全ては愛する彼女の為に。
暁美ほむらは度重なる変態行為のせいで愛する者、鹿目まどかに嫌われてしまった。
そこで彼女は美樹さやかとキュゥべぇを無理矢理協力させてまどかのご機嫌取り作戦を実行する。
まどか達を追いかけている内に初めてやって来たゲームセンター。
キュゥべぇの情報を得てほむらはそこで意を決し、未だやった事さえないクレーンゲームに挑戦する。
目当ては無論、鹿目まどかが欲しがっている魔法少女のフィギュア。
彼女の孤独な戦いが遂に幕を開ける。
「……負けた……」
「っておい!」
開いた幕はゆっくりと閉じた。
残されたのはクレーンゲームの前で両手を突いてひれ伏しガックリと肩を落とす敗者である暁美ほむらの姿。
そんな彼女の傍には、一応付き添いとして一緒にいてあげている美樹さやかの姿もある。
数十分前からほむらは血走った目でクレーンゲームに挑戦していた。
背後でさやかとキュゥべぇが観戦してる中、ほむらは慣れない手つきで必死に目当ての商品を取ろうとした。
だが全財産の一万円を投入したにも関らず、結果は非情な現実だった。
「あり得ないわ、絶対に壊れてるのよコレ……だってクレーンゲームなのに全然クレーンの力が無いんだもの……こんなのでまどかの好きな人形を取れる訳ないじゃない……」
「いやコツ使えば案外楽だから」
「陰謀だわ、これは私絶望の底に突き落す為のこの店の支配人が仕組んだ陰謀よ……」
「なんでアンタなみたいな自分で勝手に落ちる奴をわざわざ落とす必要があんのよ」
土下座でもしてるかのようにひれ伏しながらブツブツとなにか呟いているほむらにさやかは冷静にツッコミを入れた。当然悪いのはクレーンの力の弱さでもこの店の支配人でもない。
「悪いのは全部アンタ、アンタ本当に下手すぎ、一万円もありゃあ一つや二つ取れるわよ普通」
「私が下手ですって……美樹さやかのクセに生意気な口を叩いてくれるじゃない」
「だって本当の事だし~。あ、私も一回やってみよう」
「……この私が出来なかったのにヘタレでアホでKYなあなたが取れる訳ないでしょ、身をわきまえなさい」
挑発的な喋り方をするさやかにほむらはポーカーフェイスで苛立ちを隠しながら睨みつけると、さやかは自分の財布から300円を取り出してそれを硬貨入口にチャリンと投入した。
「さあて、まどかが欲しいのは確か「はやて」とかいう短髪の女の人だったわよね」
「300円をドブに捨てた様なものね、あなたは一体いつになったら自分の愚かさに気付くのかしら」
「一万円をダストシュートした奴に言われたくないわよ」
後ろで腕を組んで小馬鹿にしてくるほむらに言葉を返しながらさやかは手元にあるボタンを押してクレーンを慣れた手つきで動かし始めた。
程なくしてほむらがクレーンゲームやっていた最中に抜け出していたキュゥべぇが戻ってきた。
「あれ? 暁美ほむら、どうして君じゃなくて美樹さやかがやっているんだい?」
「ナマモノのクセに私に話しかけないで頂戴」
「その態度から察するにお金全部スッたようだね」
「それがどうしたのよ」
「ミラクルセクシーパワーの僕から励ましの言葉を贈ってあげるよ「このヘタクソ」」
「私に向かってそんな事を言うって事は殺されたいのよね、お望み通り殺してあげようかしら」
さやかが一人勤しんでいるのを尻目に、彼女の背後でほむらとキュゥべぇが睨み合って火花を散らし始める。
「大体、お前はさっきどこ行ってたのよ」
「いや麻雀のリベンジに行ってただけだよ、またフルボッコにされたけど」
「私がまどかの為に愛の奮闘をしている最中にお前はそんな下らない事をしてたのね」
