何処にも逃げ道のない完全密室の部屋。
首輪を付けられ自由を失ったナルシスト。
状況を把握せずにくつろいでいるストーカー。
部屋の主でありうすら笑みを浮かべるヤンデレ
そして鹿目まどかはというと、今自分が置かれている状況を振り返って見て、テーブルに肘を突いて両手で頭を押さえる。
(家に帰れるかな……)
「どうしたの? もしかして紅茶が気にいらなかったのかしら……?」
「いえ全然! 全然おいしかったです!」
心配そうにまどかに話しかけて来たのはこの部屋を支配する者、巴マミ。
彼女に問いかけられるとすぐにまどかは顔を上げて叫ぶ。
するとマミはすぐに表情をコロッと変えて安堵の笑み。
「ウフフ、そう良かった……ケーキもあるから“時間をかけて”ゆっくりと過ごしましょう」
「ケーキ……?」
「私ね、お菓子作りが趣味なのよ、一人でいる時間が多いから……」
そう言ってマミは自分の背後に置いていた物をテーブルの上に出す。
「少なかったら言ってね、“たくさん余っているのよ”」
「一人分がケーキワンホール!」
目の前に綺麗なデコレーションを付けた、店にあってもおかしくないようなケーキがデカデカと置かれてまどかは目を丸くする。普通なら切り分けて4人ぐらいで食べるワンホールのケーキを、マミはまどか、ほむら、キュゥべぇの前に一つずつ差し出して来たのだ。
「遠慮せずに食べてね」
「キュゥべぇ……コレってマミさんの冗談なの……?」
「全部食べ切ってあげないと彼女泣くよ」
「ハハハ……私も泣きそう……ん?」
誕生日でさえ一人でこんな大きなケーキ食べた事が無い。
ワンホールを目の前にして思わず笑みがこぼれてしまうまどかはフォークを握って覚悟を決めると、不意に何処から視線を感じたのでそちらに顔を上げる。
向かいの席に座っていた暁美ほむらが、こちらをジーっと眺めていたのだ。
(ほむらちゃんがこっちを見てる……あ! もしかして目でなにかを訴えてるの……!?)
(あの子が持ってるフォーク、あれが彼女の口の中に入って舐めつくされるのね、あのフォークになりたい)
(なんだろう、「私に任せて」って事かな……? 私だけじゃキュゥべぇをここから連れて帰るなんて出来っこないし……ほむらちゃんならなにか考えがあるのかも!?)
(あの子の前にあるケーキになるのもいいわね、あの子の口の中に入るどころか胃の中まで堪能できて、そして最後には……)
「ハァハァ……! 私がまどかの……! まどかの……!」
(あ、違う。息が荒くなってるし、きっと私で変な事考えてたんだ)
こちらをじっくり凝視したまま息を荒げるほむらを見てまどかはジト目で見つめ返しながら心の中で呟く。不埒な事でも妄想しているのだろうきっと。
「やっぱり私がマミさんを説得してキュゥべぇを連れて帰らないと……」
「まどか、そんな事無茶だよ。彼女はこのハンサムボーイにすっかり魅了されて数年間僕を監禁したヤンデレだよ? 「ミザリー」という映画を一度観る事をおススメするよ」
「それをおススメするのはどうかと思うよ……。でもそれじゃキュゥべぇまたここに閉じ込められちゃうし……」
「いや僕の事より、君は自分の事を心配した方がいいと思うけど」
「え? う!」
テーブルに座ってマミの手作りケーキを食べながらキュゥべぇがこちらに顔を上げてそう言うと、まどかは背後からゾクッとするような視線を感じた。
恐る恐る振り返ってみると……。
「なんでかしら……なんであなたは“私の”キュゥべぇと仲良く会話しているのかしら……」
「ひ!」
禍々しい目つきでこちらを睨んで来るマミがそこに座っていた。
思わず短い悲鳴を上げるまどかに彼女は座ったまま近寄ってくる。
「キュゥべぇは私だけの友達なのに……!」
「あ、あのその……! すみませんでした!」
「……あ、ごめんなさいつい……」
「へ?」
目をギラギラさせながら顔を近づけて来るマミにまどかはつい咄嗟に謝ってしまうが、急にマミは表情をハッとさせて身を引く。
「私、人を部屋に招き入れるの生まれて初めてでどうしていいかわからなくて……あなたがキュゥべぇと仲良く会話しているのを見てついつまらない嫉妬しちゃったわ……。ごめんなさい、こんな腐った牛乳みたいな先輩で……」
