今から少し前の出来事。
夕方、美樹さやかは病院へと来ていた。
病人が集まっている施設である為か独特の匂いと不安感を覚える建物。
そんな事に憂いを覚えながら彼女はとある入院患者の元へ足を運んでいたのだ。
「恭介~」
「ああ、よく来たねさやか」
彼女はある患者のいる個室へと入る。
そこにはいつもの様にベッドに横たわる同い年ぐらいの少年、上条恭介が笑顔で迎えてくれた。
「いつもわざわざ悪いね、病室に一人閉じこもっていると退屈でさ」
「は~全く寂しがり屋な幼馴染を持つと苦労するわね~」
「あまりにも退屈過ぎて僕が今執筆中の小説、『光と闇の竜≪ライト&ダークネス・ドラゴン≫』が108巻にまで到達してしまったよ」
「いや~本当苦労するわ~本当に……なんで煩悩の数まで書けるんだよコンチクショウ……」
いきなり笑いかけながら厨二全開の恭介にさやかは至極残念そうな表情で彼のベッドの傍にある椅子に座る。入院していても“この病気”の方はやはり治らないようだ……。
「男の子ってみんなコイツみたいな感じなのかな……」
「そういえばさやか、実は今日ここに来てくれているのは君だけじゃないんだ」
「え? どういう事……」
考え事の最中だったが。思わずさやかはキョトンとした表情で恭介の顔を見る
「あたし意外にも誰か来てるの?」
「ああ、彼女は最近さやかと同じぐらいの頻度でこっちに来るんだ」
「は? だ、誰よ一体……」
彼女と聞いてさやかは若干動揺の色を見せた。
ここ数カ月恭介の見舞いに来ているのは自分と彼の親だけだと思っていたのだが……。
彼女……もしかして入院中にも関らず自分の知らない所で彼は恋愛でも育んでいたのか?
「あ、あんたもしかして彼女が出来たんじゃ……」
「ハハハ、そんなわけないだろ」
「そ、そう(良かった……)」
「でも、ちょっと……気になってはいるんだけどね、彼女の事は」
「……へ?」
真面目な表情でそうボソッと呟いた恭介にさやかが椅子に座ったまま目を見開いた瞬間。
ガララと後ろからドアの開く音が聞こえた。
「恭介さん、お飲み物買ってきましたわ」
「ありがとう“仁美”。ちゃんとドクペ買ってきたかい?」
「ふふ、勿論わかっております、恭介さんの事は全て把握していますので」
「……は?」
不意に背後から聞こえて来た声にさやかはバッと振り返ってパイス椅子から立ち上がった。そしてすぐに彼女の表情が凍りつく。
「あんた……な、なんでここに……」
「……さやかさん……」
「ちょっと待ってよ、わけわかんない、なんでアンタが……」
そこにはいつも学校で共に授業を学んでいたクラスメイトが立っていたのだ。
しかも自分の大切な親友の一人……。
少女がその場に根を張ったように固まると、彼女はコツコツと足音を立ててどこか凛とした表情で少女に近づいて行った。
「私、さやかさんに“負けませんから”」
「な! ちょっと待ってよ! 冗談でしょ仁美!」
冗談だろとは言ったものの彼女の言っている事が「冗談では無い」というのはさやか自身よくわかっていた。
彼女の強い決意の表れが出ている目を見ればわかる。
そう、これは自分に対する彼女の宣誓布告……
「あ、さやか。いい文が頭に浮かんだよ「科学と魔術が交差する時、物語は始まる」。新作で最初に書くプロローグはコレで行こう」
「アンタは黙ってろ!」
あの時と同じ夕方、美樹さやかは鹿目まどかと一緒に近所の公園にあるベンチに腰掛けてい項垂れていた。
キュゥべぇは何故かベンチの近くにある木の上に乗ってただ無言で二人を見下ろしている。
「なんでこうなっちゃのかなぁ……」
