反逆の牙の決闘記   作:野鳥

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 深夜帯のよく分からんテンションで書いた。

 動機はこんなのですが、よろしければ読んでいただけると幸いです。


少年の目覚め

 

「………あれっ、ここは──何処だ?」

 

 

 ───少年は目覚めた瞬間、何故自分がこんな所にいるのかが分からなかった。

 

 見た所倉庫が建ち並び、上の方を見上げればかなり遠いが何やら巨大なビルらしき建物も見える。

 そして右側には海が一望でき、どうやら港付近の倉庫街であるのは理解できたのだが、ここで気を失っていた経緯。いや、それどころか自分に関する情報が何一つ浮かんでこない事に気付く。

 

 

「……まさか、俗に云う記憶喪失ってやつなのか?」

 

 

 その言葉を即座に思いつけた辺り、知識面で特に困る程の記憶の欠如はないらしい。

 

 だが、そんなものは何の足しにもなりはしないと少年はまず自分が所持している物を確認していく。その中に自身が一体誰なのかを知る手掛かりがあるかもしれないからだ。

 

 これだけを見ると少年は落ち着いているようにも見えるだろう。しかしそれは間違いだ。

 

 いきなりどこかも分からない場所で目覚め、自分の情報がごっそり抜け落ち何も思い出せない───こんな状況で落ち着いていられる筈もなく、少年は見て分かる位に動揺しながら必死に手掛かりを追い求めて所持品を漁っていた。

 

 

「なっ、何か記憶を思い出させる物は……」

 

 

 ───だが、見つかった物の中に少年が望む品はなかった。

 

 あったのは総数100枚以上に及ぶ謎のカードの束。そして使い方も分からず、腕に装着できる事のみしか判明しなかった機械のみだった。

 

 カードの方は表記を見てみると何やら様々なイラストが描かれており、その下には“効果”や“ATK”、“DEF”などと書かれている。

 

 どうやらカードの束の方は、何かしらのカードゲームらしい事。このカードの数からして、自身が熱狂的なカードゲームのプレイヤーだという情報は掴めた。

 

 

 

「──このカードゲームの名前は何なんだ? そこが、どうしても思い出せない………」

 

 

 そしてこのカードの束を見ていると、何かとてつもない喪失感が自分の中で込み上げてくる。

 

 

「………これは」

 

 

 特にカードケースに入っていた一枚のカード。

 

 そのカードは枠が黒で染められており、他にもそのようなカードがある事からこのゲームの中でも特殊な役割を持つ物なのだろう。

 しかし、このカードだけは何故かイラストや効果のテキスト部分に何も描かれていなかった。

 

 

「だけど───」

 

 

 これは自分にとって特に大事なカードだったのだろうか?

 そう思える程の目覚めてから一番の喪失感がその何も描かれていないカードを見た事で彼の心を襲ったのだ。

 

 ならばこれに関して思い出せば何か自分自身の事も思い出せるかもしれないと彼は必死に無くしてしまったこのカードゲームの記憶を呼び起こそうとする。

 が、それ以上何も思い出す事はできない。肝心の名前の部分が分からないからだ。

 

 調べようにも彼の残りの所持品は謎の機械のみであり、そんなものにこのカードゲームの情報があるとも到底思えなかった。

 

 

「どうすればいいんだ? これから………」

 

 

 折角掴めたと思った手掛かりをいきなり失ってしまい、少年は思わず途方に暮れてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 だが、彼は視線の先。かなり先の方にある倉庫にて見た。その中へと入っていく桃色の髪をツインテールに纏めた少女の姿を。

 

 

「───今の感じは何なんだ?」

 

 

 その少女を見た途端、彼は手に持つカード達を見た時と似た状態に陥った。

 

 

「なんだ今のは……。もしかして俺は……彼女を知っている?」

 

 

 その少女に抱いた感情は、大切な人物にだけ抱く親愛のそれだった。

 