「腐った牛乳という例えがよくわからないですけど……」
「ほんと死んだ方がいいのかもしれないわね、私みたいなぼっち……」
落ち込んだ様子で弱々しくそう言うマミにまどかは頬を引きつらせながら後頭部を掻き毟った。これは一筋縄ではいきそうにない。
(う~ん、どうやって本題に入ろうかな……直接「キュゥべぇ返して下さい」って言ったら駄目だろうし……)
「(ここまで僕の事を考えてくれているとは……さすが僕のプリンセス)ねえまどか」
「どうしたのキュゥべぇ?」
マミに対してなんて言えばいいのか困っている様子のまどかを見て、キュゥべぇは相変わらずの無表情で唐突に話しかけて来た。
「ここは僕に任せてくれ」
「え?」
「君のその愛の力で決心が付いた、まどか、君と僕の力で一緒に巴マミを倒そう」
「いや倒しちゃ駄目だよ! そういう目的じゃないから!」
「なにはともあれ、いつか腹をくくって彼女と話し合う機会が欲しいと思っていたんだ。掛け替えのない君が傍にいるおかげで、僕の中に勇気が湧いて来た。共に戦おう」
「戦うってわけでもないんだけど……」
少々ズレてる気もするが一応キュゥべぇも自分と一緒に話し合いに参加してくれるのはわかった。自分一人でなんとかしようと考えていたまどかにとってはこれは嬉しい援軍だ。
(でもまずはどうやって、マミさんとお話すればいいのかって事なんだよね……う~ん、どっから話せばいいんだろう)
「ヤンデレパワーを凌駕する新たな力、ラブパワーを君から貰った僕に敵はいない、この僕のミラクルスタイリッシュトークで彼女を撃沈させよう」
「なに言ってるのか全然わからないよキュゥべぇ……撃沈ってなにする気?」
「まあまあ、まずは僕にやらせてくれ」
不安に思うまどかを尻目にキュゥべぇは首輪を付けたままテーブルの上をトテトテと歩いてまだ落ち込んだ様子を見せるマミに自分から近づいて行く。
「マミ、少し大事な話があるんだけどいいかい?」
「キュゥべぇ……私を励ましに来たの? 優しいわねあなたは……」
「実は僕……」
こちらに顔を上げて微笑を浮かべるマミにキュゥべぇは一旦言葉を区切ると。
隣に座っているまどかの方へ振り向いてまたマミの方に顔を戻す。
「このデラックスプリティーな少女である鹿目まどかと結婚する事に決めたんだ」
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「……どういう事かしら?」
「いや私もどういう事かわかんないです!」
キュゥべぇの予想だにしない告白に一同固まっていたが、マミが震えた声で尋ねるとまどかも慌ててキュゥべぇの方に言い寄る。だがキュゥべぇは動じずにまどかの方へ振り向き。
「僕は事実を言ったまでだけど?」
「私まだそんな約束してないよ!」
「結果的になるそうなる運命じゃないか、僕とまどかのディスティニープランはとっくの昔に決定済みさ」
あっけらかんとした口調で答えるキュゥべぇにまどかが抗議すると、彼はマミに聞こえないよう声を潜めて彼女に説明する。
「……それに君がここで上手く話を合わせてくれれば僕としても君にとっても都合がいい事になるよ……」
「……いや悪い方向にしか行かない様な気がするよ、どうみてもデッドライン一直線だよ……」
「私のキュゥべぇにお嫁さんなんて……!」
二人がコソコソと会話してる内に、マミはワナワナと体を震わせダンッ!とテーブルを右手で叩く。
「ふざけないで! キュゥべぇは私の大切な友達! 婿になんか出さない! 結婚するなんて断固反対だわ!」
「ほらマミさん怒っちゃった! 昼ドラの姑みたいになってるし!」
「わかってくれマミ、1兆歩譲って君と僕が“友人”であったとしても、僕の中では“嫁”であるまどかには敵わない存在なんだ」
「長年連れ添った関係である私達に勝る絆なんてあるわけないわ!」
「いや長年ここに閉じ込められてただけだから僕、いい加減にしてくれよ、君のベクトルは完全に一方通行なんだよ」
激しい剣幕で怒鳴り散らしてくるマミに対して負けずと冷静に返すキュゥべぇ。
どうやらここで彼女との決着をつけるつもりらしい。
(凄いなぁ、マミさんと普通に会話してるよキュゥべぇ……)
