僕がいちばんセクシー   作:カイバーマン。

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7ステップ 家出少女の果て

時刻はただ今午後8時、外はすっかり暗くなり綺麗な星空が輝いている。

鹿目家も今、一家団欒+一人と一匹と共に騒がしい晩御飯の時間に入っていた。

 

「うんめぇなんだコレ! マジうんめぇ!」

「杏子ちゃん喋りながら食べたら舌噛んじゃうよ?」

「大丈夫だよまどか、あんこなら舌噛み切ってもまた新しい舌が生えるから」

「アタシの舌をトカゲの尻尾みたいに言うな!」

「なに言ってるんだい、ピッコロさんだって腕が生えるじゃないか」

「アタシとピッコロさんを同じサークルに入れんな!」

「二人共、ご飯食べてる時は喧嘩するの止めようよ……」

 

テーブルには5人と一匹が囲んで仲良くご飯を食べている。

杏子はその中で客人にも関らず目の前の料理を次々と美味そうに食べていた。

まどかの父・和久が作った料理が並べられていて、どれを食べても皆舌鼓を打つ絶品。

今までこんな美味しい物を食べた事が無いと言うように、彼女は無我夢中で食べて行く。

そんな彼女をまどかの両親である和久と詢子は優しく見守る様な視線を向けていた。

 

「よく食うねぇ、最近の子は好き嫌い激しいって聞くけど、この子はほっといたら全部食べちゃうんじゃないかい? 食い意地がある女は長生きするよ~」

「僕もこんなに美味しく食べてくれると作った回があるよ、ところで詢子さん、もう酔いは醒めたのかな?」

「おう、一回吐いたらすっきりしたよ。まだ飲めるよ私は」

「ハハハ、さすが詢子さんだ、「虹の実ワイン」と「フグ鯨」を冷蔵庫に入れてるから晩酌に付き合うよ」

「なあなあまどかの親父さん!」

「ん? なんだい?」

 

ガツガツと食いながら杏子はふと和久の方に顔を上げる。

 

「すっげぇよこの肉! なんでこんな柔らかくて美味いんだ!?」

「それは「リーガルマンモス」の中から取れる宝石の肉≪ジュエルミート≫っていうお肉だよ」

「じゃあこの野菜なのにすげぇ美味く感じる奴は!?」

「「オゾン草」、ベジタブルスカイで採れる幻の野菜だね」

「この甘くて噛んだら色んな味がするデザートは!?」

「それは「虹の実」って言ってね、最近品種改良で人工的に作られた……」

「へ~! なんかもうツッコミ切れない事で一杯だけど美味いからいいやもう!」

「ああうんパパが用意する料理や食材にはツッコまなくてもいいから……」

 

和久の口から聞いた事のない食材の名前が次々と出て来て杏子は開き直った様子で食べる事を続ける。隣に座っていたまどかも彼女に対して苦笑してみせた。

 

(それにしても杏子ちゃん、凄い食べるなぁ、お腹空いてたんだろうな……)

「ねーちゃ! スープ!」

「あ、たっくんスープ欲しいの? はい、「センチュリースープ」だよ」

「わ~い!」

「あ~私もそれ飲みたい!」

 

右隣に座っている弟のタツヤにまどかは無色透明の透き通ったスープを差し出すと、左隣りに座っていた杏子も目をキラキラさせて口からよだれを垂らす。

間髪入れずにテーブルの上に座っていたキュゥべぇが振り向いた。

 

「あんこ、君は少しは遠慮という言葉を知らないのかい? これだから原始人は」

「うっせえ誰があんこだ! それにお前が食ってるそのジュースもこっちによこせ!」

「「メロウコーラ」なら君の前にも置いてあるだろ?」

「もう全部飲んじゃったよ!」

「君は少しは自重ってモンを知ろうよ、それじゃあ美樹さやかみたいになっちゃうよ?」

「誰だよさやかって!」

 

杏子がまたキュゥべぇとギャーギャーと口喧嘩を始めていると。

和久と共に向かいに座っている詢子が「はいはい」と手を叩いて二人を黙らせた。

 

「メシ食ってる時に喧嘩すんなってまどかが言ってただろ、みんなで食べるときは仲良くするモンだ。喧嘩しながら食べたらせっかくの和久の料理を美味しく感じられねえぞ?」

「あ、はい……」

 

