歳星に着いた俺達はテイワズのトップ、マクマード・バリストンの屋敷に来ていた。
「良いかぁ?この先に居るのは圏外圏で一番恐ろしい男だ。くれぐれも失礼の無いようにな」
名瀬さんの言葉に俺達は気を引き締める。
「よう。久しぶりだな」
名瀬さんが目の前の黒いスーツを着たスキンヘッドの男に話しかける。
「お久しぶりですタービン様。失礼ですが本日のご用件は?」
「ああ。親父に会いに来た」
名瀬さんが用件を言うと門が開く。
「さ~て・・・んじゃ行くか」
そう言って案内の黒服の後ろを歩き出す名瀬さんの後について行く。そして部屋に通されると和服姿の男性が盆栽の手入れをしていた。
「ん?おう、来たか名瀬」
目の前の男性が俺達に気づき、手を止めてこちらに体を向ける。
この人がテイワズのボスのマクマード・バリストンさんか。
「ひっ!?」
その手に握られた鋏の切っ先にビビるユージン。
「成る程、お前らが・・・話は聞いてるぜ。良い面構えしてるじゃねえか。おーい、客人にカンノーリでも出してやれ。クリームたっぷりのな」
「へい」
「うちのカンノーリはうめえぞぉ、パリッとした皮にたっぷりのクリームでなぁ」
友好的な感じで俺達にカンノーリの美味さを語るマクマードさん。……なんか俺がイメージしていたのとは違うな。
「で名瀬、お前はどうしたいんだ?」
「こいつらは大きなヤマが晴れる奴だ。親父、俺はこいつに盃をやりたいと思う」
「!?」
名瀬さんの言葉にオルガは驚く。あれ?確かオルガから聞いた話だと名瀬さんはマクバードさんに話を通すだけで、テイワズの傘下に入れるのはオルガ次第という話じゃなかったっけ?
「ほう、お前が男をそこまで認めるか。珍しい事もあるものだな」
マクマードさんが興味深そうな様子で名瀬さんを見る。
「まあ、良いだろう。俺の下で義兄弟の盃を交わすと良い。タービンズと鉄華団は晴れて兄弟分だ」
え?そんな簡単に了承して良いのか?
「タービンズと俺らが、兄弟分?」
オルガは戸惑った様子で呟く。
「で、貫目は?」
「五分で良い、どっちが上も下も無い」
「ふ、お前が良くてもな周りが許さんだろう。こいつらには荷が重い、せめて四分六にしておけ」
その後、クーデリアさんだけ別の話があるらしく、護衛に三日月を残して俺達は庭のテーブルと長椅子の所で終わるまで待つことになった。
「うっめえ!なんじゃこりゃあ!」
ユージンは出されたカンノーリに夢中で頬張る。
「ユージン、もう少しゆっくり食えよ。喉を詰まらせるぞ」
「んぐ、んなこと言われても、これ美味すぎて手が止まらねえよ!」
そう言いながら次々とカンノーリに手を伸ばすユージン。
「おっとそうだ、お前らが持って来た鹵獲品の値が付いたぞ」
名瀬さんは端末の画面を俺達に見せる。そこに表示された金額は予想以上に多かった。
「この金額で良けりゃあ請求を寄越してくれ」
「こ、こんなに!?」
「マジかよ!?」
金額を見たビスケットとユージンは驚く。確かにこの金額は俺も驚いた。
「玉石混合だったがな。中でもグレイズのリアクターは高く売れた。今エイハブ・リアクターを新規で製造出来るのはギャラルホルンだけだからな」
「何から何まで恩に着ます。えっと…あ、兄貴」
「まだその呼び名は早いぜ」
オルガは照れながら兄貴と呼ぶが名瀬さんは苦笑いをしながら返す。
「歳星は金さえありゃあ楽しめる場所だ。ずっと戦闘と移動続きでガキ共もストレスが溜まっているだろう、少しは息抜きさせてやれ」
「そうゆうの、何時もカミさん達にやってるんですか?」
「んん?」
「いや、えっと…家族サービスってやつなのかと」
「ああ~、女ってのは適度にガスを抜かないと爆発すっからなぁ。ま、家長としては当然の務めってやつだ」
「家長として……」
