僕がいちばんセクシー   作:カイバーマン。

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13ステップ ほむほむテクニック

 

ほむらがまどかに嫌われた日の翌日。

学校の休日を利用して鹿目まどかは今、佐倉杏子、巴マミと街で遊ぶ為に昼過ぎに集合場所の駅前にある銅像の前に来ていた。

 

「あ、杏子ちゃんもう来てんだ!」

「いやアタシも丁度来た所だよ」

 

走ってこっちにやってきたまどかに一足早く待ち合わせ場所に来ていた杏子が軽く手を振って迎える。

 

「マミはまだ来てねぇけどな」

「マミさんが?」

「まあ集まる時間までまだあるし、ゆっくりとこっちに向かってるだけかもしれねぇけど」

「……」

「ん? どうした?」

 

懐からうまい棒を取り出しながら杏子が喋っていると、まどかはふとある物を一点集中して凝視していた。

 

銅像の前に目立つように置いてある、この人一人分は入れるぐらいの黄色いテントは……

 

「……なんだろアレ」

「アタシが来る前からあったぞそれ、どっかのホームレスのおっさんでもいるんじゃねぇの?」

「こんな目立つ所でテント張るかなぁ……」

 

呑気にボリボリとうまい棒を食べ始める杏子と違いまどかは不審な様子でそのテントをジーッと眺める。

 

するとテントの中からゴソゴソと音が鳴ると共にゆっくりと入口が開いた。

 

「鹿目さんと佐倉さんはまだ来てないのかしら……」

「ぶほッ!」

「マミさん!?」

「あら来てくれてたのね二人共、こんな私の為にありがとう」

 

テントの入口から顔だけ覗かせて辺りを窺う人物を見て杏子は口に咥えていたうまい棒を吹き出してまどかは目を見開かせる。

テントの中にいたのは今日遊ぶ約束をしていた少女、巴マミだったのだ。

彼女は二人を見つけるやいなやすぐに安堵の表情を浮かべる。

 

「待ち合わせ場所に遅れないようずっとここにスタンバっていて良かったわ」

「スタンバってたって! アンタいつからここにいんだよ!」

「昨日の夕方」

「はぁ!? ここで一夜明かしたのか!?」

「だってお母さんが「待ち合わせするなら遅れちゃダメ」って言うから……それでお父さんにこれ借りて……」

「アンタのおふくろと親父はどんな指導してんだ! たかが待ち合わせに来るだけだろ!」

「だって私……こういうの初めてだし……」

「なんでそこで涙目になるんだよ!」

 

ようやくテントから出て来たマミに杏子が軽く一喝した瞬間、すぐにマミはしおらしい表情を浮かべて泣きべそを掻いてしまう。

彼女に対して杏子がまたツッコミを入れていると、まどかが苦笑した顔で「まあまあ」と彼女の肩に手を置いて落ち着かせる。

 

「マミさん、お友達と遊ぶ時は別に待ち合わせ場所にテント張って待機なんてしなくて大丈夫ですから……」

「ぐす……でももし私が遅れちゃったら、あなた達私の事嫌いになっちゃうでしょ……?」

「なりません! そんな事で嫌いになりませんから!」

(アタシはこんな奴とまともに遊べんのか……?)

 

鼻をすすらせながらこちらに捨てられた猫の様な目を向けるマミにまどかが必死に手を横に振って否定する中、杏子はマミを見ながら一人不安な気持ちに駆られていると、「ん?」とある事に気付いた。

 

「そういや今日はアタシとお前とコイツだけなのか?」

「あ、うん。さやかちゃんとキュゥべぇも予定があるから来れないんだって」

「いやさやかはともかくあのナマモノに予定もクソもねぇだろ……一日中お前にべったりしてるアイツが来ないなんて珍しいな」

「そうなんだよね、断り方もなんかぎこちなかったし……なんかあったのかなキュゥべぇ」

 

まどかは首を捻って考えていると、杏子はキョロキョロと辺りを警戒するように見渡し始める。

 

「そういやアイツも来てねぇのか? あの長い黒髪の変態ストーカー」

「……ほむらちゃんなんて知らないモン」

「え?」

 

杏子が尋ねてきた瞬間まどかは考え事を止めて急にツンとした態度を取った。

人の良い彼女がこんな態度を取る事に杏子は口をポカンと開けて固まる。

 