そう言われてさすがに騒ぎ過ぎたかと杏子もしゅんと反省して席に座る。だがキュゥべぇはというと彼女を横目で見ながらボソッと。

 

「ほら君のせいで怒られた、全くこれだからあんこはバカなんだ」

「おい白いの」

「え?」

 

杏子にまだ文句をブツブツ言っていたキュゥべぇに詢子はギロっと睨みつける。

 

「煮て食うぞ……」

「すみませんでした御母上、それだけは勘弁して下さい」

「よし、許してつかわす」

「おー、コイツがマジで謝るの初めて見た」

「キュゥべぇはママに頭上がらないんだ」

 

深々と頭を下げるキュゥべェを見て杏子がビックリするとまどかはコソッと耳打ちする。

いかにナルシストの塊であるキュゥべぇもこの母に対しては太刀打ち出来ないという事らしい。

 

「全くまどかも妙なモン拾って来たわね~、ま、面白い奴だから嫌いじゃないけど」

「僕は面白いんじゃなくて美しいんですよ母上」

「ブフゥ! やっぱ面白いわコイツ!」

「……さすがはまどかを生んだお人だ……母上には本当に勝てる気がしない……」

「ご、ごめんねキュゥべぇ……」

 

自分で言った言葉にいきなり吹き出して笑う詢子を見てキュゥべぇはうなだれて軽く落ち込んだ。そんな彼をまどかは苦笑しながら頭を撫でてあげる。

 

そして一通り笑った後、詢子はふと杏子の方に眼差しを向けた。

 

「さて、飯も食ったし食後の笑いも貰った事だし。おい家出少女」

「い、家出少女!?」

「和久から聞いたんだよ、アンタもこの白いのと同じウチのまどかに拾われたクチなんだろ?」

「ま、まあそんな感じだけど……」

 

恥ずかしそうに杏子はチラリと隣に座るまどかに横目を向ける、彼女はキュゥべぇの頭をまだ撫でていた。

詢子は頬杖を突いて爪楊枝を口に咥えたまま話を続ける。

 

「犬や猫ならともかく、まさか人語を話すナマモノとこんな可愛い家出少女拾ってくるとは、我が娘ながら恐ろしいね~」

「……アタシここにいると迷惑……かな?」

「い~や全然、むしろ娘がもう一人増えた気分で嬉しいよ。このままウチの娘にしてもいいぐらいだ」

「うぇ!?」

 

ニヤニヤ笑いながらぶっ飛んだ事を抜かす詢子に杏子はどさくさにキュゥべぇから掻っ攫ったメロウコーラを吹き出しそうになる。詢子はそれを見て愉快そうに笑った。

 

「フフ、冗談だよ。アンタにも家族がいるんだろ?」

「え~と……うん……」

「そうか、だったらそこに戻った方がいいな」

 

顔を赤らめている杏子の顔をじっくりと眺めながら彼女は話を続ける。

 

「家族ってのは一人欠けたら寂しいんだよ、アンタの事も心配してる筈さ」

「……そうなのかな?」

「私だって和久やまどかやタツヤがいなくなったら寂しくなる、白いのもいなくなったら寂しくなるかもな。もうすっかり私達家族の一員だしね」

「ありがたきお言葉です御母上」

「キュゥべぇ、キャラ変わってるよキャラ……」

 

母親に向かって頭を垂れるキュゥべェを見てまどかがツッコんでいる隣で、杏子は気恥ずかしそうにボリボリと頭を掻く。

 

「どうかな……アタシまどかと違ってバカだし、下の子としょっちゅう喧嘩するし親に迷惑かけてばっかであんまりいい子にしてないし、親父やお袋は厄介払い出来たって喜んでるかも……」

「なわけねえだろ」

 

両手を後頭部に回して椅子に背もたれ、詢子は天井を見上げながらゆっくりと口を開いた。

 

「どんなバカ息子だろうがワガママ娘だろうが、親にとっては必死に育てた可愛いわが子だ」

「え……?」

 

口をポカンと開けている杏子に詢子はクスッと笑った。

 

「明日になったら家に帰りな家出娘、アンタの家族はアンタを含めて家族なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後9時。食事を終えた杏子はまどかの部屋で寝る準備に取り掛かっていた。

 

