僕がいちばんセクシー   作:カイバーマン。

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5ステップ バカ薔薇行進曲

 

鹿目まどかはキュゥべぇと共に我が家へと帰る途中であった。

 

「キュゥべぇ、最近さやかちゃんが元気ないんだよ。どうしたんだろう」

「え? そうなの? いつも通り授業中にいびき掻いてよだれ垂らしてアホみたいに寝てたじゃないか、しかも歯ぎしりのトッピング付きで」

「いや授業中の時じゃなくて普段のさやかちゃんだよ……授業中のさやかちゃんもどうにかしたいけど……」

「ん~、僕としてはアレが元気だと僕とまどかの一時を邪魔してくるからうっとおしくて仕方ないんだ」

「そんな事言わないでよ……そういえば仁美ちゃんとなんかギクシャクしてた様な気がするんだけど……もしかして喧嘩でもしたのかな?」

「女なんて「私達は友達!」って言っても裏はどうかわかったもんじゃないからね、まどかが見てない所で彼女達の陰湿な攻防戦が繰り広げられてたりして」

「ドラマ観過ぎだって!」

 

肩に乗っかっているキュゥべぇとそんな他愛も無い会話をしていると、まどかは家の近くにある公園の前へ差しかかる、するとふと公園の中に“妙な物”がある事に気付いた。

 

「あれ? なんだろあのダンボールのゴミ山? あんなの朝あったっけ?」

「公園に不法投棄でもしたんじゃないのかい、最近ニュースでやってるだろ。川や公園にコソコソとゴミ捨ててエスケープする人が多発してるって。美しくないねホント」

 

公園の端っこに置かれた大量のダンボールで作られたゴミ山、キュゥべぇが誰かが捨てたのだろうと言うとまどかはすぐさま公園の中へと入って行く。

 

「公園で遊ぶ子供達に迷惑だし何処か捨てていい場所に持って行こうか」

「え~まどかは関係無いだろ、スル―して問題無いじゃないか。家に帰ってスマブラやろうよ」

「ダメだよ、こんなの捨てられてたら公園で遊ぶ子達に邪魔だもん、私もたっくんとよくここで遊ぶし」

「君はどんだけ母性に満ち溢れてるんだ。マスター、このビューティフルハニーに店の中で一番高いワインを一つ」

「ど、何処にマスターがいるの……?」

 

キュゥべぇとそんな会話をしながらまどかは公園内にあったダンボールのゴミ山に近づいて行った。

よく見るとゴミ山の中にはダンボールだけではなく色々な物が混じって置かれている。

 

空になってる大量のお菓子の箱がほとんどだが、中には日常品として使う様な物もあった。

 

「歯ブラシとかコップまであるよ、どうしてこんな物をわざわざここに捨てちゃうのかな?」

「やれやれ、不法投棄者には燃えるゴミも燃えないゴミも関係無いんだね。いっそ自分が燃えるゴミになってしまえばこの星のエコ活動に貢献できるのに」

「キュゥべぇってたまに人間にえぐい事言うよね……」

 

ゴミ山の前へしゃがみ込んでまどかがそこに置かれている様々な物品を探り始めた、キュゥべぇも彼女の肩から降りてゴソゴソとゴミ山の中を探索する。

 

するとそんな一人と一匹の背後から、ズンズンと何者かが足音を立てて近づいてくる気配が……。

 

「あァァァァァァァ!!!」

「うわ! な、なに!?」

 

後ろからいきなり叫び声を上げられたので、しゃがみこんでいたまどかはビックリして前のめりに両膝と両手を地面に突いてしまう、彼女がすぐ様後ろに振り返ると

 

「テメェここでなにしてんだ! アタシの家がバラバラじゃねえかぁ!」

 

自分とさほど年の変わらない赤毛の少女が口に棒付き飴を咥えて激昂しながら立っていた。

何故か右手には不細工な出来で作られた質素な槍が握られている。

そんな少女を前にしてまどかは両手を地面に突いたまま口をポカンと開けた。

 

「え? 家……?」

「もしかしてアタシの家ぶっ壊しのテメェか!?」

「え、これ家だったの!?」

 