「どうした急に? もしかしてアイツとなんかあったか?」

「うん私は今凄くほむらちゃんに怒ってるんだよ」

(頬膨らまして怒っても全然恐くねえ……)

「ふん」

「にしても怒ってる相手がアイツか、理由は大体予想付くか……」

 

頬を膨らませてこちらにそっぽを向いたまどかに、杏子は髪を掻き毟りながらフゥ~とため息。

 

(ま、いつかこうなるとはわかってたんだけどな……)

「ほむらちゃんの事は忘れて早くどこかに行こう」

「お、おう。じゃあゲーセンでも行くか」

「ゲーセンか~、私あんま行った事無いけど杏子ちゃんはよく行くの?」

「たまにな~(にしても……)」

 

会話しながら杏子はチラリとまどかの服装へ目をやる。

彼女が着ているのは私服だと思われる可愛らしいピンクのワンピース、そして……

 

「……そんな“コート”着て暑苦しくねえのかお前」

「えへへ~「踊る大捜査線」の青島さんはいつもこれ着てたんだよ~。だから私も一年中着てるんだ」

(ボケじゃなくて素で言ってるのがすげぇわ……)

 

ピンクのワンピースの上に“緑色のブカブカコート”を着た少女がほがらかに笑いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合流して数十分後、まどか、杏子、マミの三人組は今、杏子の薦めでデパートの地下にあるゲームセンターに足を運んで遊んでいた。

 

「よっと、まあこんなモンか」

「すご~い杏子ちゃん! パーフェクトだって!!」

「へへ~ん、体動かすのは得意なんだよ」

 

杏子がやっていたのはゲームセンターの奥にあるダンスゲーム。

基本頭を使うゲームは不得意であるがこういうリズムに乗って体を動かす単純なゲームは彼女の十八番なのだ。

自分の足場にある複数のマークと同じマークが画面上に出るのでタイミングを掴んでリズム良くそのマークを踏む。口で言うのは簡単だが実際やってみるとかなりの体力を使うし研ぎ澄まされたリズム感が重要なので結構難しい。

 

「歌とか踊りはガキの頃から得意なんだよ、親父が趣味でやってたから」

「へ~そうだったんだ、杏子ちゃんのお父さんって牧師さんだよね確か」

「おう、8月中にはCDデビューだってさ」

「お父さん牧師さんなんだよね!?」

 

得意げに親指立てて語る杏子にまどかが大事な事なので同じ事を二回尋ねていると、彼女の背後に近づいてそっと彼女の手を握ってくる者が一人……。

この場所にもっとも場違いな性格と耐性を持つマミだ。

 

「鹿目さん……ここ恐いわ……薄暗いしうるさいし人が多いし……」

「大丈夫ですよマミさん……(また泣きそうになってる)」

「私こういう所は今まで来た事無いの、どうしよう私……ここで何をすればいいの、何をすればここにいていいと認められるの、そもそも私みたいな人間がここに存在していいの……?」

「そんなシビアに考えなくてもいいですよただのゲーセンなんですから……」

 

オドオドと辺りを見渡しながらまた泣きそうな顔に戻ってるマミにまどかがすると彼女は自分の手を強く握りながらそっと呟く。

 

「キュゥべぇ……」

「え?」

「キュゥべぇは……鹿目さんキュゥべぇはどこにいるの……? いつも一緒だったわよね……? キュゥべぇはどこにいるの、あの子がいればなにも恐くないのに……」

「あ~ごめんなさい、キュゥべぇは今ちょっと別の用事で来れないらしくて……」

「キュゥべぇがいなきゃいやぁ……」

「あ……」

 

目の下にじんわりと涙を溜め始めたマミを見てまどかは悟った。

キュゥべぇがいないとわかった今、彼女の次の行動は一つしか無い。

「泣く」それ以外になにがあるのだろうか?

