僕がいちばんセクシー   作:カイバーマン。

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11ステップ 戦場の中で

 

志筑仁美と美樹さやか

 

二人の血湧き肉踊る戦いはラウンド数を増やす度に加熱していく。

 

もっとも過熱しているのは仁美だけだが

 

「ふごぉぉぉぉぉぉ!!」

『さやか選手また顔面いったァァァァァァ!!』

「おいさやかもっと踏ん張れって! 何十回ダウン取られてんだよ!」

 

リングの中でさやかが一撃でコーナーにまでぶっ飛ばされる、もう何回倒れたのかさえ彼女自身覚えていない。それぐらい圧倒的な差が出来ているのだ。

 

彼女を笑顔で殴り抜けるのは見た目は清楚なお嬢様、中身は世紀末覇者の仁美。

レフェリーのショウの後輩のホストが実況マイクを握って叫ぶ中、セコンドの杏子も負けじと大声を上げてさやかに激を飛ばす。

 

「腰がなってねぇんだよお前! 腰入れてアイツにカウンター決めろ! 一撃必殺で逆転しろ!」

「む、無理……絶対無理……あたしもうお家帰る……」

「諦めたらそこで試合終了だろうが!」

「いやマジで帰らせて! ホ、ホントあの子容赦ないんだって!」

 

ロープにしがみついてヨロヨロと立ち上がりながらさやかは泣きそうな声でリングの外にいる杏子に助けを求めようとする。

だがそれを世紀末覇者は許さない。

 

「あらあらさやかさん、敵前逃亡は戦う者にとって御法度ですわよ」

「ひッ!」

「戦いは戦いによって終わるもの。さやかさんが戦うと決めない限り永遠にこの決闘は終わりませんわ」

 

両手のグローブをバンバンとぶつけながら仁美がニコニコとさやかの背後へと近付いて行く。

彼女の接近に気付いたさやかはすぐに汗をダラダラ流しながら彼女の方へ振り返った

 

「ひ、仁美! お願いだからもう止めよう! アンタあの白いのに騙されてるんだよ!」

「いえ、あの白い小動物さんはもう関係ございませんわ」

「へ、へ……?」

「わたくしがさやかさんとこうしたいからこうしてるだけですの」

「だぱんぷッ!」

「さやかーッ!」

 

戦意など元から持っていないさやかに向かって問答無用で顔面に拳を叩き入れる仁美。

ロープを背にしたままさやかは彼女の拳の連打の餌食となってしまった。

殴る音というよりショットガンで撃たれてる様な音がリング内に響き渡る。

 

「あが! がぐ! ぐぎ! ぎう! うげ!」

『おお~っとさやか選手、仁美選手の猛ラッシュに飲み込まれたー! ショウさんあれデンプシロールですよ! 俺『はじめの一歩』全巻持ってるから知ってます!』

「さすがキュゥべぇさんの嫁さんのご友人! プロ級のファイティングスピリッツだ!」

「ア、 アンタ等なに呑気に言って……げふぅぅぅぅぅ!」

『おお~っとさやか選手、渾身の一撃で吹っ飛んだ~!』

 

実況とレフェリーの立場を忘れて仁美の戦闘力に尊敬の眼差しを向けるホスト二人にさやかがツッコもうとしたその時、彼女の顔面にとどめと言わんばかりのフィニッシュブローが入った。

 

「ふご!」

『さやか選手またもやダ~ウ~ン!!』

「立てさやか~!」

 

空中を舞って床にベチャっと落ちた後、ピクピクと手足を動かして痙攣するさやかに杏子がリングの床をダンダンと叩きながら彼女を立たせようと躍起になっている。

 

だがさやかは立つ気力さえ残っていなかった。

 

(あ~下らない……なんであたしが喧嘩中の仁美と一緒にこんな事してんだろ……)

「あ、1! あ、2! あ、3! あ、4!」

『カウント取る度にポーズ決めるショウさんマジパネェ!』

 

傍で色々とポージングを取りながらカウントしているショウの声も耳に入れずに、さやかはうつ伏せで倒れた状態から立ち上がろうとしない。

 