 会った事もない人間にそんな感情を抱く事などない。となれば彼女を“自分が記憶をなくす前に親しくしていた人間”だと認識するのはある種仕方のないものだと言える。

 

 彼はカードを元々入っていたケースに収め、すぐさま少女が入っていった倉庫まで急ぐ。

 少女に会うべく、彼は自然とその足を限界まで動かし五分と掛からぬ内に目的地へ辿り着く事ができた。

 

 

「閉まっているな……」

 

 

 着いたものの、中に入るための扉は完全に閉め切られていた。

 

 しかし、閉まっているのなら無理矢理にでもこじ開けてやる───今の彼はそれ位やる気に満ち溢れていた。

 

 そうして両手で力を込め、勢いよく扉を開け放つ。そして中から聞こえてきたのは───

 

 

 

 

 

 

 

「──このネオ沢渡にデュエルを挑んだ事、後悔させてやるぜぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉で、彼はそのカードゲームの名を思い出した。

 己にとって掛け替えのないものを。

 

 

 ────その名はデュエルモンスターズ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        †      †

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の言葉ァ、取り消すなら今の内だぞ……」

 

「御生憎様、そんな気これっぽっちも無いから。このっ、百流デュエリスト!」

 

 

 とある倉庫にて、一人の少女が怒りに打ち振るえる少年に対して威勢良く啖呵を切っていた。

 

 彼女の名は柊柚子。

 

 柚子は目の前の少年 沢渡シンゴが以前柚子の幼なじみである榊 遊矢に負けた事を根に持ち、どんな手段を使ってでも勝とうとしていると聞きつけた。

 それにいても立ってもいられず沢渡の取り巻きの後をつけ、遊矢に勝負を挑む前に止めようとここまで乗り込んできたというのが現在の状況だ。

 

 

「──いい気になりやがって。こうなったら容赦しねぇ! このネオ沢渡にデュエルを挑んだ事、後悔させてやるぜぇ!!」

 

 

 沢渡の沸点はかなり低い。柚子の挑発に見事に乗り、ディスクを腕に装着し完全にデュエルする気満々である。 

 柚子も最初からそのつもりであった為、すぐさまデュエルディスクを装着しようとするが───

 

 

 

 

 

 

「うわっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 突然閉めきられていた倉庫の扉が勢いよく開かれ、扉に陣取っていた取り巻きの一人が驚いて思わず尻もちをついてしまう。

 デュエルに移行しようとしていた二人は何事かと扉に目を向けるとそこには

 

 

「デュエル……だと………?」

 

 

 ───彼女が守ろうとしていた榊遊矢の姿があった。

 

 

「榊遊矢だと!?」

 

「……遊矢?! 何でここに?」

 

 

 柚子は始めようとしていたデュエルの事も忘れ、彼の下に駆け寄る。

 

 

「何で来ちゃったの!? 沢渡の奴が一体どんな手を使ってくるか分からないのよ? もし前みたいに卑怯な手を使ってきたら──」

 

「こいつはいい。まさかそっちからここまで来てくれるとはなぁ。オイ、榊遊矢。今すぐ俺とデュエルしろ!

 

 ………前回の負けはお前がペンデュラムカードを持っていた事が原因だった。

 ───だがっ! それはあくまでカードの差だ。俺がお前よりも格上のデュエリストだって事を、今ここで証明してやる」

 

「何言ってんのよ。あんた最初遊矢からペンデュラムカードを盗んで持ってた上に、自分がクズカード呼ばわりしてたカードで遊矢に負けたんじゃない」

 

「うるさ~い!!

