僕がいちばんセクシー   作:カイバーマン。

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15ステップ まどかが好きなんだ!

 

 

キュゥべぇに頼まれた大切な役目。

その役目を全うする為にと、佐倉杏子は全く揺るがない変態、暁美ほむらとゲーセンの休憩室にて対峙していた。

 

「だ・か・ら! お前がまどかに謝れば全部丸っと収まるんだっつうの!!」

「さっきから何度も言わせないで頂戴、私は何も悪い事はしてないわ」

「いい加減にしろよお前! どんだけ自分がやってきた事に罪の意識感じねぇんだよ!」

「そんなもん感じる訳ないでしょ。私は私の愛をまどかに貫き通しているだけよ」

 

彼暁美ほむらの説得。それぐらいならお安い御用かと思っていたのだが……

数十分に渡る話し合いの中で遂に杏子の頭の中で血管がブチブチと音を立ててキレた。

 

「チクショー! コイツ全然言う事聞かねえ! てか段々腹立って来た! もうぶん殴っていいかコイツ!?」

 

完全に頭に来てる様子でガラステーブルに何度も頭突きしてなんとか怒りを抑えつけようとする杏子。

彼女の隣に座っていた巴マミが必死な様子で呼びかける。

 

「ダメよ佐倉さん! 友達を殴るなんて絶対にしちゃいけないわ! そんな事したらあなたと暁美さんの友情にヒビが……!」

「コイツからヒビ入れて来るんだよ! こっちはセメントで必死にまどかとコイツの間にあるヒビを埋めようとしてくるの! 直りかけた所にまたつるはし持ってバンバン壊しにかかってくるの!」  

「なんですって! 酷いわ暁美さん!」

 

杏子に言われてすぐに首を方向転換させてほむらの方に詰め寄るマミ。

だがほむらはテーブルに頬杖を突いた状態でそっぽを向いてめんどくさそうに

 

「巴マミ、こちらに話しかけないで頂戴。周りの人達にあなたと知り合いだと思われたくないから」

「ひ、酷い! 鹿目さんや佐倉さんだけじゃ飽き足らず! 私との友情も壊しかねない言葉を投げつけて来るなんて!」

「安心しなさい、元々私とあなたなんかに友情なんてモンは存在しないわ。壊す物さえ無いから」

「ううそんな……私はずっとあなたの事を友達だと思ってたのに……うえ~ん!!」

 

無表情でマミにとってかなりキツイ言葉で突き飛ばすほむらに対して遂にマミが目から涙を流して泣き声を上げる。

隣に座っていた杏子はすかさず目を光らせ、ショートパンツの後ろポケットからある物を取り出してマミに向かってほおり投げる

 

「飴!」

「甘い!」

「よし!」

 

杏子が投げて来た飴をマミはパクッと口でキャッチする。彼女はすぐに泣きやんだ。

段々マミの扱いに対してよくわかってきた杏子であった。

 

「ダ、ダメだ……! マミの扱いが上手くなってもコイツの扱いは全然わかんねぇ……!」

「いやぁそれでも十分凄いと思うけど」

 

残念そうにガクッと肩を下ろす杏子に、向かいの席、ほむらの隣に座っていた美樹さやかがボソッと呟く。

 

「マミさんの扱いなんてあのナマモノしか出来ないだろうと思っていたし」

「おいさやか! お前もただ座ってないでコイツの説得手伝ってくれよ!」

「勘弁してよ~、あたしはアンタ達と会う前からコイツに色々と言ってやってたんだよ?」 

 

援軍を要請する杏子にさやかはどこかウンザリとした表情で非協力的な態度を取った。

 

「なのにコイツあたしの事を「美樹さやかのクセに」とかめっちゃバカにしてくるし。もうコイツに話しかけたくもないんだよねあたし」

「美樹さやかのクセになにを言っているのかしら、あなたに話しかけられるなんてこっちから願い下げよ、むしろ今こうしてあなたと会話を交えている事自体苦痛よ」

「ボットン便所に落ちてあまりの臭さに死ねばいいのに」

「うんまあお前の言い分もすげぇわかるけどさ……」

 

ほむらとメンチを切り合って死の宣告をするさやか。

あまり気乗りしない彼女に杏子も納得した様子で頷く。

 