(こんな事してもなんの意味もないじゃん……くっだらない、このまま寝てて終わらせよう……格闘技を習ってる仁美に勝てるわけないし)

「早く立ったらどうだい美樹さやか」

「!」

 

目をつぶり時が過ぎるのを待とうとしていたさやかの目の前に。

 

思いもよらぬ“生物”がいきなり現れた。

 

まどかの所に住み着いている謎の宇宙人・キュゥべぇがリング内に上がって来たのだ。

 

「一つこの計画にアクシンデントがあるとしたら君は僕の想像以上に情けなかったって事だ。君がここで立たなかったら僕の計画は台無しだよ。さっさと立ち上がってあのワカメにまた殴られてくれないかな?」

「うっさい……いい加減に黙らないと本気で怒るわよ……あたしはこのまま試合を終わらせて帰る、アンタの事情なんて知ったこっちゃない……」

「やれやれ」

 

息絶え絶えにさやかがそう言うと、キュゥべぇは呆れたように首を横に振った。

 

「美樹さやか、君は僕の予想を遥かに超えた正真正銘のアホだよ」

「……なんですって……」

「志筑仁美の拳を受けてなにも感じないなんて、愚かにも程があるね」

「は?」

「あ、5! あ、6! あ、7!」

 

彼が何を言っているのかわからなかった。

思わず顔を上げて耳を傾けたさやかに、キュゥべぇは近くでポーズを取っているシュウを尻目に話を続ける。

 

「いい加減、逃げるのはもう止めたらどうだい?」

「逃げる……あたしがなにに逃げてるって言うのよ……」

「全くなにもわかってないんだね君は、いいかい、君はまず彼女と本気でぶつかるんだ。彼女の“本当の拳”をそのアホ面に叩きこめられて来ればそれでいい」

「仁美のパンチならもうあべし!って叫んで内部爆発起こすぐらい貰ってるわよ……」

「いや貰ってないね、君はまだ一発も彼女に殴られてない」

「……アンタさっきからなに言ってんの……?」

 

さやかには理解出来なかった、この生物の言葉の真意を。

呆然と固まる彼女にキュゥべぇは無表情のまま視線を向けた。

 

「君が本気で戦う決心がつけば答えは見つかるさ。これはただのボクシングじゃない」

 

そう言ってキュゥべぇは彼女に背を向けてリングから出ようとする。

思わずさやかは彼を呼びとめようと痛みを忘れてバッと立ち上がると、彼は振り向かずに呟いた。

 

「これは君と彼女が拳と拳で想いを伝える為の決闘なんだ、拳は時に一生の言葉も凌駕する」

「……」

「覚えておくんだね、ま、どうせアホの君だからすぐ忘れちゃうだろうけど」

『おお~っとさやか選手! 遂に立ち上がった~!』

「あ、8! あ、9!」

『シュウさんもうポーズ取りながらカウントしなくて大丈夫です!』

 

キュゥべぇに誘導されていつの間にか立ち上がってしまったさやか。

それと同時にラウンド終了のゴングが鳴り響く。

 

次がファイナルラウンドだ

 

 

 

 

 

 

 

『さて! 次でいよいよファイナルラウンド! 最後の最後でさやか選手は一矢報いれるのか期待です!』

「ハァハァ……」

 

勝手な事を言う実況にイラっとしながらさやかは数分の間でも体力を回復しようとイスに座って荒い息を吐きながら沈黙する。

彼女の頭の中にはさっきキュゥべぇが言っていた言葉が離れない。

 

『拳は時に一生の言葉も凌駕する』

「どこの格闘漫画のセリフだっつーの……」

「おいさやか、次で挽回しないと負け決定だぞ! 玉砕覚悟で死ぬ気で特攻仕掛けようぜ!」

「もう何度も玉砕してんのよこっちは、原形とどめてるのが不思議なくらいね……」

 

背後から八重歯を光らせバカ丸出しなアドバイスをして来た杏子にさやかはボロボロかつムスッとした顔で振り返った。

 