「さやかちゃん……」
「まどか、ちょっと聞いて欲しい事あんだけどさ……」
隣で心配そうな表情を浮かべているまどかにさやかは項垂れたまま話し始める。
「仁美ってさ、恭介の事、昔から好きだったんだって」
「……そうだったんだ……」
「恭介の近くにはいつもあたしがいたから遠慮してたみたいだけど……あの子もやっぱり女の子だからね、自分の心に我慢できなくなったんだと思う」
顔を上げてさやかは膝に頬杖を突く。その視線の先になにが見えるのかはまどかはわからない。
「あたしって本当にバカだよね……親友が一人悩み苦しんでたのに気付けなかったなんて、しかもその原因はあたし自身。自分で自分が嫌になっちゃうよ」
「そんな事言わないで……さやかちゃんらしくないよ」
さやかの話を聞いてまどかも責任を感じたのかしんみりとした表情で落ち込む。
さやかと恭介は昔から付き合いの長い幼馴染だ。
対して仁美はさやか程恭介と長い付き合いではない、それに彼女と恭介は「友人」ではなく「知り合い」と区分されるぐらいの間柄だった。
だが仁美は仁美で心の底ではきっと恭介の事を昔から想い続けていたのだろう。
自分の大切な親友と想い人が仲良く話しているのを影に隠れて眺めながら……
そして遂に、彼女はその想いを胸にさやかと真っ向勝負を挑む事を決めたのだ。
「元々知り合いだったからねあの二人、仁美が積極的になれば恭介だってそっちに傾くに決まってるよ。あたしなんかと違って仁美は美人でおしとやかで頭も賢い上に凄くいい子だし……」
「やっぱりさやかちゃんも恭介君の事が好きなの……?」
「いや、自分自身よくわかってなくてさ……けどアイツが他の女の人と一緒にいると、なんか凄い嫌な気持ちになる。それが仁美だとしても……」
三角関係。彼女の話を聞きながらまどかはその言葉が頭に浮かぶ。
まさかそんな恋愛漫画やドラマみたいな事が、自分の近辺で起こっていたとは。
「……さやかちゃんと仁美ちゃんはまた元の関係に戻れるの?」
「そりゃ戻りたいよ、あの子はいい奴だし……でもハッキリ言って今のあたしとあの子は敵同士だからさ」
「そんな……!」
「もし仁美に恭介を取られたらと思うとね……その時のあたし、あの子の事嫌いになっちゃうんだよ……」
「……」
「これじゃああの子の親友失格だよね、ハハ」
ヤケになって自虐的な笑い声を上げるさやかにまどかはただ俯いて口も開けない。
なにも言えなかったのだ、親友がこんなにも困っているのに彼女は救いの言葉が思いつかない。
さやかと仁美、まどかにとって二人共大切なお友達。
その二人が争っている今、自分は今何をすればいいのか……。
(どうして二人が苦しんでるのに何も出来ないの……私、本当に何も出来ないんだ……)
「まどか、あんたは気にする事無いからね」
「え?」
まどかが何を考えいてたのかわかったのか、さやかは口元に小さな笑みを浮かべて優しく話しかける。
「これはあたしと仁美の問題。あんたは関係無いんだから気負いしちゃダメだよ」
「で、でも私……さやかちゃんと仁美ちゃんの事も大好きだもん、二人がこのまま仲直り出来なかったらと思ったら……ツライよ」
まどかにとって二人は中学生に入って間もない頃に初めて手を差し伸べてくれた大切な友人だ。どちらかが欠ける事なんて彼女には考えたくもない結末の筈。
だからこそ助けたい、だがそれが出来ない、なにも思いつかない
その事にまどかは激しい自己嫌悪に捕らわれていた。
(考えても考えてもなにも浮かばない……。私ってどうしてこんなに役立たずなの……? 二人の為にどうして何も出来ないの……?)
