これはキュウべぇがまだ鹿目まどかと出会っていないかなり昔のお話。
ある日の夕方、彼は夕日が落ちていく様を眺めながら一人ポツンと公園にあるベンチに座っていた。
「ふぅ~この光景といいこの星には中々美しいものがある、ま、僕の美しさには叶わないけど」
「ママ! あれ欲しい!」
「指さしちゃダメ! 取り憑かれるよ!」
「フ、美しいのは罪だね、僕があまりにも美し過ぎて誰も近寄れないらしい」
遠くにいる子供が無邪気に自分を指を差し、その子供の母親が必死にその子を引っ張って逃げる様を見てキュウべぇは一人呟く。
「そろそろこの町ともお別れかな、また別の場所へ行くとしよう。でも僕はなんでこの星へ来たんだろうか? なにか目的があったような」
一人首を傾げてそんな事を言っていると……
「凄いわ……白いナマモノが喋ってる……」
「ん?」
ふとこちらにむかって声が飛んで来たのでキュウべぇは敏感に反応してそちらに顔を向けた。
見るとそこにはまだ金髪の小さな少女が驚愕の表情を浮かべ一人で立っていた。
「こんな生き物初めて見たわ……」
「そりゃそうだろ僕はこの星の生物じゃないし、それにこんな美しいナイスボーイは全宇宙探しても僕しかいないからね」
「この星の生物じゃない……え? てことは宇宙人……!?」
(“頭にロールパン付けてる”とか、大丈夫かなこの子?)
宇宙人であるキュウべぇに少女が驚いている間にも彼は冷静に目の前の少女を分析する。
そんな事も露知れず、少女はゆっくりと彼に向かって口を開いた。
「あ、あの……う、宇宙人さんは一人ぼっちで何をしているの?」
「強いて言えば飽くなき美への追求かな?」
「え?」
「僕より美しい、もしくは美しくなれる素質を持つ者を探してこの星を彷徨っているんだ」
“本来の目的”はすっかり忘れているキュウべぇだが、ここ最近はそういった事を目的にして様々な場所を放浪している。
自分に匹敵する美しい素材を見つける、それが彼自身が決めた己の目的。
「そんな素材滅多にないんだけどね。あ~何処かにいないかな、僕の美しさに匹敵する力を秘めた女の子とか」
「……あなたは一人ずっとそんな事をしていたの?」
「まあね」
いつの間にか隣に座って来た少女にキュウべぇは素っ気なく言葉を返す。
「ま、ちょっと寂しいけど仕方ないよ。最強の美しさを持つこの僕は誰もが辿り着けない孤高の存在なんだから」
「……そっか、宇宙人さんも私と同じで“一人ぼっち”なんだ……」
キュウべぇと一緒に落ちていく夕日を眺めながら、少女は寂しげに呟いた。
しばらくして彼女はキュウべぇの方に向き直る。
「ね、ねえ……宇宙人さん?」
「宇宙人という呼び方は止めてくれないかな、僕にはキュウべぇというグレートセクシーな名があるんだ、呼ぶのも畏れ多いかもしれないだろうけど」
「キュウべぇ……ふふ、可愛い名前ね」
「いや可愛いんじゃなくて美しいんだよ」
朗らかに笑うその少女にキュウべぇが感情の無い表情でツッコミを入れるも彼女は彼に笑いかける。
「ふふ……じゃあ私もあなたに私の名前教えてあげる」
「あ、別にいいから、君の名前覚えてもこっちは得しないし」
「私はね、“巴マミ”って言うの。よろしく、ウフフ」
「いや人の話聞いてくれよ、なにがウフフだよ」
いきなり自己紹介して嬉しそうに笑い声を上げる彼女、巴マミにキュウべぇはめんどくさそうに呟く。
すると彼女は彼をしっかりと見つめたままゆっくりと口を開いた。
「ねえキュウべぇ……」
「……なんだい」
「私と……“お友達”になってくれないかしら?」
「は?」
唐突な頼み事にキュウべぇも思わず変な声を出してしまった。
巴マミは恥ずかしそうにモジモジしている。
「私もあなたも一人ぼっち……同じ境遇を持つ私達はきっと仲良くなれる筈……」
「いや無理」
「……え?」
「無理」
彼女からの誘いをキュウべぇは
感情のこもって無い表情で冷酷に斬り捨てた。
「君、なんかめんどくさそうだし」
「……」
「じゃ、僕はこれで」
素っ気なくそう言ってキュウべぇはさっさと何処かへ行く為にベンチから降りようとする。