「ところでアンタさ、ちょっとあっちにいるまどかを呼んで来てくれない?」

「ん? どうしたんだよ急に?」

「ちょっと聞きたい事あんのよ、いいから呼んで来て。もう時間もないし」

 

次のラウンドまで刻々と時間が迫っている、それまでにどうしても彼女はあの少女に聞きたい事があった。

さやかに指示された杏子はめんどくさそうに髪をボリボリと掻き毟るも、すぐに駆け出して仁美の方へいるまどかの方へ向かった。

 

膝に頬杖を突きながらさやかが待っていると、程なくして杏子が鹿目まどかの手を取って連れて戻ってきた。

なぜか暁美ほむらと巴マミもセットで……

 

「……おい、まどかを連れて来てって指示したのになんで転校生と金髪の先輩も連れて来てんのよ。それいらないから向こうに返却して来て」

「いや、アタシもまどかだけでいいいって言ったのにコイツ等話聞かなくてよ……」

「私のまどかを誘いにかけるとはいい度胸ね美樹さやか、志筑仁美に惨めにボッコボコにされているクセに」

「美樹さんは鹿目さんの親友……美樹さんは鹿目さんの親友……ウフフ、友達の輪が広がるチャンスよマミ……今こそ通販で買ったこの“友達作りアイテム”が役に立つ時ね……」

「そこの先輩はなんでこっちをチラチラ見ながら“手錠”を持ってうすら笑みを浮かべてるのよ……」

 

変に勘違いしてるほむらとさやかに対して嬉しそうになにか企んでいる様子のマミ。

招かれざる客にさやかが危機感を持っていると、杏子に連れられて来た本当の目的であるまどかがオドオドした様子で彼女に近づいて行った。

 

「さ、さやかちゃん大丈夫……?」

「幼馴染にサンドバッグにされて走馬灯を4回ぐらい見てる私が大丈夫に見える……」

「ご、ごめん仁美ちゃんには手加減してって言ったんだけど……」

「……ねぇ、ちょっと聞きたい事あんだけどいいかな?」

「うん、いいよ……」

 

少し顔を曇らせながらさやかはまどかに話しかけた。次のラウンドも刻々と迫っているが、どうしても一つ確認したい事があったのだ。

 

「まどか、仁美が伝えたい事ってわかる?」

「伝えたい事? 仁美ちゃんが?」

「あのナマモノが「逃げてばかりじゃなにもわからない、だから本気で仁美とぶつかれ。そうすれば彼女の想いが伝わる」みたいな事言ってたんだけどさ」

「本気で……ああ、そっか」

 

悩んでいる自分と違いまどかは一瞬にしてその言葉の真意を理解してしまったようだ。

伊達にキュゥべぇと一つ屋根の下に住んでいる訳ではないし、実はある理由があったりする。

 

「さやかちゃん、さやかちゃんって試合が始まってから一回も仁美ちゃんを攻撃しようとしなかったよね?」

「そりゃそうよ、あんな事あったけどアタシにとって仁美は大事な友達だし、殴るなんて……」

「……多分それが、キュゥべぇの言う「逃げてる」なんじゃないのかな……」

「え?」

 

ボソッと呟いたまどかの言葉にさやかはピクンと反応する。

彼の言っていた逃げているというのは

 

自分が仁美を傷つけたくないという衝動に駆られているから……。

 

「それと私、実は仁美ちゃんに一つ伝言貰ってるんだ」

「へ、伝言ですって?」

「うん、その伝言を聞いてたから、私さっきさやかちゃんが言ってたキュゥべぇの言葉の意味を理解出来たの」

 

思わずさやかは向かいにいる仁美の方へ視線を向ける。

彼女は試合の時とは違い、凛々しい表情とまっすぐな目をしてこちらを見返していた。

 

「仁美……アンタ……」

「『わたくしの想いを逃げずに受け取って下さい』」

「!」

 

まどかの口から発された仁美のメッセージ、それを聞いてさやかの死んでいた目が見開く。

それを見て、まどかはコクリと縦に頷いた。

 