「だけどよぉ、ここはまどかの為にと思ってアタシに手を貸してくれよ……マミは全然役立たねえし……」

「佐倉さん、今私に対して酷い事言わなかった?」

「言ってねえよ」

「てかさぁマミさんってあたし等より年上だよね……? なんでこんな全然頼りにならないのよ……」

「美樹さん、何か私に対して悪口とか言ってない?」

「言ってません」

 

口の中で飴を転がしているマミは放っておいて、杏子はさやかにほむらの説得を要請した

 

「ほれ、お前もナマモノみたいにお喋りだろ? 口の使い方ならお前も得意なんじゃねえか?」

「なによその理由、あたしとアレを一緒にすんじゃないわよ……。しょうがないわねぇ……アイツの真似事でいいならやってみるわ」

 

杏子の頼みにさやかはしぶしぶ了承。本人はかなり納得していないようだがとりあえず隣にいるほむらと向き合ってみる。

 

「あのさぁ、いい加減気付いている事に向き合ってみれば?」

「……」

「まどかは優しくていい子だよ、けどあの子だってアンタが限度超えりゃあそら怒るわよ、人間だもの」

「……」

「相手が怒ってるんなら自分が何するべきかわかってるでしょ? アンタだってもうあたし達とこんな事してるヒマ無いでしょ。謝って来なさいよ早く」

「……」

「ただそれだけで万事解決なんだしさ、それをズルズルと引き延ばしてもアンタの為にもまどかの為にもならないのよ?」

「……」

「やれやれ、こんな簡単な事も出来ないなんて……」

 

まったく無反応で無言なほむらを相手に。

さやかはここで決め台詞だと言わんばかりにキュピーンと音を立てて。

 

彼女に向かって最大のドヤ顔を浮かべた。

 

「わけがわからないよ!」

「バルス」

「うごがッ!!」

「さやかぁぁぁぁぁ!!」

 

キランとこちらに笑いかけて来たさやかにほむらは無言で指を二本突き出して彼女の目を思いっきりぶっ刺す。

彼女なりにキュゥべぇに習って本気の決め台詞を吐いたのにまさかの仕打ち。

さやかは寝転がれるぐらい広いソファの上で激しく悶絶した。

 

「目が! 目がぁぁぁぁぁぁ!!」

「あら、あまりにもキモウザいセリフが聞こえた上にキモウザいツラが目の前にあったから思わず破滅の呪文を唱えてしまったわ」

「破滅の呪文ってただの目潰しじゃねえか! 完全に物理による攻撃だっただろうが!」

 

横で悶えるさやかをよそに悪びれる様子も無く淡々と口を開くほむら。

杏子が叫んでもツンとした態度で罪悪感などこれっぽっちも持ち合わせていない。

 

「さっきから説得だとか話し合いだとか、結局あなた達、私にギャーギャーギャーギャー喚いてるだけじゃない」

「う……まあ確かにそうだけどさ、アタシ達なりに頑張ってお前を……」

「全く無駄な時間だったわね、私はまどかの所へ行くわ」

「いやいや待て待て待て! 今行ったらダメなんだよ! お前がちゃんと理解してくれないと!」

 

相変わらずのポーカーフェイスで痛い所を突いて来るほむらに歯を食いしばって反論しようとする杏子だが、ほむらは突然立ち上がってまどかを探しに行こうとする。

今の状態の彼女をまどかの所へ行かせたらマズイ。慌てて杏子がほむらを呼び止めようとするが……

 

「大変佐倉さん! あなたから貰った飴を舐め切ってしまったわ! 飴ちゃん頂戴!」

「あ~クソ! こんなタイミングでも相変わらずかよ! 勘弁してくれよもう!」

 

突然服の裾を掴んでせがんでくるマミ。これにはさすがにイライラとして軽く頭にくるが、杏子は彼女を睨みつけながらまたポケットから飴を取りだす。

 

「(あ、もうこれしかねえや。まあいいやコレ食わせれば静かになるかもしれねえし……)ほらこれやる!」

「うん!」

 

ゴソゴソと取り出した飴は

 

『神極辛! 無間地獄ハバネロキャンディ!! *当商品で死亡者が出ても責任は一切取りません(笑)』

 

甘い飴を持っていた中でたった一つかなり危険なブツを所持していた杏子。

これあげれば少しは大人しくなってくれるだろう。

彼女はマミが開けた口に向かって慣れた手つきでひょいと投入する。

 

てっきり甘い飴だと思いこんでいたマミがそれを口に含んだ。その瞬間。

 