 

 とにかく、今すぐ勝負しやがれ榊遊矢!」

 

 

 沢渡のどこまでも逆恨みな私情を述べながらの宣戦布告に、少年は何も反応しない。少年の意識は別のものに向いていて完全に上の空であり、それを不思議に感じた柚子が少年に話しかける。

 

 

「ちょ、ちょっと遊矢。何か反応しなさいよ」

 

「………ちょっと待て」

 

「?」

 

「………榊遊矢って、俺の事か?」

 

 

 その発言に、少年以外のその場にいた全員が思わず固まってしまった。

 彼の姿はどう見ても榊遊矢以外に考えられず、こいつは一体何を言っているんだというのが全員の総意だった。

 

 

「何言ってるのよ遊矢。こんな時にふざけるのはいい加減にして!」

 

「いや、ふざけてなんかない。………君達は俺の事を榊 遊矢だと言っているが、俺の名前は……多分、そんな名じゃない」

 

「───嘘よ。だってあなたの姿はどう見ても遊矢だもの。

 それとも、まさか本気で言ってるの?」

 

「……残念ながら、な」

 

 

 その言葉が俄に信じられない柚子は心底残念そうにそう呟く少年の姿を改めて観察してみる。

 

 

 彼の服装は普段遊矢が着ているものとは違う、黒のマントを羽織った全体的に暗い色合いの服装であった。おまけに服の状態はかなり悪く、かなり使い回していて一切保全などをせずにいた事が推測できる。

 

 目で分かる違いといえばこの程度しかない。だが、彼女はこの時点でこの少年に遊矢との相違点を見出していた。

 

 遊矢は精神が不安定な部分がある。いつもは誰にでも明るく振る舞ってはいるが、落ち込んだ時はそこから元に戻すのに苦労する程内気になってしまうというまるで振り子のように感情の振り幅が大きい性格なのだ。

 目の前の少年とは今知り合ったばかりの関係であり話を少ししただけではあるが、彼にそんな性格の一端を匂わせる部分は一切感じられなかったのだ。

 

 長年遊矢と親しくしてきた柚子だからこそ気付けた違いである。

 

 

 だが、遊矢ではないのなら何故彼はここへやってきたのか?

 遊矢であったなら、ここに来る前に一緒にいた柚子の父が塾長の遊勝塾に通う生徒 鮎川アユが伝えたのならば納得がいったのだが──と考えを巡らせていたが、その答えを得るのはもう少し後になる。

 

 

「……てめぇら、いつまで俺を忘れてんだ!!」

 

「「あっ」」

 

 

 存在を忘れ去られていた沢渡は完全に怒り狂っており、すぐさまデュエルディスクを装着して二人を指差しながら喋り始める。

 

 

「俺様に怖じ気づいてすぐバレるような嘘までつき始めたか榊遊矢。だがそんな事しても俺の目は誤魔化せねぇぜ?

 

 さぁ、デュエルの準備をしなぁ!」

 

「(……いや、ガチであいつ榊遊矢じゃないんじゃね?)」

 

「(だよなぁ。本物ならあの人に勝ってんだし嘘ついて逃げる必要ねぇよな)」

 

 

 沢渡は少年を榊遊矢だと信じて疑っていないようで、今すぐにデュエルする気満々だ。取り巻きは薄々気付いているようだがそれも全く聞こえていない。

 

 それに対して柚子は未だ半信半疑ではあるものの、本当なら無関係なこの少年を巻き込めないと、沢渡の勘違いを正そうと口を開きかけた。

 しかし肝心の少年は柚子を手で制し、一歩前に出て懐からデュエルディスクを腕に装着した。

 

 

「ちょっと待って! 本当ならあなた遊矢じゃないんでしょ?

 だったらこれはあなたには関係ない事で、あなたがデュエルする必要は──。

 ……って、まずデュエルできるの?! 」

 

「───ああ。

 

 だが、勝手に割り込んで悪いと思っているが、あっちは俺をご指名らしい。

 撤回する気は無いようだし、だったらもうやるしかないだろう」

 

「これはそういう問題じゃ──」

 

「黙ってろ柊柚子!