「仁美ちゃんがそう伝えてって、後は全部戦いの場にて語り合いましょうだって」

「……それ何処のボスキャラ……」

「あなたにとっては彼女はボスキャラみたいなものじゃない」

「いきなり出てくんな転校生……」

 

まどかとの会話中に横からヌッと出て来たほむらにさやかがツッコむと、ほむらは変わらずの無表情で彼女の方に顔を上げる。

 

「美樹さやか」

「なによ?」

「私はね、あのナマモノ同様あなたがどうなろうが知ったこっちゃないわ、あなたの事は嫌いだし、今も心の中で死んでくれって念じながらあなたに話しかけてるわ」

「……泣いていい?」

「その上、もしまどかを悲しませるような真似をしたら」

 

ほむらの目が若干鋭くなった。

 

「私は一生あなたを許さないわ」

「……はいはい」

 

珍しくマジになっているほむらにけだるそうにそう返事すると、さやかはゆっくりとイスから立ち上がる。

 

「あのナマモノの言う通り、あたしってアホだから小難しい事はわからないけどさ。アンタ達の言いたい事は大体わかったよ」

「さやか!」

「なによ役立たずセコンド、お前はさっさと家帰れ」

「泣きたくなる事言うなよ! アタシだってお前に言う事あんだ!」

 

大きな声で自分の名を呼んで駆け寄ってきた杏子に、さやかはジト目で睨みつけると。

彼女は二カッと笑って拳でグッとガッツポーズを取った。

 

「いっちょ一発かまして来い!」

「……おう」

 

小さな声で呟き、さやかはフッと彼女に笑みを浮かべる。

頭は空だが悪い奴ではない。彼女は杏子を見てそう思った。

 

そして次はさやかと全く面識のないマミが恥ずかしそうにモジモジしながら彼女の方に近寄る。

 

「み、美樹さん……」

「なんですか?」

「もしあなたが志筑さんに負けたら……」

 

怪訝な表情でこちらを見るさやかに、マミは一旦そこで言葉を区切ると手に持っていた謎の手錠をジャラッと音を立ててチラつかせた。

 

「私があなたの友達になって励ましてあげるわ! 一生離れないでいてあげる!」

「よし! 絶対に負けられない理由が今ここに生まれた!!」

 

ランランとした目で手錠を持って笑いかけるマミを見てさやかはすぐに危機感を抱き喉の奥から思いっきり叫んだ。

 

そしてファイナルラウンド、最後の聖戦が遂に始まった。

 

 

 

 

 

 

 

だが

 

「ふんギャァァァァァァ!!!」

『おお~とさやか選手! 危うくリングアウトになる程吹っ飛んだァァァァァァ!!』

 

段々と一撃の重みが増しているのはやはり気のせいでは無かった。

仁美の一撃はラウンドを超えるごとに強くなり、殴られる経験など今までほぼ皆無だったさやかの意識を飛ばしかねない破壊力に到達している。

 

ファイナルラウンド始まって一分しか経ってないにも関らず彼女の右ストレートを受けてさやかはまたもや鈍い音を立ててロープまで吹っ飛ばされてしまった。

ロープにしがみつき彼女はゆっくりと起き上がって目の前の仁美に息を荒げながら話しかける。

 

「ハァハァ……! マジアンタヤバ過ぎ……」

「……わたくし、スタミナの温存方法なら熟知しておりますので、あと10ラウンドはぶっ続けで戦えますわよ」

「“そっち”のヤバいじゃない」

「……さやかさん?」

 

ゼェゼェと息を吐き顔からは大量の汗、疲労困憊なのが一目でわかるさやかが苦しそうしにしながらも仁美に対しニッと笑った。

 

「白いのとまどかに言われて思ったのよ、アンタがなんでこんなバカげた茶番に付き合って私をボッコボコにするのか。そう思ってたらアホな私でもなんかわかった気がする」

「……」

「アンタの一撃食らう度に「負けたくない」って感情が伝わって来た……」

「さやかさん……」

 

フラフラとした足取りでリングの中央に向かってくるさやかに、仁美は静かに首を横に振った。

 