「うぐッ!!!!」

「お、大丈夫かマミ」

「ぐぐぐ……! あふん……」

 

一気に顔をトマトの様に赤らめるマミ。

苦しそうな表情で息が上手く出来ていない動作。

胸をドンドンと叩いて呼吸を整えようとするも、やがてフラフラと目を回しながらテーブルの上に両手を置いて倒れた。

 

「うし、これで静かになった」

「あなた、毒でも盛ったの?」

「人聞きの悪い事言うんじゃねえよ、ちょっと辛い飴あげただけだぜ? まさかここまで効果てきめんだとは思わなかったけど」

「……」

 

倒れてから微動だにしないマミにほむらは眉間にしわを寄せる。

 

「死んでるんじゃない?」

「いや死なねえだろ、アタシこれ結構好きだし」

「あなたのバカ舌が全人類共通だと思ったら大間違いよ」

 

あっけらかんとした調子で答える杏子にほむらが珍しくツッコミを入れていると……。

 

「……」

 

気絶していたマミがゆっくりと起き上がって元の体勢に戻った。

 

「あら死んでなかったの、残念ね」

「……」

「おいお前、マミに対してそういう毒吐くの止めろよ。こいつメンタル弱いんだから」

「知ったこっちゃ無いわ。もう私は行くわよ、ぼっちのマミとアホのさやかと一緒に遊んでなさい、バカのあんこ」

「あ! オイ!」

 

マミが生きていた事を確認すると脇目も振らずにスタスタと何処かへ行こうとするほむら。

杏子が叫んでも歩くのを止めない。

 

だが

 

「……そうやってまた現実から逃げるのかしらあなたは?」

「え?」

「へ?」

 

思わずほむらは後ろに振り返った。杏子もまたキョトンとした顔で隣に振り向く。さやかはまだ両目を押さえて悶絶中。

 

「あの子はおろか私達からも逃げ続けて、この先ずっと逃げてもあなたの望むものは一生手に入らないわよ、暁美さん?」

「マ、マミ……?」

「巴マミ……あなた……」

 

ほむらが振り返った先には、テーブルに微笑を浮かべながら頬杖を突いて優雅に座っている巴マミの姿が。

しかしその出で立ちはまるでさっきまでとは別人の様だ、隣に座っている杏子も呆気にとられている。

 

「私達と向き合いなさい。あなたの鹿目さんに対する想いが本当なら」

「巴マミ……あなたどうしたの、完全にキャラ変わってるじゃない……初期の海馬とバトルシティ編の海馬ぐらい違うじゃない」

(もしかして……アタシが食べさせた飴が原因か……? てかもう別人……誰?)

「御託はいいわ暁美さん。あなたには今選択肢が二つがある。一つはここで私達とお話をするか、もう一つはこのまま逃げ続けてまた一人ぼっちに戻るか」

「ぼっちにぼっちになるって言われた……屈辱的だわ……」

 

雰囲気がガラリと変わってクールに話しかけてくるマミにさすがにほむらも動揺を隠せない。

 

「と言ってもあなたが本気で鹿目さんと仲直りしたいのなら、選ぶべき道はわかっているでしょ」

(あの巴マミから放たれるこの威圧感……! 今までの彼女とはまるで違う……!)

 

遂にポーカーフェイスのほむらの表情が崩れる。こちらの心を見透かす様な目で笑いかけてくるマミに対し、ほむらはそこから一歩も動けない。

 

「それでも逃げたいのであれば別に逃げてもいいわよ、後は追わないから」

「く……!」

 

優雅に笑みを浮かべるマミ。

 

ほむら、三度目の戦い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辛口キャンディを口に含んだ瞬間、ショック作用でも起きたのか突然別キャラに変わったマミ。

今までと違い落ち着いた様子に緊張した面持ちで向かいに座ったほむら。

 

ここで逃げると自分のプライドが傷付く。

 

ほむらはマミと戦うことを決めたのだ。

 

「さて、まずはどこからお話してあげようかしら」

「……別にあなたと話し合う必要は無いわ。ぼっちはぼっちらしくエア友達にでも向かって喋りかけてなさい」

「そうやって話をうやむやにするのはもう無理なのよ、残念ね暁美さん」

「チッ、いつもの巴マミなら今のですぐにビービー泣きながら逃げだすのに……」

 