 

 ……やっとやる気になりやがったか。だったら生まれ変わったこのネオ沢渡の実力、たっぷりと思い知らせてやる!」

 

「──いいぞ。じゃあ、始めよう」

 

 

 

「「デュエル!」」

 

 

 

 

 

 

 

        †       †

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 UNKNOWN LP 4000

 

   沢渡 LP 4000 

 

 

 

 

 

 先行は少年だ。彼は先程ルールを思い出したばかりながらも、何の問題もなくゲームを進行していく。

 

 

「先行は俺か………よし。

 

 俺は《幻影騎士団ダスティローブ》を召喚」

 

 

 

 《幻影騎士団ダスティローブ》 ATK 800

 

 

 

幻影騎士団(ファントム・ナイツ)──!?」

 

「榊遊矢。てめぇ、何故ペンデュラムカードを使わねぇ!」

 

 

 ダスティローブの姿は自身の周りに四つの人魂を従えるローブを被った幽霊。

 

 少年は普通にモンスターを召喚しただけだが、それを見た沢渡と柚子は驚きを隠せずにいた。

 何せ榊遊矢の使うデッキは『EM(エンタメイト)』と呼ばれるサーカス団をモチーフとしたデッキであり、少年の幻影騎士団とは似ても似つかないモンスター達ばかりだからだ。

 

 それに彼のデュエルディスクも市販されている物とも、遊矢の物とも違った形をしている。

 市販されている物はタブレットのような形状で、遊矢の所持しているディスクは市販の物を赤く彩色したタイプだ。

 しかし彼の装着している物は黒を基調とした彩色が為されており、液晶部分は丸くそれ以外が細長い設計が為されていた。

 

 

(……本当に遊矢じゃなかったんだ)」

 

 

 扱うモンスターとデュエルディスクの差異。これが彼女の中で半信半疑でしかなかった“目の前の相手が遊矢ではない”という可能性を確信に変えた。

 

 

「さらに場に《幻影騎士団》モンスターが存在する時こいつを召喚できる。《幻影騎士団サイレントブーツ》を特殊召喚」

 

 

 

《幻影騎士団サイレントブーツ》 ATK 200

 

 

 少年はそんな二人の反応を無視してデュエルを続行し、さらにモンスターを召喚する。

 しかし、召喚されたモンスター達はどれも攻撃力が低く、次のターン沢渡がそれよりも高い攻撃力のモンスターを出せば容易く破壊されてしまうカードばかりだ。

 

 一体何をするつもりなのか?

 

 そんな二人の疑問に答えるかの如く、彼はさらなる召喚を行う。

 

 

「俺はレベル3の《ダスティローブ》と《サイレントブーツ》でオーバーレイ!

 二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。

 

 エクシーズ召喚!現れよ、《幻影騎士団ブレイクソード》!!」

 

 

 その詠唱と共にブラックホールのような渦がフィールド上に出現し、二体の幻影騎士団は光となって渦の中心へ吸い込まれていく。

 

 ───そして渦は突如爆発を起こし、そこから現れたのは空洞である筈の鋼の騎馬と人馬一体となった、漆黒の鎧を身に纏いし幽霊の騎士。

 片手には身の丈程もある大剣を構え、何とも言えぬ威圧感をこの場にいる者達に与えながらフィールド上に顕現した。

 

 

 《幻影騎士団ブレイクソード》 ATK 2000

 

 

 

 

「エクシーズ召喚!?」

 

「それって、LDSでもトップクラスのエリートしか受講できない召喚法じゃないか!」

 

 

 ───エクシーズ召喚は最近になって舞網市の中で最も人気のデュエル塾『LDS』が取り入れた召喚法である。

 

 一定数のフィールド上に存在する同じレベルのモンスターを素材にエクストラデッキからモンスターを特殊召喚する召喚法。

 このエクシーズを会得するにはLDSに入塾するしかないと云われ、事実外部にはその詳細な情報はほとんど伝わっていないのが現状なのだ。

 

