ウルキオラは羽衣狐の邸宅にある書庫を漁っていた。自分、黒崎一護、鬼道術式全集。もはやこの世界とあちらの世界が何らかの形で繋がっているのは明白だ。故にウルキオラはほかの痕跡が無いか調べていたのである。だが、収穫の程は思わしくない。
「やはりそう簡単にはいかんか。いや、もしかしたら俺がこの世界に紛れ込んだせいで二つの世界が繋がってしまったのか?」
思考に耽っていると、羽衣狐が帰ってきた。どうやら獲物を二人ほど連れ込んだらしい。霊圧は二人合わせても並みの虚一匹にも及ばない程度である。精々、多少霊体が視えるくらいだろう。だが、ここで自分が目撃されるのはあまり好ましくない。そう判断し、羽衣狐の邸宅を出た。外は雪が降り始めていた。
最近の京都は高層建築物もそれなりに増えて、「風光明媚な古都」の面影を残しているのは観光名所くらいになりつつある。12月上旬だと言うのに街のあちこちにイルミネーションが飾り付けられ、もうすぐ冬休みで浮かれているガキ共がそこら中ではしゃいでいる。だが、羽衣狐をはじめとした京妖怪達はそれが気に入らないらしい。
「人間共め、図に乗りおって」「鵺が復活し、悲願達成した暁には一掃してくれる」「再びこの世を暗き闇で覆いつくすのだ」「やっぱ人間てクソだわ」「マジハゲドー」
などと息巻いているものも居る。もっとも、ウルキオラにとっては瑣末な問題なので特に気にはしていない。今問題なのは先程から尾行していているカソックを着た1人の女である。恐らくはエクソシストと言う奴なのだろう。
(生身の人間にしては中々の霊圧だな。3桁の十刃落ち連中に匹敵し得る。だが尾行の方は上手いとはいえないようだな。それに、俺に対する殺気が抑えきれずに洩れている。)
ウルキオラはあえて虚無殿ではなく山の麓の方に向かうことにした。
「この丘ならば邪魔なものは何もない。」
ウルキオラはシスターと対峙した。改めてそのシスターを観察する。金髪に深紅の瞳をした若い白人で、身長や体格はティア・ハリベルに程近い。聖性を帯びた剣を二振り有しており、カソックもただの衣服ではなく何らかの術式が施されていると視える。それ以外にも様々な武装を隠し持っている様だ。
「随分と余裕ですね。その傲慢、我が信仰にかけて微塵に砕いて差し上げます。」
「―――――――信仰、か。いいだろう。全力でこい。」
その女は2振りの聖剣を抜いて十字に重ねた。
「我らは神の代理人 神罰の地上代行者 我らが使命は 我が神に逆らう愚者を その肉の最後の一片までも絶滅すること――― Amen」
その宣誓で女の纏う空気は明確に切り替わった。その様はさながら両手に持つ聖剣の様でさえある。ウルキオラは女に対する評価を1段上げた。
女は両手に持つ聖剣を縦横無尽に駆りウルキオラを倒滅せんとする。愚直なまでに基本に忠実で、それ故に隙も無い。聖剣と言うだけあってウルキオラにとっては相性が悪い。まともに受けたとしても鋼皮を浅く切り裂く程度だが、あまり受け続けるのも得策ではないだろう。
「ハアアアァァァ!!」
女は果敢に攻め続ける。だが、女の技量と聖剣だけではウルキオラの命に届かないことはもはや明確だ。
ここに来て初めてウルキオラが攻めに回る。響転で頭上に回り、手刀を延髄目掛けて振り抜く。女はギリギリで回避したものの、体制を大きく崩している。ウルキオラはその隙を見逃さない。
「雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ――――縛道の六十一・六杖光牢」
「なぁっ!何ですかコレ!?」
「止めだ。散在する獣の骨 尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪 動けば風 止まれば空 槍打つ音色が虚城に満ちる――――破道の六十三・雷吼炮」
だが、女は雷吼炮が直撃する寸前で、口を使い懐から純銀のロザリオをとりだして防御結界を展開してのけた。
「
「なるほど。存外にできるな。」
女は結界を維持したまま微笑を浮かべる。
「我々の信仰を侮らないで下さいね。」
女は聖書の頁であろう紙片を展開し、ウルキオラの周辺を囲む。さらに、懐から小型のロザリオを大量に取り出し、聖書の頁を陣を描くように小型のロザリオで地面に打ち付ける。
「天にましますわれらの父よ、願わくは御名の尊まれんことを、御国の来たらんことを、御旨の天に行わるる如く地にも行われんことを。
われらの日用の糧を今日われらに与え給え。
われらが人に赦す如く、われらの罪を赦し給え。
われらを試みに引き給わざれ、われらを悪より救い給え。――― Amen」
「まさか、この程度で俺を封印したつもりか?」
「それこそまさかですね。その結界はあくまで下準備にすぎませんよ。我等カトリックが誇る神罰の地上代行者に伝わる破魔洗礼の術式をもって完全に浄化して差し上げます。」
「生者の為に施しを、死者の為に花束を。正義の為に剣を持ち、悪漢共には死の制裁を。
しかして我等 聖者の列に加わらん。
聖母マリアの名に誓い、全ての不義に鉄槌を。
女が十字を切ったことで洗礼の術式は完成し、ウルキオラは眩い浄化の聖光に包まれる。
女は勝利を確信し踵を返して立ち去ろうとする。だが
「やれやれ。これ程とはな、想定以上だ。」
「・・・・・そんなバカな・・・ありえない!なんで、無傷なんですか?一体、何をしたんですか!!」
「簡単なことだ。貴様が俺を斃す為に練り上げた力より俺の霊圧の方が遥かに強かった。それだけの話だ。」
ウルキオラは無感情に淡々と答える。女はソレを聞いて絶句している。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・どうやら今のが全力だったらしいな。・・・残念だ。」
ウルキオラは女を容赦なく貫いた。自分の孔と同じ場所、喉元を。
「貴様がまだ動けるのなら立ち去れ。出来ないのならそのまま死ね。いずれにせよ貴様ごときでは生涯を懸けたところで俺を斃す事など不可能だ。」
ウルキオラはそう言い残して立ち去り、女は雪に埋もれていったのだった。
この聖女様、今後の展開しだいでは死なずに再登場させるかも。
その場合、羽衣狐様のライバルになるかもしれません。