完全なる大人の対応を決めてマミはほむらを上手く丸め込む。

こちらの心をバッチリ見通しているような目を向けて来る彼女にほむらはわざと聞こえる様に舌打ちをして悪態を突いた。

 

「佐倉杏子、さっきあなたが彼女にあげた飴には人格変動が起きる成分でも含まれていたの?」

「いんやただの激辛飴だけど」

「暁美さん、佐倉さんじゃなくてこっちを向いて話しなさい」

「やりにくいったらありゃしないわ……」

 

杏子と話している最中もマミは学校の先生の様に注意して来た。

ほむらが渋々彼女の方へ向き直ると、早速マミは話を始める。

 

「まず一つ聞きたいんだけど、あなたって鹿目さんと会う以前まで友達とかいたのかしら?」

「……心臓病持ちでずっとベッドで寝たきりだったから……生憎友達はおろか家族以外に親しい人はいなかったわ」

「あらそうなの。てことは鹿目さんはあなたにとって初めてのお友達なのね」

「そうよ、なんか尋問されてる気分ね……」

 

ふむふむとこちらに頷いて見せるマミにほむらは嫌そうな顔を浮かべて目を逸らした。

元々の彼女も相手にするのが疲れるが今の彼女もそれは変わらないらしい。

 

「だからあなたはあの子に凄い執着心を燃やしていると。そうよね、それなら納得いくわ。ずっと一人ぼっちだったあなたが初めて手に入れた友達だもの。私も似たような経験があるし」

「友達というより既に夫婦に近い存在ね、私とまどかは」

「へ~、でもそんなに大好きな友達をどうしてあなたは傷付けた上に平然としていられるのかしら?」

「わ、私はまどかを傷付けてなんかない!」

 

マミの言葉に思わずガラスのテーブルを割れんばかりにバンと両手で叩いて立ち上がるほむら。

 

「私はただまどかの聖水が飲みたかっただけよ!」

「それで傷付かない女の子が何処の世界にいんだよ!」

 

彼女の心の叫びと同時に杏子も立ち上がってツッコミを入れた。

 

「この変態!」

「黙りなさいあんこ! これが私のまどかに注ぐ愛なのよ! だからまどかもそのお返しにしと私が手に持った紙コップに聖水を注ぐべきだったの! 愛と聖水を注ぎ合ってなにが悪いというのよ! ケースバイケースじゃない!」

「おいダメだコイツ! もう手遅れだ! ムショにブチ込もうぜこの変態!」

「私は変態という名の淑女よ!」

「結局変態じゃねえか!」

 

暴走するほむらに杏子は彼女の頭をパ-ン!と平手で叩く。

それを眺めた後、どこから取り出しのかわからないティーカップで優雅に紅茶を飲みながら、マミがゆっくりと口を開いた。

 

「そう、結局あなたはただ一方的に彼女に卑猥な事を要求したただの変態なのよ」

「さっきからあなたたち散々人の事を変態変態って……! 変態で何が悪いのよ!」

「開き直った!」

 

クワっと噛みつかんばかりの表情で食ってかかるほむらに対し、マミは全く動じずに冷めた目で返す。

 

「別に悪いかどうかは私は判断しないわ、けどあなたの破廉恥極まりない変態行為に鹿目さんが傷付いたのは紛れもない事実なのよ」

「な、なんですって……!」

「フフ、とぼけちゃって」

「!」

 

彼女の一言にほむらが信じられないと言った風に驚愕するが、マミはクスクスと笑って彼女の本性を見抜いていた。

 

「本当はとっくの前から気付いていた、そうでしょ? もしかしたら自分の行いが彼女を傷付けたんじゃないかって」

「……なにを根拠に言っているのかしら? 言っている事がわからないわ」

 

ここに来るまで何度もシラを切っているほむらに。マミは彼女の心情を悟った・

 

「あなた、周りだけじゃなくて“自分自身”にさえも誤魔化しているでしょ。私がやった事は間違いじゃないって何度も自分自身に言い聞かせているのね」

「な!」

「フフ、その反応から見て図星みたい……」

 

ビクッと肩を震わして驚くほむらを見てマミは妖艶な笑みを浮かべた、まるで「考えている事は全てお見通しだ」と言っている様に

 