「……じゃああたし、もう帰るね」
「……」
奥歯を噛みしめて己の無力さに嘆いているまどかに、さやかはポツリと呟いてベンチから腰を上げた。
「あんたは本当に気にしなくていい、私と仁美が友達じゃなくなっても、あたしと仁美はあんたの友達だから安心して」
「そんな事言わないでよさやかちゃん……私そんなのイヤだよ……また三人で仲良く遊びに行きたいよ……」
「ごめん……」
遂に限界だったのか目に涙を溜めて嗚咽を繰り返して言葉を震わせているまどかに、さやかは振り返らずに謝った後、最後に一言こう付け加えた。
「奇跡や魔法でも無い限り……こればっかりはどうしようもないよ……」
その言葉を残し、さやかはまっすぐに歩いて行ってしまった。
「ヒック……さやかちゃん……こんなのイヤだよ……」
残されたまどかは押し寄せる涙を目から流しながら鼻をすする。
その時、木の上の枝にいたキュゥべぇが遂に口を開いた。
「まどか、君は悲しんでるんだね」
「うん……」
「それは二人の友人が仲違いをしてしまったからかい? それとも二人を助ける事が出来ない無力な自分を嘆いているからかな?」
「どっちもだよ……」
震えた声でまどかは返事をすると、キュゥべぇは木の枝から飛び下りて、綺麗に彼女の隣に着地した。
「出来れば君には悲しむのを止めて欲しいな。君が泣くのを見るとこっちもイヤな気持ちになる」
「ねえ……キュゥべぇなら二人を助ける事出来るの……?」
「……」
自分の目元の涙を拭いながらまどかは彼の方へ振り向く。
だがキュゥべぇは彼女の方へは向かずにまっすぐに眺めながら口を開いた。
「僕は美樹さやかの事は嫌いなんだ、元々ウザかった上に君を悲しませた。だから僕は彼女に協力する気なんて微塵も無い、彼女がどうなろうが知っちゃこっちゃないね」
「そ、そんなのあんまりだよ……! さやかちゃんを助けてよ……!」
あまりにも冷たい一言で突き飛ばされ、まどかはつい声を荒げてキュゥべぇに問いかける。
すると彼は、ゆっくりと彼女の方へ首を向けた。
「僕は彼女を助けるなど毛頭ない」
「……」
「でも、君が泣いてるのを黙って見過ごすなんて真似は絶対にしないよ」
「……え?」
こちらをしっかりと見て来るキュゥべぇにまどかは泣くのを忘れてキョトンとする。
彼は一体なにを言っているのだろうか……。
「まどか、僕は美樹さやかは助けない。けど君を助ける事なら僕はどんな事があろうと君の力になろう」
「キュゥべぇ……?」
「だから僕は泣いてる君を助けるよ。君が悲しんでる理由があの二人の事であるなら、僕は喜んで君の手となり足となってあげる」
「!」
「勘違いしないでくれよ、僕はさやかを助けるんじゃなくて君を助けるんだ。そこん所はよくわかってておくれ」
流れる涙は完全に止まった。
素直じゃないこの生き物は。
こんな自分を助けてあげると言ってくれた。
まどかはそれだけで心が嬉しい気持ちで一杯になった。
「ありがとう……そうだよね、私一人だけじゃ何も出来ないけど……キュゥべぇがいてくれたら……」
「その必要はないわ」
「うわ!」
まどかがキュゥべぇに向かって感謝の言葉を呟いていると、急に背後の木の裏からぬっと現われる彼女と同じ制服を着た少女。
「まどか、そんな珍獣は電源の入ったミキサーにでも突っ込んでおきなさい。あなたは私が救って見せる」
「ほ、ほむらちゃん! どうしてこんな所にいるの!?」
「愚問ね、私はいつでもあなたの傍にいるわ」
出て来たのはまどかのもう一人の友人である暁美ほむらだった。どうやら先程の会話は全て聞いていたらしい。
そんな彼女を見てまどかは驚いているがキュゥべぇは至って冷静だった。
「相変わらずストーカ―かい暁美ほむら、いい加減にしないとゴルゴ呼んでその額に一発鉛玉でもぶち込んでもらうよ?」