 

(………そんなに珍しいか?この召喚法)

 

 

 そんなこの街の。いや、この世界(・・・・)のデュエル事情を知らない少年からすれば彼等の反応は理解できないものでしかなかった。

 

 一方でエクシーズ召喚を使ってみせた少年は一体何者なのだと柚子をはじめ取り巻きの三人が驚愕した表情を浮かべる中、沢渡は何故か拍手をし始める。

 少年と柚子はその行為を訝しんだが、沢渡はそんな事はお構いなしに少年に語り掛ける。

 

 

「───いやぁ、まさかあのエクシーズ召喚を使うとは、恐れ入ったよ。

 それにさっきは悪かったな。どうやらお前は本当に榊遊矢じゃなかったらしい」

 

「「「なっ……!? あの沢渡さんが謝った??!」」」

 

「オイ、お前ら聞こえてるぞ!」

 

「「「はっ、 ハイ!!」」」

 

 

 一旦仕切り直すように咳払いをして話を戻す。どうやら今の流れはなかった事にしたいらしい。

 

 

「だがな、お前がエクシーズ召喚を使うからといって俺に勝てるかといえばそれは大間違いだ。

 

 さぁ、早くターンを終わらせろ。それを今から見せつけてやる!」

 

「………カードを二枚伏せ、ターンエンド」

 

 

 少年がターンを終了させるとすぐさまデッキトップに手を掛けた沢渡。その表情は自分が負ける事など全く頭にないらしく、彼の顔は相手を舐めきっているのが手に取るように分かるような笑みを浮かべていた。

 

 

「俺のターン、ドロー!

 

 俺は手札の《氷帝家臣エッシャー》を特殊召喚」

 

 

 

 《氷帝家臣エッシャー》 ATK 800

 

 

 

「こいつは相手の魔法・罠ゾーンにカードが二枚以上存在する時特殊召喚できる。

 

 ───さらに、速攻魔法『地獄の暴走召喚』を発動!

 こいつの効果でデッキから二体目の《エッシャー》を特殊召喚する!」

 

 

 

 《氷帝家臣エッシャー》 ATK 800

 

 

 

「こいつにはさらに相手は相手フィールド上のモンスター一体を選択し、そのモンスターと同名のカードを選択して手札、デッキ、墓地から特殊召喚する。っていう効果があるんだが、そっちの場にはエクストラデッキから召喚されたモンスターしかいない。

 

 よって、お前の場にモンスターが増える事はない」

 

 

 このカードは上手く使わねば相手にも大量展開を許してしまうようなカードだが、今回は少年の場にはエクシーズモンスターしかいなかったために沢渡だけが恩恵を受ける結果となった。

 

 少年は知る由もないが、現在沢渡が使っているデッキは榊遊矢のペンデュラム召喚対策に組んだものである。

 ペンデュラムモンスターは破壊されればエクストラデッキに行く特性がある為、状況次第ではあるがこのカードはペンデュラムの大量召喚にある程度追随する事ができるのだ。

 

 彼とは逆に柚子は沢渡の意図に気付き、こうしてすぐ対策をとってくる辺り口先だけのデュエリストではないのだと実感せざるを得なかった。

 

 

「俺は二体のモンスターをリリースし、《凍氷帝メビウス》をアドバンス召喚!」

 

 

 

《凍氷帝メビウス》 ATK 2800

 

 

 

「攻撃力2800のモンスター……!」

 

「こいつはアドバンス召喚に成功した時、相手フィールド上の魔法・罠ゾーンのカードを3枚まで選択して破壊する効果を持つ。

 よってお前の場の伏せカードを破壊するぜ!」

 

 

 メビウスから発せられる吹雪により、伏せカードは発動される事なく破壊されてしまう。

 

 

「バトルだ。凍氷帝メビウスで《幻影騎士団ブレイクソード》を攻撃!」

 

 

 《凍氷帝メビウス》は沢渡の指示に従い、両手から氷のエネルギー体を作り出して勢いをつけながらブレイクソードへと投げつけた。

 

 伏せカードが破壊されてしまった今、誰もがブレイクソードの破壊は免れないと感じた。

 

 ───ただし、少年以外は。

 

 

「……俺は墓地に送られた永続魔法《幻影死槍(ファントムデススピア)》の効果発動!