傍目からまどかがそんな感想を抱いていると、さっきから二人を黙って見ていたほむらは突如すっと立ち上がった。
「さっきからなにふざけた事抜かしてるのかしらこの気持ち悪い生命体は、人間でも無いあなたがまどかと結婚するなんて事は儚い夢物語だっていい加減気付いたらどうかしら、まどかの旦那様は私よ、奥様でも可」
「ほむらちゃん……同性同士で結婚出来ないってのも気付いてくれないかな?」
「問題無いわ、日本じゃダメでもオランダなら結婚出来るのよ。さあまどか、こんなの放置して私達はオランダで式を挙げましょう」
「ほむらちゃ~ん、そこで手を差し伸べられても困るよぉ……」
こちらに手を差し出して求婚してくるほむらにまどかは座ったまま引きつった表情で呟く。他国に行ってでも結婚したいとは彼女もかなり“本気”らしい。
そして残念そうに腰を落として座り直すほむらにまどかが頬を掻いている中、キュゥべぇとマミの方はどんどん話が進んでいく。
「酷いわキュゥべぇ! 私と共に過ごした時間は全て遊びだったの!?」
「君の言う遊びは僕を無理矢理監禁する事なのかい? どうかしてるよ」
「だってそうしないとあなた逃げちゃうじゃない!」
「そりゃ居たくもない所に監禁されてたら逃げたくなるさ、トイレに頭突っ込みたくなるさ」
「私がこんなにあなたの事を求めているのに……」
「悪いけど他を当たってくれ、僕は君ではなくまどかを選ぶ。あ、そういやまどかの友人に“美樹さやか”という人物がいるんだけどどうだい?」
「なにちゃっかり私の友達を生け贄に捧げようとしてるの!」
どさくさに自分の友達を売ろうとするキュゥべぇにまどかが身を乗り上げてツッコミを入れていると、マミは目に涙を溜めながら口に手を当てて嗚咽を漏らした。
「うう……一体どうしたというのキュゥべぇ……まさかそこにいる女の子に誘惑されてすっかり洗脳されてしまったというの……?」
「いやいやこれは僕自身の意志だよ、君なんかと一緒にいるより彼女、鹿目まどかと共にいる方が僕にとってずっと幸せなんだ」
「やっぱり洗脳されてるわ、キュゥべぇがそんな事言う筈無いもの……」
首を横に振って全く聞いてくれないマミに、キュゥべぇはやれやれと首を横に振る。
「君はいつだってそうだ、都合の悪い事は耳を塞いで聞こうともしない。わけがわからないよ。僕は散々注意してるのに」
「グス……」
「ここに何年も閉じ込める事が君の愛なら僕はもう御免だよ、君との友達ごっこもこれでおしまいだ、さっさとこの首輪を取ってここから解放してくれ、暁美ほむらは置いといてあげるから」
「そんな……キュゥべぇ……行かないで……」
(なんか別れ話みたいに……ていうかほむらちゃん捨てないでよキュゥべぇ……)
左手で目から次々と出てくる涙を拭っているマミと、そんな彼女を冷たく突き飛ばすキュゥべぇ。
二人を見てまどかはこの気まずい雰囲気を打破する為、キュゥべェに小声で話しかけてみた。
「ねえ、私がマミさんとお話していいかな……?」
「大丈夫かい? 隙を見せたらすぐに泣きながら飛びかかってくるような人間なんだよ彼女は」
「ああうんそれはトラウマ確定だけど……話し合いたいんだ、今のマミさんなら話が通じるかもしれないから」
そう言ってまどかは泣いているマミの前に座る。キュゥべぇとほむらが心配そうに見守っている中、まどかは恐る恐る彼女に口を開いた。
「あのぉ……マミさん?」
「キュゥべぇがいなかったら私また一人ぼっち……もうあんな思いはいやぁ……」
「……マミさん」
両手を顔に当てて子供の様に泣きだす彼女を見てまどかはフッと笑ってゆっくりと彼女に話しかける。
「ついさっき私と友達になって欲しいって言ってくれましたよね?」
「ええ……でも本当は無理だってわかってるのよ……あなたみたいな可愛い女の子がこんなダメ人間なんかと……」
「私と……友達になってくれませんか?」
「……え?」
まどかの一言にマミは顔から両手を離してゆっくりと顔を上げる。
今までそんな事、一度たりとも言われた事が無かった言葉だった。
そして予想だにしなかったまどかの言葉にキュゥべぇは急いで駆け寄ってくる。