「相変わらず愚かね白いナマモノ。ゴルゴが私を殺せるわけないじゃない、せいぜい「命!」って叫んでポーズ取る事しか出来ないわよ彼、せめてレッド吉田も連れて来なさい、そうすれば互角に張り合えるわ」
「ほむらちゃんそっちのゴルゴじゃない! 芸人じゃなくて殺し屋の方!」
さっきまで泣いていたにも関らず律義にもほむらにツッコミを入れるまどか。
そうしていると今度は彼女が隠れていた木の隣の木から、また別の人物がひょっこりと……。
「楽しそうね、私も入れてくれないかしら」
「マ、マミさん!?」
「うふふ」
ほむらの次に現れたのは優雅に笑みを浮かべる金髪の少女、巴マミ。
またもや知り合いがいきなり現れたのでまどかは口を開けてビックリするとマミは突然じわっと目に涙を溜め。
「土下座でも何でもするからお願い、仲間に入れて……」
「ど、土下座!?」
「私も鹿目さん達を助けたいの……だ、だって私達“お友達”でしょ……お友達同士は助け合うんだってお母さんが……」
「あ、ありがとうございます……大丈夫ですよマミさん……」
いきなり泣きだす彼女にまどかは頬を引きつらせながら返事をしていると、キュゥべぇが早速身を乗り上げて彼女に話しかける。
「なにやってんだいマミ、まさか君はこの変態に感化されてストーカーに落ちぶれてしまったのかい? コレは生物界で最下層のカテゴリーに分類されるんだよ」
「殺すわよ淫獣」
「ごめんなさいキュゥべぇ……でも違うの、私、ついさっきここに来たんだけど、鹿目さん達が神妙な表情でお話してたら近寄れなくてずっと隠れてたの……」
「ああ、その判断は正解だよマミ。君がいたら完全に雰囲気ぶっ壊れちゃうから、シリアスムードから一転してボケ合戦に早変わりだからね。よく出来たよマミ」
「キュゥべぇに褒められた……やったわ鹿目さん……!」
「いや私に向かって泣きながらガッツポーズ取られても……」
キュゥべぇに称賛され、さっきからずっと泣いていたマミが右手の拳をグッと握ってこちらに笑いかけるのでまどかは困惑しながらも彼女はどこはホッと一安心していた。
もう一人でウジウジと悩まなくていいのだ。
いつしかまどかの中で自己嫌悪は消えていた。
「そうだよね、ほむらちゃんやマミさん、それにキュゥべぇがいるんだもん。これなら絶対にいい考えが浮かぶよきっと……」
「お~まどかじゃん」
「え?」
二人と一匹を眺めながらまどかが呟いていると、今度は公園の入り口から誰かが彼女を呼ぶ。
まどかが振り返るとそこにいたのはトレードマークの赤髪を揺らし口の中でクチャクチャとガムを噛む……
「ちょうどお前ん家行く所だったんだよ、今日泊めてくんね? また妹と喧嘩しちまってさ~ハハハ」
「杏子ちゃん!」
「あんこ!」
「ハハハ、死ねよ宇宙人」
申し訳なさそうに苦笑しながらこちらにやってきたのは佐倉杏子。
隣町に住み、度々まどかの家で厄介になっている同い年の女の子。
彼女は現れるや否や、そこにいるメンバーをキョロキョロと見渡す。
「ん? こんな時間に公園で集まって何やってんだお前等? 鬼ごっこでもやんのか?」
「発想がバカの極みだね、さすがだよさくらあんこ」
「そうね、しかもさっきどさくさにまどかに家に泊めてくれって頼んでたし、許しがたきバカね」
「黙ってろバカコンビ!」
二人並んでバカにした態度を取ってくるキュゥべぇとほむらに一喝した後、杏子はジト目で噛んでいたガムをプクーッと膨らましながらまどかの方へ向きなおす。
「で? なんかあったのか?」
「あ、うん……実は私のお友達が大変な事になっててみんなで相談しようとしてるの」
「へ、そうなのか?」