「ありがとな、あんな美味いモン食わせてくれた上に風呂まで入らせてくれて」

「いいよいいよ、私のパジャマのサイズ合ってる?」

「うん、まあ。似た様な体型だしな」

 

杏子の体からはポカポカと暖かくなっていた。実は先程風呂にまで入れさせてもらったのだ。

今は私服では無くまどかのピンクの柄のパジャマを貸してもらっている。

まどかもまた杏子の前に風呂に入っていたので髪は解かれており、パジャマに着替えてベッドの上に座り、既に寝る態勢に入っていた。

 

「杏子ちゃんの服は明日の朝には洗濯終わって乾燥機で乾かしておくって」

「便利なモンがあんだな~。ところでアタシどこで寝ればいいんだ?」

「私のベッドだけど?」

「へ?」

 

よく見るとまどかのベッドの上にはさりげなく二つのマクラが置かれている。

杏子が少し戸惑った表情を見せるとまどかは頬を引きつらせて苦笑した。

 

「やっぱり私と一緒に寝るのはダメ……かな?」

「ああいや! アタシは全然構わねえよ! いつも妹と同じ布団で寝てるし! ただちょっと悪いなって思っちゃって……」

 

後頭部を掻きながら申し訳なさそうに呟く杏子に、マクラの横で寝転がっていたキュゥべぇが彼女の方に顔を上げる。

 

「ああ君にもそういう感情があるんだ。ただの自己中じゃなかったんだね」

「それお前にだけは言われたくねえ……すげえ言われたくねえ」

 

キュゥべぇを見下ろしながら杏子がそんな事を言っている中、まどかは掛け布団を広げながら口を開いた。

 

「私は全然いいよ、たまにさやかちゃんや仁美ちゃんがお泊りに来た時にいつも一緒に寝てるし」

「へ~、羨ましいなそういう友達がいて」

「あ、美樹さやかはまどかの友達とカウントしないでいいから」

「カウントするよ! 勝手にさやかちゃんをハブかないでよ!」

 

すぐ横でゴロゴロと転がっているキュゥべぇにまどかが叫んでいると、杏子は顔を赤らめてモジモジしながらゆっくりと彼女のいるベッドの上に座る。

 

「うんまあ……お前がいいって言うんなら一緒に寝てやるよ……」

「ふふ、じゃあ電気消すね」

 

恥ずかしそうに布団の中へと入って来た杏子が可愛いと思った後、まどかは傍にある部屋の電気の電源スイッチをカチッと切り替えた。

 

部屋の電気は一瞬にしてすぐに真っ暗になる。

部屋が暗くなったと同時にまどかと杏子は喋るのを止めた。

 

「……」

 

ベッドに入ったまま杏子はモゾモゾと動いて、隣で寝ているまどかと少しだけ距離を取るとフゥ~とため息を突く。

 

「明日は……どうっすかな……」

「私はママの言う通り、お家に帰った方がいいと思う」

 

ボソッと小さな声で呟いた杏子に暗闇の中でまどかはすぐに答えた。

 

「きっと杏子ちゃんの事、家族のみんな心配してるよ」

「どうだかねぇ……おいナマモノ」

「なんだい、あんこ」

 

まどかに背を向けて寝たまま、杏子はまどかの傍で寝ているキュゥべぇに話しかけた。

彼がすぐに返答すると杏子はふと気になっていた質問をぶつけてみる。

 

「お前って家族とかいんのか?」

「いないよ、僕等の種族には親とか兄弟とかそういう物は存在しないしね」

「え? そうなのか?」

「それは私も初めて聞いたよ……」

 

キュゥべぇがあっけらかんとした口調で話すと杏子とまどかは少し驚く。

だが彼は別に気にしてない様な口ぶりだ。

 

「僕が家族というものを手に入れたのはこの星に来てからさ」

 

暗闇の中キュゥべぇは杏子に静かに話しかける。

 

「君は僕と違って生まれた時から家族というものがあるんだ。僕なんかより十分恵まれた環境だと思うよ?」

「……」

「大切な物を最初から持っているし知っているんだしね、不本意だが僕はその点の所は羨ましいと思ってる」

「……そうかもな……」

 

キュゥべェの方へは振り返らずに杏子はそう呟く。

 

「貧乏でも、親父とお袋と妹がいるだけでアタシは幸せ者なのかもしれねえな……」

「杏子ちゃん……」

「フ、珍獣のクセにいい事言うじゃねえか」

「クセにが余計だね、それに僕は珍獣じゃなくて、グレートセクシーな白きエンジェル、キュゥべぇさ。わかったかいさくらあんこ」

 