「僕から見えれば君のやってる事も相当下らないと思うけどね」
「黙りなさいナマモノ、しょう油かけて佐倉杏子に食わせるわよ」
「さすがに彼女でも僕を食べるなんて……あ、いやあり得るかもね、彼女だし」
いつもの様に二人で口喧嘩をしていると
クレーンゲームをやっていたさやかが「おお?」とうわずった声を漏らした。
「なんだ、一発で取れちゃったよ」
「!?」
その声を聞いた瞬間ほむらはハッとした表情で急いでグルリと首を回して振り返る。
目を見開いた彼女の先には器用にフィギュアの箱をクレーンで掴み上げたさやかの姿が
「そんな! どうして美樹さやかが!」
「いやぁ、なんか適当にやってみたら運良く掴めちゃった」
「あなたは全生物の中で最も下等な位置にランク付けされている劣悪種! 美樹さやかでしょ! どうしてそんんな美樹さやかが私が出来なかった事をやるのよ!」
「暁美ほむら、神様は例えどんな虫けらにも一つぐらい取り柄を与えるモノなのさ」
「お前等そうやって人をイジメて楽しいか」
傍で喚き散らすほむらと冷静に諭すキュゥべぇ。
さやかがイラっとした表情で睨みつけた後、クレーンゲームの中にあるフィギュアがポトリと穴に落ちて彼女の足元に出て来た。
「どっかで一万使った“アホ”と違ってたった300円で取れるなんてラッキー。でも取れたはいいけどあたし別に魔法少女に興味無いしな~」
そう言いながらさやかはしゃがみ込んで穴に手を突っ込んでヒョイっとほむらが今まどか以上に欲しがっている物を手中に収める。
それを呆然とほむらが眺めていると、さやかは立ち上がりざま彼女にニヤリと笑って
「どうしっよかな~、まどかが欲しがってたしあげちゃおうかな~?」
「どういうつもりかしら美樹さやか……」
「別に~? なに転校生? もしかしてコレ欲しい?」
「……」
「なぁに睨んでんのよ、可愛げの無い奴ね~ホント」
見せびらかすのように片手でフィギュアの入った箱を得意げに振って見せるさやか。
ほむらが欲しがってる物を手に入れて有頂天の様子だ。
今まで酷い扱いにして来た彼女に仕返しせんとばかりにニヤニヤと笑みを浮かべている。
「ところでさぁ、あたしってアンタに散々酷い事言われてきたじゃん? そこん所アンタどう感じてる?」
「よくやったわ美樹さやか、早くそれをこっちに渡しなさい」
「……」
こちらに手を差し出してさっさとよこせと言わんばかりの目つきの彼女にさやかはしかめっ面で口を開いた。
「アンタさぁ、今一番やらなきゃいけない事わかってるでしょ。まどかは今コレをモーレツに欲しがってるのはアンタも知ってるわよね、そしてアンタもコレが欲しい、けどコレはあたしが持っている。じゃあまずアンタはあたしに対してなにをするべきだと思う?」
「……なにがお望みなのかしら美樹さやか……」
「ふふふ、それじゃあまずはあたしに今までアンタがやって来た無礼について謝ってもらおうかしら。そしたらコレあげるわよ、簡単でしょ?」
「謝る? 私があなたに謝るですって?」
どうやらさやかが一番求めているモノは『ほむらの謝罪』らしい。
嘲笑を浮かべる彼女にほむらは若干顔をしかめる。
さやかに謝る、彼女にとってはそれはかなり屈辱的な事だ。
しかしそうしなければまどかの欲しがっているフィギュアをゲットする事は出来ない。
“はやて”のフィギュアはもう一つクレーンゲームのケースの中に入っているが、軍資金も腕も無い彼女にとって手に入れる事はほぼ無理だ。
「美樹さやかのクセに……美樹さやかのクセに……美樹さやかのクセに……」