「どうしてあなたはそんなに自分のやった行いから逃げているの」

「あなたには……あなたには関係ない事でしょ……」

「言わせてもらうけどこれはあなただけの問題じゃないのよ。鹿目さんは勿論、あの子の友達である私達にも問題ある事だわ。だって二人のお友達が困っているんですもの」

「……」

「聞かせて頂戴、私達はあなたの敵じゃないわ。今もこれからも、ずっとあなたと鹿目さんの味方。だからあなたの事を助けたいのよ」

「巴マミ……」

「ちょっとだけでいいのよ。鹿目さんだけじゃなくて私達にも心を開いて」

「……」

(ホント誰だよコイツ……)

 

さっきまでの冷めた態度から一変してとても温かく包み込んでくれる様な優しい笑みを浮かべるマミに、唇をぐっと噛んで遂にほむらは決心した。

ジト目でマミを信じられない様子で唖然と眺めている杏子を置いて。

そしてまだ両目を押さえながらブツブツ呟いているさやかを置いて。

 

「……怖かったのよ」

「……」

 

常に無表情だった彼女の仮面が崩れ、しおらしい顔でほむらはマミに心情を吐露した。

 

「初めての友達だから……どう付き合っていけばいいのかわからなかった。だから私は私の精一杯の愛を彼女に注ぎ込もうとしたのよ、私がいかにあなたの事を好きかって、それを上手く表現する為に私は何度もあの子に私なりの愛を貫いたわ」

「いやアレは愛じゃなくてただのストーカー行為……」

「佐倉さん、暁美さんがせっかく私達に告白してくれたのよ。ツッコミは我慢しなさい」

「あ、すみません……」

 

サラリと忠告して来たマミに思わず敬語で謝って軽く頭を下げる杏子。

ほむらの話はまだ続く。

 

「でもあの時の一件で私はまどかを初めて泣かせてしまった……。私自身だって彼女を泣かせた、傷付けたってわかってたのよ、けどそれを認めてしまったら私がまどかに酷い事をしたという事になる。それが怖かったのよ……」

「暁美さん……」

「私は私の罪を認めたくなかった……もし認めたら私とまどかの間の溝はもう永遠に塞がらないんじゃないかって、今まで注いでいた私の愛は全てまどかにとって迷惑でしかなかったんじゃないかって」

「……だからあなたはそんな自分自身に悪くないとずっと暗示していたのね」

「私は何も悪くない、だから別の方法で彼女のご機嫌を取ってまたいつも通りの関係に戻ろうって……焦りに焦った私は美樹さやかとナマモノを連れてここに来たの……自分の罪うやむやにする為に……」

 

震えながら泣きそうな顔で、ほむらは話を終えた。彼女がこんな様子を見せるのは当然その場にいた三人組には初めてだった。

散々周りに毒を吐いたり奇行を行ったり、まどかに何度も暴走行為を繰り返して来た彼女が。

今はただ母親にウソがばれて叱られて、やっと泣きながら正直に告白してくれた子供の姿である。

 

そんな彼女の様子をずっと黙って見ていたマミは、テーブルに両手で頬杖を突いた状態で重い口を開いた。

 

「やっと正直に答えてくれたわね……暁美さん」

「……私には勇気が無かった……あの子と本当の意味向き合う勇気が私には無かったのよ……」

「そうかもしれない、けど今のあなたはそんな小さな勇気を振り絞って私達に向き合ってくれた、それだけでも立派だし十分な成果じゃない」

 

後輩に指導して上げる頼もしい先輩のようにマミはほむらに話を進めて行く。

 

「後はその勇気をあの子にぶつけるだけよ。暁美さん、あなたは彼女に会ってまず成すべき事はなに?」

「わかってるわ……けどもしあの子に拒絶されたら私とあの子は完全に他人になってしまうのよ……私にとってそれが怖くて……」

「バカ言ってんじゃないわよ、このすかぽんたん」

 

マミに背中を押されてもほむらはまだ不安そうな顔で俯く。

もし彼女がもう既に自分の事を嫌っていたら……。

 

それを思うだけで胸が痛くなって泣きそうになるほむらに。

 

ずっとソファで寝そべっていたまどかの友人・美樹さやかが起き上がって答えた。

 

「あの子はね、いくら怒っても喧嘩しても、結局友達を心の底から嫌いになれるわけないのよ。あの子はバカが付くぐらいお人好しなの。当然アンタの事を今でも大切な友達だって思っている、アンタの事を待っているのよ」

「美樹さやか……痛!」

 

ぼんやりとしていたほむらの隙を突いてさやかは彼女の額に間髪入れずにデコピン。

ブスっとした表情でさやかはジト目で睨みつける。

 