 自分フィールド上の闇属性モンスターが戦闘または効果で破壊される場合、墓地のこのカードを除外する事ができる」

 

「なっ、 墓地から魔法だと!?

 ──くっ、だがダメージは受けてもらうぜ!」

 

 

 墓地より魔法陣を発生させながら出現した槍はメビウスのエネルギー体目掛けて射出され、相殺という形でブレイクソードの破壊を防いだ。

 

 

 

 UNKNOWN LP 4000 → 3200

 

 

 

 ライフは減らせたものの、沢渡はブレイクソードを破壊できなかった事に苦虫を噛み潰したような顔になる。

 が、それも一時的なもの。すぐにカードを一枚伏せてターンを終了させた。

 

 

「……このターンで破壊できなかったが、所詮はたかが攻撃力2000のモンスター。次のターンで《メビウス》の餌食にしてやるよ」

 

 

 確かに攻撃力2000のブレイクソードでは現状メビウスを倒す手立てはない。

 だが、少年はメビウスは必ず倒せるという絶対的な自信を持っていた。

 どこからそんな自信が湧いてくるのかは少年にも分からない。でも、このデッキならきっとこいつを超えられると信じ、少年は勢いよくカードを引いた。

 

 

「俺のターン、ドロー!

 

 ───これは」

 

 

 引いたカードを見て、いいカードを引いたと彼は勢いよくディスクへそのカードを読み込ませた。

 

 

「俺は魔法カード《強欲で貪欲な壺》を発動!

 デッキの上からカードを10枚裏側表示で除外し、カードを2枚ドローする。

 

 さらにカードを一枚伏せて、《幻影騎士団ブレイクソード》の効果発動!ORU(オーバーレイユニット)を一つ使い、自分フィールドと相手フィールドのカード一枚を破壊する!

 俺が選択するのは今伏せたカードと《凍氷帝メビウス》!!」

 

「そうはさせるか!リバースカードオープン、《帝王の凍志》。

 

 選択した自分フィールド上の表側表示で存在するアドバンス召喚したモンスターの効果を無効にし、このカード以外の効果を受けなくする!

 残念だったな。その程度の対策を俺が怠ると思ったか!!」

 

 

 少年の策を潰してみせた事を沢渡は自画自賛しながら得意気になっているが、彼は気付いていなかった───この状況は少年の中で予想の範疇でしかない事を。

 

 

「俺は場にブレイクソードが存在する事で、《幻影騎士団サイレントブーツ》を特殊召喚」

 

 

 

 《幻影騎士団サイレントブーツ》 ATK 200

 

 

 

「そして俺はダスティローブを通常召喚」

 

 

 

 《幻影騎士団ダスティローブ》ATK 800

 

 

 

「2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。

 

 エクシーズ召喚! 現れよ、《彼岸の旅人 ダンテ》!」

 

 

 

 《彼岸の旅人 ダンテ》 ATK 1000

 

 

 

 次に現れたエクシーズモンスターは中世の旅人を思わせる屈強な男性だった。

 沢渡は《強欲で貪欲な壺》を使ってまで召喚したモンスターが攻撃力1000のモンスターであった事に思わず笑ってしまいそうになったが、ここから彼はそう思っていられない展開に直面する事となる。

 

 

「ダンテのORUを一つ使いデッキからカードを三枚墓地に送って効果発動。ダンテの攻撃力は墓地に送ったカードの数×500ポイントアップする。

 よって、ダンテの攻撃力は1500ポイントアップ!」

 

 

 

 《彼岸の旅人ダンテ》 ATK 1000 → 2500

 

 

 

「くっ! だが、まだメビウスの攻撃力には及ばないぞ!」

 

(今……笑った?)