「まどか、君は何を言い出すんだい。セクシーキングである僕でさえ理解出来ないよ」
「キュゥべぇ言ってたよね、マミさんはずっと一人ぼっちだったって」
「けどそれは彼女自身が原因だ。彼女は人に対して臆病で、いつも殻に閉じ込めっているから……」
「じゃあ私がその殻を開けてみる」
こちらを見つめるマミに対して言う様に、まどかははっきりとした口調でキュゥべぇに答えた。
「私、なんの取り柄も無いただの女の子だけど。マミさんの気持ちわかる気がするんだ」
「……」
「誰だって一人は恐いしね」
「私も恐いわまどか、恐いから抱きしめて、思いっきり抱きしめて一つになりましょう」
「ほむらちゃんはちょっと黙ってて、頼むから」
「ドライなまどかもたまらないわね」
両手を広げて抱き締めろというポーズを取るほむらにまどかは振り向かずに返す。この状況で相手にしてられない。
「監禁とか首輪とかそういうのは嫌ですけど……私、マミさんと普通にお友達になりたいと思ってます」
「……そ、それは本当……?こんな私と?」
「はい」
まどかよりも身長のあるマミが縮こまっているのでまどかよりもずっと小さく見える。
躊躇も見せずに即決で返事をしてくれたまどかに彼女は少々困惑した様子で辺りをキョロキョロと見渡した後、震えた声でまどかに話しかけた。
「昼休みに私と一緒にトイレでお弁当食べてくれる……?」
「そこは屋上で食べませんか……?(なんでトイレで?)」
「体育の時間で二人組作る時に私の相手になってくれる……?」
「私、マミさんの学年の一個下なんですけど……」
「今年の修学旅行で京都行くんだけど……一緒の班になってくれる……?」
「いやだから学年が違うんですって! 場違いですよ私がそこにいたら!」
マミの数々の無茶な頼み事につい大声でツッコミを入れてしまうと、まどかは額から流れる冷や汗を手で拭いながら苦笑する。
「……出来る限りはマミさんに協力しますから……」
「本当に? 本当の本当に?」
「本当の本当の本当にですよ」
人差し指をつまんだままジーッと不安そうな表情でこちらを見つめるマミにまどかは何度も頷いて見せた。
年齢はマミの方が一個上の筈なんだが……これでは完璧まどかの方が“頼もしい先輩”だ。
「だからキュゥべぇの事はもう解放して上げて下さい、首輪とか付けなくても、たまに私がここにキュゥべぇと一緒に遊びに来ますから」
「え? まどかそれマジで言ってんのかい?」
すっかり他人事のだという風に一人マミのケーキにがっついていたキュゥべぇがキョトンとした様子でこちらに顔を上げた。
物凄く嫌そうな雰囲気だがまどかは少し強めの口調で彼に言葉を返す。
「それぐらい約束して上げてよ、マミさんにとってキュゥべぇは一番大切な人なんだからね」
「ハァ~しょうがない、まあ僕のマイエンジェルであるまどかが彼女に監禁されるよりはマシだしね、いいよ、その契約で」
「本当にキュゥべぇは私の所へまた来てくれるの……?」
「さっきから本当に本当にって疑り深いね君も、嫌々だけど行くよ全く」
ビクビク震えながら尋ねて来るマミにキュゥべぇはプイッと顔を背けてそう返事した。
彼の答えを聞いてマミは再びまどかと向き直る。
「でも私みたいなウジ虫とお友達になっても面白くない筈よ……それでもいいの?」
「ウジ虫!? いやそんなことないですって! ねえほむらちゃん!」
「確かにさっきからナヨナヨしててまるで死にかけのウジ虫みたいね」
「……」
「ごめんなさいまどか、調子乗ってたわ……反省するから睨まないで」
急にまどかに話を振られても冷静に対応するほむらだがすぐに彼女に向かって頭を下げて謝る。
こちらに振り返ったまどかに睨まれたのが恐かったらしい。
そしてまどかはすぐに元の表情に戻ってマミと顔を合わせる。
「私、鹿目まどかって言います、こっちが暁美ほむらちゃん」
「鹿目さんと暁美さん……?」
「年下だし頼り無い所もありますけど、これからよろしくお願いします」
「……」
名を名乗りこちらに頭を下げて来たまどかにマミは神妙な面持ちで固まる。
初めて家に、初めて自分の部屋に上がってくれた同年代の女の子。
そんな子が自分と友達になってくれようとしてくれている……。