 

「キュゥべぇどこ~! 私キュゥべぇがいないと何も出来ないの~! 鹿目さんも佐倉さんもいるけどやっぱりあなたがいないとダメなの~!」

「マ、マミさん落ち着いて! 杏子ちゃんマミさんが泣いちゃった! しかもガチの方!」

「そいつ本当にアタシ達より年上なのか……? 泣くの止めろよマミ、ナマモノなんて別にいいだろ」

 

まどかの手を握りながら大声で泣き叫ぶマミ。ダンスゲームから降りて来た杏子がそんな彼女を見て呆れた顔で注意するも彼女は泣くのを止めない。

 

「キュゥべぇ~!! うわぁぁぁぁぁん!!!」

「店の中で泣き叫ぶな! 他の客に迷惑だろ!」

「うえぇぇぇぇぇん!!」

「だから泣くなって……! あ~もう! ほれ! コレでも食って落ち着け!」

「ヒック、ヒック……うえ?」

 

キュゥべぇがいないという事だけで泣いてしまった彼女を、なんとか落ち着かせようと杏子がショートパンツの後ろポケットから取り出したのは紙に包まれたただのキャンディ。

嗚咽を漏らしながらマミがそれに気付くと、杏子は無理矢理彼女の手にそれを渡す。

 

「飴あげたんだからもう泣くなよ、アタシとの約束な」

「うう……佐倉さん……わかったわ、私頑張る……飴甘い」

「マジで泣きやんだよオイ……」

 

まだ目は潤んでいるものの、とりあえず泣くのは止めて口の中で飴を舐め始めるマミをジト目で見ながら杏子はけだるそうに髪を掻き毟る。

 

「あのナマモノはよくこんな奴と長く一緒に住んでたな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲーセンで何とか仲良くやっていけている三人組。

しかしそんな彼女達を遠くから見つからないように死角に隠れて見ている者が二人。

 

「まどか、まどか、私の可愛いまどか♪ 慌てた顔もチャーミング♪ 抱きしめちゃってチューしたい♪」

「……無表情でいきなりなに歌ってんの? てかなんなのよその歌、アンタが歌うと余計に恐いんだけど……」

 

物陰からヌット顔を出して小粋なリズムを踏みながら歌っているのは現在まどかと喧嘩中の暁美ほむら。

そしてそれを背後から話しかけるのは美樹さやか、

この二人は今、とある訳があって一緒に行動している。正確にはもう“一匹”いるのだがその彼は別行動を取っていた。

 

「決まっているでしょ、私が愛するまどかに捧げるラヴソングよ」

「……アンタまどかに嫌われたってのになんちゅう歌を作曲してるのよ……」

「なに言ってるのかしらこの小娘は? 私がまどかに嫌われた? 変な事言わないで頂戴」「いや嫌われてんでしょアンタ、昨日アンタがまどかがトイレ行った時にいつもの変態行為をして。だから遊びにも誘われなかったじゃない」

「それ以上ふざけた事抜かすと、その空っぽの頭にセメント詰め込むわよ」

「……」

 

まどか達からは見えない場所、クレーンゲーム広場からほむらとさやかは影からまどか達を眺めながらそんな会話をしていた。

嫌われている事を真っ向から否定するほむらに対し、さやかは疲れた様子でたしなめる。

 

「いい加減現実に目を向けなさいってぇの、もうまどかに謝れば済む事じゃない、「変態行為はもうしません」って言えばまどかも許してくれるって」

「私が謝る事なんて何もないわ、だって私は悪くないから。あの時はたまたま彼女の機嫌が悪かった。それだけよ」

「ち~が~う!! 全部アンタが悪いの! アンタが散々まどかにストーカーなり変態行為なりしてたからあの子遂に我慢の限界超えちゃったのよ!」

「うるさいわね、まどか達にバレたらどうするのよ」

 

耳元で叫ぶさやかにほむらはウザそうに手を「しっし」といった風に振って黙らせると、相も変わらない無表情で彼女はさやかの方に振り返った。

 

「それに私がまどかに送る行為は変態なんかじゃないわ、「愛」よ、私の行動は全てまどかの為の愛、それだけよ」

「もうやだコイツ……」

「なに君達そんなコソコソして隠れてるんだい、それじゃあまどか達には見つからないけど不審者としてパクられるよ、なんなら通報して上げようか?」

「あ、アンタ戻って来たんだ……」

 

ほむらの愛という名の止められない一方的な暴走にさやかは頭を抱えてうなだれていると、彼女の下の一匹の珍獣がトコトコと帰って来た。

いざという時は頼りになるがそれ以外は基本「ウザいナマモノ」という言葉で片付けられる宇宙人、キュゥべぇだ。

 

「なんだいさやか、その残念そうな口ぶりは、こんなゴージャスでエレガントな魅惑のボディーとフェロモンを漂わせるセクシーな宇宙人に対してそのリアクションはおかしいよ」