どう見てもゴミの山としか認識できなかったこのダンボールの残骸は、どうやらこの赤毛の少女の“家だった物”らしい。

激しい剣幕でこちらに近づきながら彼女は右手に持つ槍をビシッとまどかの前に突き出す。

 

「この“佐倉杏子”の城を倒壊させるなんて真似をよくもしてくれたじゃねぇか! ただで帰すと思うんじゃねえぞ!」

「こ、これ壊したの私じゃないよ! あとそれ危ないからこっち向けないで!」

 

いきなり槍を突き出された事に慌てふためた様子で両手を振って誤解だと叫ぶまどか。

そしてそんな彼女の下にタイミングよくキュゥべぇがダンボールのゴミ山から帰って来た。

 

「まどかまどか、ゴミ山の奥底に未開封のポッキーあったよ。食べれるかな?」

「キュゥべぇ大変だよ! 実はコレってこの子の……!」

「ゲ! なんだそのナマモノ!?」

 

いきなりポッキーの箱を頭に乗せて出て来た紅目の白い珍獣に、赤毛の少女はすっときょんな声を上げる。そしてすぐに警戒するようしながら槍先をそっちに向けて

 

「テメェ何モンだ! そのポッキー食べたら殺すぞ!」

「なんだいこの品の無い娘っ子は? そんな物を向けて僕をグレイトフルセクシーと知っての狼藉かな?」

「ぐ、ぐれいと……? 何言ってんだコイツ?」

「ああ気にしなくていいから……それよりちょっと説明させてくれないかな……」

 

槍を向けられても全く動じずにいつもの調子でキュゥべぇは一言。

知らない単語を使われて首を傾げる少女に。

まどかは苦笑しながら事の経緯を語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえずまどかはこの佐倉杏子という少女と共に公園のベンチに座って丁寧に説明をした。

自分達がここに立ち寄った頃には既に彼女の家(?)は壊れていたと。

そしてこのナマモノは宇宙からやってきた地球外生命体だと

 

「わかってくれたかな?」

「前者は信じてもいいが後者は信じらねえよ……」

「え、なんで!?」

「なんでじゃねえよ! 宇宙からやって来たってそれってつまり宇宙人って事だろ!? そんなもん信じる方がおかしいっつーの!」

 

まどかの膝に乗っている珍妙な生き物を指さして少女こと杏子はビシッと指を突きつける。

確かに非科学的な宇宙人の存在を信じろと言われてもそう簡単に信じれる訳が無い。

そんな彼女にまどかはキュゥべぇを見せつけるように両手で持って尋ねた。

 

「でもこんなの見た事無いよね? しかも喋るんだよ」

「う……まあ確かに見た事も無いしアタシ達と喋れる時点で変なのはわかってたけどさ……」

「やあ僕の名前はキュゥべぇ、この世で最もセクシーな宇宙人さ。好きな物は自分を含む美しい物と鹿目まどか。嫌いな物は美しくない物と暁美ほむらさ」

「聞いてねえよ! ああわかったわかった! とりあえずアンタ達が私の家を壊したんじゃないって事と! そのちんちくりんな生き物が宇宙人だってのもとりあえず信じてやる!」

 

まどかに宙ぶらりんさせられたままペラペラと自己紹介するキュゥべぇに杏子は手をパタパタと振ってとりあえず信用して上げる事にする。

 

「なんだよコイツ……。お前なんでこんなの飼ってるんだよ、ペットショップで売れ残ってたのか?」

「キュゥべぇとは道の途中で偶然会ったのがきっかけなんだよね」

「ラブコメの王道さ」

「宇宙人って自称してる割に妙な言葉覚えてやがるな……」

 

胡散臭い目つきでジトーとキュゥべぇに視線を送った後、杏子はさっきキュゥべぇが自分の家から取って来たポッキーの箱を開ける。

 

「まあいいや、アタシの名前は佐倉杏子≪さくらきょうこ≫ってんだ。よろしく」

「あ、私鹿目まどか」

 

律義に自分の名を名乗ってくれたのでまどかも素直に自己紹介する。

だがキュゥべぇは杏子の名を聞くと小首を傾げ

 