 

 

 確かに沢渡の言う通り、まだ彼の場には《凍氷帝メビウス 》の攻撃力を超えるモンスターは存在しない。

 

 しかし柚子は見た。

 

 彼は一瞬。それも隣でデュエルを見ていた柚子にしか分からない位の微笑を浮かべていたのを。

 それは、彼が沢渡を倒す準備を終えた証だった。

 

 

「ダンテの効果により墓地に落とした《幻影霧剣(ファントム・フォッグ・ブレード)》の効果発動!

 このカードを除外する事で自分の墓地の《幻影騎士団》モンスターを特殊召喚する。俺はORUとして墓地に落としたサイレントブーツを選択。

 

 さらに、墓地の《幻影翼(ファントム・ウィング)》の効果発動!

 このカードも除外する事で墓地の《幻影騎士団》モンスターを特殊召喚する効果を持つ。

 

 蘇れ、ダスティローブ!!」

 

 

 

 《幻影騎士団サイレントブーツ》 ATK 200

 

 《幻影騎士団ダスティローブ》  ATK 800

 

 

 

「今度は墓地から罠!?」

 

 

 これだけ墓地から展開されれば嫌でも分かる。この少年のデッキは墓地で効果を発動するカードが主なデッキなのだと。

 そして、場にレベルが同じモンスターを揃えたという事はエクシーズ召喚をする気か───沢渡達はそう予想したが少年はその前に最後の準備を行う。

 

 

「《幻影騎士団ダスティローブ》の効果発動。

 

 このカードがフィールドに攻撃表示で存在する時、このカードを守備表示にする事で自分フィールド上の闇属性モンスター1体の攻撃・守備力を相手ターン終了時まで800ポイントアップする

 

 俺はブレイクソードを選択」

 

 

 

《幻影騎士団ダスティローブ》 ATK 800 → DEF 1000

 

《幻影騎士団ブレイクソード》 ATK 2000 → 2800

 

 

 

「なっ、何ィ!!?」

 

「これで攻撃力が《凍氷帝メビウス》と同じに!」

 

 

「俺は二体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。

 

 エクシーズ召喚! 現れよ、《No.(ナンバーズ)17 リバイス・ドラゴン》!!」

 

 

 

 

 《No.17 リバイス・ドラゴン》 ATK 2000

 

 

 

(何なの、あのモンスター………)

 

 

 最後にエクシーズ召喚したのは合計6枚の両翼を持った青を基調とした龍。

 頭部の角には17を象った紋章が施されており、その威圧感はブレイクソードのものを優に越えており、少年以外のこの場にいた者全員が一歩後ずさってしまう程だった。

 特に沢渡の顔は先程までとは一転してどんどん青ざめていき、尚且つ自身の現状を理解したのか恐怖でその身を震え上がらせていた。

 

 

「……メビウスと同じ攻撃力のモンスターが1体。それに、攻撃力2000以上のモンスターが2体って事は……」

 

「これで沢渡を倒せるわ!」

 

「やれ、《ブレイクソード》!《凍氷帝メビウス》に攻撃!!」

 

 

 ブレイクソードはメビウスへと斬りかかり、メビウスはそれにカウンターで迎撃しようとする。

 が、ブレイクソードの剣はメビウスの体を一閃し、メビウスのカウンターはブレイクソードの鳩尾に直撃する形で両者共派手な爆発を起こしながら相打ちとなった。

 

 

「続いて《彼岸の旅人ダンテ》でダイレクトアタック!