「どの口が言うんだどの口が、てかアンタどこ行ってたの」

「いや久しぶりに麻雀のゲームをね、オンラインでちょっと色んな人と対局してたよ。」

「麻雀!?」

「“アカギ”、“哲也”、“ジュンイチロー”って人と戦ったんだけど、この僕でさえあっという間ににボッコボコにされたよ……恐らく彼等は僕や福山と同じくトップクラスのセクシー野郎だね」

「アンタ麻雀なんて出来たんだ……」

 

意外なゲームをやるもんだ、さやかが腰に手を当て少し驚いているとキュゥべぇは軽く首をかしげる。

 

「僕を誰だと思ってるんだい? 全知全能の神とも呼ばれるに等しい存在だよ? 麻雀なんて余裕のよっちゃんだよ」

「よっちゃんって古臭……てかアンタお金持ってたの?」

「それぐらい持ち合わせてるよ、円なりドルなりペリカなりゴールドなりと」

「……どこに持ってるの……?」

「それは秘密さ」

 

キュゥべぇは勿論服を着ていない(彼曰く「全裸こそが生物として最も美しい状態」)

そんな彼のどこに自分の所有物を所持しているのかはさやかにとって全くの謎であった。

 

(あの背中の黒い模様がちょっと怪しいわね…)

「あ~あ、それにしても今頃僕もあそこでまどかとランデブー楽しんでいた筈なのに、どうして僕は全年齢板ギリギリのド変態と一緒にいるんだろ」

「あ~それは本当そうね」

「君の意見は聞いてないよ」

「本当ウザいわね」

 

彼の非常にドライな対応にピクピクと額に浮かぶ青筋を動かすと、さやかは隠れてまどかをジーっと眺めているほむらに話しかけた。

 

「……で? どうすんのよあたし達。まどか達を見つけたのはいいけどさ、アンタなにか手はあるの?」

「ふん、私はそこの“陰湿陰険淫獣”と違って下らない計画は立てないわ、全てその場その場のアドリブ勝負よ」

「じゃあなんであたし達アンタに付き合わされてるわけ……」

 

さやかとキュゥべぇは本意でほむらと一緒に行動している訳ではない。

彼女に脅されて仕方なくこうして共に行動しているのだ。

本当はほむらなんてほっといてあっちで遊んでいるまどか達の所に行きたいのが本音だが。

キュゥべぇはほむらに対して深いため息を突く。

 

「は~僕はもうウンザリだよ。コレ以上君とさやかの顔を見るのも苦痛だし、僕はここで退散してあちらの花園へ行くとするよ」

「なんであたしの顔を見るのも苦痛なのよ……あたしも行くわ、じゃあね転校生。アドリブ勝負で一生もがいてなさい」

「全く、あなた達はどれだけ愚かなのかしら」

「「は?」」

 

遂に限界なのキュゥべぇとさやかは向こうで遊んでいるまどか達の方へ行こうとするが、

ほむらはバサッと髪を掻き上げながら二人を睨みつけた。

 

「いい? 私の可愛い可愛いまどかは今凄いご機嫌が悪いのよ、彼女まだ思春期だから色々あったに違いないわ、“女の子の日”とか“お月さまの日”とか“あの日”とか」

「いや思春期云々関係無く元凶は万年発情期の君だから」

「だから私達はなんとしてもまどかの機嫌を治すのよ、拒否するのであればこの場で粛清しても構わないのよ」

「シカトの上に脅しかい? わけがわからないよ、ていうかもう君自体がわけがわからないよ」

 

拳を掲げそう宣言するほむらにキュゥべぇは冷たいツッコミを即座に返すが、ほむらは全く話を聞いちゃくれない。余程まどかの機嫌を直す事に必死になっているのだろう。

 

「この私に協力するのよ、変態生物一号とアホさやか。いいわね?」

「やだ」

「アタシもヤダ」

 

即決で首を横に振るキュゥべぇとさやかにほむらはゴミでも見る様な目つきで彼等を睨みつける。

 

「もし協力しないのであれば私の家に拉致って桃鉄100年やらせるわよ、しかも貫徹で」

「ぐ……! 地味でありながら強烈にえぐい拷問をチョイスするとはさすがだね暁美ほむら……」

「え、それ拷問なの?」

「わかってないねアホのさやか。桃鉄100年を三人でやった場合約40時間プレイする事になるんだよ」

「それはキツイわね……アンタ達と長時間一緒にいるとかそれどんな地獄よ」

 