だが
「あれ?」
「……」
行ってしまおうとするキュウべぇを咄嗟に巴マミは項垂れた状態で彼の尻尾を掴んで引き止めた。小学生とは思えない力で
「……」
「あのさ、悪いけど尻尾掴むのは止めて欲しいんだけど? 僕の自慢の萌えポイントなんだよそこ」
「……行かないで」
「いや行くよ、君と一緒にいるのイヤだし」
「そんな事言わないでよ……」
彼女は震えた声で懇願するようにそう言いながら、なおも自分を拒むキュウべぇの方に顔を上げる
「キュウべぇ……」
「ん?」
「私の友達になって……!」
「恐ッ!」
キュウべぇの目の前には顔をくしゃくしゃにして目に涙を溜めている巴マミがいた。
いきなり泣き始めている彼女にキュウべぇは思わず声を上げて逃げようとするが彼女に尻尾を掴まれているので逃げれない。
「離してくれ! 僕の研ぎ澄まされた第六感が告げている! 君は僕にとって危険だ!」
「そんな事言わないで仲良くなりましょうキュウべぇ……! きっと私達相性抜群よ……!」
「なわけないだろ冗談じゃない! 福山雅治ならともかく君なんかと相性抜群なわけないだろ!」
「ウフフ、キュウべぇ……!」
「助けて雅治!」
抵抗すればするほど彼女の力がどんどん強くなっていく。
泣きながら笑みを浮かべる巴マミにはいかに宇宙人であるキュウべぇも恐怖を覚える。
そして遂に彼女に体を両腕で強く抱きしめられ拘束されてしまった。
「私達は友達よ……もうこれからはずっと二人で仲良く生きていきましょうね……」
「ぬお~僕のパーフェクトな顔に頬ずりなんてしないでくれ……いっそ殺してくれ……」
「ママ! あの子人形抱きしめたまま泣きながら笑ってる!」
「見ちゃダメ! 祟られるよ!」
これはキュウべぇが過去に出会った悲劇の一つ。
彼にとってとてもとても辛い日々を送る事になるのだ……。
「ずっと一緒……ウフフ……」
「全く訳がわからないよ……」
それから数年後……
「フゥ~……」
「どうしたのキュウべぇ?」
「ああいや、ちょっと昔の事を思い出していてね」
「昔の事?」
「うん、ちょっと話してあげるよ」
現在、白いナマモノことキュウべぇは鹿目まどかと共に、学校から家に帰る途中にある喫茶店で寄り道している。ここ来た理由は特に無いらしく久しぶりにまどかが行ってみたいと思っただけのようだ。本来なら親友の美樹さやかも来る予定だったのだが用事があって来れなかったので、仕方なく今はキュウべぇと二人でまったり一息突いていた。
隣でオレンジジュースを飲んでいた彼女にふと話しかけられて、テーブルの上でため息突いていたキュウべぇがそちらに振り返る。
「実はまどかと会う数年前に僕はその時もこの町にいたんだけど、その時恐ろしい少女と出会って捕まってしまったんだ」
「女の子に捕まった!? いきなりショッキングな話だね!」
「僕がここに長い間滞在していたのはその少女のせいさ、皮肉にもそのおかげでまどかと逢えた事になるんだけど。けど君が僕にとって最高の少女なら、あれはまさしく僕にとって“最凶の少女”だったね」
「……そんなに酷い目に遭わされたの?」
恐る恐る尋ねて来たまどかにキュウべぇは首を横に振る。
「酷いなんて言葉じゃ足らない、あれはまさに地獄すら生ぬるいと感じてしまう程の体験だったよ、あの時の事を思い浮かべると今でも無性に泣きたくなるんだ」
「キュウべぇも辛い事あったんだね……」
このナルシスト宇宙人であっても嫌な事の一つや二つあったのだろう。
この地球という広大な地の中でたった一人で生きて来たのだから。
そう思うと少しキュウべぇの事が可哀想に思えてきた。
まどかがそう思っていると察したのかキュウべぇは優しく語りかける。
「ま、もう過去の事さ、今はその子から命からがら逃げてこうして君との甘い生活を送れるようになったし幸せだ。あの子といた時期はもう忘れるよ、ていうか忘れたい、一刻も早く忘れたい」
「キュウべぇはいつまでその子と一緒にいたの?」
「一週間前までかな?」
「え!? 最近の出来事じゃないそれ!?」