「“届いて”くれたのですね」

「仁美、アンタはそこまでアイツの事を慕っているだね、あたしと戦う事になっても、その想いだけは譲れないんだ」

「ええずっと昔から恋焦がれていましたの、恭介さんの事を」

「……」

 

よくもまあそんな恥ずかしい事を言えるなと思う。

ついさやかが笑みをこぼすと、仁美は少し心配そうな表情で顔を俯かせた。

 

「……それでさやかさんのご返事は……?」

「ええ、今から返事してあげるわ」

 

そう言ってさやかは右手を掲げる。キュゥべェは言っていた「拳は時に一生の言葉も凌駕する」と。

 

「あたしの渾身の一発、アンタの威力には遠く及ばないけど。しっかりアンタに届けさせてあげる」

「フ、ようやく向かい合ってくれましたわね……」

「ずっと逃げててごめんね、久しぶりにアンタと会話出来たよ」

「ええ本当に長かったですわ……」

 

二人が互いにため息をこぼし、リング中央でほんのわずかな時を過ごしていると……

 

「さやか! 仁美!」

「この声は……」

「ん? ぶ! 恭介!!」

 

リングの外から何者かに名前を呼ばれてさやかと仁美はそちらに振り返る。

見るとそこにはこの騒動の中心核、上条恭介が立っているではないか。

これにはさすがのさやかも吹き出してしまう。

 

「アンタなんでこんな所にいんのよ!」

「偶然この道を通りかかった時に君達が喧嘩しているのが見えたんだ! どうして二人は争っているんだ!」

「いや争ってる理由はアンタのせい……」

「女の子同士で殴り合いの喧嘩するなんて間違っている! 君達はまだ若いんだ! 迷う事もあるだろうけど感情に任せて自らの拳を血に染め上げるなんて絶対にダメだ! 人を殺す覚悟を持ち合わせていない君達が! 「死」を直視する事さえ出来ない君達が戦う真似なんてしちゃいけない! いいぜさやか……それでも君が仁美と殴り合おうとするなら……」

 

ピクピクと額に青筋を浮かべているさやかを置いて長台詞を数秒足らずの時間で吐いた後恭介は身構え……。

 

「まずはその幻想をぶちころ……!」

「おらぁ!」

「そげぶ!!」

『おおーっとさやか選手! 突然リング外に来た少年に向かって右ストレートだ~!』 

 

恭介が決め台詞を吐く前に、さやかは怒りの溜まった一撃を彼に食らわせた。

彼はそのまま吹っ飛び白目を剥いて意識不明のノックアウトに。

 

「元はと言えばアンタが原因だろうが、あたしと仁美がこんな真似してんのも……!」

「ちょっとちょっと! 対戦相手じゃない人殴るの反則だって!」

『おおーっとここでレフェリーのショウさんが警告を……』

「うるせぇ!」

「ポピィィィィィ!!」

『ショウさぁぁぁぁぁぁぁん!!!』

 

恭介に続いてレフェリーも一撃で吹っ飛ばすさやか。リング上でクルクルと舞った後、カッコよく倒れるショウをほっといて、さやかは自分の拳と拳とくっつけて、改めて仁美と対峙する。

 

「さて、邪魔者もいなくなったし。そろそろ終わらせようか」

「さやかさん、あの、恭介さんが……」

「ああいいって、すぐ生き返るわよコイツなら」

 

素っ気なくそう言うとさやかは拳を構え仁美と真っ向から向き合った。

 

「仁美、こんな厨二病でバカな奴だけどさ。アンタは本当にコイツの事好きなの?」

「……ええ、恭介さんはお優しい方ですし……」

「そっか……」

 

その言葉を聞くと安堵の表情を浮かべ、さやかは腹をくくったかのように拳を強く握る。

 

「アイツを好きになったのがアンタで良かった」

「え?」

「アイツの“幼馴染”として、あたしはそう本気で思ってる」

「さやかさん……」

「だから……!」

 

さやかは拳を構えたままダッと駆け出して一気に仁美の方へ詰めより、腰を捻ってこの一撃に全てを注ぐ。

 

そして

 

「これからもアイツとイチャついてろアホンダラーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

夕焼けの昇る空。

 

