」

 

さやかが見せたほんの隙を突いて仁美はまたもや笑顔で彼女に一発。

今度は女の命でもあり武器でもある顔を“本気で”殴り抜ける。

華奢な体から放ってるとは思えないその一撃で顔面を殴られたさやかは宙を高速回転しながらリングの上でドサッと床に倒れた

 

「おお~っとさやか選手早速ダウンをもらってしまった~!!」

「おいさやか! お前倒されるの早過ぎだろ! 早く立ち上がって迎え撃て!」

「ちょ、ちょっと待って……あたし、まさかこんな事になるなんて考えも……」

 

実況と杏子の激が飛んでくる中、さやかはヨロヨロと起き上がりながら改めて仁美を真正面から見る。

 

昔から変わらない、綺麗でおっとりとした印象が窺えるそんな優しい笑みを浮かべていた。

まるで菩薩様のような……

 

「さやかさん、本気でぶつかって来て下さい、わたくしも全力全開の本気でいかせてもらいますから」

(ヤバ、あたし死んだわ……)

 

しかしさやかにはどう見ても今の彼女は

 

自分を地獄に落とすという命を受けた魔王にしか見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、ほむらちゃん……これってどんな作品だったけ? バトル物?」

「私とあなたが○○○とか×××するストーリーよ」

「ほむらちゃんに聞いた私がバカだったよ……」

 

 

 

 

 


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