まどかはオレンジジュースを思わず噴き出しそうになってしまった。つまりここ最近までキュウべぇはその地獄すら生温い環境にいたという訳だ。
しかもその少女と別れたのが一週間前だとしたら、つまり……
「ちょうと君と初めて会った日なんだよ、僕が彼女の魔の手から逃げ延びたのは」
「そうなんだ……」
「まさに地獄から天国だね、君はまさに僕の救いの女神さ、」
「そんな大げさだよ」
「結婚してくれないかな、僕の女神」
「相変わらず唐突だよ……」
テーブルの上で改まって座り直してこちらに求婚してくる珍獣にまどかが唖然としていると喫茶店の入り口から何者かが入ってくるのが見えた。
「あ、あの人私と同じ制服を着てる」
「そういえば“彼女”もまどかと同じ制服を着ていたね」
「え? 私と同じ学校なのその人!?」
「……まあ彼女は君より学年一個上だし会う事は無いだろうけど」
キュウべぇの思わぬ情報にまどかは入って来た生徒から見るのを止めて彼の方に振り向く。
「でももしその人と偶然会っちゃらどうするの? やっぱりキュウべぇは私と一緒に学校行かない方がいいよ」
「バカ言っちゃいけないよ。僕が行かなかったら誰が君を“暁美ほむら”から護ると言うんだい?」
「……最近どんどん過激になってるけど大丈夫だよきっと……」
「いや、やっぱり警察呼んだ方がいいよ。このままじゃと彼女は……」
苦笑しながらそんな事無いと言うまどかにキュウべぇが厳しく注意しようとしたその時……。
「キュウべぇ……」
「……え?」
急に背後から聞こえたか細い声、その瞬間、キュウべぇはゾクリと背中に悪寒を感じる。
まるで時計の針の様に彼はゆっくりゆっくりと後ろに振り返っていった。
「こんな所にいたのねキュウべぇ……」
「……」
「キュウべぇの知り合い?」
彼の目の前にはまどかと同じ学校の制服を着てやたらおっとりとした印象が見える金髪縦ロールの少女だった。
悲しみの顔を浮かべながらかすんだ声でキュウべぇの名を呼ぶ少女。
二人を交互に見て置いてけぼりにされているまどか。
無言で現れた彼女を見つめるキュウべぇ。
そして……
「キュウべぇ? 悪いけど僕はそんなナイスでイカした名前じゃないよ。僕の名前はジョニーデップ、ハリウッド1のセクシー俳優さ」
(誤魔化した!)
「もしかして僕のファンかな? 実は今、フェアンセと一緒にティータイムを満喫してるからサインはまた……」
「探したのよキュウべぇ!」
「ぐふ!」
「キュ、キュウべぇ!」
誰がどう見てもわかる大ウソを平然と言いそのまま押し通そうとするキュウべぇだったが、なんと少女は突然両手を突き出して彼を思いっきり抱きしめたのだ。
「どうして私の前から去って行ったの! 私にはあなたしかいないのに!」
「く、苦しい……! なんてこったまさかこんな所で遭遇するとは……!」
「もう二度と離さないわキュウべぇ! これからはもうあなたとずっと一緒よ! 共に二人で楽しく暖かい家庭を築きあげましょう!」
「いやそれだけは勘弁……! てか苦しいマジで……!」
涙目になって嬉しそうにほほ笑む少女がキュウべぇの顔を物凄く強く抱きしめている。
これにはあの常に平静を保っているキュウべぇでも生命の危機を感じている様で死にそうな声を出していた。
目の前でいきなり行われたこの一方的なプロレスショーに、まどかは慌ててキュウべぇに絞め技を掛ける少女の方へ向いて席から立ち上がる。
「あ、あの!」
「あら? あなたは私と同じ学校の生徒さんかしら? こんにちは」
まどかに話しかけられると少女は表情をコロッと変わってまともになり首をかしげて見せた。涙目になっていたのにその涙も消えている。
そんな彼女にまどかは少々怯えた様子で口を開いた。
「す、すみません……その子私の大切な友達なんで……苦しがってるようですから離してもらえないでしょうか?」
「……友達ですって……」
「へ?」
表情が普通に戻ったので意外とまともに会話出来るんじゃないかと淡い期待を抱いていたまどかが迂闊だった。
友達といううフレーズを聞いた瞬間、少女の表情はみるみる変わってワナワナと震えながらまた目に涙を溜めて……。