自分で言って恥ずかしくないのか? しかもまだちゃんと自分の名前を言おうとしない。

そう思いながらも杏子は背を向けたまま思わずニヤッと笑ってしまった。

 

「可愛くねえなお前」

「君もね」

「へへ、言ってろバーカ……なあ?」

 

杏子は布団にしがみついたままそーっと後ろに振り返ろうとする。

 

せっかくの機会だ、まどか達と向かい合って少しお喋りしながら寝るのも悪くないか……。

 

そう思って杏子が彼女の方に寝転がって顔を彼女達の方に向けた。

 

だが

 

「ちょっとこっち……」

 

その時、杏子の全身が凍りつく。

 

 

振り向いた先にいたのはまどかでは無い。

 

 

“黒髪”の自分と同じ柄のパジャマを着た女の子が真正面から自分と向かい合っていた。

 

「……」

「……ほむ」

「ギャァァァァァァァァ!!!」

「ど、どうしたの杏子ちゃん!」

「うるさいなぁ静かにしてくれよ、僕とまどかの睡眠を邪魔しないでくれ」

「なんだコイツはァァァァァァァ!! おいまどか! 電気点けろ!」

「え? あ、うん」

 

数秒の間があった後思いっきり大声で杏子は叫び声を上げる。

わけがわからない様子のまどかとキュゥべぇ。杏子はすぐに半身を起こしてまどかに指示をする。

「?」と首を傾げながらもまどかは部屋の電気を再びカチッと付けてみた。

 

その瞬間、目の前に自分のパジャマを着た暁美ほむらの姿が……

 

「どうかしたのかしら?」

「う……うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「落ち着いて私のまどか。一体何があったの」

「何があったのじゃないよ!」

 

ジリジリと獲物を狙う狩人の目で寄ってくるほむらにすぐに現状を理解したまどかが壁にもたれて大声で叫ぶ。

 

「な、なんでほむらちゃんが私のベッドにいるの!?」

「愛に不可能はないわ」

「おかしいよこんなの! 絶対におかしいよ!」

「え、まさかコイツ知り合いか!?」

「おかしくなんてないわ、これがあなたと私の愛の計算が導き出した答えよ」

 

杏子が驚いている隙に、両手をわきわきさせながらまどかににじり寄ってくるほむら。

まどかが悲鳴を上げると、キュゥべぇはすかさず彼女とほむらの間に躍り出た。

 

「屋根裏じゃ飽き足らず遂に夜這いに走ったか、暁美ほむら。君は遂に僕を本気で怒らせたようだね」

「引っ込んでなさいナマモノ、今から私とまどかの愛の営みを実行する所よ」

「おいおいこのダイナミックセクシープリンスが君の不埒な行いを黙って見過ごすとでも思ってるのかい?」

「愚かね、私とまどかの邪魔をする事に散々忠告して上げているのに。さっさと消えなさい、さもないとこの星からあなたの存在を抹消するわよ」

「おいおい何がどうなってんだ! 説明してくれよまどか!」

 

ベッドの上で火花を散らし互いに無表情でメンチの切り合いを始めるキュゥべぇとほむら。

これには杏子もたじろいで咄嗟に怯えているまどかに尋ねる。

まどかは声を震わせながら彼女の方に振り向いた。

 

「えと……ほむらちゃんは私の友達で……でもちょっと過激な所があって……」

「ちょっとじゃねえよ! 過激すぎるだろ! 夜な夜なベッドに侵入してくる友達とか聞いた事ねえよ! おいそこの黒髪!」

「なにかしら? 私のまどかを誘惑する腐れ泥棒猫」

「誰が泥棒猫だ!」

 

不機嫌極まりない表情でこちらに横顔を向けて来たほむらに杏子がビシッと指差す。

 

「お前なんでこんな所にいるんだよ!」

「それはこっちの台詞よ、あなた、家出少女というキャラを巧みに使ってよくもぬけぬけとまどかとその家族と一緒にイチャイチャしたわね」

「してねえし!」

「あなたの行動はすべてお見通しよ、何故なら私はあなたがまどかと出会った時からずっと見ていたのだから、あなたが公園でまどかと話している時も、あなたがまどかの家に招待されている所も、あなたがまどかの部屋でハァハァ言ってた時も、あなたがまどかの家族と一緒にご飯を食べてハァハァ言ってた時も、あなたがまどかの入ったお風呂の残り湯に浸かってハァハァ言ってた時も、あなたがまどかと一緒のベッドに入る事を許されてハァハァ言ってた時も。全て見ていたのよ」