シュンとした表情を浮かべそう言うまどかに、杏子はガム風船を小さくさせてまた口の中に入れると頬をポリポリと掻いた。
「じゃあアタシでも出来る事あんなら協力してやろうか?」
「え! いいの!?」
「そりゃあな、お前にはたまに泊めさせて貰ってる恩もあるし」
「ありがとう杏子ちゃん!」
「お、おう……」
朗らかに笑って見せて心の底から嬉しそうに感謝してきたまどかに杏子は思わず顔を赤くしてたじろぐ。素直に礼を言われては照れてしまったようだ。
キュゥべぇ・暁美ほむら・巴マミ・佐倉杏子。
一人悩んでいたまどかの下にいつの間にか三人と一匹の助っ人が集まってしまった。
まどかはもう言葉に出来ないぐらいの喜びをかみしめた。
「みんな、本当にありがとう……」
「へ、水臭ぇ事言うなよ、友達だろ」
「そうよね! 私達お友達よね!?」
「なんか金髪ドリルがアタシに向かってなんか言ってんだけど……」
「私とまどかは友達じゃなくて夫婦よ、私が妻でまどかが夫、逆でも可」
「両パターンとも“不可”だろうが!」
杏子とマミ、ほむらが三人で話しあっているのを見てまどかが安堵の笑みを浮かべていると、ベンチに座っていたキュゥべぇが尻尾を左右に横に振る。
「わかったかいまどか、君は一人じゃないんだ。一人で悩み苦しむのはもう止めてくれよ?」
「うん……」
そう、もう一人じゃない。
いつの間にか自分にはこんなにも頼もしい仲間が出来ている。
「さあまどか」
「“こんなの”ほっといて僕等二人でデラックスな愛を語り合いながら相談しようか」
「ここまで盛り上げといてそれ!?」
その後、まどかはゆかいな仲間達と共に「さやかと仁美の仲直り大作戦」に奮闘する。
そして一週間後、遂にその時が来た。
「いきなりこんな所に連れて来てどうしたのよ」
「い、いいからいいから!」
学校が終わった放課後、まどかは今さやかの手を取って半ば無理矢理にある場所に連れて行く。
実の所、彼女は“例の作戦”について詳しく聞かされていない。
キュゥべぇは「君はさやかを“ここ”に連れて行く事が仕事だよ、それが一番大事な事だからね。後は僕がなんとかするから」と言って作戦の内容は教えてくれなかった。
なんだかイヤな予感を感じつつもまどかは彼の言う通り、さやかを連れて川岸にある小さな野球グラウンドの所に来ていた。
「なにここ? まさかあたしとキャッチボールでもしたいの? 全然いいけど、最近ドロップ投げれるようになったし」
「いやそういうわけじゃないんだけど……」
「?」
挙動不審に辺りを見渡すまどかを見てさやかはわけもわからず首を傾げていると……。
「二人共……どうしたんですかこんな所で?」
「は!? 仁美!?」
「仁美ちゃん!」
突然背後から呼ばれてさやかとまどかが振り返るとそこには、さやかの恋敵である志筑仁美が戸惑った様子で立ちつくしていた。
放課後だという事もあってまどか達と同じ制服姿だ。
さやかは彼女を見た瞬間、すぐにまどかの方へ向く。
「まどか! あんたもしかしてあたしと仁美を会わせる為に……!」
「え! いやその……そういうつもりだったんだけどまさかここで仁美ちゃんが来るなんて……」
「……へ?」
ドギマギしながら慌てているまどかの態度を見てさやかは一層訳がわからなくなる。
どうやら仁美がここに来る事自体、彼女の予想の範疇に無かったようだ。
さやかは嫌々ながらも仁美の方へまた顔を戻す。
「……アンタ、なんでここに来たの?」
「まどかさんがいつも連れてる白い生き物に言われてここに来たんですわ……」
「は? あのナマモノ?」
両手を腰に当てながらさやかはしかめっ面を浮かべる。
どうやら仁美はあのキュゥべぇに何か言われてここに来るハメになったらしい。