「……ほらほら、さっさと謝んなさいよ、ごめんなさい一つで済まさないからね、頭下げるのよ頭」
「覚えてなさい美樹さやか……このお礼はたっぷりと……」
「聞こえてんのよ、やっぱ土下座にする?」
「く……」
ニヤニヤしているさやかにほむらは静かに奥歯を噛みしめる。
まさか彼女とこんな風に立場が入れ替わってしまうとは……。
悔しそうに歯噛みしながらほむらを意を決したかのように、改めてさやかの方に向き直った。
「わかったわ、謝ればいいんでしょ」
「お、やっとわかってくれたわね。じゃあそこで頭下げてごめんなさいって言いなさい」
「ええ」
「やけに素直だね暁美ほむら」
「全てまどかの為よ」
傍に立っているキュゥべぇに短くそう言うと、ほむらは直立不動の状態からゆっくりとさやかに向かってお辞儀する。
「今まで酷い態度を取っていてその……ごめんなさい」
こちらに向かってキッチリと頭を下げて来たほむら。
正真正銘の彼女の謝罪、さやかはそんな彼女に笑みを浮かべるのを止める。
「ちゃんと素直に謝れるじゃんアンタ」
「……」
「どうしてあたしに謝れてあの子には謝れないの?」
「……」
そう、さやかは彼女に気付かせる為にこの様な形を取ったのだ。
真に謝る相手は別にいると……。
「まどかのご機嫌取りとかそんなのどうでもいいじゃない」
「……」
「この人形もアンタに必要ないよ、アンタに必要なのはあの子に謝る勇気……」
さっきでの意地悪な笑みと違い慈愛に満ちた優しい笑顔を浮かべるさやか。
そしてほむらは頭を下げた状態で。
キランと目を怪しく光らせた。
「ほむ!!」
「ぐほぉ!!」
謝る体制の状態からほむらは勢いよくさやかにタックル、彼女の頭部はものの見事にさやかの腹に直撃。
まさかの事態に呻き声を上げてその場に大の字で倒れるさやかだが、ほむらは無表情で堂々と彼女の手からフィギュアの入った箱を奪い取る。
「約束通り、コレは貰っておくわ」
「が……アンタ……」
「文句は無いわよね、“美樹さやかのクセに?”」
「この……」
無理矢理ブツを奪うほむらを、さやかは腹押さえて痛みに悶えながら顔を上げる。
「悪魔め……」
「悪魔で結構、悪魔だから悪魔らしい手段を取らせてもらっただけよ」
「……アンタマジで後悔するわよ……」
なにか言おうとするが途中でさやかはガクッと意識を失う、ほむらはそれを冷たく一瞥すると髪をさっと掻き上げた。
「私に対してたわけた事抜かした結果よ、美樹さやかのクセに生意気な態度を取るなんて」
「あ~あ、さやかをKOさせて大丈夫かい? もしまどかが今この状況を見ていたら彼女相当ショック受けるよ」
「問題無いわ、まどかならあっちで他の二人と遊んでる筈よ」
キュゥべぇはそう言うが、ほむらはさやかをやった事をさほど気にしてない様子。
利用出来たら後は捨てる、ほむらにとってさやかは使い捨て要員でしかなかったのである。
「さあ、美樹さやかをその辺のゴミ箱に捨てた後すぐにまどかの元へ向かいましょう。コレを渡せばまどかもきっと許し……ご機嫌MAXになるわ」
「ふ~ん。じゃあ渡しに行きなよ、“そこにいるから”」
「……え?」
不意にキュゥべぇが後ろに振り向いてそう言った、不思議に思いながらほむらもそちらに顔を向けると。
「ほむらちゃん……」
「! ま、まどか……!」
「やっとこっちに気付いたか……悪いけど全部見せてもらってたぞ、お前の悪行もな」
柱の影から出て来たのは悲しそうな顔をした鹿目まどかだった、続いて彼女の背後からしかめっ面を浮かべる佐倉杏子が出てくる、どうやらさっきまでの経緯を見ていたらしい。