「“さくらあんこ”か、なんだか甘ったるい名前だね」

「杏子≪きょうこ≫だ! なんで名前聞いておいて間違えるんだよ!」

「で、あんこはこんな所に何しに来たんだい?」

「ああテメェ私に喧嘩売ってたのか。悪い気がつかなかった、上等だかかってこいよ」

「落ち着いてあん……杏子ちゃん!」

 

わざとらしく名前を間違える彼にイライラした様子でベンチに掛けていた槍に手を伸ばす杏子にまどかが慌てて止めに入る。やはり第一印象通りに喧嘩早い女の子らしい。

 

「チッ、変なのと会っちまったなぁ……しかもアタシの城が壊れちまったし……多分この辺に住むクソガキ共だな……」

「あれ? 杏子ちゃんはこの辺に住んでる人じゃないの?」

「いんや、アタシが住んでたのは隣町……じゃなかった。そ、それはそれは遠い所だよ……アハハハハ」

「?」

 

誤魔化す様に頬を引きつらせて笑って見せる杏子にまどかは眉をひそめるも、杏子は悟られないよう持っていた箱からポッキーを一本取り出すとすぐに話の路線を変える。

 

「遠い所からはるばるやってきたんだよ、家出してな」

「え! 家出!?」

「そうそう」

 

軽い感じで告白する杏子にまどかはすっときょんな声を上げる。

いきなり目の前に槍持って現れた少女がまさかの家出少女。まどかは驚きを隠せない。

 

「家出なんてどうして……!」

「アタシにはやる事があんだ」

「やる事?」

 

取り出したポッキーを口に咥えたまま杏子は空を見上げた。

真剣な表情を浮かべる彼女をまどかはただ見つけるだけ。

きっと自分には予想できないような重い試練が彼女に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……金持ちになりたい」

「へ?」

「すっげぇ金持ちになりたい! んで貧乏生活から脱出したい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いきなり叫び声を上げると杏子はきょとんとしているまどかを尻目に、彼女はベンチからガタっと立ち上がってこちらに振り返った。

 

「アタシの親父って教会の牧師さんやってんだけどよ! 親父の教えの方法が普通の牧師さんとちょっと違うだけでさ! 信者が寄りつかなくて全然収入がねえんだよ! そのせいでウチは超ド級の貧乏なんだよ!」 

「そ、そうなんだ……」

「朝ごはんと昼ごはんが林檎一個だぞ!? 育ち盛りのアタシにはやってらんねえよ! 林檎好きだけど!」

 

激しい剣幕で叫んでくる杏子にまどかは思わずたじろぐが彼女の演説はまだ終わらない。

 

「だからさぁ! アタシは決めたんだよ! こうなったらアタシの力で金を稼いで家族を楽させるしかないんだってな!」

「いやなんでそうなるんだよ」

 

キュゥべぇのツッコミも無視して杏子は天を見上げ拳を構える。

 

「金持ちになれば学校の奴等からもう貧乏人だって馬鹿にされねえからな! だからアタシは思い切って家を出たのさ! 金をすげーたくさん稼ぐ為に!」

 

グッと握りこぶしを作る杏子。

どうやら彼女は家が貧乏なのに不満を感じ、意を決して金を稼ぐ為に家から飛び出してここに来たらしい。

だがまどかはそんな彼女に「う~ん」と顔をしかめる。

 

金を稼ぐと言っても自分とさほど変わらない年齢であろう彼女が一体どうやってこの社会でお金を稼ぐのか?

 

「でも杏子ちゃんはどうやってお金稼ごうとしてるの?」

「デッカくなる!」

「いやぁデッカクなるって……なにが?」

「いやだから! とりあえずなんでもいいからなにかでデッカクなるんだよ! そうすれば有名になってお金一杯貰えるじゃん!」

「……」

 

見れば見るほど輝かしい表情でなんの疑いも無くそう断言する杏子。

あまりにも非現実的なプランを述べる彼女に、さすがにまどかも言葉を失っていると彼女の膝に乗っかっているキュゥべぇが一言。

 