「この子の友達は私だけよ!」
「え、ええ!?」
「もしかして変な事言って私達の仲を引き裂く気なのあなた! 陰湿で陰険! イジメッ子の発想ね!」
「い、いや違……!」
「でもそんな戯言で私達の絆が崩壊すると思ったら大間違いよ! そうでしょキュウべぇ!?」
なんか偉い勘違いをしている少女にまどかが怯えた顔で言おうとするが彼女はどんどん話を進めていき、自分が抱きしめているキュウベェに泣きながら笑いかける。
だが
「ぶくぶく……」
「ほらこの子も「僕の友達は君だけさベイベー」って言ってるじゃない!」
「いやぶくぶくとしか言ってないです! 泡吹いてます泡! それ以上強く抱きしめたらキュウべぇが死んじゃう!」
「気安くこの子の名前を呼ばないで! キュウべぇは私だけの大切な友達なの! もしかしてあなた! 私のキュウべぇを誘拐してたんじゃ!? 酷い! この子は誰にも渡さないわよ!」
「駄目だ……全く会話が成立しないよこの人……会話のキャッチボールも出来ない、的確に私の顔面にボールぶつけて来るよ……」
「ウフフ……キュウべぇ……」
泡を吹き始めたキュウべぇをなおも強く抱きしめながら彼の顔に頬ずりを始める少女。
その目は誰から見ても正気では無い、完全に“病んでいた”。
まどかがそんな少女に唖然としている中、彼女はキュウべぇに優しく語りかける。
「さあキュウべぇ、私達の家に帰りましょう……」
「へ、ヘルプ……」
「あら? もう晩御飯の献立が知りたいの? フフ、今日はあなたと私がまた強く絆が深まった記念にあなたの好きな料理を御馳走して上げるわ、楽しみにしててね」
ニコニコと嬉しそうにそう言う少女と反対にキュウべぇはもう完全に虫の息だ。
そして彼を抱きしめたまま少女は颯爽と駆けてその場から走り去る。
「さあまた二人の時間を過ごしましょう! 私とあなただけの時間! もう誰にも邪魔なんてさせないんだから!」
「ま、まどか~……」
「キュウべぇーッ!」
拘束されながらも想い人の名を呼ぶキュウべぇにまどかが手を伸ばして叫ぶも。
彼を拉致していった少女は上機嫌で店から出て行きあっという間に消えてしまった。
ポツンと一人残されたまどかはガックリと肩を落とし席にまた座る。
「キュウべぇが攫われちゃった……もしかしてあの人がキュウべぇの言っていた……」
「よかった、これで邪魔者はいなくなったわね」
「え? うおわぁ!」
突然足元から声が聞こえたのでまどかがテーブルの下を覗くとすっときょんな声を上げた。
そこにいたのはまどかの学校のクラスメイトであり友達、そしてストーカーの暁美ほむらが彼女の足元で自然に寝そべっていたのだ
「ほ、ほむらさんどうしてそんな所に! ていうかいつから!?」
「愚問ね、私はいつだって貴方の傍にいるわ」
「なんでテーブルの下にいるの……出て来てよ……」
「悪いけどそれは出来ないのよ、私にはあなたの靴の臭いを嗅ぐという使命があるの」
「出て来て! すぐに出て来て!」
自分の右足を手にとって顔を近づけているほむらにまどかは悲痛な声で叫ぶ。だがほむらは軽くスル―して彼女の靴に顔を近づけたまま口を開いた。
「さっきあの珍獣を攫った人、私達の学校の生徒で一年上の先輩よ、名前は“巴マミ”」
「ほむらさん知ってるの……? ていうか靴嗅がないで……」
「学校では結構な有名人よ、容姿・運動神経・学問・どれをとってもトップクラスの才色兼備、学校創立以来の天才とまで称されていたわ」
ほむらの説明を聞いてまどかは「うわぁ……」と感嘆の声を漏らす。
つまりさっきの少女、巴マミという人物は学業優秀の神童という訳だ。
「そんな凄い人なんだ……でもほむらさんやけにあの人の事詳しいんだね」
「焼きもち妬くなんて、まどか、あなたはなんて可愛い生物なのかしら。私はただ前に先生に教えてもらっただけよ、私もあの人に負けないぐらい優秀だから教師の間では比べられてるのかもしれないわね」
「へえそうなんだ……あと別に妬いてないよ私……」
「でも私には巴マミなんてどうでもいい存在だわ、ぶっちゃけその辺の石ころと同価値よ、あなたみたいな絶対神と比べる事さえ万死に値する行為だわ」