「今までのお返し、あたしの寛大な処置でこれ一発で完済させてあげる」

「……」

「ま、どうせアンタの事だからまた見積もらせると思うけどさ」

「……わかってるじゃない」

「そりゃあそうよ。アンタとは腐れ縁で繋がってるんだし~」

「フ……」

 

両手を後頭部に回してソファにもたれながら憎まれ口を叩くさやかに、ほむらは赤くなったおでこを手で押さえながら思わず口元をとても小さくだが若干歪めた。

それを見てさやかは意外そうに目を見開く。

一瞬だがさっきの表情は明らかに……

 

「アンタ笑った?」

「……笑ってないわ」

「いや笑ったでしょアンタ、いや~初めて見たわアンタが笑う所」

「“美樹さやかのクセに”しつこいわね」

「“暁美ほむらのクセに”笑うんだ」

「……茶化すんじゃないわよ、もう一回バルス撃ち込むわよ」

「へへへ、こら失敬」

 

ニヤニヤ笑いながらこちらを見つめて来るさやかにほむらは不機嫌そうにプイッと顔を逸らす。

頭に来るのは確かだが今彼女に構っている暇はない。

 

「全くムカつくわね美樹さやかは……」

「気にすんなよ、そいつなりにお前を気遣ってやってんだからさ」

 

マミの隣に座ってずっと話を聞いていた杏子が小指で耳をほじりながらそう言うと、ほむらは今度は彼女の方へ向き直る。

 

「あなた達の気遣いなどこちらから遠慮するわ」

「まあそう言うなって、ちゃんと受け取れよ」

「……フン」

 

耳からズボっと小指を出すと杏子はこちらに目を細めて座っているほむらにフッと笑いかける。

 

「悪くないだろこういうのも」

「こうしてあなた達とつまらない会話を交わす事がかしら? 冗談も休み休み言いなさい」

「そうだな、まだ今のアタシ達には決定的に足りないモンがある。こうしてアタシ達を巡り合わせてくれた奴と、傲慢でムカつくナルシストのナマモノ野郎」

「……」

「迎えに行ってこい」

 

ゴロンとソファに寝そべりながら、杏子はビシッと指差して指示する。

 

「今のお前ならアイツに会ってまず何をするべきかよくわかっている筈だしな。何処にいるか知らねえけど、きっとアイツもお前の事待ってくれているからよ」

「わかっているわよ、あなたに言われなくても……」

 

そう言ってほむらはゆっくりと立ち上がった。

止めようとしない三人に彼女は背を向ける。

 

その背中にもう迷いは無かった。

 

「行くのね」

「ええ」

 

ティーカップを持って紅茶を飲み干すマミにほむらは振り返らずに返事だけをする。

 

「私の戦場はここじゃないわ」

 

彼女は最後の戦いの場所へと歩いて行った。

 

想い人に自分なりのケジメを着ける為に。

 

 

 

 

彼女が行ってしまうのを黙って見送った後。

 

マミは柔らかい安堵の表情を浮かべた。

 

「行ってしまったわ、円環の理に導かれて……」

 

そう呟くと彼女は静かに紅茶を飲み干す。

 

彼女の言葉に杏子とさやかは同時に無表情で彼女の方へ振り向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

((円環の理ってなに?))

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分後の事。

鹿目まどかは今、デパートの屋上にある子供用の遊園地にいた。

そろそろ夕刻なので人の数も少ない。人のいない遊園地とは見ているだけで寂しいモンだ。

彼女は屋上から下を見下ろせる場所に立って、鉄の手すりにもたれながら街並みを眺めている。

 

「そろそろ帰ろうかな……」

「そうかい、確かに早い所帰らないとお義父さんが心配しちゃうからね」

「うん……」

「でもそれ言ったのもう何回目だい、まどか?」

「……」

 

グッタリした様子ですっかり覇気を失っているまどかに話しかけているのは手すりに乗っかって4本足で立っているキュゥべぇ、彼はずっとしょんぼりしているまどかの傍にいてあげた。

 

「帰るんならさっさと帰った方がいいよ、僕も晩御飯食べたいし、日常時間における適量の栄養摂取はセクシーの秘訣だよ?」

「う~んけど……」

「暁美ほむらの事が心配かい?」

「はぁ……ほむらちゃんかぁ……」

 