二人の少女が戦うリングの中で。

 

乾いた音が二つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後の事。

 

「あー……まだ身体の節々が痛い……」

「まだあの時の戦いのダメージが残っているのかい? 志筑仁美はもうピンピンしているというのに」

「あの子とアタシの体の構造は元から全く違うのよ、あたしは普通、あっちは鉄人なんだから」

 

さやかは今、お昼休みの時間を取ってキュゥべぇと共に学校の屋上で外を眺めていた。

ここでまどか達と昼食を取る約束なのだが彼女達はまだ来ていない。

 

「で、なんでアンタはここにいんのよ。まどかの所に行けば?」

「僕がどこにいようが僕の勝手だろ、まどかが来てって言えばすぐに彼女の下に馳せ参じるけど」

「相変わらずウザいわね」

「おやおや嫉妬かい? セクシーかつスタイリッシュな美しい僕に嫉妬かい? アホのさやかのクセに嫉妬かい?」

「天よコイツに隕石ば叩き落として下さい」

 

こちらに首を傾げ挑発的な言葉を浴びせて来るキュゥべぇにさやかがウンザリした表情で睨みつけた後、なにかを思い出したかのように深いため息を突く。

 

「アンタのおかげで仁美と和解出来たなんてあたしはほんの少しも思ってないからね」

「ああ、あの時かい。最後の君はそりゃあ盛大にぶっ倒れて滑稽だったよ」

 

キュゥべぇの皮肉をスル―してさやかはボリボリと頬を掻き、屋上の手すりにもたれながら空を見上げる。

 

「一発は入ったんだけどね……まあ元々アタシが負けるに決まってた事よ、やっぱり仁美の気持ちには敵わないわね」

「そういえば最後の最後に君は一発入れる事が出来たね、その後君はすぐに反撃の一発を入れられて死んだように失神KOしたけど」

 

数日前の出来事を懐かしむ様にさやかは思い出す。

あの時、彼女は最後の最後に渾身の一撃を仁美にぶつける事に成功した。

だが次の瞬間には返しの一撃を貰いそのままダウン。

結局勝者は仁美ということであの戦いは幕を閉じたのだ。

 

「あの一発はあたしが入れた一発の“返事”ってことでしょ。言葉にするとしたら「わたくしに任せて下さい」って所かな?」

「ふ~ん、てことは君は結局、志筑仁美にあの厨二病を譲る事にしたんだね」

「元々あたしと恭介はただの幼馴染よ。そりゃあちょっと好きだった気持ちはあったかもしれないけど、やっぱりあたしが恭介と幼馴染以上の関係になるのは想像できないわ」

 

キュゥべぇと談笑を交えながらさやかはフッと笑った。

 

「仁美なら、きっと恭介と上手くやっていけるよ」

「身を引くって訳かい」

 

それがさやかの答え、彼女自身が決めたそういう結末。

キュゥべぇはやれやれと言うように首を横に振った。

 

「僕には絶対に出来ない事だね」

「ハハ、アンタはそうだろうね。一生転校生とまどかを賭けて喧嘩してそうだし、案外相性いいんじゃないアンタと転校生」

「末恐ろしい程気持ち悪い事言わないでくれないかな、さやかのクセに」

「だってさぁ、嫌よ嫌よも好きの内って言うじゃない?」

「僕に釣り合うのはこの世で鹿目まどかだけさ。暁美ほむらみたいな変態ドMストーカーが僕と釣り合うと思うかい」

「あ~はいはいそうですか、そうですね~キュゥべぇさんは転校生よりもまどかとお似合いですよね~」

「なにやらこの僕をバカにしてる様な言い方だね、この全宇宙で最も美しくセクシーな僕に対してそんな口のきき方をするとはいい度胸だ」

「へ~アンタみたいなチビ助があたしになにか出来るの?」

 

ニヤニヤしながら挑発的な笑みを浮かべて手すりに頬杖を突いているさやかに、キュゥべぇはプイッと彼女から目を逸らす。

 

