弐條城での戦いから数ヶ月後。各勢力いずれも一先ずは落ち着きを取り戻し、小康状態に成りつつある。花開院は二十七代目が死んだ事で、破軍使いのゆらが次代の頭首候補となり竜二等が摂政として彼女を補佐している。奴良組については、数日前に奴良 リクオが正式に三代目を継いだ。
現在、花開院本家には奴良組の幹部達と羽衣狐とウルキオラが一堂に会している。休戦協定を正式に締結させる為である。全員がTPOにあわせて正装している。奴良組と花開院は和装だが、羽衣狐とウルキオラは洋装である。ウルキオラは黒のシャツに白のネクタイに同じく白のスリーピース・スーツ。羽衣狐は白シャツに黒のジャケット、膝までのタイトスカートに黒のストッキングを着用して艶のあるファーコートを羽織っている。二人の様はヤクザと言うよりマフィアのソレであった。
緊迫した中、時折皮肉やらがとび空気か凍り付く事もあったが締結そのものは問題なく成された。もっとも、あくまで休戦止まりで杯を酌み交わすには至らない。京妖怪達のトップである羽衣狐とウルキオラが過度の馴れ合いを好まない質であるからだ。だが必要であれば相応の協力は惜しまない、と言うのが彼等のスタンスである。
条約の内容を一通り煮詰めて会合が終了したところで共通の敵である安倍晴明達についての情報の共有が行われた。
花開院によれば安倍晴明には御門院家と言う末裔共がいて、曰く「古くより時の権力者の元で日本の中枢を守り、陰で暗躍してきた陰陽師の一族。」らしい。十中八九「鵺」として復活した安倍晴明に付くとみていいだろう。
奴良組、と言うより黒崎一護は咎人達について説明する。能力的には丸い奴が最も厄介だ。なにしろ霊力を放出してぶつけるタイプの攻撃は尽く吸収される。虚弾や虚閃をまともに浴びせたところでダメージを与えるどころか逆効果である。だが、最初からそうだと判っていれば対処は容易である。
此方からは鬼共についての情報を開示した。主に鬼童丸と茨木童子の手の内や精神性についてである。
その翌日、黒崎一護はウルキオラの居る虚神殿に訪れた。表では話しにくい内容である為、管理棟のリビングに移動する。
「ウルキオラ、頼みがある。俺に修行をつけてくれねぇか?今の俺の力じゃアイツ等には・・・」
「だろうな。咎人達の実力は極めて高い。特に朱蓮とやらの霊圧は完全虚化状態の貴様に匹敵する。アレを自分の意思で使い熟すことが出来なければ話にならん。」
「ああ、だから頼む!お前以外には頼めねぇんだ!」
黒崎一護は頭を下げる。
「・・・いいだろう、貴様との修練は此方にも利があるからな。」
「本当か!?」
「ああ、それとこの刀を水使いの陰陽師に渡しておけ。」
「何だこの刀?斬魄刀じゃねぇのか?」
「村雨だ。霊圧を注ぎ込む事で刀身から浄化の清水を発し、更に冷気を操る退魔の霊刀だ。詳しくは『南総里見八犬伝』を読め。」
「お、おう。とにかくこれを竜二に渡しときゃ良いんだな?」
「黒崎一護、貴様にもこれを渡しておく。」
『鬼道術式全集』である。
「・・・良いのかよ?」
「構わん。既にデータ化してPCに保存済みだしな。」
「そういう事なら遠慮無く貰っとくぜ。って中身全部古文かよ!?」
「確か貴様は国語が一番得意なのだろう?ならば問題あるまい?」
「ぐっ、ぐぬぬぅ・・・わーったよ!」
「さて、修行は良いが問題は場所だな。」
「ああ、そうだよな。俺等が全力を出すと周囲への被害がハンパじゃ無いことになっちまうからな。」
黒崎一護はため息をつき、紅茶に手を伸ばす。
「そうだな。広域に人払いと強固な結界を幾重にも重ね掛けし、固定化しなければならん。準備には少々時間が掛る。その間、貴様は仲の良い花開院の連中に陰陽術について教えて貰え。」
「俺そーゆーの苦手なんだよなぁ。つーか付け焼き刃の鬼道とか陰陽術であの清明や御門院ってのに対抗できるとは思えねぇんだが?」
「敵を知り己を知れば、と言う奴だ。実際に使えはせずとも知っておいて損はあるまい。」
「ま、言われてみればその通りだな。んじゃ、とりあえずの方針はそんなとこで良いか。」
黒崎一護は紅茶を飲み、ラム酒につけ込んだドライフルーツを食べる。
「美味ぇな。これどこで売ってるヤツだ?」
「自家製だ。」
実はウルキオラ、他にもシードル(林檎の発泡酒)やリモンチェッロ(イタリアの代表的なレモン・リキュール)などの果実酒を数種類造っていたりする。
「それって密造だろ?大丈夫なのかよ?」
「問題ない。試飲した限り、そこそこ良い出来上りだ。」
「いや、そういう事じゃなくてよ。・・・まあ、いいか。」
「準備ができ次第連絡する。貴様の携帯の番号を教えろ。」
「おう。」
そうして各々が来たる決戦に向けて準備を進めていくのであった。