「君は途方もない“バカ”だな」

「なんだとぉ!!」

「キュゥべぇそれは言い過ぎだよ……」

「いやいや、これでもオブラートに包んで上げてるよ僕は?」

 

声を潜めて注意してくるまどかにキュゥべぇはしれっとした口調で返していると、杏子は脇に置いていた自前の槍を拾って噛みつくように叫ぶ。

 

「へん! 言っとくけどなぁ! バカって言う奴がバカなんだよ!」

「いやそれをドヤ顔で言う君の方が明らかにバカなんじゃないかと僕は思う」

「うるせえバカ! 言っとくけどアタシは食べ物を粗末する奴とバカにする奴が一番ムカつくんだ!」

 

自信たっぷりの表情でうすら笑みを浮かべる杏子にキュゥべぇが冷静に言うと、すぐに彼女は怒り狂って槍を地面に突き立てる。

 

「アタシのどこがバカか言ってみろ!」

「360℃あらゆる角度から見てもバカだけど、とりあえずその手に持ってる“槍”はなんだい? それ持ってると君の背後に浜口優が見えてよりバカに見えるよ」

「私もいつツッコもうかと思ってた……」

 

キュゥべぇがまず注目したのは彼女の手に持つ槍だった。

彼女が自分で作ったのかかなり雑な仕上がりになっている。

まどかも彼と一緒に疑問を感じていると杏子は手に持った槍を一瞥する。

 

「あ、コレか? コレはアレだよ、決まってんだろうが」

「いや決まってないよ、杏子ちゃんの中でしか決まってないよ」

 

得意げに槍を振りかざしながら杏子は引きつった表情を浮かべるまどかに八重歯を出して笑いかける。

 

「カッコいいだろ?」

「え、え~……」

「この辺歩いてたら丁度いい棒っきれと尖った石拾ってさぁ、蔓で上手く結んで作ったんだよ。アタシ図工と体育が得意なんだ。カッケェよなぁコレ、川で魚もつけるぜきっと、「獲ったどー」って」

「君が裸で洞窟暮らしてた文明の人と大差ないのはわかったよ、是非濱口と一緒に魚でもマンモスでも狩っててくれ」

 

キュゥべぇをスル―して嬉しそうにはしゃいで槍を自慢げに見せつけて来る杏子に、まどかは何も言えずにただジト目でその槍を眺めるだけ。

 

(杏子ちゃんってほむらちゃんやマミさんと全然違う違うタイプだなぁ……ワイルド系って言うのかな?)

 

そんな風にまどかが感じている頃、杏子はふと後ろに振り返りダンボールの残骸に視線を送って「あ」と現状を思い出し、すぐに「ハァ~」とため息を突き始めた。

 

「どうしようっかなぁ……アタシがせっかく作った家はどっかの悪ガキに壊されちまったらしいし……」

「あそこにあるダンボールの山も、本当に杏子ちゃんが作った家だったの?」

「おうよ、コンビニでダンボール貰って作ったんだ」

 

槍を小脇に抱えて持っていた箱から次々とポッキーを出して食べながら杏子はふふんと笑って答える。随分と表情がコロコロと変わる、キュゥべぇやほむらとは大違いだ。

 

「すげぇ会心の出来だったんだぜ? ったく腹立つなぁ、一体どこのガキだよ……」

「ハハハ、公園にはちいさな子供がいっぱい集まるからね、面白がって壊しちゃったのかも」

「仕方ねえ……また一から作り直すか」

 

ボリボリと髪を掻き毟りながらポッキーを咥えて杏子がそう言うと、彼女の後姿に向かってまどかは難しい表情を浮かべる。

 

「他人の私が言うのもなんだけど……やっぱり家に帰った方がいいんじゃないの?」

「え~やだよ、アタシはもう一人で生きて行くって決めたんだから」

「だって杏子ちゃんには家族がいるんでしょ?」

「いるよ、アタシより出来のいい妹と口うるさいお袋と頑固な親父がな」

「心配してるよきっと……」

「は、するわけねえじゃん。むしろ食いぶちが減って喜んでんじゃねえの?」

 

顔をしかめて杏子はクルリと踵を返してまどかの方に振り返る。

 