「実は僕、君にとっても相性の良い人を紹介しようと思ってるんだ」

「は? あたしと相性のいい人?」

「そろそろ来る頃だと思うよ。感謝するんだねさやか」

 

キュゥべぇがそう言い切った瞬間、ここへと昇る階段の方からコツコツと足音が聞こえて来た。

その音を聞いてさやかが嫌な予感を覚えていると……

 

「これでもう寂しくないね、“彼女”が」

「ウフフフフ……こんにちは美樹さん……」

「ギャァァァァァ!!!」

 

ドス黒いオーラを放ちながら階段を上がってきたのは数日前に出会ったばかりの巴マミ。

微笑を浮かべて手には彼女が通販で買った手錠がしっかりと握られている。

彼女の圧倒的な威圧感を前にして思わずさやかは思いっきり悲鳴を上げてしまった。

 

「な、なんでこの人がここに!!」

「だって約束したじゃない……もし美樹さんが志筑さんに負けたら、私が美樹さんのお友達になってあげるって……」

「うげぇ! アレまだ覚えてたんですか!」

「忘れるわけないじゃない! お友達が作れるチャンスだもの! さあ美樹さん……」

 

泣きそうでありながらも嬉しそうに笑いながら、マミは手錠を揺らしながらジリジリと怯えるさやかに一歩一歩近づいて行く。

 

「私が友達になってあげる、これさえあれば私とあなたは一生離れられない……それってとても素敵な事だと思わない?」

「なんなのこの人!! なんで手錠持ち歩いているの!?」

「さやか、君はマミのいい友達になれると思うよ」

「どうみても友達に対する目つきじゃないわよねアレ!? 完全に獲物を狙うハンターだから! ひぃ! こっち突っ込んで来た!」

 

尻尾をフリフリと上機嫌で振っているキュゥべぇにツッコミを入れた瞬間、マミが狂気の笑みを浮かべながらこちらに走ってくる。

捕まったら一巻の終わり、否、人生の終わり。さやかの女の勘はすぐその結論を出した。

脱兎の如く、さやかは屋上内で逃げ回る。

 

「いや~!! 追いかけてこないで~!!」

「鬼ごっこね! 昔キュゥべぇとやってた頃を思い出すわ! ウフフフ、待って美樹さん、すぐに捕まえてあげるから~!」

「うげ! 笑いながら追いかけてくる! あんなのに捕まったら何されるかわかったモンじゃない!」

 

さやかとマミが屋上内で方や楽しそうに方や恐怖に駆られた状態でデスレースを開始していると、程なくしてまどかがほむらと一緒に弁当を持ってやってきた。

 

当然、親友である仁美も連れて

 

「さやかちゃんもう弁当食べてる~?って、なにしてんの……?」

「巴マミから必死に逃げ回ってるわね、相も変わらず無様で滑稽な女ね」

「フフ、楽しそうですわねさやかさん……」

 

マミから必死に逃げているさやかを見て、仁美は幸せそうにニッコリと笑った。

 

「そしてさやかさん達といるとわたくしも楽しくなる、こんな当たり前の事を忘れていたなんて……フフ、わたくしもまだまだ精進しなければなりませんわね」

「いやぁぁぁぁぁぁ!! ちょっと仁美とまどか!! 見てないでアレ止めて~!!」

「待って~美樹さ~ん! 私と友達になって~!!」

「さあまどか、あんなのほっといて一緒にお弁当の具の取り換えっこをしましょう。私の大トロとあなたの貞操をトレード、問題無いわよね?」

「問題しか残ってないから! ていうかお弁当の中に刺身……う! やっぱり腐ってるよほむらちゃん! 高そうな大トロが強烈な悪臭を放つ兵器に!」

「私とした事がこれは迂闊だったわ、次はウニにしましょう」

「いやまずは海鮮物から離れるべきじゃないかい? 弁当にナマモノなんてどうかしてるよ」

「ナマモノのあなたは黙ってなさい」

「アンタ等いい加減にしろォォォォォォ!! 誰か私を助けて~~!!」

 

かくして美樹さやかと志筑仁美となにげない日常は再び始まる事になったのであった。

 

 

 


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