さやかの言うキツイというのは何時間も同じゲームをプレイするよりこの連中と一緒にいる事自体だ。

ぶっちゃけ今だって一刻も早く彼等の下から離れたいのだがほむらはそれを断固として許さない。

腰に手を当てて威圧するかのような目つきでほむらは彼女達に命令する。

 

「さあ、さっさと私にまどかの機嫌をアップする為の情報をよこしなさい。仮にもまどかと付き合いの長いあなたならわかるでしょ美樹さやか。そしてナマモノ、なんかこう彼女の好きなモノや欲しいモノを教えなさい。ハリーハリーハリー」

「結局あたし等頼みかよ!」

「その為にあなた達を呼んだんでしょ、無能なあなたに役割を提供して上げたんだから感謝しなさい」

「ムカつく~! 自分は何もしないであたし達に働かせる気だったのかよ!」

 

上目線でそう言うほむらにさやかは強く地団駄を踏みながら叫ぶ。前々から彼女と折り合いが悪いのはわかっていたがここまで言われたらさすがに彼女の堪忍袋の緒も切れる。

しかしさやかとは対照的に、キュゥべぇは冷静にほむらを見上げて観察していた。

 

「やれやれ、あのまどかに対しては全く自重しない君が他人任せとは、しかも仲が悪い美樹さやかや僕に頼るなんて。いつもなりふり構わず動いていた君としてはやけに慎重で“臆病”だね」

「……なにが言いたいのかしら?」

「いつもの君なら僕達なんかの手を借りるなんて絶対にしない筈だろ? だけど君は僕等に助けを求めた。まどかの機嫌を治すだのなんだの無理矢理な理由を付けてね」

 

優雅に自慢の尻尾を揺らしながら、目を細めて睨みつけて来るほむらにキュゥべぇは真っ向から対峙する。

 

「本当はとっくに気付いているんだろう? 「自分の行いが彼女を傷付けた」って」

「……」

「内心焦ってるのも丸わかりさ、君の行動としては回りくどい点がいくつかあるし。違うかい?」

「……お喋りが過ぎるわよ、無駄口叩く暇があったら情報を教えなさい」

「ま、僕としてはどうでもいいんだけどね……」

 

今すぐにでも殺しにかかって来そうなほむらの目にキュゥべぇはそっぽを向いてひょいっと傍にあったクレーンゲームに飛び乗って周りを見渡した。

ところどころに様々な商品が中に入ったクレーンゲームが置かれている。

 

「ゲーセンか……もしかしたらここにまどかが欲しいものが一つや二つあるかもね、暁美ほむら」

「なにかしら」

「君はこういう所に来て遊んだ事は今まであったかい?」

「あるわけないわ、来た事も遊んだ事も」

「そうかい、それじゃあ」

 

髪を掻き上げ不機嫌そうに返事するほむらに、キュゥべぇはグルリと一回周りを監察した後、改めて彼女の方に振り返った。

 

「今から僕等と一緒に遊ぼうか、初めてのゲーセンで」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キュゥべぇの言っている事が理解不能だが、とりあえずほむらはさやかと共に彼の後をついていってある場所の前へ来ていた。

周りには多くのクレーンゲームがある中、キュゥべぇはその中の一つの前に立つと、すぐにそこに昇ってほむら達の方へ話しかける。

 

「ここだ、このクレーンゲームが一番いいよ」

「なにふざけてるのかしらこのナマモノは、体を1メートルぐらい引き伸ばされたいの?私はまどかの機嫌がよくなる方法を探しているの。こんな所で遊びに来たんじゃないのよ」

 

やれと言わんばかりに手を硬貨入口の方へ伸ばすキュゥべぇにほむらは腕を組んで苛立ちを募らせる、だが隣にいたさやかはクレーンゲームの中に入ってる“モノ”を見て目を見開かせた。

 

「お~! よく見つけたわねナマモノ! このクレーンゲームの中に入ってる商品ってどれもまどかが欲しがりそうなモンばっかりじゃん!」

「……なんですって?」

「あの子、魔法少女物には目が無いのよね~」

 

中に入ってる商品を眺めながらさやかがそう言うとほむらはすぐにクレーンゲームの中を覗いた。

 