 

 トドメだ、《リバイス・ドラゴン》でダイレクトアタック!《バイス・ストリーム》!!」

 

 

 少年の指示に従いダンテが沢渡に全力の突進からのアッパーを決め、その後間髪入れずにリバイス・ドラゴンの放つ紫の破壊の奔流が沢渡を襲い、彼のライフを根こそぎ奪い去った。

 

 

「うわあぁぁぁ!!!」

 

 

 

 沢渡 LP 4000 → 1500 → 0

 

 

 

 

 

 

 

      †         †

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエルの後、沢渡は「戦略的撤退だぁ~!!」などと捨て台詞を吐きながら取り巻きと共に倉庫を撤収していった。

 

 今この場にいるのは少年と柚子のみである。

 

 

「……結局、あなたは一体誰なの?」

 

 

 柚子は率直に疑問をぶつける。

 

 結果的に助けてもらう形になったが、そもそも彼は名前も知らない赤の他人。だというのに自分の幼なじみにそっくりであったりと彼女にとって彼は謎の多い人物でしかなかった。

 

 一方で問われた少年はというと何やら申し訳なさそうな表情で思わぬ事を口にした。

 

 

「それは……実はこっちが聞きたい位なんだ」

 

「? それってどういう意味?」

 

「言葉通りの意味だよ。……俺は自分が誰なのかさえ全く思い出せないんだ。

 ここに来たのも君が俺の事を知ってるかもしれないと思ったからで……」

 

「ちょっと待って! 私は今日まであなたと会った事はないわ。

 それに、デュエルができるのに記憶喪失ってどういう事なの?」

 

「───デュエルに関してはここに来て思い出したんだ。それと君が俺と会った事がないのは分かった。

 

 でも、何故か俺はここに向かっている君を見つけた時にそういう風に感じたんだ。そんな事言われても訳が分からないと思うが……」

 

 

 少年の言う事は俄かには信じられない事ばかりだ。だが彼はとても嘘をついているようには見えず、また此方を騙して彼が得するような事も思いつかない。

 

 それに何よりまだ会ったばかりだが、この少年がそんな真似をする人間だとは柚子には思えなかった。

 だから彼女は、謎はあるものの彼の言い分を信じてみる事にした。

 

 

「……そうだ。デュエルディスクのユーザー登録!」

 

「えっ、何それ?」

 

「デュエルディスクには持ち主しか使えないようにユーザー登録をする機能があるのよ。もしかしたらそれにあなたの情報があるかも」

 

「! ───すぐに使い方を教えてくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「柚子ー!!」

 

 

 

 

 その時、倉庫の外から誰かの声が聞こえてきた。

 

 柚子はその声が誰のものか気付き後ろを振り向こうとすると唐突に腕に身につけていたブレスレットが謎の光を放ち始める。

 

 

「きゃ!?」

 

「なっ!」

 

 

 その光の眩しさに二人は思わず目を閉じてしまう。

 

 ───だから気がつかなかった。

 少年のデッキが、そしてカードケースの中のカード達が、ブレスレットの光に呼応するかのように輝きを放っていた事に。

 

 

 そしてブレスレットの光は始まった時と同じく唐突に止まり、二人は恐る恐る目を開けてみるが特に何も起こった様子はなかった。

 

 

「───何だったの、今の……」

 

「……さぁ?」

 

 

 

 

 

 

「柚子、無事か! ………って、ええっ! 俺がもう一人!?」

 

 

 

 

 ───これが、彼等の出会い。

 

 この出来事が後に彼等の運命を大きく変えていく事になるのだが、それはまだ誰も知らない。

 

 

 





 Q 何故○ーク・○ベリオン・○クシーズ・ドラゴンを使わなかったの?

 A この話を読んでみれば一応描写がある。しばらくは使用不可です。


 Q 何で主人公はNo.を使えるの?

 A 理由も考えてあるけど、少なくとも主人公以外にNo.を使わせる気は全くありません。




 これからぼちぼち投稿させてもらいますので、気に入っていただけたならまた見てもらえると嬉しいです。
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