ウルキオラは安倍晴明の右腕を完全に消し飛ばしたものの、直前に盾を展開された所為で斃しきれなかった。
「黄泉帰って早々に満身創痍だな。だが安心しろ、もう転生だの反魂だの心配する必要は無い。魂魄ごと完全に消滅させてやる。」
「ま、待て!待ってくれ、ウルキオラ!!」
「何だ、鬼童丸」
ウルキオラは邪魔をするなと鬼童丸を睨む。
「その御方は我等が千年待ち望んだ宿願なのだ。」
「お前達にとってはそうだろう。だが、俺にとっては違う。奴等にとってもな」
見れば、黒崎一護が安倍晴明に追い打ちを仕掛けている。破軍使いの小娘も式神を召喚して黒崎一護を援護する。奴良リクオも立ち上がって祢々切丸を構える。
「あの手の輩はどれほどダメージを負っていようが、勝機とみるや途端に活気付く。見ろ、奴良組や遠野の連中も奴等に釣られて気力を取り戻しているぞ。」
逆に京妖怪達の士気は先程までのような一致団結とは程遠い。鬼達の中にはウルキオラと戦う事に恐れを為して尻込みしている者も少なからず居る。羽衣狐こそを主と仰いでいた狂骨やがしゃどくろ等は安倍晴明を敵視しているくらいだ。
「ぐっ!このままでは・・・貴様等!!なんとしても清明様をお守りしろー!!」
『お、オオオオオオォォォォ!!』
清明こそが父親を死に至らしめた真の仇であると知ったリクオは立ち上がる。
「千年も昔に死んだ奴が、今更この世で好き勝手やってんじゃねぇよ!たたっ斬る!!」
「お前が鯉伴の真の息子か。この様な状況でなければ少しは構ってやっても良かったが、今は邪魔でしか無い。」
清明は左手に金気を収束させ、黄金の剣を5振り創り出してリクオに向かって射出する。
「させるかい!黄泉送葬水包銃・五月雨撃ち!!」
高圧で撃ち出された水砲は見事に剣の腹に命中し、粉砕した。黄金とは科学的には完璧に近くとも物理的には脆い。案外簡単に砕けてしまう物なのだ。
「狙撃の腕は評価するが術の方はまだ甘いな。水気の使い方はこうするのだ。」
清明は頭上に巨大の渦潮の球を形成する。直径にして50メートルにも及ぶだろう。
「月牙天衝!!!」
しかし、仮面を着けた一護が消し飛ばす。間髪入れずにリクオが仕掛ける。
「祢々切丸か。厄介な。」
清明は先程一護が散らせた水気から木気を相生(陰陽五行における水生木)し、即席の檻と成しリクオを取り囲む。さらに火気を相生し木生火と為す事でリクオを焼滅させようとする。だが紅蓮の牢獄の中にリクオは居なかった。
「鏡花水月か。本体は・・・そこか。」
リクオは清明の真後ろにまで迫っていたが、惜しくも躱されてしまう。そこにウルキオラの詠唱が響き渡る。
「千手の涯 届かざる闇の御手 映らざる天の射手 光を落とす道 火種を煽る風 集いて惑うな我が指を見よ 光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔 弓引く彼方 皎皎として消ゆ」
ウルキオラは自身の周囲に幾多もの霊光の鏃を形成し、その鋒の尽くを清明に向けていた。
「!!・・・・・なん・・・だと・・」
「破道の九十一・千手皎天汰炮」
一発一発が全力の虚閃に相当する威力を秘めた鏃全てが一斉に清明に降り注ぎ、周囲一帯が翡翠色の霊光に包まれた。
この光景に誰もが安倍晴明の敗北を信じた。だがウルキオラだけは気付いていた。安倍晴明がまたしても地獄から咎人を召喚して自身を護らせていたことを。
咎人達は自身を地獄に繋ぎ止める忌まわしい鎖を束ねてウルキオラの千手皎天汰炮を受け止めたのである。結果として鎖の全てを粉砕するには至らず、敵達は無傷である。
「初めまして、ウルキオラ・シファー。私は朱蓮。そして久しいな、黒崎一護。」
「!!テメェ等、何でマントや仮面も無しで現世に出てこれてんだよ!?」
「清明殿のおかげだよ。彼の術があれば我々咎人でも現世で全力を出す事が出来る。もっとも、鎖に繋がれたままの現状では数分が限界だがね。いずれは多くの咎人達を完全解放し、この世界を征圧し尽そうというわけだ。」
「その通りだ。彼等とはかれこれ五百年近い付き合いになる。まさか、この私が一千年もの間地獄で遊び呆けていたとでも思っていたのかね?」
黒崎一護は憤りを露にして安倍晴明を糾弾する。
「テメェ等、そんなことしたらどうなるか判ってて言ってやがんのか!!!最悪、全部の世界が諸共に崩壊しちまうかも知れねぇんだぞ!!」
「そうだ。それら全ての世界を習合し統一する。そして新たな世界の神に成る。私が天に立つのだ!」
黒崎一護はもはや絶句していた。だがウルキオラは落ち着き払っていた。
「・・・・・成る程。安倍晴明、一つ忠告しておいてやろう。」
「・・・何かな、ウルキオラ」
「あまり強い言葉ばかりを使うと弱く見えるぞ。」
「っ!貴様・・・」
「だが、俺と黒崎一護が何故この世界に居るのか漸く理解できた。」
「マジかよ!?」
ウルキオラ・シファーと黒崎一護は本来、法則も理すらも全く異なる接点すら無い世界の存在である。そんな彼等が一体何故この世界に居るのか、その理由は『彼等』の企てに他ならない。
この世界の住人達の集合的無意識(カール・グスタフ・ユングが提唱した分析心理学における中心概念であり、人間の無意識の深層に存在する、個人の経験を越えた先天的な構造領域である)に因って、秩序を崩壊させうる危険因子を排除するための抑止力として二人は召喚されたのである。
「ナルホドな。つまりアイツ等を倒せば元の世界に帰れるって訳だな?」
「・・・恐らくはな」
(俺の場合は黒崎一護とは違い、一度完全に消滅したはずの存在だ。元の世界に帰る事さえ出来ないだろう。おまけに用が済めば今度は俺が抑止の対象に成りかねない。その時こそ完全に消えて無くなるのか、この世界から弾かれて別の世界に流されていくのか。どうあれこの世界に残り続ける事は出来ないのだろうな。)