そして最後に、ビクビクと震えながら巴マミがひょこっと顔を出した。
「もうキュゥべぇの所に行っていい……?」
「ああ行け、どんどん行け。んでメチャクチャ抱きしめてやれ」
「キュゥべぇ~!!」
「ぐほ! また泣きながら抱きついて来たよ! いい加減にしてくれよマミ!」
杏子にやっと許可をもらったマミは喜びのあまり泣きながらクレーンゲームの上に座っていたキュゥべぇに飛びついてすぐに抱きしめる。
キュゥべぇにとっては慣れたモンだがやはり恐いのは恐い。
一方ほむらはというと、最も最悪なタイミングで彼女、まどかと会ってしまった事に多少動揺はしているものの、髪を掻き上げて平静を保ちながらいつも通りを装って彼女に話しかける。
「ま、まどか……奇遇ねこんな所で会えるなんて、やっぱり私達は結ばれる運命なのかしら」
「ほむらちゃん……そこでさやかちゃんが寝転がってるんだけど……」
「寝てるだけよ」
「こんなうるさい場所のド真ん中で寝れる程さやかちゃんは大胆じゃないよ……吉野家で寝てた事はあったけど」
しょんぼりした表情でも律義にツッコミを入れてあげると、まどかは残念そうに首を横に振って見せた。
「ほむらちゃん、私全部見てたんだよ、ほむらちゃんがさやかちゃんが手に入れた“八神はやて・魔法少女バージョン16分の1サイズ・オプションで夜天の書&リィンフォースⅡ付き”を無理矢理奪った所を……」
(わざわざ商品名をフルで言わなくてもいいと思うわよまどか……)
「ほむらちゃん……」
「……」
今にも泣きそうな顔でこちらを見つめるまどかにほむらは胸を痛くする。
彼女のこんな表情を見ると自分も悲しくなってくる、彼女の中にそんな気持ちがあった
「そうね、今更誤魔化しきれないわよね。わかったわまどか、真実を教えてあげる」
そしてほむらは遂に腹をくくって彼女と正面から向き直った。
「実は優しい優しい美樹さやかさんが私の為にこの人形を取ってくれたのよ」
「誤魔化しの上に更に誤魔化しをトッピングしないでよ……」
神のイタズラか、都合の悪いタイミングでまどか一行と鉢合わせしてしまったほむら一行。
現在彼女達はゲームセンターの二階にある休憩室で、ギスギスした空気を匂わせながら集合していた。
「……こんな所で会うなんて偶然ねまどか……私達はきっと赤い糸で繋がって……」
「……どうせ最初から後をつけて来てたんでしょ? さやかちゃんやキュゥべぇを巻き込んで……」
「あ、いやその……」
5人と一匹はテーブルを挟んだソファに座って休憩しているとは思えない状況だった。
ほむらとまどかが向かい合って互いに視線を合わせない。ほむらの隣にいるさやかはまだノビている(ここまで杏子がおぶって連れて来た)。
そしてまどかの方に座っている杏子はヒソヒソとマミの肩に乗っかっているキュゥべぇと話していた。
「なんか空気重くて居心地悪いな……」
「名案を思い付いた。あんこ、君が腹踊りでもすればこの暗いムードも明るくなるよ」
「この状況でそんなことしたらここら一体が氷河期迎えるだろうが……てか誰がするかそんな事」
名案もクソも無い彼のアイディアに杏子が軽くイラっとしていると、彼を肩に乗せているマミがこの空気の悪さに気付いてない様子で彼女に首を傾げる。
「佐倉さん、どうして鹿目さんと暁美さんは互いに黙りこんでいるの?」
「喧嘩中だからだよ、悪いのは全部ストーカーの方だけどな」
「喧嘩!? 大変よキュゥべぇ! 私のお友達がピンチだわ! あなたの力でなんとかして!」
「あ、ごめん、ちょっとお腹痛いから無理」