「妹なんかさぁ、アタシが家を出て金持ちになってくるって言ったらなんて言ったと思う? 「バカな事言ってないでお母さんの内職手伝って」だぜ? ひっでぇよな、それが姉に言う事かよ」

「そうかな? いい妹さんだと思うけど」

「そ、そうか? まあちょっとしつこい所あるけど……よくよく考えれば親思いな所があるかな? ヘヘヘ」

 

素直に自分の妹をほめられた事がつい嬉しかったのか、杏子は照れ隠しなのか鼻の下を指で掻く。だが口もとにこぼれる笑みは隠しきれていない。

 

「最近はお袋に習って料理も覚えたからな~、アタシは食う専門だから興味ねえけど。妹は色々作れっけど、アタシはカップラーメンぐらいしか作れねえんだよ、ハハハハハ」

「姉妹ってのは片っぽがダメだともう片方がよくなるんだよ、上手くバランス合わせてるんだよ。世の中そういう仕組みなのさ」

「お前はそろそろ串刺しにしてやろうか?」

 

まどかの膝に乗っかっているキュゥべぇがまた余計な事を言うので杏子がカチンと頭に来て小さな殺意が芽生え始めている頃、まどかは神妙な面持ちでそんな彼女を眺める。

 

(杏子ちゃんの家族。杏子ちゃんが帰って来なくて心配してるんだろうなぁ……でも杏子ちゃんはなに言っても聞き耳持たないだろうし……あ、そうだ)

 

いい事思いついたかのように手をポンと叩くとまどかは杏子に早速口を開いた。

 

「ねえ杏子ちゃん」

「なんだよ、家には帰らねえぞ」

「ううん、杏子ちゃんが自分の家に帰りたくないならそれでいいよ」

「はぁ? なんだよ急に。さっきまでアタシを家に返そうと必死だったクセに」

 

フルフルと首を横に振るまどかに杏子が「?」と首を傾げると、まどかは意を決して彼女に尋ねて見る。

 

「杏子ちゃん、今日私の家に泊まりに来ない?」

「は、はぁ!?」

「だって寝る場所無いんでしょ? だったらウチに来たらいいよ」

「いや確かに寝る場所ねえけど! ア、アタシとお前会ったばかりだぞ!?」

 

唐突な誘いに杏子は戸惑いを隠せない、そりゃあそうだ、会ったばかりの女の子の家にいけしゃあしゃあと上がり込むなんて真似出来る訳が無い。

まどかの膝にいるキュゥべぇもまた彼女の方に顔を上げる。

 

「そうだよまどか、なんでこんな芋臭い娘を僕等の愛の巣に入れなきゃいけないのさ、僕は反対だよ」

「でも女の子をこんな所で野宿させる訳にはいかないよ。パパもママも言ったらきっとわかってくれるし、いいでしょキュゥべぇ?」

「……君の慈悲深さとおねだり顔は本当に女神クラスだね……そろそろ後光が差すんじゃないかい?」

 

懇願してきた彼女にキュゥべぇは戦慄を覚えながらボソッと呟くと仕方ないと言う風に「はぁ~」とため息を突いた。

 

「わかったよ、君の好きにすればいい。この銀河系並に器の広い僕に感謝するんだね、さくらあんこ」

「佐倉杏子だつってんだろコラ」

 

間違いなくわざと名前を間違えているキュゥべぇに杏子は軽く睨みつけた後、手に持っていた槍に寄りかかって顔をしかめた。

 

「会ったばかりのアタシを簡単に家に上げようとするなんてどうかしてるぞお前? アタシが実は超極悪人だったらどうするよ?」

「そんな事無いよ、杏子ちゃん家族思いのいい子だし」

「バ、バカ! 家族なんてどうでもいいっつーの! アタシは一匹狼になるって決めたんだ! 金持ちになってアイツ等見返してやるんだ!」

 

恥ずかしそうに顔を赤らめてプイッとそっぽを向く彼女を見てまどかの口もとに自然と笑みが出来る。やはり彼女は“嘘はつくのがヘタ”らしい。

 