「今日の昼休みにわたくしが昼食を取っていると突然あの方が現れ、「君にあの厨二病を一発で落とせるパーフェクトセクシーテクニックを教えてあげるよ、これがあれば美樹さやかなんてあっという間に木端微塵のミジンコちゃんさ」と言われましたので、約束通りその話を聞く為に彼が言っていた待ち合わせ場所であるここに来たのですわ……」
「それでノコノコとここに来るアンタもどうかしてるわ……つうかオイ、木端微塵てなんだ木端微塵って、あたしを木端微塵にする為にアンタここに来たの?」
「ていうか仁美ちゃん、キュゥべぇの喋り方真似するの上手いね……」
三人が野球グラウンドに集まってそんな会話をしていると……。
「どうやらちゃんと美樹さやかをここに連れて来てくれたようだね、まどか」
「あ、キュゥべぇ!」
気配も無く現れたのは白き獣・キュゥべぇ
まどかが振り返るとそこにはグラウンドの真ん中にあった“大きな青色のビニールシートで覆われた四角形の形をした物体”の上に座っている。
見た目からしてかなりの大きさだが……その物体がなんなのかはまどかも当然知らない。
さやかは彼を見た瞬間、目をキッとさせて睨みつける。
「ナマモノ! まさかアンタがあたしと仁美をここで鉢合わせするように計画したの!」
「ハハハハハ、そうさ君達は愉快に僕の手のひらで踊り狂ってただけさ」
「踊り狂ってはないと思うけど……」
無表情でワザとらしい笑い声を上げるキュゥべぇにまどかがボソッと呟いていると、彼はこちらにいる三人を見下ろしながら話を続けた。
「さて、それではまずこの計画の最終段階に入ろうか」
「最終段階……? あんた、一体何を考えてるの」
さやかが眉間にしわを寄せているとキュゥべぇはビニールシートに覆われた物体から飛び下りて地面に着地するとこちらを見上げる。
「それでは君達には盛大に“ケジメ”というものを着けて貰う事にするよ」
「は?」
「暁美ほむら、あんこ、さあやってくれ」
「私に命令するんじゃないわ」
「あんこじゃなくてきょうこだつってんだろ!」
キュゥべぇに指図されると突然、ビニールシートの背後からさやかと同じクラスの転校生であるほむらと、彼女が知らない赤髪の少女が勢いよく現れ、そのまま乱暴に大きな物体を覆うビニールシートを二人がかりでひっぺ返す。
その瞬間、“隠されていた物”が遂に三人の眼前に現れた。
「こ、これは一体どういう事なのでしょう……」
「なんでこんな所にこんな物が作られてるの……」
「これってまさか……ボクシングとかプロレスとかで使う……“リング”!?」
「さすがにアホな君でもわかるんだね、美樹さやか」
三人の前に現れたのはテレビでしか見た事のないボクシングのリング。
大きさはテレビで見た奴のと全く同じサイズで、見た目も同じ。
なんでこんなものがこんな所にあるのかは見当もつかなかった。
そして全てを知るキュゥべぇはさやかと仁美の方へ向いて垂直な結論を言う。
「さあ、間も無くゴングが鳴るよ。さっさとグローブをハメてリングに上がってくれ二人共」
「どういう事ですのさやかさん……?」
「あたしが知りたいわ! ゴングが鳴るってなに!? アンタはあたし達になにさせる気なの!?」
「うわアホ過ぎ、そんな事も説明しないといけないのかい?」
激しく詰め寄ってくるさやかにキュゥべぇは悪態を突くと目を閉じてやれやれと首を左右に振った。
「今ここで、君達がリングに上がって“ボクシング”するんだよ。互いにケジメ着ける為にね」
「ボクシング……ですの?」
「はぁ!!? アンタなにマジでなに考えてんのよ!!」
「君と違って僕は至ってまともだよ、だって」
明らかに戸惑いを隠せない二人に、キュゥべぇはまっすぐな視線で二人を見ながら
「1のシリアスがあったら1000ふざける、それが“ウチのやり方”じゃないか」
「知らねえよ!!」