「そんな! 私のキュゥべぇがお腹痛いなんて大ピンチじゃない! 誰か助けてーッ!」
「おいマミ! 飴あげるから黙れ!」
「うん!」
「いい返事だなおい!」
いきなり喚きだすと思えばすぐに素直に頷いて見せるマミにちょっと前にあげた奴と同じ飴を投げて渡すと、杏子は膝に頬杖を突いてほむらの方へ視線を変えた。
「で? お前は何でこんな所にいんだ?」
「答える義理は無いわ」
「どうしてさやかとナマモノを連れてたんだ?」
「答える義理は無いわ」
「なぁ、なんでそんな人形をさやかから奪ったんだ?」
「答える義務は無いわ」
「会話のキャッチボールする気ねぇのかテメェは……」
「ドッチボールなら喜んでやってあげるわよ、その顔面に思いっきり投げてあげるわ」
さやかやキュゥべぇだけはなく杏子にまで喧嘩口調で接するほむら。
彼女に対し杏子はやれやれと言った風にボリボリと頭を掻く。
「アタシ達5人って短い付き合いでもねぇだろ? ちょっとぐらいでいいからさ、いい加減お前もアタシ達に心開いてくれよ」
「私が股を開く相手はまどかだけよ」
「お前の耳は腐ってんのか? それとも頭か?」
「もういいよ杏子ちゃん……」
眉間にしわを寄せてほむらを睨みつける杏子をまどかがそっと制止させる。
「ほむらちゃんがこんな人だったなんてよくわかったから……」
(いや気付くのおせぇ……)
「ほむらちゃんはちょっとというかだいぶ変わってる子だけど、友達を傷付けた上に物を取り上げる人じゃないと思ってたのに」
「……安心しなさいまどか、私が傷付けたのは美樹さやかよ、問題無いわ」
「いやさやかちゃんでもダメだからね……なんでさやかちゃんならいくらでも傷つけてOKみたいな感じで言ってるの……」
グッと親指を立てる得意げなほむらにまどかが低いトーンで言葉を返すと、彼女は突然その場からスッと立ち上がった。
「ごめんちょっと一人にさせて、ほむらちゃんの顔、もう見たくないし……」
「ほむ!? まどかそれどういう……!」
「じゃあねほむらちゃん、もう二度と私に話しかけないでね……」
「ま、待ってまどか!!」
こちらに背を向けて寂しくそう言うまどかにほむらはソファから身を乗り上げて呼び止めようとするも、彼女はトボトボと項垂れた様子でどこかへ……
「まどかァァァァァァ!! カムバァァァァァァァック!!!」
ほむらの必死な叫ぶも虚しくまどかは人ごみの中へと消え、あっという間に見えなくなってしまった。
「なんて事……まどかが……もう私の顔も見たくないなんて……」
「まあ当然と言えば当然だな」
ガックリと肩を落として落ち込むほむらに、杏子は懐からブリッツの箱を取り出しながら呟く。
「下手な言い訳ばっかして話をはぐらかして、それでまどかがお前を簡単に許すと思ってんのか?」
「うるさいわね、あなたには関係ないでしょ……」
「関係無くねえよ、アタシはまどかのダチ、お前もアイツのダチだしな。それにアタシもお前の事は……一応ダチだって思ってるよ」
「フン、下手なウソは止めて頂戴、私の友達はまどかだけよ……」
こちらが何を言っても彼女は全く相手にしようともしない。
杏子はブリッツを口に咥えると、おもむろにマミの肩に乗っかっているキュゥべぇに話しかける。
「ナマモノ、コイツになにか言ってやってくれ。アタシ達の声は届かないかもしれないけど常にぶつかり合ってたお前なら出来るかもしれねぇ、頼む」
「……」
杏子の口から頼むなんて言葉が出るとはキュゥべぇ自身も予想だにしなかっただろう。
しかし彼はそんな彼女の頼みに対して無情にも素っ気ない態度で