「何が見ていただゴラァ! 完全にテメェストーカーじゃねえか! しかもアタシはハァハァなんてしてねぇよバカ!」

 

どうもこの少女、ハナっからずっとこちらを尾行して覗き見していたらしい。末恐ろしい執念だ……。杏子は彼女に戦慄を覚えながらベッドから足を下ろす。

 

「まあいい、テメェのやってる事は犯罪だからな。ちょっとまどかの両親に言ってくる、アタシちょっと……あれ?」

 

ベッドから降りてまどかの両親の部屋に行こうとする杏子だが、不意に足から妙な感触があった。

 

ぐにっとなんだか柔らかい物を踏んでしまった様な感覚……。まるで人の顔でも踏んだかの様な……杏子は嫌な予感を覚えつつもそーっと下を見下ろしてみる。

 

そこには

 

「……痛いわ……どうしてこんな酷い事をするの……ぼっちでも泣いちゃうわよ……」

「ギャァァァァァァァ!! こっちにもなんかいたァァァァァァ!!」

 

自分の足に頬を踏まれて涙目になっている金髪の少女が横になって待機していた。

ビックリ仰天して杏子は反射的に跳ね上がってすぐにまどかの隣まで後ずさりする。

金髪の少女はむくりとこちらに振り向いて起き上がった。

 

「こんばんはキュゥべぇ、それと鹿目さん……私は遠慮させて床で寝かせてもらうわね……」

「マ、マミさんまでいたの!?」

「マミ……なんで君が暁美ほむらなんかと一緒に……」

「またお前等の知り合いかい! もうちょっと人付き合い考えろよお前等!」

 

ほむらの次は金髪の少女こと巴マミの登場だ。

自前の黄色いパジャマを着て申し訳なさそうにこちらに頭を下げている。

またもや予想だにしない人物が現れたのでまどかは飛び上がり、キュゥべぇも珍しく動揺の色を出している。

 

「マミ、今日は学校で一緒にお昼ご飯を食べてあげたじゃないか。それなのにこのストーカーと一緒にこの家に来ちゃうなんて。どうかしてるよ」

「ご、ごめんなさいキュゥべぇ……だって私、友達の家に行くとかそういうの憧れていて……せめて鹿目さんの家だけでも見てみようとあなたと鹿目さんの後を隠れて追っていたら偶然あなた達を尾行していた暁美さんと会っちゃって……」

「それで今度は私についてきたのよ、全く迷惑な話ね。人二人分この家に侵入するのはそう容易い事ではないと言うのに」

「暁美ほむら、そろそろマジで通報していいかい? いや冗談抜きで」

 

話の筋が大筋読めて来た。

つまりマミはほむらのストーカー行為に成り行きでついて行き、そのままこの家に入って来てしまったようだ。日常的に家宅侵入罪を平気でやるほむらもほむらだが、寂しさのあまり友人の家にアポ無し訪問するマミもマミである。

 

「全く……マミ、次からは僕にちゃんと断りを入れてくれ。いきなり君が現れたら心臓に悪いよ、今だって僕の心臓は早鐘の様だ」

「ごめんなさい……嫌いにならないでねキュゥべぇ……」

「もういいよ不本意だけど君の性格はだいぶ熟知してるつもりだから」

「うう~……キュゥべぇ~~!!」

「なぜそこで僕に抱きつく、わけがわからないよ」

 

しょんぼりして項垂れていたマミが話をしている内に急に感極まって泣き出し、そのまま自分に抱きついて来た。

彼女に抱きつかれながららキュゥべぇはハァ~と深いため息を突く。

 

マミの相手をキュゥべぇがやっている頃、まどかと杏子は目の前にちょこんと座っているほむらの方に顔を上げた。

 

マミよりもこちらの方が数倍問題があるのは確かだ。

 

