虚無の魔神   作:千本虚刀 斬月

23 / 41
23話 煉獄蟲

 

 

 羽衣狐は千年ぶりの愛息子との抱擁の最中、突如として意識がシャットダウンしたのである。

 

「!!――――――貴様、何をした?」

 

ウルキオラの詰問にも清明は悠然と返答する。

 

「何、母上に施していた転生の術を解除したのさ。私がこうして復活した以上、母上がそのような業を背負い続ける必要ももう無いからな。」

 

だが、事はそう簡単な話では無い。何故なら、その術は一匹の妖狐にすぎなかった『葛の葉』を大妖怪『羽衣狐』たらしめていたアイデンティティーと言っても過言では無いモノ。PCで例えるのならOSの基盤となるソフトをいきなり強制削除したに等しい。確固たる『個』を失った所為で妖怪としての在り方が大きく揺らぎ、その負荷で意識が落ちたのである。

 

「母上、あなたは私の太陽だった。希望の光、ぬくもり・・・その陽光を背にしてこそ、私は冥府魔道を突き進める。」

 

清明は地獄の扉を開け放ち、羽衣狐を堕とそうとする。だが、手離すと同時に一匹の妖怪が清明に襲いかかった。

 

「清明!!千年振りだぁあああ!!!」

 

相手は仮にも最強と謳われた妖怪の一角。当然、その程度の奇襲は余裕で防がれる。

 

「ッ土蜘蛛か。懐かしい顔だ。」

 

ウルキオラはその隙に羽衣狐を抱きかかえ救出していた。

 

「邪魔を、するな!滅!!」

 

いかに清明といえどウルキオラが相手とあっては余裕など無い。手早く土蜘蛛を片付け、ウルキオラに専心しようとする。しかし、それが焦りと為り心理的な死角が生じていた。

 

「百鬼を退け、凶災を祓わん―――破軍発動!!」

 

しかし清明はソレすら完全に防ぎきる。そして仕切り直すために地獄から一人の咎人を呼び寄せた。

 

 

 

 

 その男は下卑た嗤いを浮かべ、五メートルに及ぶ斬魄刀を担いでいた。

 

「オンヤアア~?テメェはあの時のガキじゃねぇか~。会いたかったぜええぇぇぇ!!」

 

「・・・咎人、しかも破面・・・だと?」

 

「ハッ!流石にこのナリじゃワカんねぇかあ。だったら思い出させてやるぜ!―――蠢け『煉獄蟲(サンギフエラ)』」

 

古代の両生類を思わせる下半身に、プレデターのような上半身。ギリアンに匹敵する体高に、ビルの如く巨大になった斬魄刀。そして、爆発するヒルを撒き散らす小虚の群れ。

 

「コイツ等!!・・・そうか、思う出したぜ。テメェはあの時のクソヤローか。」

 

「正~~~解っ!!」

 

しかし、一護から視てもシュリーカーの破面化は不完全なものだった。崩玉が無かったために正統な進化を辿れなかったのだろう。かつての一護の斬魄刀と同様に見てくれがデカいだけで、その実中身がスカスカなのだ。そもそも、地獄で多少強くなったとは言え元がタダの虚である。エスパーダには遠く及ばない。

 

もっとも、シュリーカー自身はウルキオラ以外の疲弊しきっている一護達なら未だやりようによっては勝ち目はあると思っているらしい。ヒル爆弾を大量に撒き散らした。ソレも一護に直接では無く、身動きのとれないゆらとリクオに。だが、ソレが爆発することは無かった。信号を出す前に土蜘蛛に殴りつけられたからである。

 

「テメェ!死に損ないのクセにジャマしてんじゃねえぇ!!」

 

「ハッ!清明戦前の腹ごしらえにゃちょうどいいぜ!!」

 

土蜘蛛は全ての掌に圧し固めた妖気を纏わせ、強力な掌打を放つ。これは鉄甲掌といってグリムジョーの従属官だったエドラド・リオネスあたりが得意としていた技で、ウルキオラがコツだけ簡単に教えていたのである。

 

一護はその隙にリクオとゆらをヒルや小虚の居ないところまで退避させていた。だが、あれだけの量のヒルを一斉に起爆させられては弐條城が完全に崩壊してしまうだろう。

 

シュリーカーは小虚を跳びかかってきた土蜘蛛に向かわせ、大量のヒルを一斉に浴びせかける。

 

「ヒャッハー!!消し飛べ-!!」

 

煉獄の焔が土蜘蛛を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 清明はシュリーカーを時間稼ぎの捨て駒として暴れさせ、その隙に後ろに下がり体制を整える。そこに一匹の鳥女が清明の元に舞い込んでくる。かつて四国八十八鬼夜行では玉章の側近的立ち位置であったが、実は清明の子孫である安倍有行の直属式神である夜雀だ。夜雀は携えていた刀を清明に献上する。魔王・山ン本五郎左衛門の心臓である「魔王の小槌」を。

 

「うん、良い刀だ。だが、まだ少し心許ないな。」

 

清明は土蜘蛛とシュリーカーに目を向けた。そして躊躇も容赦も無く斬り刀に血と畏、霊力を残すこと無く徹底的に吸わせた。いまや単純な圧だけなら開放状態のアーロニーロ、つまり33650体にも及ぶ虚の大軍勢にも匹敵する。大抵の相手ならば戦うまでも無く屈伏させられるだろう。

 

「さて、一応聞いておこうかな。ウルキオラ、私に忠誠を誓い服従する気はあるか?」

 

しかしウルキオラの戦闘能力はソレを遙かに上回る。雷霆の槍(ランサ・デル・レランパーゴ)に至っては新鋭の戦略兵器にさえ相当する威力があるだろう。今更その程度のモノを畏る道理など無い。何より羽衣狐に対する仕打ち故にかつて無いほどの不快感を抱いていた。答えなど決まっていた。

 

「断る。貴様ごときが俺に指図するな」

 

ウルキオラは明確な殺意を込めた黒い霊力を練り上げていく。

 

「っ!黒虚閃か!!」

 

清明は強固な障壁を展開した。そう、()()()()()()

 

「破道の九十・黒棺」

 

黒棺は黒い直方体状の重力の奔流で対象を覆い囲むことで、万物を圧壊する術である。盾では防げない。詠唱破棄で威力は本来の25%程度に落ちはいるが到底無傷では済むまい。

 

「オオオオォォォォ!!!」

 

清明は自身の呪力を刀に上乗せし、全力で振り抜く事で黒棺を破砕したものの瓦礫の山に膝を付いている有様である。そして、ウルキオラ以外にも敵が居ることにさえ気が回らない程視野が狭まっていた。

 

「月牙天衝!!!!!」

 

「!私を、舐めるな―――!!」

 

あの状態からでも咄嗟に反応できたのは流石と言える。しかし黒崎一護の全力の月牙を刀でまともに受け止めてしまうと言う判断ミスを犯す。

 

「グッガアアアァァ!!」

 

最大限にまで強化されていたはずの魔王の小槌は完全に砕け散ってしまう。

 

「くそっ!!」

 

「気を抜いている暇があるのか?安倍晴明」

 

「!!!」

 

―――黒虚閃

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。