「嫌だね」
「な!」
「まどかは彼女の事を嫌いになったんだろう。 それなら僕としてはとても都合のいい事じゃないか、僕がここで暁美ほむらになにか言う義理なんてあるのかい?」
「お前……!」
あまりにも冷たいその言葉に杏子はバキッと咥えていたプリッツを砕いてしまう程歯を食いしばる。
そしてキュゥべぇはシュタっと勢いよくマミの肩から飛び下りて
「なんでもかんでもこのセクシーな僕に頼らないでくれ、僕はもう行くよ」
「待ってキュゥべェ! 私を置いていかないで!」
「テメェ! こんな事になっておいて一人ノコノコと逃げる気かよ!」
「逃げる? そんな美しくない真似をこの僕がするわけないだろ」
四本の足でどこかへ歩き出すキュゥべぇに必死に叫ぶマミと怒鳴り声を上げる杏子。
彼女達に対し、彼はゆっくりと顔だけ振り返った。
「僕はね、この世界で最も泣いて欲しくない人がいるんだ。もし彼女が悲しい目に遭ったのなら僕は彼女の為に全力でその悲しみを消してあげなければいけない」
「お前、まさか……」
「今僕が行くべき所は間違いなく彼女の傍だ」
キュゥべぇが行くべき場所、それは彼がこの世界でずっと愛し続けると誓った一人の少女の下。
「それであんこ、マミ、あとそこでアホ面でノビてるさやか。君達にお願いがあるんだけどいいかな?」
「あんこじゃなくて杏子だ……お前がアタシ達に頼み事するなんてどういう風の吹き回しだ?」
「暁美ほむらの方は君達に“任せたよ”、こっちは僕に“任せてくれ”」
「!」
杏子は目を見開いて驚く。彼が自分達に頼み事をする事さえ初めてだ、その上まさか……。
「じゃあ僕は行くよ。頼んだよ“杏子”」
「……うるせぇ早く行って来い。アイツを……まどかの事をよろしくな“キュゥべぇ”」
互いに名を呼び合って二人は背を向ける。
キュゥべぇはまどかが行ってしまった方向へ、杏子は正面からほむらと向き直って。
「はん、まさかアイツに任せられる事になるとはな……よし、こっからは本気でお前とぶつかってやるぜ。覚悟しろよ」
「……」
「戻って来てキュゥべぇェェェェェェ!! カムバァァァァァァック!!!」
「お前はまず落ち着けマミ! ほら飴!」
「甘い!」
改めて挑戦的な言葉をほむらに投げつける杏子。
キュゥべぇがいなくなった事でまた喚きだしたので、すぐに杏子がほおり投げてきた飴を口でキャッチして大人しくなるマミ。
そしてもう一人……
「う~ん……あれ? なんであたしこんな所で寝てるの? つかここどこ?」
「ようやく起きたのかお前……」
「ん? なんでアンタとマミさんがいるわけ? てかまどかとナマモノは?」
ほむらにダウンを取られてずっと気絶していたさやかがようやくほむらの隣の席でパチクリと目を覚ました。
「あっれ~? おかしいな? あたしの腹に思いっきり頭突きかました奴がなんで偉そうにあたしの隣に座ってんの?」
「もう意識が覚めたのね、もっと思いっきり突っ込めば良かったわ」
「なにをーッ!」
「おいさやか、コイツとの喧嘩、アタシ達も混ぜろ」
「へ?」
無愛想に返事したほむらに覚醒したばかりのさやかがすぐにカンカンになっていると、杏子が話に割って入る。
「さてと……」
訳も分からず戸惑っているさやかを置いといて、杏子は隣にマミを座らせたままほむらと真っ向から対峙。
そして
「こっからは本腰入れた真剣勝負だ。まどかの為に、テメェの心を無理矢理にでもこじ開けてやるよダチ公」
「……」
互いに睨み合う二人。
相手は佐倉杏子・美樹さやか・巴マミ。
暁美ほむらの二度目の戦いが始まる。