「ほむらちゃんも来るんだったら最初に言って欲しかったかな……」

「それは悪かったと思ってるわ、私も“いつもは”天井裏からあなたを覗くだけで満足だったのよ」

「いつもは!? ほむらちゃんそれってどういう意味かな!?」

「でもまどか、今回はあなたにも責任があるんじゃないかしら?」

「せ、責任!?」

 

尋問されても全く表情を変えずに逆に追及してくるほむらにまどかはわけがわからず首を傾げる。するとほむらは彼女ではなく彼女の隣にいる杏子を睨みつけて

 

「私というものがいながら、あなたはこの家出娘とベッドの中で一夜を共に過ごそうとしたじゃない」

「え? それって悪い事なの杏子ちゃん?」

「いや全然、おいストーカー、お前何言ってんだ?」

「ピュアね……」

 

今度は二人揃って首を傾げるのでほむらは頭を手で押さえてうなだれる。

この二人が“そっちの知識”に辿り着くのはだいぶ先の様だ。

 

「とにかく私はこう言いたいのよ、私のまどかがあなたみたいなモンキーバカと一緒のベッドで寝るなんて断固として許さないって」

「誰がモンキーバカだ! 別にアタシ達の勝手だろうがそんな事!」

「あなたはあなたらしく暗い洞窟でウッキィウッキィ言いながら藁に包まって寝るのがお似合いよ」

「ウッキィィィィィィ!!!」

「杏子ちゃんストップストップ! なんか叫び方が人間の出す声じゃなくなってるよ!」

 

見下した態度で挑発してくるほむらに杏子は両手で引っ掻く仕草をしながら彼女に詰め寄ろうとする。

完全に怒り狂ってる証拠だ。

彼女の右肩に手を置いて落ち着こうと促していると、まどかはふとほむらの服装が気になる。

 

あのパジャマは自分の……しかも昨日の夜から今日の朝まで着ていた奴ではないか……?

 

「ほむらちゃん……それってアタシのパジャマ……」

「ええそうよ、その女だって着てるじゃない。文句は無いわよね?」

「いや杏子ちゃんが来てるのはちゃんと洗濯した奴だし……ほむらちゃんの着てるそれって……」

「私のは当然洗濯されてないわよ、洗濯カゴに入ってたのを私が回収して上げたの。だってせっかくのまどかの匂いが消えちゃうじゃない。これでたっぷりと堪能できるわ」

「ほ、ほむらちゃ~ん!?」

 

両腕を交差して平然とそう言うほむらにまどかは思わず身を乗り上げる。

どうやらこのストーカー、家宅侵入罪だけでは飽き足らず遂に窃盗まで……。

パジャマの臭いをクンカクンカと嗅ぎながらほむらはハァハァと息を荒げ始めた。

 

「いいわ……まどかの匂いが私の体に染みついてくるのを感じるわ……どんどん私の体をまどかの匂いで覆い尽くしなさい……ハァハァ!」

「や、止めてよぉほむらちゃん! パジャマなら洗濯したのを貸してあげるからぁ!」

「ぬ、脱がそうとするなんて……まどか、あなたもやっと私の事を受け入れてくれるのね……いいわ、来て……」

(うわぁコイツ……ガチでヤベェ……)

 

泣きそうな表情でまどかがパジャマを脱がせようするのだが何処か恍惚の表情を浮かべて悶絶するほむら。

そんな彼女を見て杏子はガチで引いていた。

 

どうやら鹿目宅の夜はまだまだ長いようである。

 

 

 

 

 

 

午前8時。太陽が昇り満天の晴れ模様の朝を迎えた。

昨日の騒ぎの一件のおかげで、まどかと杏子はロクに寝れなかったので(まどかの肩に乗っかっているキュゥべぇは相変わらず無表情)瞼をパチパチと動かしながら虚ろな表情で鹿目宅の玄関から出て来た。

 

「うお~超ねみぃ~……それもこれもあのストーカーのせいで……」

「杏子ちゃん、あの時助けてくれてありがとね……」

「ナイスバックドロップだったよ」

「いやそりゃ、あのストーカーがパジャマを脱いでいきなりお前に向かってルパンダイブしたから思わず体が動いちまったんだよ……」

 

二階にあるまどかの部屋は現在荒れに荒れ果てている。

巴マミが何故か床で幸せそうに眠っていたり、暁美ほむらは部屋の隅で何故か下着姿で頭にコブを付けてうつ伏せで眠っていると言うより気絶していた。

 