「ひゃ!」
普通に尋ねただけなのに勝手に解釈して優しそうな声で答えてくれるほむらだが、まどかはその時、足元から悪寒を感じる。
「私の心はもうとっくの昔にあなたというルパンに盗まれてるのだから」
「ちょっとほむらさん私の靴に頬ずりしないで!」
まどかは足元から人肌の感触を感じる。あろうことかこのテーブルの下にいるほむらはまどかの靴に頬を擦りつけ始めたのだ。
「ごめんなさいまどか、こんな御馳走を目の前でぶら下げられたらもう我慢できないの」
「ちょ! 止めてよ本当に! ここお店の中だよ! 誰かに見られたらどうするの!」
「そのセリフ凄いゾクゾクするわね……あ、あと凄い大事なお願いがあるんだけど」
「いやそれより私のお願い聞いてよ! お願いだからテーブルの下から出て来て!」
「“あなたの靴”を舐めさせてくれないかしら?」
「もう引き返せないレベルに到達してる! 絶対ダメ! そして頬ずり止めて!」
まどかに全力で拒否されるとほむらは頬ずりをピタリと止めて、彼女の靴に頭を乗せたまま普通に喋り始めた。
「それにしてもその巴マミがあのナマモノを拉致した理由はわからないわね、私にとっては喜ばしい事この上ないんだけど」
「キュウべぇを捕まえていた人ってやっぱりあの人なのかもしれない……きっとまたキュウべぇに酷い事を……」
「まさしく私が望んでいた展開ね、これで心おきなくまどかとラブラブ出来るわ。さあ、もうあんなの忘れて私に「靴を舐めろ」と命令しなさいまどか。出来るだけキツイ口調でお願いするわ」
「いやほっとくなんて駄目だよ! キュウべぇを助けなきゃ!」
また靴に頬ずりを始めたほむらにそう叫ぶと、まどかはガタっと席から立ち上がる。
「たった2話目で攫われる主人公なんておかしいよ! 私マミさんの所行ってキュウべぇを助けてくる!」
「あんなナマモノに救う価値なんてないわよ、まどかはあんなのと一緒にいたいの?」
「そりゃあキュウべぇはナルシストだし変な事ばっか言うし最初はちょっと怖かったけど……」
彼の性格や発言を思い出して苦笑して見せた後、まどかは決意を決めた表情で顔を上げる。
「一緒にいて楽しいって思った事もあるし、今となっては私にとって大切な友達の一人なんだから。友達が大変な目に遭ってるなら助けに行かないと」
「……ハァ」
断固たる意志でそう宣言するまどかに対し、ほむらは彼女の足元でため息を突いた。
これが鹿目まどかの性分なのだ、困っている人が善人であろうが悪人であろうが、はたまた人間以外の生物であろうが救いの手を差し伸べようとする、それが彼女だ。
「あなたは本当に優し過ぎるわね……仕方ないわ、私も手伝ってあげる」
「え!? 本当!?」
「あのナルシストバカに貸しを作る絶好の機会だし、あなた一人であの巴マミの所には行かせないわ」
「ありがとう“ほむらちゃん”!」
「……」
こちらに笑顔でお礼を言う来たまどかに、ほむらは横になったまま咄嗟に顔を背ける。
彼女にとってまどかは大切な想い人、そんな彼女に笑顔でお礼を言われしかも“ちゃん付け”で呼ばれては……
(……ヤバい、うっかり鼻血が出そうになったわ。恐ろしいわこの天使)
「どうしたのほむらちゃん?」
「なんでもないわ」
鼻を押さえながらそう言うと、ほむらは冷静を装いながらまどかの方に顔を見上げる。
「ところであなた、巴マミが何処に住んでいるとかわかるの?」
「あ、そうか……確かさっきキュウべぇを連れて家に帰るとか行ってたっけ……」
「学校に戻ればわかると思うわよ、担任の教師は生徒みんなの住所が書かれた書類を保管している筈だし」
「学校……! わかったじゃあ急いで戻ろうほむらちゃん!」
「待ってまどか、あのダメマスコットを助ける前に、一つ私にやって欲しい事があるの」
「へ?」
行くべき場所はもう決まったのにまだテーブルの下から出てくる姿勢を見せないほむらにまどかが首を傾げると、ほむらは静かに彼女に向かって話しかけた。
「私の顔を踏んでくれないかしら?」
「絶対ヤダッ!!」