名瀬さんの話を聞いたオルガは急に立ち上がる。
「よし!こいつの売り上げで今夜はパーッと行くか!」
「マジでか!?」
「待ってよオルガ!これからの事を考えて堅実に資金運営を・・・」
「ほかの連中にも早く知らせねえとな!」
「おう!パーッと行こうぜ!パーッと!」
ビスケットの言葉を聞かず話を進めるオルガとユージン。
「聞こえてないみたいだぞ?ビスケット」
「だね。まあ、たまには良いか」
ビスケットはため息をつけながら言う。
その後、話が終わったクーデリアさんと三日月が戻って来た。俺達はそのままショッピングモールに向かった。
そこで買い物をしてイサリビに戻り、子供たちに大量の菓子を渡した後、シノがオルガに俺達には無いのかと聞くとオルガは笑みを浮かべてあると伝え、俺達を連れ出した。
―――――――
「イエーイ!」
「イヤッホー!」
「ははははははは!」
歳星のとある酒場で仲間たちが騒ぎまくる。
「みんな遠慮しないで思いっきり楽しめよ!」
オルガが言うとみんなは次々と注文をしたり、色々な話をする。
「飲んで食ってちゃ物足りねえよ。やっぱここは女だろ女!」
「え?」
「タービンズと一緒になってストレス溜まってんだよ。乳ぶらぶらさせてる女が居るのに手が出せないんだぜ?なあ!ユージン?」
「俺は女なんて、別に」
「たく、くだらねえ」
「おらおら、何やってんだ?今日はとことん飲んでいくぞぉ!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
みんなはより一層テンションを上げる。
「凄い事になってるな。やっぱりみんなストレスを溜めてたんだな」
「そうだね。」
「三日月は飲まないのか?」
「俺、この匂い苦手だから飲まない、一夏は?」
「俺も苦手だから飲まないな」
その後も宴会は続いたが途中でオルガが気分を悪くし、俺と三日月はオルガに付き添う事になった。
「げっほ、げほげほ、はあ、うぅ」
「大丈夫?オルガ」
三日月は吐いているオルガの背中をさすりながら聞くがオルガはうめき声を上げるだけだった
「……大丈夫じゃないみたいだな」
俺は薬を買おうかと思っていると、金髪の女性がオルガにハンカチを渡してきた。
「これ、良かったらつかって」
「う、うん?」
「大人になるんなら、いろんな方との付き合い方を覚えなくちゃだめよ」
そう言うと金髪の人はそのままこの場を去った。
「…誰?」
「さあ?」
オルガは手にしたハンカチを嗅ぎ始める。
「…女くせぇ」
「オルガ、なに嗅いでんだよ」
「いや、なんとなく」
「なんとなくって」
「な、なんだよ、その呆れた顔は」
「別に?それよりもう大丈夫みたいだから俺は戻るぜ」
「あ!おい一夏、待てよ!」
オルガは俺を呼ぶが、それを無視して酒場に戻った。
―――――――――
そして宴会が終わり、その場はお開きとなった。
「んじゃ、俺らはここで」
「お、俺はあれだからな。シノがどうしてもと言うから…」
「ああ、分かっているよ。行ってらっしゃい」
ビスケットがそう言うと二人はそのままどこかに行った。
「Zzzz」
オルガは昭弘に背負われて眠っていた。
「こんなオルガ、初めて見た」
三日月がそう言うとオルガは何かを呟く。
「やっとだ…やっと…家族を作ってやれる…お前らにも…やっと…胸をはって帰れる…居場所を…」
「オルガ…」
「家族…か…」
オルガの言葉を聞いた昭弘は上を見上げながら呟く。
「昭弘、どうした?」
「いや、何でもない」
「そうか」
―――――――――――
イサリビに戻った俺は三日月とビスケットといまだ寝ているオルガと共に食堂に居た。
「ほら、こんな所で寝たら風邪引くよ、オルガ」
三日月は自分の上着をオルガにかける。