「マミに抱きつかれて寝てしまったおかげで……危うくマミの胸で窒息しそうになったよ。全く無駄にデカイんだから気を付けて欲しいよね」

「マミさん凄い力だったね、キュゥべぇを抜くのが大変だったよ……」

「まどかと一緒にひっこ抜こうとした時、お前すげぇ体伸びたな、えげつない程」

「僕の体は伸縮自在なんだよ、まあさすがにあの時は千切れると思ったけどさ、君容赦なく引っ張るし」

 

二人と一匹でそんな談笑をしながら家を出た数メートル先で止まる。

まどかの服装は未だパジャマだが、杏子は自分の服に着替えていた。

肩には私物の入ったリュックが掛けられ、右手には原始人が使ってそうな槍が握られている。

 

「さっきパパとママが言ってた通り朝ごはんも食べていけばよかったのに」

「いや朝飯はいいんだ……」

「?」

 

顔を赤らめて槍を両手で握ると、モジモジしながら杏子はまどかとキュゥべぇから目を逸らした。

 

「朝飯食う所は決めてるんだ……早く“帰らねえと”……林檎食えなくなっちまう……」

「……そっか」

「貧相な朝飯だね」

「うるせぇ! お前ん所のメシと一緒にすんな! ウチは貧乏なんだよ!」

 

顔を赤くしながら杏子はプイッと踵を返してこちらに背を向ける。

まどかはキュゥべぇを肩に乗せながら軽く微笑んで見せた、後は彼女をここから見送るだけだ。

 

「じゃあ気を付けてね、杏子ちゃん」

「世話になったな、この恩は忘れねえよ。お前の家族にもよろしく言っておいてくれよな」

「うん、また遊びに来たり泊まりに来てね」

「うぇ!? いいのか!?」

 

慌ててこちらに振り返って来た杏子にまどかは微笑を浮かべたまま縦に頷く。

 

「当たり前だよ、私と杏子ちゃんは友達だもん」

「お、おおそうか……だったらまた遊びに行くわ……たまに妹も連れて来ていいか?」

「うん、私も杏子ちゃんの妹さんに会ってみたいし」

「こんな姉を持って苦労している妹さんを励ましてあげないとね」

「本当の事だから余計に腹立つな……」

 

笑顔のまどかと相変わらずの毒舌のキュゥべぇに杏子は思わずフッと笑うと再び彼女達に背を向け歩き出した瞬間、すぐにまどか達の方に振り返って手を上げた。

八重歯を出したとびっきりの笑顔を浮かべて

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいま~!」

「あ、お姉ちゃんお帰り。昨日の夕方、学校終わってから何処行ってたの?」

「ちょっと隣町にある友達の家に泊まりに行ってた、朝飯は~?」

「冷蔵庫の中、はぁ~これだからウチの姉は……連絡ぐらいしてよもう、心配したんだよ」

「ああわりぃわりぃ、へへ……」

「なにその気持ち悪い笑み……。ていうかお姉ちゃんに友達いたっけ? しかも隣町ってどういう事?」

「うるせえアタシだって友達ぐらいいるわ! 相変わらず生意気な妹だなお前は! 親の顔が見てみてぇよ!」

「いやアンタと同じ親だし」

 

かくして佐倉家の長女、佐倉杏子の家出(家出期間・半日)は終りの時を迎えた。

鹿目家との出会いによって、彼女のコンプレックスも少しは解消されたようだ。

 

そして

 

 

 

 

 

「そういえば昨日さ、お父さんの所に信者がすんごい集まったんだよ、今度教会に戻れるんだって、これで生活もマシになるかもね」

「は!? マジかよそれ!? なんでいきなり!?」

「昨日の夜、いつも通り街頭布教していたんだけど、お父さん、お姉ちゃんがお家に帰ってこないからそれで気が滅入っちゃってさ」

「親父そこまで私の事心配して……」

「もう心配しまくってヤケクソになって“ブレイクダンス”しながら布教活動始めちゃったんだよ、でもそれが周りから絶賛されて面白い牧師さんがいるって評判になっちゃった。お姉ちゃんにも見せたかったなぁ、「杏子ォォォォォォ!!」って娘の名を叫びながら街中でヘッドスピンするお父さんの姿、まあ布教していたというより娘の名叫んでただけだけど」

「親父ィィィィィィィ!!!」

 

 

 

 


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