彼の問いかけにまどかはため息交じりに呟く。

 

「私、ほむらちゃんに対して悪い事しちゃったのかな……」

「なにを言っているんだい、悪いのは全部あのストーカーの18禁変態小娘だよ」

「でもちょっと怒りすぎちゃったような気がするんだよね……」

「彼女は怒られて当然の人間だろ。もうあんな変態は警察にでも任せて君は僕との一時を楽しもうよ」

「……」

 

キュゥべぇと言葉を交えていてもまどかは完全に上の空だ。

さっきからずっとこの調子なのだ。

 

「ねえ、キュゥべぇにとってほむらちゃんってどう見える?」

「一点の曇りもない犯罪者だね」

「う、うわぁ……」

「それじゃあまどか」

 

キッパリと断言するキュゥべぇにまどかは頬を引きつらせると、彼はおもむろに彼女に向かって一つ尋ねた。

 

「君にとっては彼女は一体なんなんだい?」

「私? 私にとってほむらちゃんは……」

 

ふと顔を上げて空を眺めながらまどかは考えた後、ゆっくりとキュゥべぇの方に振り返った。

 

「お友達……そう、私のお友達だよ、ほむらちゃんは……」

「……そうかい、結局彼女はまどかにとって友達止まりなんだね。てことはやっぱり君の夫は僕という事か」

「いやそれは違うけど……」

 

頬を引きつらせながらまどかがそう言うと、キュゥべぇはふいに手すりからスタッと飛び下りた。

 

「だったら“あそこで息を荒げてこっちをガン見してる変態”に教えてあげたらいいよ」

「それって……あ!!」

 

まどかがトコトコと歩きだすキュゥべぇを目で追った先に。

 

「まどか……やっと……やっと見つけた……」

 

彼女が、満身創痍の姿の暁美ほむらが立っていた。

 

「ほむらちゃん……!」

「あの姿から察するに、君を探す為に随分この建物の中を走り回ったようだね」

「……」

「全く彼女の愚かさには呆れてものも言えないね」

 

呼吸する事さえ辛そうな程ひどく疲れて見えるほむらにまどかは驚いていたが、キュゥべぇは冷静に首を横に振った。

 

まるでこうなる事を予知していたかのように

 

「さてまどか、僕はちょっとまたゲーセンに行って来るよ。今度こそオンライン麻雀で十段に到達するんだ」

「え……」

「その変態に襲われないよう気をつけるんだよ」

 

適当な理由をつけてその場を去ろうとするキュゥべぇ。

不安げなまどかと置いて歩き出し、そして彼は疲れ切っている様子のほむらの横を通り過ぎる。

 

「これで貸しは一つだよ」

「返す気は無いわ……」

 

通り過ぎ様に短い会話をした後、キュゥべぇは出口の方へと行ってしまった。

 

残されたのは二人の少女。

 

「まどか……」

「……」

 

二人の周りだけがとても静かだった。

緊張した様子で立っているまどかと数メートル離れた地点で、ほむらは一歩も動かない。

ようやく呼吸を整えると、ほむらはゴクリと生唾を飲み込んで。

 

ゆっくりと彼女に頭を下げた。

 

「ごめんなさい……」

「ほむらちゃん……!」

「あの時、あなたにとても怖い思いをさせてしまって……本当にごめんなさい……」

 

深々と頭を下げて彼女は何度も謝る。

彼女はやっと出来たのだ。友人と喧嘩した時の対処を

 

「いい訳も何もしないわ、私がやった事はあなたにとってとても酷い事だったんだもの……ごめんなさい、私のせいであなたを傷付けてしまって……」

「……」

「こんな最低な私が言うのも不通りだってよくわかってるけど……。どうか許してもらえないかしら? 私にはあなたがいないとダメなの……だからお願い、許してもらえるならなんでもするから……」

 

体を震わせながら懺悔するほむらを見て、まどかの足は自然と彼女の方へ歩き出した。

 

「顔を上げて、ほむらちゃん」

「まどか……」

「謝ってくれてありがとうほむらちゃん」

 

語りかけながらまどかはほむらに近づいて、彼女の両肩に手を置く。

 

「次は私が謝る番だね。ほむらちゃんがそこまで思い詰めていたのに気付かなくて本当にごめんね」

「そんな……あなたは何も悪くない、悪いのは全部私なのよ……変態でごめんなさい……」

「い、いや変態でごめんなさいって言われても……」

 