「嬉しいわ、こんな子と巡り会えるなんて……キュゥべぇがいなくなったショックで死に場所を探していた私にも希望があったのね……」
「え、死に場所!? もしかして死ぬ所探す為に喫茶店に来てたんですか!?」
「人生をログアウトしなくて良かったわ、この事はお母さんとお父さんにも報告しなきゃ、今日の晩御飯は赤飯ね、それと……」
両手を合わせて嬉しそうに言うマミにまどかが驚いていると、マミはすぐに彼女の隣にあるテーブルの上に立っていたキュゥべぇに両手を伸ばす。
「“コレ”を取っても、私を一人ぼっちにしないでねキュゥべぇ……」
「さあてね、今後の君次第だ」
彼の自由を拘束していた頑丈な首輪がカチャリと音を立てて外れた。
ようやく窮屈な首輪が外れてキュゥべぇは思いっきり首を横に振ってポキポキと音を鳴らす。
「助かったよまどか、これで僕は再び自由に大空を駆ける事が出来る」
「キュゥべぇ飛べたっけ……? もしかしてその耳に生えてるのが……」
「いやいや言葉のあやだよあや、それよりまどか」
疑問視するまどかにキュゥべぇが首を鳴らしながら答えると彼は彼女の方へ振り向いてふと一つ頼み事をした。
「悪いけど君と暁美ほむらは席を外してくれないかな? “彼女”にちょっと話があってね」
「それってキュゥべぇがマミさんとだけ話したい事があるって事?」
「そんな所かな、君達はリビングに行っててくれ。すぐに終わるから」
不意にマミと二人で会話したいと言うキュゥべぇにまどかは内心驚く。
彼にとって巴マミという存在は最も脅威と断定されているのに、そんな彼女と二人っきりで話したいとその彼自身が言ったのだ。
不思議だと思いながらもまどかはとりあえずマミの方へ振り向く。
「あの、いいんですかマミさん?」
「え、ええ……」
キュゥべぇの計らいにマミも動揺するがまどかにコクリと頷くと立ち上がり、自分でしか開けられないドアをカチャリと開ける。
「リビングは一番奥よ」
「わかりました、ほむらちゃん行こう」
「ほむほむ」
「口の中に何入れてんの……? あ、マミさんのケーキ食べてんだ……」
「ほむほむ」
「ちゃんと口の中の物食べてから喋ってよもう……あぁもう口の周りにホイップクリームがたくさん、ティッシュ貸すからほら取って……」
口の中でマミが作ってくれたケーキを食べながら部屋から出て行くほむらにまどかも呆れた様子で後をついて行く。
二人がリビングに行ったのを確認した後、マミはゆっくりとドアを閉めた。
「……」
「驚いただろ、正直僕自身も驚いている。まさか君と友達になりたいなんてね、まどかには本当にビックリだよ」
キュゥべぇの方から話を振られたのでマミは若干戸惑った様子を見せるも、すぐに彼の方に振り返ってドアを背に立ったままテーブルの上に座っている彼に話しかける。
「……彼女は何者なの?」
「それは僕にもわからない、この星に来てから色んな人間を見て来たけど、正直彼女のような人間は初めてだ」
彼はマミに淡々と語りだした。自分から見た鹿目まどかという存在を
「わかる事があるとするならば鹿目まどかは常に他人の幸せを喜び、他人の不幸を悲しめる事が出来る人間だ。言うのは簡単だけど、こんな人間滅多にいるもんじゃないよ?」
「そうかもしれないわね……」
「おまけに可愛いしね、それにああ見えて“意外な趣味”も持ってるし。そういう所も可愛いんだよホント」
「……キュゥべぇは彼女の事が大好きなのね」
「そうだね、デラックスセクシーバーストな僕があそこまで好きになる人間は初めてだ、2位は福山雅治」
無表情ながら楽しげに話してくれるキュゥべぇ。
初めて見たそんな彼を見てマミはフッと笑う。
「私なんか全然敵わないって事か……」
「敵うもなにも君なんかまどかと同じ土俵にも立てないよ。なにを考えてるんだい全く」
「そうよね……ごめんねキュゥべぇ、今までこんな私と付き合ってて」
「……」
泣きそうな表情ながらもこちらに笑いかけてくるマミに対し、キュゥべぇはそっと彼女に背を向けた。
「謝るのが遅いよ、こちとら何年君と無駄な時間を費やしたと思ってるんだい、どれだけ慰謝料貰っても足りないよ、トラウマ何個も抱えちゃったし、ドリルを見ると君を思い出したりするんだから」