そこにはちらほらと箱に入ったフィギィアの数々が置かれている、見た所全て『魔法少女』系列のモノだ。

そこでほむらは思い出す

 

鹿目まどかの好きなジャンルは魔法少女物と刑事ドラマ物だと

 

「なるほど……ナマモノのクセに大したもんを見つけたわね、そういえばまどかは魔法少女物が大好きな可憐でかわいい女の子、この中にあるフィギィアをプレゼントすればきっとまどかも私の事を許してくれて……は!」

 

ほむらはそこまで言った途端突然口を抑えて首をブンブンと横に振った。

まるで自分で自分を否定するかのように

 

「違うわ……私は悪くない、ただ私はまどかがなんらかで悪くなった機嫌を元通りにする為に動いているのよ、それだけよ……私は悪くないわ……」

「アンタってホントやる時はやるわね」

「僕はいつだってやりまくりだよ」

 

一人ブツブツと呟くほむらだが、さやかとキュゥべぇにその声は届かなかったのか、クレーンゲームの中を覗きながら話し始める。

 

「え~とあそこにある人形が確か主人公の……」

「“なのは”だね、逆らう者は全てデストロイ、命乞いする者にも容赦なくオーバーキル、笑顔で容赦なく敵を葬り去る姿はまさに魔界の化身、時空管理局最強にして最凶の魔王」

「え? じゃああの黒い翼生やした人は?」

「“はやて”だね、物語におけるツッコミ担当、ボキャブラリー溢れる軍団で唯一の常識人さ、彼女がいなければあの世界はボケで飽和してしまうんだよ」

「……あの金髪の人は?」

「“フェイト”だね、自堕落の上にいつもトラブルを起こして周りに迷惑を掛けるし、いつも仕事場でなにもせずにぐうたら寝てるだけの作中最強のダメ人間さ。先週の話だと遂にはやてに管理局クビにされてたね、アレは笑ったよマジで」

「……ねえこの作品って本当に魔法少女アニメ? なんかあたしと想像してるモンと随分違うんだけど?」

「魔法少女アニメは君なんかが想像出来るほど浅くは無いんだよベイビー」

「深すぎて底見えないんだけど、ホントにまどかこんなの好きなの?」

「好きな筈だよ、だって彼女はいつもテレビに向かって嬉々として叫んでるモン」

「それツッコミ入れてるだけじゃないの……こんなのおかしいって」

「あ、そうだったかも」

 

っとクレーンゲーム内にあるキャラクターでキュゥべぇとさやかが会話を交えている時。

 

「……どきなさい」

「ん?」

「お」

 

遂にほむらがゆらりと二人を掻き分けてクレーンゲームの前に立った。

 

「要するにこの中で一番まどかが欲しがってるフィギィアをゲットすればいいのね、そしてそれをまどかにプレゼントする、理解したわ」

「理解したのはわかるけど果たして君に見事商品をゲットする事は出来るのかな?」

「そうよ、こういうゲームって簡単に見えて難しいのよ、コツとか必要でさ」

「見くびらないで頂戴、こんな子供だましのゲーム余裕のよっちゃんよ」

「……それ流行ってんの?」

 

自信満々な様子を見せる彼女にさやかがツッコミを入れると、ほむらは懐からスッと自分の財布を取り出す。

 

「それに私はまどかの為にならなんでもやるわ、答えなさいナマモノ。この中でまどかが一番お気に入りのキャラはどれ?」

「あそこにニ個だけ置いてあるはやてだね、端っこに置いてある奴。魔法少女の中で一番常識を持ったいい人だって言ってたし」

「わかったわ」

 

キュゥべぇの話を聞くとほむらはすぐに財布から一万札を取りだした。

ただの女子中学生にとってかなりの大金だ。

 

「念の為にと去年のお年玉を持ってきて正解だったわね。たかがゲーセンのゲームなんて簡単に攻略してやるわ」

「うわぁ一万円……アンタまじでやる気ね」

「私はいつだってマジよ、まどかの為なら……」

 

曇りのない目でそう呟くと、彼女はゆっくりと硬貨入口に一万円札を近づけていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ勝負よ、私とまどかの輝かしい未来を賭けたこの戦い、なんとしても勝ってやるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な! 入らない! なんてこと! 私の勝負を受けないということなのコイツ!」

「そこお札は入らないわよ」

「両替して小銭にしてきなよ」

 

前途多難なほむらの戦いが今始まる。

 


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