虚無の魔神   作:千本虚刀 斬月

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12話 虚無

 

 

 

 

 

 

 何も無い。 俺は 光の射さぬ穴の底で生まれた。

 

闇を圧し固めたような なにものともつかぬ 黒い 黒い 澱の底で生まれた

 

仲間は皆一様に真っ黒な姿をしていた。真っ黒な姿で眼を光らせ歯を剥き出して何がしかを喰んでいた。

 

しかし、俺は白い姿をしていた。俺には眼しかなかった。黒い仲間たちは、白い俺を指差して嘲笑する。

 

虚圏に浮かび続ける欠けた月の下、全身を血に濡らしながら当て所なく彷徨う。

 

感じるものは無かった いや、或いは 無だということを感じたのかも知れなかったが

 

聴くこと無く 喰らうこと無く 嗅ぐこと無く 触れて何かを感じること無く 休むこと無く 仲間は無く ただ 一人歩いた

 

何も無い

 

だが、ひたすらに歩き続けた結果として俺は奇妙なものを見つけた

 

それは白い杭のような枝が山のように密集していて、この世界に点在する得体の知れぬ半透明のモノが生まれる場所だった。

 

俺は今まで眼にした中で最も無に近い巨大なソレに身を沈めることにした。

 

白い杭のような枝がこの身を削るが、意に介さない。ソレの深奥にたどり着き、身体を横たえる。

 

そこには何も無かった。俺自身の境界線を失い、溶けて、消滅するような感覚

 

嗚呼、これが虚無か――――――――――――幸福

 

 

 

 目を覚ますと羽衣狐の顔がすぐ近くにあった。まるで悪戯に成功したような表情で覗き込んでいる。

 

「・・・・・・・・何の用だ」

 

「いや、なに。珍しくお主が寝入っていたものだからじっくり眺めておったのさ。」

 

ウルキオラが文句を言おうとしたが、狂骨が勢いよく部屋に入ってくる。

 

「お姉様!明けましておめでとうございます!!あ、あとついでにウルキオラも。」

 

(チッ。相変わらず騒がしい奴らだ。)

 

「二人とも、よい初夢は見れたかの?」

 

「はい!」

 

「下らん。夢などいつ見ようとただの記憶の羅列だ。」

 

「やれやれ、夢の無い奴じゃのう。」

 

「それで、結局何をしに来たんだ?お前達は。」

 

「初詣に来てやったぞ!」

 

「・・・初詣、だと?」

 

「うむ。お主は妾達が勝手に祀ったとはいえ『虚無の魔神』であろう?こうして直に参拝に来たというわけじゃ。」

 

「そうだ。来てやったんだから願いを叶えろー!」

 

とりあえず騒がしい狂骨をアイアンクローで黙らせつつ台所に向かう。

 

「何か喰っていくか?」

 

「うむ。稲荷寿司を所望する。」

 

ウルキオラは料理に取りかかりながらも、ふと自身の初夢を振り返る。

 

(――――――――虚無か。何も持たず、失う余地の無いモノ。俺の司る死の形。かつて至福と感じた彼の感覚。できることならアレを我が物としたいものだ。)

 

虚夜宮での戦いで黒崎一護に斃されて消滅しかけたことで再び虚無に触れて以来、その欲求は次第に大きくなっている。

 

(以前とは多少は変わったようだが、やはり本質というモノはそう簡単には変わらないらしいな。)

 

同時に、今の羽衣狐達との騒がしい日常も心地よく失うには惜しいと思い始めているのだがウルキオラは未だその事を自覚していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルキオラは今、茨木童子と模擬戦を行っている。鬼達の修行に定期的に付き合わされているのだ。羽衣狐と狂骨も見物している。

 

「鬼太鼓・乱れ打ち!オラアアァァ!!」

 

だが、茨木童子の鬼發は通用しないどころかウルキオラの鬼道、鏡門によって全て跳ね返される。

 

「アアアン!なんだそりゃあ!クソがぁ!!」

 

茨木童子は悪態をつきながらも響転で回避する。もっとも、ウルキオラから視れば響転とも呼べない程に未完成な代物だが。

 

「相変わらず口が悪い上に直情的だな。もっと頭を使ったらどうだ?」

 

「スカしてんじゃねえぞ!クソむかつくヤローだぜ。」

 

茨木童子は二刀を鬼憑させ接近戦を仕掛ける。だが不完全な響転ではウルキオラを捉えられない。鬼童丸もそうだが鬼達は全体的に霊子の操作を苦手とする傾向にある。コントロールが非常に雑なのだ。はっきり言って茨木童子のセンスは狂骨以下である。

 

「貴様達鬼共は力ばかりで霊子の操作が下手すぎる。未だに空中で足場を作る事にすら難儀する有様だ。」

 

「ウルセェ!んなもんできなくってもソッコーで撃ち落としてぶった切りゃ済む話なんだヨオ!!!」

 

「・・・そうか。では、やってみろ。」

 

茨木童子は頭に血が上っていると見えて、真っ向から突貫してくる。

 

「バカが。破道の四・白雷」

 

ウルキオラは茨木童子の右肩を撃ち抜いた。衝撃と痛みで一瞬隙ができた茨木童子に足払いで体勢を崩し、膝を右面にたたき込む。さらに、茨木童子が体勢を立て直して反撃に出る前に次の手を打つ。

 

「縛道の四・這縄」

 

「ガッ!こんなモン簡単にブッチギッテ」

 

茨木童子は妖気をさらに解放して鬼化しようとするが

 

「遅い。破道の十一・綴雷電」

 

茨木童子はたまらずに膝をつく。だが、戦意は未だ萎えてはいないようだ。

 

「いい加減、終わらせるか。鉄砂の壁 僧形の塔 灼鉄熒熒 湛然として終に音無し―――――縛道の七十五・五柱鉄貫」

 

茨木童子は完全に戦闘不能に陥った。ウルキオラは動けないままの茨木童子に対して、改善すべき反省点を蕩々と述べる。

 

「ウルキオラ、毎度の事ながら我らの修行に付き合ってくれて感謝する。」

 

「気にするな、鬼童丸。俺にとって何のメリットも無いというわけでも無い。」

 

ウルキオラとしても鬼達は鬼道の試し撃ちの相手として手頃なのである。羽衣狐相手だと全力を出す訳にもいかない。さりとて、雑魚では話にならない。上位の鬼達はウルキオラにとって色々と都合のいい相手なのである。

 

「では、また何かあれば呼ぶがいい。」

 

ウルキオラが帰ろうとすると、羽衣狐が呼び止める。

 

「ウルキオラ、我等もそろそろ本格的に動き出す。京に掛けられた螺旋の封印を解く際はお主の力を貸してもらう事になるじゃろう。その時は頼むぞ?」

 

「・・・いいだろう。」

 

(恐らく、その際には再び黒崎一護と戦うことになるのだろうな。その時はこの腐れ縁を清算してやる。)

 

ウルキオラは黒崎一護に対する根拠のない確信にどこか諦観を抱きながら気を引き締めるのだった。

 

 

 

 

 

 

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