「本当にごめんなさい……」
「けど、ま……不本意だけど君とは長い付き合いだ。ずっと一人で生きて来た僕にとっては、君と過ごした時間はある意味貴重だったかもしれないね……楽しかった事もあったかもしれないし」
「え?」
「正直、僕は君の作るケーキは嫌いじゃなかった、君も」
しゅんとしていたマミがその言葉を聞いてハッとして顔を上げると。
背を向けていたキュゥべぇがいつの間にかこちらに振り返っていた。
「たまに遊びに来てあげるよ、このセクシーな僕が君なんかの所に行くんだから光栄に思うんだね、ちゃんとケーキ作って待ってるんだよ」
「キュゥべぇ……」
「そん時はまた君の下らない話の相手ぐらいしてあげるさ、君の話をまともに聞いてあげるなんて僕ぐらいしか出来ないしね、まどかに君のつまらない愚痴を聞かせたくないし」
「うん……お願いね……」
それを聞いて安心したかのように
マミは立ったまま両目を手で隠し、嗚咽を漏らす。
そして彼との時間過ごした時間を一つ一つ思い出して行く。
『キュゥべぇ~帰って来たわよ~』
『ぐえ、ウォーターボーイズ観てるんだから邪魔しないでくれないかい……』
『キュゥべぇ、私今年から中学生よ。今度こそ友達作れるかしら?』
『君がもうちょっと積極的になれば作れるよそんなモン、中学デビューでもやってみればいい』
『キュゥべぇ、ゲームしましょう。お母さんが買って来てくれたの』
『いいけど二人で人生ゲームをやるって凄い悲しいよ……君にパーティゲーム買ってあげるお母さんもお母さんだけど』
『キュゥべぇ~……私やっぱ駄目だわ、全然人と話せない……』
『またかい。全く君はいつもいつも、どうしてそんなに人を恐れるのかわけがわからないよ、僕と話すみたいに会話すればいいんだよ普通に』
『キュゥべぇ! 昼休みの時に必殺技の名前考えてたの! 例えばね! ティロ・フィナーレ!』
『なんの必殺技だいなんの、君はなにと戦う気なんだい?』
『キュゥべぇ、あなたは一生離さないわ……』
『いや僕は離れたいね君とは……あ、早くケーキ作ってくれないかい? 誰かさんに監禁されているせいでお腹減ってるんだ』
「キュゥべぇ……もうなにも恐くない……本当にありがとう……」
数十分後、キュゥべぇは今、まどかの肩に乗ってマミの住むマンションから出て来た。
「ほむらちゃんと二人でリビングにいたら「やっと二人っきりになれたわね」って押し倒されそうになって大変だったよ……」
「嫌がるまどかに一杯ビンタされて最高だったわ」
「暁美ほむら、君はそろそろ病院にでも刑務所にでも収監されたらどうだい?」
まどかの肩に乗ってる状態でキュゥべぇは顔がヒリヒリと赤くなっているほむらに首を傾げると、彼女が両手に持っている大きなビニール袋に目を向ける。
「それ一人で全部食べたら君は間違いなく太るね、ボンレスハムになる君が待ち遠しいよ」
「うるさいわナマモノ、こっちがお断りしたのに巴マミに無理矢理持たされたのよ」
ほむらの両手にはケーキが入った箱が一つずつ入っているビニール袋がしっかりと握られていた。帰る時にマミから貰ったものである。
まどかも彼女と同じくマミにケーキを渡されていた。
「私も一杯貰っちゃった、まさかケーキワンホールを四つも貰っちゃうなんて……」
「家族にお土産が出来たねまどか」
「4人家族だから一人一個だね……キュゥべぇには私の半分上げるよ……それにしてもマミさんって本当にケーキ作るのが好きなんだ……」
「普段やる事無いからね彼女は、学校に行く時以外はいつも家に引き籠ってるし」
「ホントにキュゥべぇはマミさんの事ならなんでも知ってるんだね」
「止めてくれよ。知りたくも無いのに知ってしまっただけさ」
キュゥべぇは嫌そうにボソッとそう呟くとふと空を見上げる。
夕日が沈んでいく、彼女と初めて会った時のように……
「まどか、本当にいいのかい。マミと付き合ってもきっとロクな事にならないよ?」
「大丈夫だよ、私マミさんの事好きだよ、ちょっと変わってるけどそういう所も含めて。それに……」
「マミさんはキュゥべぇの大切な友達だもんね」
「…………さあどうだろうね」
落ちていく夕日を眺めながら二人と一匹はのんびりと家に帰っていく。