君のいない世界のスピードに
安倍晴明は地獄に撤退する事にした様だ。復活したばかりで肉体が現世に馴染んでいない処にあれだけの激戦を繰り広げたのだ。限界が訪れたとしても無理はない。
「ウルキオラ、そして黒崎一護。出来る事なら君達はここで始末していきたいところだが、現状で其れはあまりにハイリスクだ。忌々しいがここは一旦引くとしよう。千年間ご苦労だった、下僕達。地獄へ行くぞ、ついてこい。」
元より安倍晴明に忠誠を誓っていた鬼の眷属達は次々に地獄の門に飛び込んでいく。だが、ウルキオラは其れを静観していた。否、迂闊に動く事が出来なかったのである。
安倍晴明の協力者と嘯く咎人達の実力は極めて高い。終始無言だった4人に関しては高位の十刃に匹敵するだろう。そして、朱蓮と名乗った男は完全虚化した黒崎一護と同等と思われる。
もっとも、彼等に残っているのは『ダレカ』に対する復讐と言う怨念のみでそれ以外は腐り果ててしまっている。もはや解放への執念どころか思考する機能さえも半ば以上が摩耗しているのだ。唯一理性を留めている朱蓮でさえ相当歪になっていた。
「近いうちにまた会おう。虚無を司る魔神殿。」
安倍晴明達は地獄に撤退し、門は完全に鎖されたのだった。
弐條城は全損し、石垣だけが原形を留めている有様である。そのような場所では負傷者の応急処置さえままならないと言う事で、一同は緑の園に居た。ウルキオラや羽衣狐、残る事を選んだ京妖怪達も一緒である。
未だ意識を取り戻さない羽衣狐には狂骨が付いて拙いながらも治療を施している為、ウルキオラは回道で負傷者達の治療に当たっている。
「・・・ん、ここは・・・どこだ?」
「!!?お姉様!気が付かれましたか?ここは弐條城の外周部にある緑の園です。」
「羽衣狐、意識の方は取り戻したようだが、現状は把握できているか?」
がしゃどくろや白蔵主等も心配して寄ってくる。
「狂骨とウルキオラ、皆の者達。妾は、たしか・・・・・」
意識が完全に覚醒すると同時に、弐條城での出来事が一気にフラッシュバックする。
「・・・あ゛っ嗚呼、アアアアア!清、明・・・ウア゛ア゛ア゛アアァァ!!」
全てを思い出した羽衣狐は悲哀の慟哭をあげる。
「・・・・・羽衣狐、貴様が絶望の淵に沈んだとしても、それを肩代わりしてやる事は誰にも出来ない。その苦悩はお前が自分で抱えていくしか無い。俺達に支え合う事ができるのは荷物そのものではなく、荷物の重さで倒れそうな体だけだ。」
「・・・・・・・・・・・・・」
羽衣狐はもう泣いてはいないものの、俯き蹲っている。
「瀕死寸前であろうが断末魔にのたうちまわろうが、お前は今もこうして生きている。ならば顔を上げて前を見ろ、己の足で立ち上がれ。」
「・・・・・手厳しいなぁ、お主は」
「羽衣狐、俺はこの世界にきて学んだことがある。終わることと続かないことは必ずしもイコールでは無いらしい。だが俯き蹲ったままでは何時まで経っても続きを見ることは叶うまい。」
「・・・妾にも、続きを見ることが出来るだろうか?」
「このまま、流されるままでも終わりの終わりまで見ることは出来るだろう。だが、それは惰性でしか無い。自らの意思で続けるために踏み出す一歩とはまるで違う。だからこそ人間はその一歩に特別な意味を持たせるのだ。『勇気』と」
ウルキオラは掌を差し伸べる。
「本当に厳しくて、優しい奴じゃなぁ。まったく甘くは無いがの。」
そう言って羽衣狐は差し伸べられた掌を取って起ち上がった。そして持上げられた面は確かに未来を見据えていた。
次話から2、3話修行して決戦です。
江戸百物語組についてはカットで