どんな謝り方?とツッコミたいところだがここは我慢、落ち込んでしまっている彼女の肩に手を置きながらまどかは口を開いた。

 

「それに私、ほむらちゃんが変わっているのはずっと前からわかってるもん……あの時はさすがにちょっと勘弁してほしいって思ったけど……さすがにトイレ入ってきた上にコップ持参はキツイかな……」

「ごめんなさい……」

「ハハハ、もう謝らなくていいって、私はもうほむらちゃんの事許してるから」

「まどか……!」

「私にとってほむらちゃんは、どんなに離れても大切な友達なんだという事に変わりないんだよ」

 

ほむらはバッと顔を上げる。

罪人である自分をまどかが許すと言ってくれたのだ。

 

「本当に許してくれるの……!? こんな変態な私を……!」

「あ、ああうん……でも今後は自重してくれたら嬉しいかな……」

「まどかァァァァァァ!!」

「うわぁ! ほ、ほむらちゃん!」

 

和解出来た事によって緊張の糸が切れたのか、ほむらはまどかに飛びついて両手で強く抱きしめる。

それに驚きながらもまどかはぎこちない仕草で彼女の頭を撫でてあげた。

 

「え、え~と……これからもよろしくねほむらちゃん……」

「うん……」

 

デパートの屋上で抱き合う二人の少女。

 

そんな彼女達を遠くから眺める三人の少女と一匹の珍獣。

 

「やっと丸っと収まったかぁ、ったく手間掛けさせやがって」

「散々振り回されたこっちの身としては得る物が“コレ”だけじゃああたし納得しないわ」

「フフ、でもあなた達随分と満足そうな顔してるけど?」

「「……」」

 

隠れてまどか達を眺める杏子とさやかに、マミは茶化す様にクスクスと笑う。

彼女の肩にはゲーセンに行くと言っていた筈のキュゥべぇが乗っかっていた。

 

「僕のまどかに抱きつくとは許せないな。これをキッカケに暁美ほむらを長い年月をかけてジワジワと苦しみをじっくり与え続ける必要があるね」

「それっていつまでも一緒にいてあげるって事かしら? あなたらしい屁理屈ね」

「バカ言うなよ、僕はただライバルをいかに効率よく潰せるかと思った上での……ってあれ?」

「あらどうしたの?」

 

肩に乗っかった状態でキュゥべぇはやっと気付いてマミの方に顔を上げる。

なにか彼女のキャラが大きく変わっている様な……

 

「え~……君は誰だい?」

「フフフ、何を言っているのキュゥべぇ。あなたの一番の友達の巴マミに決まっているでしょ」

「いや僕の知っているマミはもっとウジウジしてて全く頼りにならなくて足手まといにしかない存在なんだけど?」

「あら失礼しちゃう、男の子が女の子にそんな酷い事言っちゃダメよ?」

「……」

 

可愛らしくウインクしてたしなめてきたマミに。それを見てキュゥべぇと、傍にいた杏子とさやかが背後からゾクッと悪寒を感じた

 

(なにがあったんだ彼女に……どうにかして元に戻さないと……こっちのマミは別の意味で扱い憎い)

(もう一回あの飴あげたら元に戻るかな……いやでも今のコイツはすげー頼りになるし……)

(ずっとツッコまなかったけど、私が悶絶してる間にマミさんに一体何が……)

 

一つの悩みが消えると同時に、また新たな問題が浮上していた。

 

 

 

 

一方そんな事も露知れず、抱き合っていたほむらとまどかはやっと離れた。

 

「まどか、こんな私を許してくれてありがとう」

「もう大げさだよほむらちゃん、フフ」

「ねえまどか、ひとつお願いがあるのだけどいいかしら」

「ん? なぁに?」

 

少し笑って首を傾げるまどかに。

 

ほむらはいつものポーカーフェイスに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キスしましょう」

「……やっぱりいつものほむらちゃんだね……」

 

すっかり元通りになったほむらにまどかは呆れながら苦笑する。

 

しかし彼女はどこかで安堵していた。

また“いつも通り”になったのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仲直り記念のキス、出来ればディープを所望するわ」

「え~やだよ~……」

「お願い、一回だけでいいのよ。じゃあ先っちょ、先っちょだけでいいから」

「その言い方はちょっとマズイから止めて!」

 

 

 

 

 

 

 

そして最後のステップへ

 

 

 

 

 

 


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