「そっか、クーデリアさんは実質、テイワズ預かりになるってことか」
「反対した方が良かったかな?」
「どうして?」
「テイワズが間に入ったら、儲けが少なくなるだろうし。こんな大事な事、オルガに聞かずに決めて…」
「三日月、組織間の戦争なんてことになったら、俺達じゃ手に負えないってことはオルガにだって分かっているはずだ。だからお前の判断は間違っていない」
「一夏の言う通りだよ。いや…今まで上手く行ったから良いけど、本当は俺達には手に負えない事ばかりだったよね」
「でも、オルガの意地のおかげで、俺達の夢が見れた」
「…だね」
「そうだな」
「まあ、オルガにはもう少し俺達に頼って欲しいんだけどね」
「だな。オルガは全部一人で背負おうとするしな」
オルガをそのまま寝かせることにし、俺達は部屋に戻った。
―――――――――
翌日、名瀬とオルガが兄弟の盃を交わす式が行われる会場で俺と三日月は名瀬さんと一緒に居た。名瀬さんは筆で何かの文字を書いていた。おそらく、式で使うものなんだろう。
ちなみに今書いていたのは左に名瀬蛇亞瓶、右に御瑠我威都華と書かれていた。それにしても凄い達筆だな。
「変わった絵だね」
三日月は名瀬さんが筆で書いた文字を見て言う。
「字だよ。これでオルガ・イツカって呼ぶんだ」
「字?」
「式に使うんだ」
「へえ、この字って俺のにもあるの?」
「お前の?ふむ…」
名瀬さんは何か思いつき紙に書き始める。その紙を三日月に渡す、そこに書かれたのは三日月王我主と書かれていた。
「これが、俺の?」
「ああ、どうだ?」
「俺、クーデリアから教わった物よりこっちの方が好きだな。何か綺麗だ」
どうやら気に入ったみたいだな。
「名瀬さん、俺も書いても良いですか?」
「ん?お前、字が書けるのか?」
「はい、昔教わったことがあったので」
「そうか、なら良いぞ」
「ありがとうございます」
名瀬さんに礼をいって渡された紙と筆で自分の名前を書く。
「う~ん、下手では無いが上手くもないな」
書き終わった俺の字を見てそう評価する名瀬さん。まあ、久しぶりに書いたからしょうがないか。
「そうですね」
そう言いながら、三日月に渡す。
「これが一夏の?」
「ああ、これが俺の名前、織斑一夏だ」
「失礼します」
俺がそう言うと、入口から和服姿のオルガが入って来た。ちなみに俺達はいつもの服の上に羽織を着ている。
「お待たせしました」
「おお!似合っているじゃないか!」
「どうも…ん?」
オルガは字が書かれた紙を見る。
「これって式に使うものですか?」
「ああ」
「ほら、こっちは俺、こっちは一夏の。一夏のは入ってないけど、俺とオルガに同じ字が入っている」
「え?」
三日月は自分の名前が書かれた紙と俺が書いた紙をオルガに見せる。三日月、自分の字の下手さが際立っていて恥ずかしいからやめてくれ。
「それは御留我の我に、王我主の我だ。『われ』とも言う」
「われ?」
「自分って意味さ。これからどんどん立場が変わる。自分を見失うなよオルガ。でねえと、家族を守れねえぞ」
「!?……はい」
名瀬さんの言葉にオルガは目を見開くが直ぐに顔を引き締めて答える。
「じゃあ、そろそろ行くか」
「うん」
「はい」
「分かりました」
俺達は部屋から出る。
「団長さん!」
するとそこで、ドレスを着たクーデリアさんが来た。
「おお!良いねぇ!」
「どうしたの?」
「ありがとう、三日月、私決めたわ」
「え?」
「団長さん」
クーデリアさんが何かを決心した顔でオルガに向ける。
「いえ、オルガ・イツカ、お話があります」
そう言うとオルガとクーデリアさんがマクマードさんの所に行った。恐らく今後のことについて話をしに行ったんだろう。
その後、式は問題なく終わり、鉄華団とタービンズは歳星を出発した。