「あ、そうだ。杏子ちゃん、晩御飯食べた?」

「た、食べてねえよ……しかもこのラスト一本のポッキーが最後の食料さ。やば、そんな事言ったら急に腹が減ってきやがった……」

 

箱から最後のポッキーを取り出すと、ギュルルルルと腹の音を鳴らして恨めしい目つきでそれを眺めている杏子に、まどかはチャンスとばかりに釣り糸を垂らした。

 

「私のパパ料理凄い上手いんだよ、食べていったらいいよ」

「ほ、本当か!?」

「うんいいよ、だからウチ行こっか」

「おう! 早く行こうぜ!」

(うわ凄い簡単に釣れた)

 

釣り糸を川に垂らした瞬間、すぐにバクッと食いついて来た杏子の単純さにまどかが内心驚きながらも、とりあえず彼女がウチに来ると決めてくれたのでホッとする。

 

「よかった、じゃあ行こうか。その槍は持って行くの?」

「おう! これはアタシの武器だからな!」

「ハハハ……玄関に置いとけば大丈夫だよね……」

 

これ見よがしに槍を掲げる杏子にまどかが苦笑しながら立ち上がった。

すると彼女の膝から肩に移動したキュゥべぇが杏子の方に目をやる。

 

「やっぱり不安だなぁ僕は、こんなバカコンテスト殿堂入りチャンピオンを鹿目家の家に招待するなんて」

「大丈夫だよきっと、杏子ちゃんいい子だし」

「そうかなぁ、ま、君の旦那様である僕はここは素直に肯定する事にするよ」

「キュゥべぇの旦那発言は否定するけどね」

「……段々ツッコミの腕が上げてないかい、まどか?」

 

すかさずツッコミを入れてくるまどかにキュゥべぇが小首を傾げていると、二人の目の前に立っていた杏子がふと最後の一本が入ったポッキーの箱をひょいと得意げにまどかに差し出す。

 

「食うかい?」

「あ、ありがとう。でもコレ最後の一本じゃないの?」

「いいよ別に、金持ちになる野望が成功すればこんなもん大量に食えるしな」

 

二カッと笑いかけて来た杏子に釣られて思わずまどかも微笑んでしまう。。

佐倉杏子の優しさが垣間見えた瞬間であった。

 

彼女の餞別に感謝しつつまどかは彼女が持っている箱からポッキーを一つ取り出すと、すぐにひょいとそれを口に咥えて嬉しそうに杏子に話しかける。

 

「ハハハ、杏子ちゃんの真似~」

「ハハ、これでお前もアタシに一歩近づいたな、それじゃあ行こうぜ。道案内してくれ」

「うん」

 

ポッキーを咥えてキュゥべぇを肩に乗せて、鼻歌交じりに歩き出すまどかの後に杏子が自前の槍を肩に掛けてついていこうとしたその時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鹿目さんとキュゥべぇのいる家にお泊り……私だってまだ彼女に家に上がった事が無いのに……なんで……どうして……やっぱり私はいらない子なのね……」

「あんなにイチャイチャイチャイチャとまどかと……羨ましい、そして妬ましいわ……」

「う!」

「え? どうしたの?」

「い、いや大丈夫だ……(なんだ、急に悪寒が……)」

 

背後にある木の影から複数の声が聞こえたような気がしたが……杏子が振り返っても底には誰もいない。

それが更に彼女を気味悪がらせる。

 

「おいおい……お化けとかそういうのは勘弁してくれよ……夜中トイレ行けなくなっちまう……」

「ほら杏子ちゃん行こう」

「モタモタしてないでついて来なよ、全くこれだからバカは」

「誰がバカだコラァ! てかバカは関係ねえだろ! いい加減にしねえとマジ殺すからなぁ!」

 

嫌な予感はするも、杏子はとりあえずまどか・キュゥべぇの後について行く事にする。

彼女の家に厄介になるのは少々悪い気もするが背に腹は代えられない。

 

「しゃあねぇな……ま、アイツいい奴みたいだし悪くねえか、ナマモノは超ムカつくけど、いつか絶対ぶっ殺す」

 

そう言ってフッと笑うと、杏子は彼女達と共に鹿目家へ歩き出す。

 

いざ飯と寝床の為に

 

 

 


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